エディアカラ紀後期のクラウン群海綿動物を報告した研究(Wang et al., 2024)が公表されました。海綿動物は最も祖先的な後生動物門で、新原生代の海洋の酸化還元構造の調節において重要な役割を果たしたかもしれません。分子時計からは、海綿動物が新原生代に分岐した、と予測されていますが、カンブリア紀以前の海綿動物化石は明確に実証され…
メロヴィング朝期フランドルの人類集団のゲノムデータを報告した研究(Sasso et al., 2024)が公表されました。北海を横断する交易および文化網の確立への中世前期の人口移動の程度と影響は、何世紀にもわたって議論の対象となってきました。フランドル沿岸の古代人のゲノム解析により、メロヴィング朝後期の共同体で2つの異なる祖先系統(祖…
マヤ文化の有名な都市であるチチェン・イッツァ(Chichén Itzá)の被葬者のゲノムデータを報告した研究(Barquera et al., 2024)が報道されました。チチェン・イッツァはメキシコのユカタン半島に位置し、マヤ文化の古典期後期および末期(600~1000年頃)における最大級の都市とされています。本論文は、チチェン・イ…
ヒト脳の進化と速度に関する研究(Lindhout et al., 2024)が公表されました。現生人類(Homo sapiens)の脳の進化には分子と細胞の独特な特殊化が伴っていましたが、こうした特殊化は、さまざまな認知能力を支えるだけではなく、神経疾患への脆弱性を高めてもいます。こうした特徴には、ヒトに特異的なものもあれば、類縁種と…
ヨーロッパの初期現生人類(Homo sapiens)の形態について、今年(2024年)3月20日~23日にかけてアメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス市で開催された第93回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Bejdova et al., 2024)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P15…
言語の機能に関する研究(Fedorenko et al., 2024)が公表されました。言語はヒトを定義づける特徴ですが、言語が果たす機能(あるいは複数の機能)については何世紀にもわたり議論が続いています。本論文は、神経科学と関連分野から得られた最近の証拠を提示し、ヒトは言語を思考のために使うという有力な考えに反して、現生人類(Hom…
ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の炉床の新たな年代測定方法を報告した研究(Herrejón-Lagunilla et al., 2024)が公表されました。旧石器時代のヒトの活動の期間を明らかにすることは、先史考古学的における屈指の難題です。これは、年代測定技術の分解能に限界があるためで、放射性炭素年代…
後期新石器時代ヨーロッパ人類集団における遺伝的構成の大きな変容を報告した研究(Parasayan et al., 2024)が公表されました。後期新石器時代のヨーロッパにおいては、ポントス・カスピ海草原(ユーラシア中央部西北からヨーロッパ東部南方までの草原地帯)を中心にヨーロッパ草原地帯からの大規模な人口移動により、人類集団の遺伝的構…
チンパンジーの社会的学習に関する研究(Leeuwen et al., 2024)が公表されました。文化の累積的進化は、現生人類(Homo sapiens)の生物学的成功に重要なヒトに特有の現象と主張されてきました。累積的な文化進化出現の一つの妥当な条件は、社会的学習を使用して、自身では容易に確信できない方法を獲得する個体の能力です。チ…
類人猿の性染色体の完全な配列を報告した研究(Makova et al., 2024)が公表されました。当ブログでは、以前にはヒトも類人猿に含めており、非ヒト類人猿という用語も使いましたが、最近では、その語源から類人猿にヒトを含めるのは妥当ではない、と考えるようになりました。類人猿を単系統群(クレード)と定義せねばならない合理的な理由は…
古代ゲノムデータに基づく青銅器時代ユーラシア北部の人口史と文化との関連を検証した研究(Childebayeva et al., 2024)が公表されました。本論文は、とくにロシアのオムスク州のロストフカ(Rostovka、略してROT)遺跡とムルマンスク州のコラ(Kola)にあるボリショイ・オレニー・オストロフ(Bolshoy Ole…
エジプトの東部砂漠の前期石器時代と中期石器時代の石器を報告した研究(Leplongeon et al., 2024)が公表されました。エジプトについては、古王国以降の歴史がよく知られているでしょうが、現生人類(Homo sapiens)だけではなく他の人類のアフリカからの拡散経路においても、重要な役割を果たしたと考えられます。エジプト…
副腎細胞の進化による雄マウスの仔育てへの影響についての研究(Niepoth et al., 2024)が公表されました。特殊化した機能を持つ細胞の種類は動物の行動を根本的に調節しますが、新たな種類の細胞の出現や、それらが行動に及ぼす影響の根底にある遺伝学的機構はよく分かっていません。本論文は、両親が仔の世話をする一夫一妻(単婚、一雄一…
イランの更新世の石器を報告した研究(Hashemi et al., 2024)が公表されました。本論文は、イラン中央砂漠北部(the northern part of the Iranian Central Desert、略してNICD)に位置するセムナーン(Semnan)州のエイヴァーネケイ(Eyvanekey)遺跡の、少なくとも中…
日本列島の人類集団における農耕前後の適応の比較を検証した研究(Cooke et al., 2024)が公表されました。本論文は、日本列島における本格的な農耕の前後の人類集団の適応の違いを、遺伝的多様体の頻度の比較から検証しています。具体的には、エクトジスプラシンA受容体(ectodysplasin A receptor、略してEDAR…
バオバブの進化史に関する研究(Wan et al., 2024)が公表されました。バオバブの木(アダンソニア属の高木類)は、その印象的な形状と、動物相との独特な関係性から、きわめて大きな注目を集めてきました。目を見張るようなこれらの木々はまた、人類の文化にも影響を及ぼし、無数の芸術や伝説、伝統に着想を与えてきており、アフリカの象徴的な…
頻繁な撹乱による過去の人類集団の復元力強化を示した研究(Riris et al., 2024)が公表されました。過去の人類の適応の記録は、未来の危機への対応を導く上で重要な教訓をもたらします。これまで、人類が時間とともに撹乱を吸収してそこから回復する能力について、体系的・全球的に比較されたことはなかった。レジリエンス(復元力)とは、危…
科の水準でのゲノム解析から鳥類の進化の複雑を示した研究(Stiller et al., 2024)が公表されました。鳥類の主要な系統間の関係については、過去数十年にわたる多大な努力にも関わらず、明確な解決策がないまま、依然として激しい議論が続いています。こうした見解の相違は、標本種の多様性、系統発生学的な方法、ゲノム領域の選択に起因す…
チベット高原西部の人類集団の古代ゲノムデータを報告した研究(Bai et al., 2024)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。チベット高原は、現生人類(Homo sapiens)のみならず、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の存在も確認されており、その独特な人類進化史で注目されてい…
父系微生物叢の乱れによる仔の適応度への影響に関する研究(Argaw-Denboba et al., 2024)が公表されました。腸内微生物叢は、宿主と環境が相互作用する境界面で作用し、ヒトの恒常性や代謝網に影響を及ぼします。したがって、腸内の微生物生態系の均衡を乱す環境因子は、体細胞組織全体にわたる生理学的応答および疾患関連応答を形作…
アフリカ北部の農耕開始前の狩猟採集民における植物性食料への高い依存を報告した研究(Moubtahij et al., 2024)が公表されました。本論文は、亜鉛(Zn)やストロンチウム(Sr)や炭素(C)や窒素(N)や硫黄(S)の同位体を用いて、農耕開始の数千年前となるアフリカ北部の後期石器時代の狩猟採集民の食性が、植物性食料に強く依…
頭蓋形態の比較に基づいて過去50万年間のホモ属の進化を検証した研究(Neves et al., 2024)が公表されました。本論文は、21世紀における新たな更新世ホモ属化石の発見や、分子生物学の飛躍的な発展を踏まえて、保存状態良好な過去50万年間のヨーロッパとアフリカとアジアで発見された86点のホモ属化石を比較し、現生人類の起源につい…
文化により異なる動機づけ効果を報告した研究(Medvedev et al., 2024)が公表されました。金銭は、努力を要する行動の主要な動機づけ要因と考えられることが多く、金銭や金銭以外の報酬の有効性を理解することには、現実的な意味合いがあります。努力行為の動機づけは、雇用主と政府と非営利団体が世界的に直面する問題です。しかし、動機…
更新世にさかのぼるオーストラリアにおける人為的な火の制御を報告した研究(Bird et al., 2024)が公表されました。オーストラリア大陸にヨーロッパ人が到来した時点で、洗練された先住民社会はオーストラリアの広範な熱帯サバンナ全域で土地の管理を行なっていました。オーストラリアの先住民共同体において火は長い間、景観を社会に有益な形…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代中東における暴力の傾向に関する研究(Baten et al., 2023)が公表されました。初期のヒト社会において、個人間の暴力(暴行、殺人、奴隷、拷問、独裁、残酷な刑罰、暴力的抗争など)はどのように発展したのでしょうか?殺人の記録が最近のものでしか利用できないことを考えると、ヒトの歴史の大半は…