野生アフリカゾウ(Loxodonta africana)の「名前」での呼びかけに関する研究(Pardo et al., 2024)が公表されました。個体名はヒト系統の普遍的特徴ですが、他の種には類例がほとんど存在しません。非ヒト動物では、イルカやオウムは相手の呼びかけを模倣して同種に呼びかけるのに対して、ヒトの名前は名指しされた個体が…
ストーンヘンジ(Stonehenge)の祭壇石の産地に関する研究(Clarke et al., 2024)が公表されました。ストーンヘンジはイングランドのウィルトシャーのソールズベリー平原に位置する、イギリスにおける最大級の後期新石器時代~青銅器時代にかけての墓地遺跡で、世界的に有名な観光地にもなっています。ストーンヘンジに関しては、…
氷河の後退で出現した陸上生態系の発達に関する研究(Ficetola et al., 2024)が公表されました。氷河の全球的な後退は山岳および高緯度地域の景観を劇的に変化させつつあり、一見不毛な土地から新たな生態系が発達しています。こうした新たに出現した生態系に関する研究は、気候変動が微小生息地や生物群集とどのように相互作用し、氷の消…
現代人の遺伝子発現の差異に関する研究(Taylor et al., 2024)が公表されました。遺伝子発現やスプライシングに影響を及ぼす遺伝的多様性は、表現型の多様性の重要な要因です。これらの結びつきをヒトにおいて調べる研究はひじょうに貴重ですが、参加者がヨーロッパ系に大きく偏っているため、これが一般化の制約となり、進化研究を妨げてい…
初期の四肢類の地理的分布に関する研究(Marsicano et al., 2024)が公表されました。四肢類の初期進化に関する現在の仮説では、石炭紀の古赤道の石炭を生成した、広範な湿地との密接な生態学的および生物地理的関係を前提としており、太古の四肢類群は後期石炭紀(約3億700万年前)に現代の羊膜類および平滑両生類の近縁動物によって…
アメリカ合衆国の退役軍人の大規模なゲノムデータを報告した研究(Verma et al., 2024)が公表されました。日本語の解説記事もあります。GWAS(genome-wide association studies、ゲノム規模関連研究)から得られた調査結果は、疾患の遺伝学的基礎の基本的知識を提供し、予防と治療のための精密な手法を促…
新石器時代スカンジナビア半島の社会構造とペスト感染に関する研究(Seersholm et al., 2024)が公表されました。本論文は、新石器時代スカンジナビア半島の108個体のゲノムデータを報告するとともに、この集団は約120年間に少なくとも3回、異なるペスト感染を経た、と示しました。こうした繰り返しのペスト感染が、ヨーロッパ新石…
中世シチリア島の人類集団の学際的分析結果を報告した研究(Monnereau et al., 2024)が公表されました。本論文は、中世シチリア島西部に位置するセジェスタ(Segesta)遺跡のキリスト教徒とイスラム教徒の中世の墓地被葬者の、放射性炭素年代測定結果とゲノムデータと同位体データを報告しています。この学際的分析により明らかに…
現在の中華人民共和国広西チワン族自治区の洞窟で発見された近世の被葬者のゲノムデータを報告した研究(Guo et al., 2024)が公表されました。本論文は、広西チワン族自治区のバイタイシャン(Baitaishan)およびフアトゥドン(Huatudong)洞窟で発見された、大元ウルス後期~明代にかけての被葬者4個体のゲノムデータを新…
古代ゲノムデータからウマの家畜化と現代のウマ系統の遺伝的起源を検証した研究(Librado et al., 2024)が公表されました。本論文は、現代の家畜ウマ系統につながる家畜化が始まったのは、紀元前2700年頃以降に始まった深刻なボトルネック(瓶首効果)後で、現代の家畜ウマ系統につながる繁殖管理は、近親交配と世代時間短縮によって紀…
スラウェシ島の洞窟壁画の新たな年代測定結果を報告した研究(Oktaviana et al., 2024)が公表されました。本論文は、スラウェシ島の具象的な洞窟壁画の年代が5万年以上前までさかのぼることを示し、これは具象的表現としては現時点で最古となります。こうした具象的表現は現時点で現生人類(Homo sapiens)でしか確認されて…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、匈奴の墓地被葬者のミトコンドリアDNA(mtDNA)解析結果を報告した研究(Kim et al., 2024)が公表されました。本論文は、2000年前頃となる匈奴のエリート層の墓地6基の被葬者のmtDNAを解析し、mtDNAハプログループ(mtHg)を決定しました。これら6個体のmtHgで同…
言語理解時の意味の符号化を単一細胞分解能で追跡した研究(Jamali et al., 2024)が公表されました。ヒトは、言語音や文字の列から、言語を介して豊かで微妙な差異を含む意味を抽出できます。この能力は、ヒトの意思疎通に必須です。しかし、言語や意味の処理を支える脳領域についての理解が進んだ今でも、細胞水準かつ活動電位の時間規模で…
23億年前の大気と海洋の連結した酸素化の開始に関する研究(Ostrander et al., 2024)が公表されました。25憶年前の太古代から原生代への移行期の直後における分子状酸素(O₂)の最初の増加は、かつて想定されていたような単一段階の変化よりも複雑なものでした。硫黄の質量非依存分別の記録は、この大気中O₂の増加が振動的で、お…
持久走による狩猟の効率性に関する研究(Morin, and Winterhalder., 2024)が公表されました。ヒトには哺乳類では稀な二つの特徴があり、歩行運動筋は疲労耐性繊維が優勢で、発汗により長く激しい活動で生成された代謝熱を効率的に発散します。これらの特徴の有力な進化的説明が持久力追跡(endurance pursuit、…
ヒトマラリアの歴史に関する研究(Michel et al., 2024)が公表されました。マラリアの原因となるプラスモジウム属(Plasmodium)の原虫は、過去にはヒトゲノムに対してひじょうに強力な選択圧を及ぼしてきており、抵抗性アレル(対立遺伝子)は、これらの原虫種の歴史的な広がりの概要を示す生体分子的な足跡となっています。しか…
古代人と現代人のゲノムデータに基づくシベリアの人口史に関する研究(Gill et al., 2024)が公表されました。本論文は、ユーラシア北部東方を中心として、既知の古代人および現代人のゲノムデータの再分析により、おもに完新世以降のシベリアの人口史を再構築しています。本論文はとくに、バイカル湖地域とヤクーチア(Yakutia、サハ共…
女性のX染色体のモザイク喪失に関する研究(Liu et al., 2024)が公表されました。X染色体のモザイク喪失(Mosaic loss of the X chromosome、略してmLOX)は、女性の白血球で最もよく見られる体細胞性のクローン変化ですが、その遺伝的決定要因や表現型の結果については、ほとんど分かっていません。本論…
レバノン北部の人口史に関する研究(Platt et al., 2024)が公表されました。本論文は、現代のレバノン北部のコウラ(Koura)地区住民の人口史を、近隣地域も含めて現代人と古代人のゲノムデータから推測しています。コウラ地区は現代のレバノンにおいて、他地域と比較してギリシア正教の信者が顕著に多く、それが近代の移住に由来するの…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、スカンジナビア半島中石器時代狩猟採集民の口腔内の健康状態に関する研究(Kırdök et al., 2024)が公表されました。先史時代の噛み跡のある樹脂は、ヒトおよびその口腔微生物叢の両方からの、古代DNAの有用な供給源である、と証明されてきました。本論文は、9890~9540年前頃となる、スウェ…
古代エジプトの書記官に特有の身体の変性変化を報告した研究(Havelková et al., 2024)が報道されました。紀元前三千年紀の古代エジプト社会では、文字を書くのに熟達していた男性は、特権的地位を享受していました。高い社会的地位のこうした役人(書記官)に焦点を当てた研究は通常、その肩書や書記官像や図像などに集中していますが、…