アフリカ西部における中期石器時代(Middle Stone Age、略してMSA)の長期の持続に関する研究(Niang et al., 2023)が公表されました。サハラ砂漠以南のアフリカにおいて、MSAは前期石器時代(Early Stone Age、略してESA)に続き、MSAの後には後期石器時代(Later Stone Age、略…
マチュ・ピチュ(Machu Picchu)遺跡で発見された人々のゲノムデータを報告した研究(Salazar et al., 2023)が公表されました。マチュ・ピチュは世界的にたいへん有名で人気があるインカ帝国期の遺跡で、多くの観光客が訪れていますが、その住民の遺伝的起源についてはほとんど分かっていません。本論文は、マチュ・ピチュ遺跡…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、アナトリア半島とレヴァントの先土器新石器時代B(Pre-Pottery Neolithic B、略してPPNB)集団のゲノムおよび同位体データを報告した研究(Wang et al., 2023)が公表されました。本論文は、『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the Nationa…
中国の少数民族のパンゲノム参照配列を報告した研究(Gao et al., 2023)が公表されました。パンゲノムとは、1個体の全遺伝情報(ゲノム)だけではなく、分類群が有する全ての遺伝情報です。ヒトのゲノミクスでは、単一の参照配列からパンゲノムの形へと移行しつつありますが、この分野でアジア系集団を研究の対象とすることはまだ少ないのが現…
イタリアのアルプス山脈の銅器時代の墓で発見された人類遺骸の親族関係を特定した研究(Paladin et al., 2023)が公表されました。古ゲノミクスは未解決の考古学的問題への回答を提供します。非測定的特徴のみにより推測された親族関係には、遺伝学的裏づけが必要です。古ゲノミクスは解釈における社会文化的偏りの克服に役立ちます。本論文…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、土器からヨーロッパ狩猟採集民間のつながりを報告した研究(Dolbunova et al., 2023)が公表されました。人類史は世界的な技術伝播により形成されてきましたが、このような過程を可能にしたものについての理解は限られています。ヨーロッパ全体への農耕拡散についてはこれまでの研究で調べられてきま…
銅器時代のイベリア半島に女性指導者が存在した可能性を報告した研究(Cintas-Peña et al., 2023)が公表されました。本論文は、銅器時代のイベリア半島の少なくとも一部地域では、女性が権力者の地位を占めていたかもしれない、と指摘します。これは、現生人類(Homo sapiens)が柔軟な社会を築くことと関連しているでしょ…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、アメリカ合衆国サウスカロライナ州の墓地で発見された18世紀後半の遺骸のゲノムデータを報告した研究(Fleskes et al., 2023)が公表されました。近年、アメリカ大陸へと植民地期に奴隷として強制連行されてきた人々およびその子孫の遺伝学的研究が盛んです(関連記事)。本論文は、アチャールストン…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、ホモ・エレクトス(Homo erectus)のジャワ島への到達年代は180万年前頃までさかのぼることを示した研究(Husson et al., 2022)が公表されました。ホモ・エレクトスのジャワ島への到達年代について、近年では以前の想定よりも新しかった、と指摘する研究も提示されていますが(関連記事…
アフリカの人口史に関する総説(Pfennig et al., 2023)が公表されました。最近の発展にも関わらず、アフリカの人口集団は遺伝学的研究において依然としてひじょうに過小評価されており、アフリカ人の遺伝的差異と人口構造に関するより多くの研究が必要です。そうした研究は、現代人の起源についての新たな洞察をもたらすだけではなく、公平…
北アメリカ大陸東岸の初期植民地住民のゲノムデータを報告した研究(Fleskes et al., 2023)が公表されました。近世以降のヨーロッパ系勢力による広範な植民地化の進展は世界規模の人口動態に大きな影響を及ぼし、とくにアフリカからアメリカ大陸へは多くの人々が奴隷として強制的に移動させられ、カリブ海地域を初めとしてアメリカ大陸圏の…
新石器時代のアフリカ北西部におけるイベリア半島とレヴァントからの遺伝的影響を報告した研究(Simões et al., 2023)が公表されました。近年の古代ゲノム研究の飛躍的な進展により、世界各地での新石器時代への移行の様相が次第に明らかになってきました(関連記事)。その結果窺えるのは、新石器時代への移行の様相は世界各地で異なってお…
ラオスで発見された現生人類(Homo sapiens)遺骸の年代が6万年以上前にさかのぼることを報告した研究(Freidline et al., 2023)が公表されました。ラオスのフアパン(Huà Pan)県にあるタムパリン(Tam Pa Ling、略してTPL)洞窟遺跡では、4万年以上前の現生人類遺骸(TPL1およびTPL2)が発…
現生人類(Homo sapiens)の行動の複雑さの起源に関する研究が(Scerri, and Will., 2023)が公表されました。現生人類の起源地がアフリカであることは、今ではほぼ定説になっている、と言えそうですが(関連記事)、その具体的な様相については、アフリカ内における現生人類と非現生人類ホモ属との混合を想定するものや、そ…
避妊による同性間の性的行動と関わる遺伝的基盤への影響に関する研究(Song, and Zhang., 2023)が公表されました。同性間の性的行動については、生物学的側面からも強い関心が寄せられてきており、さまざまな研究があり、それぞれ1000人以上のヨーロッパ系の男性の同性愛者と異性愛者を対象として、遺伝的基盤を調べた研究を当ブログ…
4000年前頃のブリテン島のペスト菌のゲノムを報告した研究(Swali et al., 2023)が公表されました。近年における古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、ヒトを中心に動物のゲノム解析も盛んですが、人類史を大きく変えてきたと考えられる、ペスト菌などの病原体のゲノム解析も珍しくなくなりました。こうした研究も、やはりヨーロッパでとく…
アフリカからの解剖学的現代解剖学的現代人(anatomically modern human、略してAMH、現生人類、Homo sapiens)の拡散における遺伝的選択と気候要因の役割に関する研究(Tobler et al., 2023)が公表されました。本論文は、古代人のゲノムにおいて推測された57ヶ所の「硬い一掃(hard swe…
アフリカにおける現生人類(Homo sapiens)の複雑な進化を推測した研究(Ragsdale et al., 2023)が報道されました。現生人類の起源がアフリカにあることは、今では広く認められていますが、アフリカにおいて現生人類がどのように進化したのかについては、局所的な起源地の想定から複数の地域集団間の複雑な相互作用を想定する…
スロベニアの古代末期の被葬者の家族関係を分析した研究(Pajnič et al., 2023)が公表されました。古代DNA研究はユーラシア西部、とくにヨーロッパで進んでおり(関連記事)、ヨーロッパでは古代DNAに基づく親族関係の分析も盛んです(関連記事)。古代DNA研究は先史時代だけではなく有史時代でも進められており、文献に基づいて古…
性愛的行動によるウイルスの拡散に関する解説(Arbøll, and Rasmussen., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。最近の研究では、ヒトの恋愛的で性的な接吻の最初の既知の記録は、アジア南部(インド)の青銅器時代の写本に由来する、と主張されています。しかし、かなりの量の見落とされてきた証拠からこの前提に異…
中国北東部におけるマンジュ(満洲)人と朝鮮人の遺伝的構造および混合に関する研究(Sun et al., 2023)が公表されました。本論文は、現在中国北東部に暮らす少数民族であるマンジュ人と朝鮮人の遺伝的構造および混合の分析結果を報告しています。民族は遺伝的特徴により定義されるわけではありませんが、民族集団間の明確な遺伝的差異が多くの…
メキシコの先スペイン期遺跡で発見された人類遺骸の核ゲノムデータとミトコンドリアDNA(mtDNA)データを報告した研究(Villa-Islas et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。古代DNAはヒト集団の移動と遺伝的遺産について多くを明らかにしてきました。しかし、DNAは暑い気候ではひじょうに分解しや…
アフリカ東部における中新世の生態系と類人猿に関する二つの研究が公表されました。日本語の解説記事もあります。一方の研究(Peppe et al., 2023)は、アフリカ東部におけるC4型の草の従来の想定よりも早い出現を指摘しています。アフリカの象徴的なC4型炭素固定経路で光合成を行なう草の生態系の構築は、人類を含む多くの哺乳類系統の進…
ミトコンドリアDNA(mtDNA)に基づいて更新世におけるアメリカ大陸と日本列島への沿岸経路での人類の拡散を推測した研究(Li et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。現代人と古代人のmtDNAに基づいて、更新世における沿岸経路でのアメリカ大陸と日本列島への人類の拡散を推測した研究が公…
ピクト人のゲノムデータを報告した研究(Morez et al., 2023)が公表されました。本論文は、中世初期スコットランド(300~900年頃)のピクト期と関連する個体群がから配列決定された、2点の高品質の常染色体ゲノムと8点のミトコンドリアゲノムを報告します。本論文は、ピクト人のゲノムとブリテン島に暮らしていた鉄器時代の人々との…
上部旧石器時代のペンダントから得られた古代人のDNAを報告した研究(Essel et al., 2023)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。堆積物など非動物遺骸から古代DNAを解析する手法は近年急速に発展していますが、本論文は、人工遺物からの非破壊的な手法での古代DNA解析の手法を提示しており、たいへん注…
アラスカ南東部の3000年前頃の女性個体のゲノムデータを報告した研究(Aqil et al., 2023)が公表されました。アメリカ大陸についても人類集団の古代ゲノム研究は盛んで、さまざまなことが解明されつつあります(関連記事)。最近では、過去5000年間のアジア北東部とアメリカ大陸の人類集団間の遺伝的つながりも示唆されています(関連…
13世紀のカスティーリャ王国の王女のDNA解析を報告した研究(Palomo-Díez et al., 2023)が公表されました。古代DNA研究は近年ますます盛んになっており、その主要な対象は先史時代の名前の不明な個体ですが、名前を知られている歴史上の人物のDNA解析も増えつつあり、たとえばハンガリー王国のフニャディ(Hunyadi)…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)による海産物の利用を報告した研究(Zilhão et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。水産食料の恒常的な利用の記録は、ヨーロッパのネアンデルタール人では欠けていました。対照的に、個人的装飾品や身…
地中海西部の島における青銅器時代の薬物使用を報告した研究(Guerra-Doce et al., 2023)が公表されました。これまでに発表された先史時代のヨーロッパにおける薬物使用を示す証拠は、青銅器時代の容器から検出されたアヘンアルカロイド、儀式的な状況での薬用植物の残骸の発見、芸術的描写における薬用植物の登場など、間接証拠に基づ…
匈奴(Xiongnu)西部辺境地の墓地で発見された個体のゲノムデータを報告した研究(Lee et al., 2023)が公表されました。匈奴などユーラシア内陸部の遊牧民勢力についても、近年の古代ゲノム研究の進展は目覚ましく、たとえばアヴァールについて、社会的地位による遺伝的構成要素の違いがあり、支配層において200年間ほど起源地のユー…
フランス地中海地域の後期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のゲノムデータを報告した研究(Slimak et al., 2023)が公表されました。本論文は査読前なので、あるいは今後かなり修正されるかもしれませんが、ひじょうに興味深い内容なので取り上げます。本論文は、フランス地中海地域のマンドリン洞窟(Gr…
アフリカ人の大規模なゲノムデータを報告した研究(Bird et al., 2023)が公表されました。本論文は、カメルーンとコンゴ共和国とガーナとナイジェリアとスーダンの150以上の民族集団から得られた1333個体のゲノム規模データを報告しています。現生人類(Homo sapiens)の起源地であるアフリカは、最も現代人の遺伝的多様性…
北アメリカ大陸の大草原地帯におけるヨーロッパ系集団到来前となるウマの導入を報告した研究(Taylor et al., 2023)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ウマは北アメリカ大陸で進化し、ベーリンジア(ベーリング陸橋)を渡ってユーラシアへと拡散しました。ウマはユーラシアにおいて進化し続け、家畜化されましたが、知られてい…
前近代スワヒリ海岸の人々のゲノムデータを報告した研究(Brielle et al., 2023)が公表されました。アフリカ、とくにサハラ砂漠以南は、その高温環境のため古代DNA研究に適しておらず、世界では古代DNA研究が遅れた地域と言えるでしょう(関連記事)。本論文は、前近代(1250~1800年頃)のスワヒリ海岸の都市部の人類遺骸か…