ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の骨盤形態と他の人類との比較について、先月(2025年3月)20日~23日にかけてアメリカ合衆国メリーランド州ボルチモア市で開催された第94回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Lewton et al., 2025)。この報告の要約はPDFフ…
湿潤な熱帯林における人類最古の痕跡を報告した研究(Arous et al., 2025)が公表されました。本論文は、コートジボワール南部のベテI(Bété I)遺跡の堆積物の植物蝋状物質(ワックス)の生体標識や安定同位体や植物珪酸体化石(プラントオパール)や花粉分析から、ベテI遺跡が当時湿潤な森林環境だったことを示しています。さらに、…
台湾沖で発見された人類遺骸のプロテオーム解析結果を報告した研究(Tsutaya et al., 2025)が報道されました。日本語の解説記事もあります。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、台湾本島と澎湖諸島の間の水深60m~120mの海域で、他の脊椎動物とともに漁網にかかって発…
山東半島の戦国時代~南北朝時代の人類のゲノムデータを報告した研究(Qu et al., 2025)が公表されました。本論文はオンライン版での公開が昨年(2024年)7月と早かったため、当ブログでこれまでに取り上げた研究(Wang B et al., 2024、Fang et al., 2025、Wang et al., 2025、Ma…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代ゲノムから現在の中国南西部に位置する雲南省から貴州省の高原地帯への漢文化の拡散を推測した研究(Zhu et al., 2024)が公表されました。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、ヒト起源(Human Origins、略してHO)…
ユーラシア東部内陸部の鉄器時代遺跡の人類遺骸のゲノムデータを報告し、既知の現代人および古代人のゲノムデータとともに分析した研究(Yang et al., 2025)が公表されました。本論文は、【現在は中華人民共和国の支配下にあり、行政区分では新疆ウイグル自治区とされている】東トルキスタンのツァグンルケ(Zhagunluke、扎滾魯克、…
先コロンブス期アマゾン南西部におけるトウモロコシの単一栽培を報告した研究(Lombardo et al., 2024)が公表されました。ボリビアのモホス平原の約4500km²におよぶ巨大な塚地域に広がるカサラベ(Casarabe)文化(500~1400年頃)は、先コロンブス期以前(1492年以前)のアマゾン川流域における都市生活の最も…
匈奴と漢の戦争に関連する人類遺骸の学際的な分析結果を報告した研究(Ma et al., 2025)が公表されました。本論文は、モンゴルのウムヌゴビ(Umnugovi)県のノムゴン(Nomgon)郡の南方26kmに位置するバヤンボラク遺跡(Bayanbulag site、略してBBS)で発見された人類遺骸について、考古学と遺伝学と同位体…
インド・ヨーロッパ語族話者の遺伝的歴史に関する研究(Lazaridis et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。5000年前頃以降、ヤムナ(Yamna)文化とも呼ばれるヤムナヤ(Yamnaya)文化と呼ばれる考古学的複合体の担い手は、西方ではハンガ…
古代ゲノムデータに基づいて新石器時代から青銅器時代の北ポントス地域の人口史を検証した研究(Nikitin et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、本論文と同時に刊行された関連研究[7]以外は、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。5000年前頃以降、ヤムナヤ(Yamnaya)文化とも呼…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、古代ゲノムデータに基づくウクライナの人口史に関する研究(Saag et al., 2025)が公表されました。本論文は、おもに現在のウクライナを対象とする北ポントス地域の、紀元前7000~紀元後1800年頃の人類91個体の新たなゲノムデータを報告し、主成分分析(principal component…
ローマ帝国における授乳期間の違いに関する研究(Cocozza et al., 2025)が公表されました。授乳期間や離乳時期の復元は生活史の復元に役立つので、人類進化史の研究でも注目されています(関連記事1および関連記事2)。本論文は、乳児の摂食習慣がローマ帝国期の居住地の複雑さでどう変わるのか、高解像度の安定同位体分析を用いて調べま…
古代ゲノムデータに基づいてアヴァール期の生殖障壁を報告した研究(Wang et al., 2025)が公表されました。アヴァール人は遺伝的にはアジア東部的な祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)を有しており、567~568年にヨーロッパ中央部東方に到達して、そこで大きく異なるヨーロッパ的な祖先系統を有する集団と遭遇…
黄河流域の新石器時代人類のゲノムデータを報告した研究(Ma et al., 2025)が公表されました。本論文は、黄河中流域に位置する中華人民共和国河南省鄭州市の大河村(Dahecun)遺跡で発見された、新石器時代の人類2個体の新たなゲノムデータを報告しています。これまで、仰韶(Yangshao)文化人類集団と比較して龍山(Longs…
カルパチア盆地古代人の新たなゲノムデータを報告した研究(Gnecchi-Ruscone et al., 2025)が公表されました。ヨーロッパのフン人が誰でどこから来たのか、というその起源に関する問題は、フン人の歴史的影響を考えると、学者の関心を超えて、文化的意識にまで浸透してきました。フン人を匈奴と関連づけた最初の仮説以降、学者はこ…
古代ゲノムデータに基づいてヨーロッパ中央部最初期農耕民の社会的および遺伝的多様性を推測した研究(Gelabert et al., 2025)が公表されました。本論文は、ヨーロッパの広範な地域に最初に農耕を広めた線形陶器(Linear Pottery、Linearbandkeramik、略してLBK)文化と関連する人類遺骸を中心に、それ…
ドイツで発見された初期現生人類(Homo sapiens)遺骸のゲノムデータを報告した研究(Sümer et al., 2025)が公表されました。この研究の概要は、すでに一昨年(2023年)9月にヒト進化研究ヨーロッパ協会第13回総会で報告され、当ブログで取り上げており(関連記事)、その頃からたいへん注目していたので、学術誌への掲載…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、文化進化を継承の観点から検証した研究(Bentley, and O'Brien., 2024)が公表されました。本論文は、文化の変化と継承が、社会的帰属意識や文化価値や行動の観点では、さまざまな選択の範囲において主体性や意図性から生じる、との一部の考古学者の見解を、多くの考古学的記録によって検証し、…
最近、鉄器時代ブリテン島人類集団の古代ゲノム研究(Cassidy et al., 2025)を取り上げました。その研究では、鉄器時代ブリテン島の人類集団における母方居住が示されました。これはヨーロッパ先史時代において、母方居住を強く示唆する直接的証拠としては最初の事例となります。その研究で指摘されていたように、民族誌の調査において父方…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、過去330万年間の石器技術から人類史における文化累積を推測した研究(Paige, and Perreault., 2024)が公表されました。現生人類(Homo sapiens)は独特な多様な生態学的生息地を占めています。ヒトは累積文化を通じて熱帯雨林や北極圏のツンドラへと拡大しました。累積文化は、…
完新世の山東半島の人口史および日本列島との関係に関する研究(Liu et al., 2025)が公表されました。Twitterにて大凌河様よりご教示いただき、たいへん興味深い論文なので、当ブログで取り上げます。なお、[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、6000~1500年前頃の…
古代ゲノムデータに基づく後期新石器時代から鉄器時代の黄河中流~下流域の人口史に関する研究(Fang et al., 2025)が公表されました。本論文は、後期新石器時代から鉄器時代の黄河中流域の中原~黄河下流域の海岱(Haidai)地域の古代人31個体の新たなゲノムデータを報告し、既知の古代人および現代人のゲノムデータと比較し、黄河中…
中原における後期新石器時代以降の人類集団の長期の遺伝的安定性を報告した研究(Ma et al., 2025)が公表されました。本論文は、古代人と現代人のゲノムデータを使用し、中原において後期新石器時代以降には人類集団の遺伝的構成が現在まで長期にわたって安定していたことを示しています。この中原の後期新石器時代集団の祖先系統(祖先系譜、祖…
鉄器時代ブリテン島における母方居住の事例を報告した研究(Cassidy et al., 2025)が公表されました。本論文は、紀元前100~紀元後100年頃にイングランド南部の海岸地域を占拠していた、デュロトリゲス人(Durotriges)の集落と関連する、鉄器時代墓地の被葬者57個体のゲノム解析結果を報告しています。後期鉄器時代のデ…
ヒト進化研究ヨーロッパ協会第14回総会で、ブルガリアで発見された初期現生人類(Homo sapiens)の年代に関する研究(Higham et al., 2024)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P82)。ブルガリアのコザーニカ(Kozarnika)遺跡は、ヨーロッパの下部旧石器時代と中部旧石器時代と上部旧…
ペルーのモチェ(Moche)文化期被葬者の学際的な分析結果を報告した研究(Quilter et al., 2025)が公表されました。本論文は、ペルーの北部沿岸のチカマ渓谷(Chicama Valley)のエル・ブルホ(El Brujo)遺跡にある、ピラミッド型の彩色神殿であるワカ・カオ・ビエホ(Huaca Cao Viejo)に埋葬…
ユーラシア東部の後期第四紀の人類に関する解説(Bae, and Wu., 2024)が公表されました。本論文は、ユーラシア東部の後期第四紀、より具体的にはおもに30万~5万年前頃の多様な非ホモ属に関する簡潔な解説で、ホモ属でも現生人類(Homo sapiens)は基本的に対象外となっています。本論文は対象地域をアジア東部としていますが…
現代人の新たなゲノムデータと既存の現代人および古代人のゲノムデータからワラセアの人口史を検証した研究(Purnomo et al., 2024)が公表されました。本論文は、ワラセア諸島とインドネシアの西パプア地域のヒトの遺伝的歴史の包括的研究を提示し、これには、ほぼ以前には報告されていなかった人口集団の、新たに配列決定された254個体…
新たな手法によって中世前期ヨーロッパの人口史を検証した研究(Speidel et al., 2025)が公表されました。本論文は、新たに開発された「Twigstats」と呼ばれる手法を用いて、中世前期ヨーロッパの人口史を検証しています。この新手法は遺伝的構成の類似した集団間の相互作用をじゅうらいよりも高解像度で推測でき、他の地域や時代…