三畳紀中期の新種鱗竜形類に関する研究(Sobral et al., 2020)が公表されました。鱗竜形類は規模と多様性が最大級の四肢動物系統で、10500種以上が含まれており、現代のトカゲ類・ヘビ類・ムカシトカゲ類の祖先に相当します。しかし、化石標本は、数ヶ所の三畳紀の遺跡でしか発見されておらず、鱗竜形類の初期進化はほとんど解明されて…
産業革命以前のメタン排出に関する研究(Hmiel et al., 2020)が公表されました。大気中のメタン(CH4)は強力な温室効果ガスで、そのモル分率は産業革命以前の時代の2倍以上になっています。化石燃料の抽出と使用は、最大の人為的メタン排出源の一つですが、こうした寄与の正確な規模は議論になっています。炭素14のメタンを使って、化…
過去5万年間の鳥の渡りに関する研究(Somveille et al., 2020)が公表されました。多くの鳥類種は、気候の季節変動に応答して渡りをします。渡り行動は柔軟に変化し、たとえば、現在進行中の気候変動に対処するために渡りの経路を変えてしまった鳥類種もいます。これに対して、氷期は季節性がそれほどはっきりしないため、鳥類の渡りの重…
中国南西部となる貴州省(Guizhou Province)の観音洞洞窟(Guanyindong Cave)遺跡で発見されたルヴァロワ(Levallois)石器群に関する研究(Hu et al., 2019A)を、2018年11月に当ブログで取り上げました(関連記事)。この研究(以下、Hu論文1)に対して批判(Li et al., 20…
中国北西部の初期農耕民によるニワトリではなく飼育していたキジの消費を報告した研究(Barton et al., 2020)が公表されました。現在では、農耕・牧畜(植物の栽培化・動物の家畜化)は、年代は異なりつつも世界の複数の地域で独自に始まり、周辺地域に拡散していった、と考えられており、この問題に関しては2014年の総説的論文が今でも…
テストステロンの疾患リスクへの影響の性差に関する研究(Ruth et al., 2020)が公表されました。テストステロンは女性も男性も作る天然ホルモンの一種で、テストステロンの補充療法は、骨の健康増進や性機能・体組成の改善に広く用いられています。しかし、テストステロンが病気の転帰に及ぼす影響については、ほとんど分かっていません。この…
近くにいるクラゲに刺されなくても痛みを感じる理由に関する研究(Ames et al., 2020)が公表されました。マングローブ林の流域に生息するサカサクラゲ属のクラゲ(Cassiopea xamachana)は、浅瀬の底で上下逆さになっており、フワフワした口腕が上向きについています。アメリカ合衆国フロリダ州やカリブ海やミクロネシアの…
アフリカ西部の現代人集団に見られる遺伝学的に未知の人類系統(ゴースト系統)の遺伝的痕跡に関する研究(Durvasula, and Sankararaman., 2020)が公表されました。人類史において、異なる系統間の複雑な交雑が重要な役割を果たしてきたことは、近年ますます強調されるようになってきたと思います(関連記事)。ネアンデルタ…
一部の細胞の変異量が禁煙により非喫煙者と変わらなくなることを報告した研究(Yoshida et al., 2020)が公表されました。喫煙は肺癌を引き起こし、この過程は、煙草の煙に含まれる60種類以上の発癌物質がDNAを直接損傷して変異させることにより進行します。肺癌細胞のゲノムに煙草が及ぼす重大な影響に関しては充分に裏づけられていま…
小児期の体重が妊娠中の母親のパラベン類曝露に関連していることを報告した研究(Leppert et al., 2020)が公表されました。パラベン類の化合物は抗菌性と抗真菌性を有し、数々の消費者製品に使用されていますが、経口摂取や皮膚吸収によって体内に入り、尿や血液中に検出されることが知られています。この研究は、出生前のパラベン類曝露が…
早期新石器時代ピレネー山脈における虐殺に関する研究(Alt et al., 2020)が公表されました。中期~後期更新世にはヒトは基本的に狩猟採集民でしたが、平等主義の倫理のため本質的には善良で平和的だった、という考えがかつては浸透していました。この仮説では、12000年前頃の農耕開始以後(もちろん、地域により農耕開始年代は異なります…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、先コロンブス期の人為的活動に起因するアマゾン川流域の植物の優占種に関する研究(Levis et al., 2017)が公表されました。日本語の解説記事もあります。アマゾン川流域における植物の栽培は8000年以上前から行なわれています。この研究は、植物の栽培がもたらす永続的な影響をより詳しく理…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、古典期マヤ社会を崩壊させた旱魃に関する研究(Evans et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。紀元後800~1000年頃となる古典期終末期のマヤ文化の崩壊は一般的に、過去の気候急変が古代社会の衰退にどれほど大きな影響を及ぼすのか、という事例として使用されます…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、マヤ文化における貯蔵・流通に関する研究(McKillop et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。塩は生命の維持に不可欠ですが、人類の主要な生業が狩猟採集から農耕へと移行していく時期に、人類が塩をどのように確保していたのか、明確ではありませんでした。この研究は…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、航空調査によるマヤ文化の見直し関する研究(Canuto et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。マヤ低地中央部は大部分が深い森林に覆われた地域のため新たな遺跡の発見は困難で、1集落を完全に地図化して特徴を明確にするには長い年月を必要とします。そのため、マヤ文化…
ミクログリアによる忘却の制御に関する研究(Wang et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヒトの脳は、記憶を記憶痕跡(動的なシナプス回路によりつなぎ合わされているニューロン集団)にコードし、保存すると考えられています。これらのシナプス結合を経て記憶痕跡を再活性化することで、特定の記憶を思い出せます。記…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、中国の陵墓で発見された絶滅テナガザルに関する研究(Turvey et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。この研究は、中華人民共和国陝西省西安市長安区にある2300~2200年前頃の陵墓で発見されたテナガザルについて報告しています。この陵墓には、秦の孝文王の側室…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、アリにおける真社会性の制御の遺伝的基盤に関する研究(Chandra et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。全てのアリは真社会性(eusociality、生殖役割が一部のメンバーに特化されることを含めた高度な社会性)を有すると考えられており、一つのコロニー内の…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、ミトコンドリアDNA(mtDNA)の進化への気温の影響に関する研究(Lajbner et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。ヒトを含む多細胞生物のDNAの大部分は、細胞の核内に折りたたまれて格納されています。しかし、ごくわずかですが、ミトコンドリアと呼ばれる、…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、トウモロコシの栽培化に関する研究(Kistler et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。トウモロコシはメキシコの野草テオシントが進化した栽培種で、南北アメリカ大陸全域に急速に拡散しました。古代、トウモロコシは農地のいたる所で栽培され、16世紀にヨーロッパ人が…
社会的行動を駆動する神経回路の生化学的影響に関する研究(Demir et al., 2020)が公表されました。生物は、配偶相手と遭遇して相手を評価する可能性を高めるために、さまざまな行動戦略を進化させてきました。多くの種は、配偶者となり得る相手の位置や、性的・社会的状態についての情報を伝達するために、フェロモンを使っています。マウス…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、北海道の縄文時代のコクゾウムシ混入土器に関する研究(Obata et al., 2019)が公表されました。日本語の解説記事もあります。コクゾウムシ(Sitophilus zeamais)はオサゾウムシ科の甲虫で、貯蔵米の害虫として知られています。2003年頃より、土器の表面や断面についたタ…
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、ショウジョウバエの「文化伝達」に関する研究(Danchin et al., 2018)が公表されました。日本語の解説記事もあります。地域特有の伝統が生まれて存続できることこそ、文化の証だと考えられてきました。文化的伝統の社会伝達が、認知機能があまり発達していない種を含む、現在知られている非ヒ…
マラリアを伝搬する蚊の熱源探索行動に関する研究(Greppi et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。温血宿主を発見して吸血するために不可欠なマラリアを伝搬する蚊の熱源探索行動は、昔は体温を低く保つための熱の回避に特化していた温度受容体に依存しています。現在マラリアを伝搬する蚊がこの受容体を持っているの…
ヒトの脳オルガノイドの適性に関する研究(Bhaduri et al., 2020)が公表されました。皮質オルガノイドは、実験室で培養され、3次元構造へ自己組織化する細胞塊で、発生段階のヒト大脳皮質の特徴をモデル化したものです。このようなオルガノイドモデルは、脳発生の研究で利用されることが多くなってきていますが、発生段階の脳とオルガノイ…
バラノピド類(varanopid)の長期保育と分類に関する二つの研究が報道されました。一方の研究(Maddin et al., 2020)は、バラノピド類の長期保育について報告しています。現在、長期保育としても知られる生後の子の保育は、鳥類や哺乳類や魚類など多くの脊椎動物で広く見られますが、他の動物群では見られません。過去の研究からは…
スイレンのゲノムと顕花植物の初期進化に関する研究(Zhang et al., 2020)が公表されました。スイレンは被子植物スイレン目に属します。アンボレラ目(Amborellales)、スイレン目(Nymphaeales)、アウストロバイレヤ目(Austrobaileyales)は合わせて「ANAグレード被子植物」と呼ばれ、これらは…
確証バイアスの形成に関係する脳領域についての研究(Kappes et al., 2020)が公表されました。人間は、過去の自分の選択や判断にとって不利な情報を過小評価する傾向があります。これは確証バイアスといい、政治から科学・教育に至る、あらゆる事柄に重大な影響を及ぼし、信念形成の一つの特性となっていますが、その基盤となる機構は、ほと…
高温と早産に関する研究(Barreca, and Schaller., 2020)が公表されました。気候変動を原因とした高温気象の発生が増えると、乳児の健康への悪影響の可能性が高まりますが、この脅威の規模に関してじゅうぶんな研究は行なわれていませんでした。妊娠期間の短縮は、新生児のその後の健康および認知機能の低下と関連する、と考えられ…
喫煙と飲酒による脳の高齢化に関する研究(Ning et al., 2020)が公表されました。以前の研究で、特定の生活習慣(過度の喫煙やアルコール摂取など)が特定の脳領域に悪影響を及ぼす、と示されていますが、とくに脳全体を考えた場合に、喫煙とアルコール摂取が脳年齢とどのように関連しているのか、明らかではありません。この研究は、機械学習…
菜食(ベジタリアン食)による尿路感染症のリスク低減に関する研究(Chen et al., 2020)が公表されました。尿路感染症は多くの場合、腸内細菌(大腸菌など)が原因になっています。腸内細菌は尿道から尿路に侵入し、腎臓と膀胱に悪影響を及ぼします。以前の研究で、尿路感染症の原因と知られている大腸菌株の主要な貯蔵場所の一つは食肉と明ら…
ストレスによる白毛化に関する研究(Zhang et al., 2020)が公表されました。経験的あるいは事例的な証拠から、ストレスは白毛化の加速に関連するとされてきましたが、その根本的機構は解明されていません。毛の色素の喪失にメラノサイト幹細胞(色素をつくるメラニン細胞の前駆体)の喪失が介在していることは、以前の研究によって明らかにな…
石器の分析から、ユーラシア草原地帯におけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)の長距離移動の可能性を指摘した研究(Kolobova et al., 2020)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。ネアンデルタール人の存在期間・地理的範囲・拡散および絶滅の年代は、人類の進化と移住の研…
取り上げるのが遅れてしまいましたが、同性愛行動に関するゲノム規模の研究(Ganna et al., 2020)が公表されました。日本語の解説記事もあります。この研究は、それまでに同性愛行動をとったことがあるのか、自己報告が得られた約50万人について遺伝的性質を調べました。この研究は、調査への回答を分析して、UK Biobankおよび2…
3D印刷によるミイラの声の再現に関する研究(Howard et al., 2020)が公表されました。個人の声道の寸法が正確に分かれば、その本人独自の音が得られます。声道の寸法を確定できれば、3D印刷により作製された声道と電子喉頭を利用して声帯音を合成できます。これを実現するには、無傷に近い状態の声道の軟組織が必要となります。この研究…