類人猿の性染色体の完全な配列を報告した研究(Makova et al., 2024)が公表されました。当ブログでは、以前にはヒトも類人猿に含めており、非ヒト類人猿という用語も使いましたが、最近では、その語源から類人猿にヒトを含めるのは妥当ではない、と考えるようになりました。類人猿を単系統群(クレード)と定義せねばならない合理的な理由は…
古代ゲノムデータに基づく青銅器時代ユーラシア北部の人口史と文化との関連を検証した研究(Childebayeva et al., 2024)が公表されました。本論文は、とくにロシアのオムスク州のロストフカ(Rostovka、略してROT)遺跡とムルマンスク州のコラ(Kola)にあるボリショイ・オレニー・オストロフ(Bolshoy Ole…
エジプトの東部砂漠の前期石器時代と中期石器時代の石器を報告した研究(Leplongeon et al., 2024)が公表されました。エジプトについては、古王国以降の歴史がよく知られているでしょうが、現生人類(Homo sapiens)だけではなく他の人類のアフリカからの拡散経路においても、重要な役割を果たしたと考えられます。エジプト…
イランの更新世の石器を報告した研究(Hashemi et al., 2024)が公表されました。本論文は、イラン中央砂漠北部(the northern part of the Iranian Central Desert、略してNICD)に位置するセムナーン(Semnan)州のエイヴァーネケイ(Eyvanekey)遺跡の、少なくとも中…
日本列島の人類集団における農耕前後の適応の比較を検証した研究(Cooke et al., 2024)が公表されました。本論文は、日本列島における本格的な農耕の前後の人類集団の適応の違いを、遺伝的多様体の頻度の比較から検証しています。具体的には、エクトジスプラシンA受容体(ectodysplasin A receptor、略してEDAR…
頻繁な撹乱による過去の人類集団の復元力強化を示した研究(Riris et al., 2024)が公表されました。過去の人類の適応の記録は、未来の危機への対応を導く上で重要な教訓をもたらします。これまで、人類が時間とともに撹乱を吸収してそこから回復する能力について、体系的・全球的に比較されたことはなかった。レジリエンス(復元力)とは、危…
チベット高原西部の人類集団の古代ゲノムデータを報告した研究(Bai et al., 2024)が公表されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。チベット高原は、現生人類(Homo sapiens)のみならず、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)の存在も確認されており、その独特な人類進化史で注目されてい…
アフリカ北部の農耕開始前の狩猟採集民における植物性食料への高い依存を報告した研究(Moubtahij et al., 2024)が公表されました。本論文は、亜鉛(Zn)やストロンチウム(Sr)や炭素(C)や窒素(N)や硫黄(S)の同位体を用いて、農耕開始の数千年前となるアフリカ北部の後期石器時代の狩猟採集民の食性が、植物性食料に強く依…
頭蓋形態の比較に基づいて過去50万年間のホモ属の進化を検証した研究(Neves et al., 2024)が公表されました。本論文は、21世紀における新たな更新世ホモ属化石の発見や、分子生物学の飛躍的な発展を踏まえて、保存状態良好な過去50万年間のヨーロッパとアフリカとアジアで発見された86点のホモ属化石を比較し、現生人類の起源につい…
更新世にさかのぼるオーストラリアにおける人為的な火の制御を報告した研究(Bird et al., 2024)が公表されました。オーストラリア大陸にヨーロッパ人が到来した時点で、洗練された先住民社会はオーストラリアの広範な熱帯サバンナ全域で土地の管理を行なっていました。オーストラリアの先住民共同体において火は長い間、景観を社会に有益な形…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代中東における暴力の傾向に関する研究(Baten et al., 2023)が公表されました。初期のヒト社会において、個人間の暴力(暴行、殺人、奴隷、拷問、独裁、残酷な刑罰、暴力的抗争など)はどのように発展したのでしょうか?殺人の記録が最近のものでしか利用できないことを考えると、ヒトの歴史の大半は…
アヴァール人の社会的慣行を分析した学際的研究(Gnecchi-Ruscone et al., 2024)が公表されました。本論文は、6~9世紀にヨーロッパ中央部東方に存在したアヴァール人の社会的慣行を、遺伝学(古代ゲノム解析)と考古学と人類学と歴史学と組み合わせて分析しています。その結果、9世代にまたがり、約300個体から構成される大…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代の染色体異常を報告した研究(Rohrlach et al., 2024)が公表されました。異数性、とくにトリソミーは現在、ヒト遺伝学で観察される最も一般的な遺伝子異常を表しています。染色体トリソミーを有する人は、細胞内に特定の染色体が2本ではなく3本あります。21番染色体のトリソミーはダウン症候…
ヒトのセントロメアの多様性と進化に関する研究(Logsdon et al., 2024)が公表されました。ヒトのセントロメアは、その反復性と規模の大きさから、これまで塩基配列の解読やアセンブリがひじょうに困難でした。そのため、セントロメアは最も急速に変異が起こる領域の一つであるにも関わらず、ヒトのセントロメアの多様性パターンや、進化お…
ヨーロッパ最古級の石器を報告した研究(Garba et al., 2024)が公表されました。人類がユーラシアに到達したのは200万~100万年前頃と考えられてきましたが、近年ではヨルダンにおいて248万年前頃(関連記事)、中国において212万年前頃(関連記事)までさかのぼるかもしれない石器が発見されています。ただ、そうした痕跡はまだ…
現生人類(Homo sapiens)のアフリカからの拡散時の気候に関する研究(Kappelman et al., 2024)が公表されました。現生人類は10万年前頃までに何度もアフリカから拡散していましたが、非アフリカ系現代人の主要な祖先となる現生人類集団がアフリカから拡散したのは10万年前頃以降です(関連記事)。ほとんどのモデルでは…
古代ゲノムデータに基づいてキプロス島の初期人類の起源を推測した研究(Heraclides et al., 2024)が公表されました。本論文は、キプロス島の初期完新世の3個体のゲノムデータを、アナトリア半島やレヴァントなど近隣地域の後期更新世から初期完新世の人類のゲノムデータと比較しました。その結果、キプロス島の初期完新世の3個体のゲ…
北アメリカ大陸先住民のブラックフット連合(Blackfoot Confederacy)のゲノムデータを報告した研究(Rider et al., 2024)が公表されました。本論文は、ブラックフット連合の近現代のゲノムデータから、アメリカ大陸先住民におけるこれまで報告されていなかった古代の遺伝的系統を推測し、アメリカ大陸への人類の移住史…
現生人類(Homo sapiens)のアフリカからの拡散におけるイラン高原(ペルシア高原)の重要性を示した学際的研究(Vallini et al., 2024)が公表されました。本論文は、私が大いに参考にしてきた2年前(2022年)の論文(Vallini et al., 2022)の改訂版とも言えそうで、現生人類のアフリカからの拡散を…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、鮮卑の遺伝的起源に関する研究(Cai et al., 2023)が公表されました。本論文は、長きにわたって議論されてきた鮮卑の起源について、古代ゲノムデータに基づく解明を試みています。本論文の結論は、鮮卑の起源はアムール川地域の大興安嶺山脈周辺にある、というものです。また本論文は、鮮卑が南下して中原…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、新石器時代における黄河流域からの農耕民の移住に関する研究の解説(Bellwood., 2024)が公表されました。本論文はおもに、中国南西部の後期新石器時代遺跡の人類のゲノムデータを報告した研究(Tao et al., 2023)の解説で、考古学と言語学の研究成果も取り上げています。本論文の著者は、…
梅毒の起源に関する研究(Majander et al., 2024)が公表されました。性病性梅毒やベジェルとして知られる非性病性梅毒など、さまざまな種類のトレポネーマ病の起源は長い間不明で、とくに、ヨーロッパで15世紀後半に最初の梅毒の感染症が突然始まったことから、コロンブスの遠征に伴ってアメリカ大陸から到来した、という仮説が提示され…
河西回廊の人口史に関する研究(Xiong et al., 2024)が公表されました。本論文は、河西回廊の漢代から魏晋南北朝時代を経て唐代までの人類30個体のゲノムデータを報告するとともに、既知の古代人および現代人のゲノムデータと統合し、先史時代から現代にかけての河西回廊の人口史を推測しています。河西回廊の人類集団においては、新石器時…
現代人も含まれるヒト上科(他にはチンパンジーやゴリラやオランウータンやテナガザルなど)の尾の喪失の遺伝的基盤に関する研究(Xia et al., 2024)が公表されました。ヒト上科はボンネットマカク(Macaca radiata)など他の霊長類種と異なり尾を有しておらず、進化の過程で尾が失われた、と考えられています。尾の喪失は現生ヒ…
フランス大西洋地域の最後の狩猟採集民のゲノムデータを報告した研究(Simões et al., 2024)が公表されました。本論文は、フランス大西洋地域のブルターニュのテヴィエック(Téviec)遺跡およびオエディック(Hoedic)遺跡と、フランス北東部のシャンピニー(Champigny)のモン・サン=ピエール(Mont Saint…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、ユーラシア中央部青銅器時代人類集団の社会構造に関する研究(Blöcher et al., 2023)が公表されました。これまで、先史時代の社会における家族組織の生物学的側面に関する知識は限られていました。とくに、村落もしくは家族水準でのユーラシアにおける青銅器時代社会の構造についてはほとんど知られて…
アムール川流域の後期更新世の石器群を報告した研究(Yue et al., 2024)が公表されました。本論文は、中華人民共和国黒竜江省双鴨山(Shuangyashan)市饒河(Raohe)県の小南山(Xiaonanshan)遺跡の16500~13500年前頃となる石器群を、新石器化との関連で検証しています。アムール川流域には、1400…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、ダウニア人(Daunian)の起源に関する研究(Aneli et al., 2022)が公表されました。本論文は、イタリア南部の鉄器時代のダウニア人の遺伝的起源を、古代ゲノムデータから検証しています。ダウニア人は、ローマが共和政から帝政にかけて版図を拡大し、「帝国」となっていく過程で、版図の…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代ゲノムデータに基づいて中期青銅器時代ヨーロッパ中央部東方の人類社会を推測した研究(Chyleński et al., 2023)が公表されました。本論文は、おもに現在のポーランドとウクライナを対象に、文化的変容の見られる中期青銅器時代の人類集団が、比較的高い割合の狩猟採集民と関連する遺伝的構成要…