ホモ属の複雑な進化史
遺伝子流動を含むホモ属の複雑な進化史に関する研究(Zhang et al., 2026)が公表されました。日本語の解説記事もあります。本論文は新たな手法を用いて、現生人類(Homo sapiens)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)といったホモ属間の複雑な遺伝的混合の歴史を明らかにしています。本論文の新たな手法では、ネアンデルタール人やデニソワ人といった非現生人類ホモ属の参照ゲノムデータなしで、古代型祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)をマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)する手法によって、ホモ属における過去の混合を推定でき、その中には、まだゲノムデータが得られていない遺伝学的に未知の「超古代型」の亡霊(ゴースト)系統も含まれます。この亡霊系統には、デニソワ人系統への遺伝子移入が推定される系統や、ネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の系統と分岐した後の現生人類系統への遺伝子移入が推定される系統が含まれます。現代人のゲノムにおいて、ネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入の痕跡が見られない「砂漠」と呼ばれる領域で、亡霊系統由来と推定される祖先系統が見つかり、この砂漠領域が現生人類に固有との想定は再考を余儀なくされています。この新たな手法によって、低緯度や古い年代のためゲノムを利用できない系統についても、ホモ属の進化史により正確に位置づけることが可能となり、今後の研究の進展が期待されます。以下は本論文の要約図です。
以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、RNA(Ribonucleic Acid、リボ核酸)、ARG(ancestral recombination graph、祖先組換え図)、TRACE(TRacking Archaic Contributions via ARG Estimation、ARG推定による古代型の寄与の追跡)、T古代型(divergence time of the archaic and modern lineages、古代型と現代型の系統の分岐時期)、T混合(time of the admixture event、混合事象の時期)、ILS(incomplete lineage sorting、不完全な系統分類)、CI(confidence interval、信頼区間)、cM(centimorgan、センチモルガン)、FDR(false discovery rate、偽発見率)、OOA(Out-of-Africa、出アフリカ)、SFS(site frequency spectrum、部位頻度範囲)、 cSFS(conditional SFS、条件付きSFS)、塩基対(base pairs、略してbp)、kbp(kilo base pairs、千塩基対)、Mbp(megabase pairs、百万塩基対)、MHC(major histocompatibility complex、主要組織適合複合体)、1000G(1000 Genomes Project、1000人ゲノム計画)です。
本論文で取り上げられる主要な遺伝子は、CSMD1(CUB And Sushi Multiple Domains 1、CUBおよびスシ複数ドメイン1)、RBFOX1(RNA binding fox-1 homolog 1、RNA結合FOX1ホモログ1)、FOXP2(Forkhead Box P2、フォークヘッドボックスP2)、CSNK2A2IP(Casein Kinase 2 Subunit Alpha' Interacting Protein、カゼインキナーゼ2のサブユニットアルファ相互作用タンパク質)、PPP1R11(Protein Phosphatase 1 Regulatory Inhibitor Subunit 11、タンパク質脱リン酸化酵素1調節阻害因子サブユニット11)、RNF39(Ring Finger Protein 39、環状フィンガー・プロテイン39)、POLR1H(RNA Polymerase I Subunit H、RNA重合酵素1サブユニットH)、CYP24A1(Cytochrome P450 Family 24 Subfamily A Member 1、シトクロームP450族24亜族Aメンバー1)です。
●構造化要約
○前提
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムの配列決定は、現生人類と今では絶滅した古代型人類との間の広範な交雑を明らかにしてきており、ヒトの進化史に関する理解を一変させました。しかし、現代人の祖先系統に寄与した多くの古代型人口集団、とくに保存されている化石もしくはDNAが欠けている人口集団は、依然として特徴づけられていません。既存の計算手法がこれらの寄与を検出できないのは、古代型参照ゲノムもしくは混合していない外群に依存しているからです。結果として、古代型の遺伝子移入の全容と複雑さは依然として不明です。
○理論的根拠
ARGはゲノム全体にわたって標本一式の完全な系図史を符号化し、経時的な祖先人口集団の関係の記録を提供します。深く分岐した古代型供給源からの遺伝子流動はARGにおいて二つの特徴的な痕跡を残すと予測され、それは、(1)遺伝子移入した系統と受容人口集団との間の長い進化的分離を反映している、異常に深い合着(合祖)分岐と、(2)遺伝子移入した系統が連続的なハプロタイプとして存続するゲノムの長い領域で、これは遺伝子流動事象以降の組換え事象の回数が限られていることを反映しています。TRACEが開発され、これは参照および外群がない手法で、これらの痕跡について推定されたARGの走査によって、現代人のゲノムにおける古代型断片を特定します。
○結果
広範な模擬実験の実行によってTRACEが検証され、広範な人口統計学的状況および媒介変数にわたって高い精度と低い偽発見率になる、と示されます。1000人ゲノム計画にデータを適用すると、TRACEは非アフリカ系現代人全員におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の既知の兆候と、アジア人およびオセアニア人におけるデニソワ人からの遺伝子移入を回収し、人口集団水準のパターンは以前の推定値と一致します。
これら確証された兆候以外に、TRACEは、アフリカ系および非アフリカ系両方の人口集団で、以前には特徴づけられていなかった人類系統である、亡霊古代型祖先系統の広範な断片を特定します。ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠内で、古代型からの遺伝子移入が枯渇しており、現生人類に固有と以前には解釈されていたゲノム領域である、亡霊祖先系統の存続が見つかります。これは、こうした領域に関する有力な解釈に疑問を呈し、遺伝子移入された祖先系統に対する選択作用がすべての古代型供給源にわたって均一ではなかったことを示唆しています。オセアニアの人口集団では、TRACEはデニソワ人祖先系統断片内でネアンデルタール人断片と比較して異常に負かい合祖系統の顕著な濃縮を検出しておりデニソワ人を介しての現生人類への超古代型の遺伝子流動のモデルと一致します。まとめると、これらの結果は、現代人のゲノムを形成してきた、直接的および他の古代型集団による媒介の両方の、遺伝子移入の複数層を示しています。
○結論
TRACEは古代型参照ゲノムを必要とせずに、古代型祖先系統をマッピングする系図に基づく手法で、現代人の進化の過去への隠れた層を明らかにします。現代人のゲノムのみから推定されたARGを用いて、この手法はDNAが利用可能ではない古代型人類からの遺伝子移入の兆候を回収し、それには亡霊および超古代型系統が含まれます。ARGの再構築が進むにつれて、TRACEは現代人の遺伝的多様性への絶滅人口集団の遺産に関する理解をますます深めていくでしょう。
●要約
現生人類と絶滅人類との間の混合は現在の個体群のゲノムを形成してきましたが、この歴史の再構築は古代型標本のおよび混合していない外群人口集団の少なさによって制約されてきました。本論文はTRACEを導入し、これは、古代型祖先系統特定のために祖先組換え図の特徴を用いる、参照および外群を必要としない手法です。模擬実験では、TRACEには高い精度と低い偽発見率になる、と論証されます。1000人ゲノム計画に他起用すると、TRACEは既知のネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入を回収し、アフリカ人と非アフリカ人の両方で特徴づけられていない人類からの亡霊混合を明らかにします。亡霊祖先系統はネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠に残っており、この砂漠が現生人類固有領域との解釈に異議を唱えます。オセアニア人では、深い系統がネアンデルタール人由来領域と比較してデニソワ人領域で多い、とTRACEによって分かり、超古代型からの遺伝子移入が裏づけられます。TRACEは古代型参照ゲノムなしで、古代型遺伝子移入のマッピングを可能とします。
●研究史
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノム配列決定はヒトの進化に関する理解を一変させ、現生人類と古代型人類との間の遺伝子流動の証拠を明らかにしています[1~5]。ほとんどの非アフリカ系現代人が1~2%のネアンデルタール人祖先系統を有しているのに対して、アジア人とオセアニア人は0.1~5%のデニソワ人祖先系統を有しています[6、7]。古代型祖先系統はヒトの適応および疾患に大きな影響を与えてきてやり、皮膚の色素沈着や高地適応や免疫機能などさまざまな形質に寄与しています[10、11、13]。しかし、これまでに、刊行されている高被覆度の古代型ゲノムは6点のみで、その内訳はネアンデルタール人が4個体、デニソワ人が2個体となり、すべてユーラシアで発見されています。したがって、ユーラシア外およびより深い時間規模での古代型祖先系統の進化史および影響に関する知識は、依然として不完全です[1~3、5、15]。
いくつかの研究では、ゲノム配列が現時点で存在しない、他の未知の古代型人類からの遺伝子流動がアフリカの内外両方で起きたかもしれない、と仮定されてきました[17~19、23、26、28~31]。現在のアフリカの人口集団の遺伝学的分析は、既知の人口統計学的歴史によって説明できない高度に分岐したハプロタイプを特定してきており、「亡霊」遺伝子移入が示唆されています[17~19、23、26、28、29、31]。より深い時間規模では、アルタイ山脈のデニソワ人のゲノムの分析から、デニソワ人は、「超古代型」と呼ばれており、現生人類とは140万~90万年前頃に分岐した、深く分岐した人口集団からの祖先系統を有している、と示唆されています[2、3、32]。亡霊系統が、現代人のゲノムに寄与した標本抽出されていない古代型人口集団を広く指すのに対して、超古代型祖先系統は具体的には、現生人類とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の前に分岐した系統からの寄与を意味します。超古代型祖先系統はデニソワ人からの遺伝子流動によって現生人類へと遺伝子移入した可能性が高いので、アジア人およびオセアニア人に存在するかもしれません。しかし、これらの歴史が依然としてよく分かっていないのは、古代型からの遺伝子移入の研究についてほとんどの利用可能な手法が、配列決定された古代型ゲノム[33]か、古代型祖先系統がない外群人口集団[18、35]か、その両方[6]のいずれかに依拠しているからです。アフリカの再構築の古代ゲノムは2万年前未満で[26]、永久凍土層以外の100万年以上前の人類のDNAの回収は見込みがないので[38]、そうした要件のない手法が必要です。
ARGを再構築する新たな手法が利用可能になったことで[42]、今では計算上扱いやすい方法で配列一式の完全な進化史の推定が可能です。ARGはすべての合祖および組換え事象の完全な記録を提供し、ゲノムの各部位における完全な系図を明示します。重要なことに、深く分岐した系統からの遺伝子流動は、異常に負かい合祖事象などARGに独特な痕跡を残すと予測され、それは古代型参照ゲノムがない場合でさえ、遺伝子移入を検出するのに使用できます[42]。
本論文は、現代人のゲノムから構築されたARGの特徴の活用によって、現代人のゲノムにおける古代型祖先系統の痕跡を特定する手法である、TRACEを導入します。TRACEは、古代型参照ゲノムも混合していない外群人口集団も必要としません。本論文は広範な模擬実験を行ない、真のおよび推定されたARGを用いて、さまざまな人口統計学的状況下での信頼性を特徴づけます。本論文は次に、TRACEを世界規模の個体群の全ゲノム配列に適用し、現代人における古代型からの遺伝子流動の進化史および遺産を再構築します。
●TRACEはARGを用いて古代型からの遺伝子流動を特定します
TRACEはARGに符号化された系図情報の活用によって、古代型祖先系統を推定します。その中心的な着想は、古代型からの遺伝子移入はARG内の周縁部系統樹の配列において、長い枝と長いハプロタイプという2点の特徴的な痕跡を残すことです。第一に、長い枝が生じるのは、深く分岐した人口集団からの遺伝子移入が、遺伝子移入されていない系統よりもずっと古い時代に合祖する系統をもたらすからです。ARGでは、これは、古代型系統と現代型系統の分岐時期(T古代型)と混合事象の時期(T混合)の間にまたがる、深い合祖時間の枝として現れます(図1A)[42]。第二に、混合は分岐より新しいので、遺伝子移入された領域はILSから生じる領域より長いと予測され、それは、祖先系統領域を分断する組換えについて、混合以降の時間が短いからです。以下は本論文の図1です。
TRACEは古代型と現代型のヒトという二つの状態で、隠れマルコフモデルとして実装されています。入力として、TRACEは現在の個体群の位相化された全ゲノム配列から推定されたARGを使用します。各周縁系統樹と焦点のハプロタイプについて、(1)時間tにおける焦点の標本の祖先となる枝の長さと、(2)同じ時間枠内に位置する系統樹上の他の合祖事象の数が調べられました(図1B)。媒介変数tは「長い」枝の特定のための時間切断を定義しており、使用者によって明示され、遺伝子移入系統間の分岐時期の代理を表しています。TRACEの最適な性能は、tが真の分岐時期であるT古代型に近い場合に達成され、tがT古代型よりずっと古くなるならば、一部の真の兆候は、遺伝子移入された古代型系統がtの前に現生人類系統と合祖する場合に、見逃されるかもしれません。あるいは、tが新しすぎるならば、古代型の推定結果は他の近い過去の人口統計学的事象に敏感になるかもしれません。
TRACEを検証するために、アフリカ人と非アフリカ人とネアンデルタール人を含む3人口集団についてゲノム配列が模擬実験され、OOAボトルネック(瓶首効果)と非アフリカ人への約2%のネアンデルタール人からの遺伝子流動が組み込まれました。TRACEで適用され、非アフリカ人(対象は100個体)とアフリカ人(対象は100個体)について真のARGを用いて、非アフリカ人における古代型祖先系統が検出されました。推定への人口瓶首効果の影響を最小限にするために、人口集団間でARGが共同で構築されました。tがネアンデルタール人と現生人類の間の分岐時期に近い15000世代で適用し、ILSから遺伝子移入された断片を区別するために、0.05cM以上の長さの断片に焦点を当てると、TRACEは高い精度と高い回収率(それぞれ92%と71%)を示す、と分かりました。古代型祖先系統を有さない人口集団へのTRACEの適用によって示されるように、偽発見率はひじょうに低く(0.25%未満)なります(図1C)。hmmixやSprime[35]やIBDmix[33]といった刊行されている古代型推定手法と比較すると、TRACEは配列決定された古代型ゲノムもしくは混合していない外群を必要としません。模擬実験では、外群への少量の古代型の遺伝子流動でさえ、hmmixとSprimeなどの参照を必要としない手法を偏らせるかもしれないのに対して、TRACEは高度な感受性と特定性を維持する、と観察されました。IBDmixなど参照に基づく手法は亡霊祖先系統の推定に適用できず、模擬実験では0.1%未満の亡霊祖先系統しか回収できません。TRACEはさまざまな追加の人口統計学的モデルおよび媒介変数で堅牢な性能を示し、それに含まれるのは、ネアンデルタール人祖先系統のさまざまな割合(0.5~10%)、分岐時期(約9250~24300世代)、遺伝子移入の時期(725~5725世代)、対象の標本規模(10~20)、媒介変数tの誤指定です。
次に、最近刊行された2点の手法であるSINGERおよびRelate[42]を用いて推定されたARGに、TRACEが適用されました。真のARGでの性能と同様に、TRACEは推定されたARGを用いて、高い精度(約90%)と低いFDR(0.25%未満)に達しました(図1C・D)。しかし、真のARGと比較すると、推定されたARGでは回収率はかなり低くなります。OOAモデルについては、真のARGを用いての回収率約80%と比較して、TRACEの回収率は、Relateを用いての真の領域の10%未満で、SINGERを用いての約50%です。さらに、回収はより複雑な人口統計学的モデル下では減少しますが、SINGERはほとんどの人口統計学的状況下でRelate(約30%)より高い回収率を維持します。したがって、実証的データのその後の分析では、SINGERで推定されたARGにTRACEが適用されました。
●OOA移住の前の現生人類集団における亡霊混合の証拠
SINGERによって再構築されたARGを用いて、1000Gの位相化された全ゲノム配列503点が分析されました(古代型ゲノムは含まれません)。古代型からの遺伝子移入の兆候を特定するために、現生人類とネアンデルタール人との間の推定分岐時期[4]に近い、t=15000世代(もしくは1世代28年と仮定して42万年)でTRACEが適用されました。ILSの影響を最小限にするために、50kbpおよび0.05cMより長い古代型断片(模擬実験において、これは0.2%未満のFDRに相当します)が保持されました(図1)。次に、推定された古代型断片上の差異が高被覆度で配列決定された古代型ゲノム4点(ネアンデルタール人3個体[2、3、5]とデニソワ人1個体[1])と比較され、古代型祖先系統の供給源が特定されました。比較のため、IBDmix(アルタイ山脈のネアンデルタール人およびデニソワ人のゲノムを仕様)とhmmix(外群としてサハラ以南のアフリカ人426個体)も適用されました。
非アフリカ系人口集団ではTRACEは、ヨーロッパ人とアジア東部人とアジア南部人では1個体あたり0.8~1%のネアンデルタール人祖先系統を特定しました(図2A)。ヨーロッパ人において最小限の(0.03%)、アジア東部人およびアジア南部人においてより高水準(それぞれ0.10%)のデニソワ人祖先系統が回収され、刊行されている結果[35、52~55]と一致します。TRACEによって特定された90%以上のネアンデルタール人断片と70%以上のデニソワ人断片は、hmmixもしくはIBDmixによっても推定されました。アフリカ西部および東部の両方で、TRACEでは1個体あたり0.1%未満のネアンデルタール人とデニソワ人を組み合わせた祖先系統が検出されました。サハラ以南のアフリカ人で特定されたネアンデルタール人断片の約半分はIBDmixでも推定されました(hmmixが適用されなかったのは、サハラ以南のアフリカ人について信頼できる外群が存在しないからです)。推定されたARGでのより低い回収率のため、一部の先行研究[33、54、55]と比較して、TRACEのネアンデルタール人およびデニソワ人の合計祖先系統の回収が少なかったものの、回収された断片はhmmixおよびIBDmixによって特定された断片と比較して、明らかな偏りを示さなかったことに留意してください。それにも関わらず、TRACEは世界中の人口集団にわたってネアンデルタール人およびデニソワ人の主要な特徴を堅牢に再構築しています。以下は本論文の図2です。
ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統以外に、TRACEは研究対象のすべての現代人集団において、ネアンデルタール人およびデニソワ人とより遠く関連している古代型系統からの遺伝子移入である、「亡霊」古代型祖先系統を明らかにしました。人口集団全体で、平均して0.5~1.1%の亡霊祖先系統が検出されました。非アフリカ人で見られるほとんどの亡霊祖先系統断片はサハラ以南のアフリカ人と共有されていますが、アフリカの東西両方の人々は異なる亡霊断片の多様性がより大きく、これはOOA瓶首効果によって引き起こされた非アフリカ人における遺伝的多様性の減少と一致します(図2B)。亡霊断片は周縁系統樹で深い分岐を示し、配列決定されたネアンデルタール人およびデニソワ人両方のゲノムとほぼ同一の遺伝的類似製を示しており、そうした断片が、ネアンデルタール人およびデニソワ人の両古代型集団と等しく関連している、配列決定されていない系統に由来することを示唆しています。亡霊系統と現代人の断片間の平均合祖時間は遺伝子移入された断片から推定され、83万年前頃(95%CIで84万~83万年前頃)です。
いくつかの追加の一連の証拠は、現代人における亡霊祖先系統の本論文の結果を裏づけます。第一に亡霊祖先系統があるゲノム領域は異型接合性水準の上昇を示しており、これはネアンデルタール人およびデニソワ人の断片でも観察されるパターンと分かりました。異型接合性の上昇は深く分岐した系統からの遺伝子移入のモデルと一致しており[56]、とくに、亡霊祖先系統がARG推定の人為的産物ではないことを示唆しています。第二に、検証対象の全人口集団で、亡霊祖先系統断片はネアンデルタール人およびデニソワ人の断片より短く、これはネアンデルタール人からの遺伝子流動に先行するより古い遺伝子移入事象を反映しています。さらに模擬実験では、亡霊系統からの遺伝子移入のないモデルにおいて、TRACEはごくわずかな水準の亡霊祖先系統(0.07%、95%CIで0~0.3%)を推定しており、これは実証的データからの推定値より顕著に低い、と確証されました。対照的に、亡霊系統を含めて模擬実験で得られた結果は、実証的観察とよく一致しました。さらに、TRACEによって特定された古代型断片に存在する多様体について、SFSとcSFSが計算されました。ネアンデルタール人およびデニソワ人の断片が予測される「U字型」を示す[17]のに対して、亡霊断片は異なるSFSおよびcSFSパターンを示し、このパターンは模擬実験におけるOOA前の亡霊系統からの遺伝子移入のモデルと一致します。
まとめると、これらの調査結果から、50万年以上前に分岐した【遺伝学的に】未知の古代型人口集団は、OOA移住に先行するすべての現代人の共通祖先に遺伝子移入し、非アフリカ人およびアフリカ人における亡霊祖先系統の同様のパターンが生じた、と示唆されます。
●現代人における亡霊祖先系統の景観
現代人における亡霊祖先系統の遺産を調べるために、世界中の人口集団における亡霊祖先系統のゲノム規模分布が調査されました。TRACEによって特定された全人口集団(サハラ以南のアフリカ人および非アフリカ人)で特定されたすべての亡霊ハプロタイプにわたって、解析可能なゲノムの1548.75Mbpもしくは71.54%が回収されました(図3)。大まかには、亡霊祖先系統断片のゲノム規模パターンは、深く分岐した系統間の交雑から予測されるパターンと類似しています[57、58]。機能的要素の近くおよび低い組換え率の領域では亡霊祖先系統は減少し、これらの領域における連鎖選択のより強い影響を反映しています。これらのパターンは、ネアンデルタール人およびデニソワ人の遺伝子移入地図で見られるパターンや、非ヒト種間の交雑のパターンと類似しています。以下は本論文の図3です。
亡霊祖先系統の頻度が人口集団固有のゲノム規模平均の2標準偏差を超える領域として定義される、亡霊祖先系統の「頂点」も探索されました。すべての検証対象の人口集団で、亡霊祖先系統の1932ヶ所の頂点(平均長は61kbp、標準偏差は64kbp)が特定されました(図3)。この結果はネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統のより少ない数となるそれぞれ1155ヶ所と160ヶ所の頂点のとは対照的です(平均長はそれぞれ84.97kbpと76.54kbp)。亡霊祖先系統の頂点は非アフリカ人集団と比較してサハラ以南のアフリカ人集団で多く見られ、これは非アフリカ人におけるより低い遺伝的多様性と一致します。CSMD1やRBFOX1など、いくつかの遺伝子は亡霊祖先系統の高頻度頂点と交差しており、免疫および大赦複合体において全体的な機能濃縮があり、それには主要組織適合複合体やリポタンパク質複合体が含まれます。亡霊祖先系統の97ヶ所の砂漠(つまり、少なくとも10Mbpの長さで、亡霊祖先系統の頻度が0.1%未満)も特定されました。これらの砂漠は非アフリカ人集団のみで見られ、ほぼ半数(43.3%)はさまざまな非アフリカ人集団間で共有されており、OOA瓶首効果中に形成された可能性が高そうです。サハラ以南のアフリカ人において、亡霊祖先系統の砂漠は特定されません(ただ、これは適用された特定の頻度およびハプロタイプ長閾値に依存するかもしれません)。全体的に、ゲノム全体で亡霊祖先系統断片の分布における大きな不均一性が見つかります。
ネアンデルタール人およびデニソワ人の砂漠は、現生人類固有領域の候補とみなされることが多くあります[7、63]。二つの先行研究[7、53]によって特定された5ヶ所のネアンデルタール人およびデニソワ人共通の砂漠において、亡霊祖先系統が調べられました。2ヶ所の砂漠におけるネアンデルタール人およびデニソワ人両方の祖先系統の欠如は再現されたものの、いくつかの他の量的では無視できないネアンデルタール人もしくはデニソワ人祖先系統が見つかり、これは最近の研究[7、53、54、63、65]と一致します。それにも関わらず、5ヶ所の領域すべてで、より長く確実に推定される断片に限定した後でさえ、かなりの亡霊祖先系統(100kbp超)が含まれています(図3B)。たとえば、FOXP2遺伝子を含む7番染色体上の共通の古代型砂漠には、13.3%の頻度で亡霊祖先系統の頂点があり(図3B)、3番染色体上のネアンデルタール人砂漠には、CSNK2A2IPと重複する約20%の亡霊頂点が含まれます。本論文の調査結果から、亡霊祖先系統は以前に定義された古代型砂漠に存在することが多い、と示唆され、推定される現生人類固有の進化的変化に追加の背景を提供します。
●オセアニア人における超古代型祖先系統の検出
ネアンデルタール人とデニソワ人と現代人の間のアレル(対立遺伝子)共有のパターンを調べた先行研究は、デニソワ人が超古代型人口集団に由来する祖先系統を有しているかもしれない、と示唆してきました[1、2、32]。現代人のうち、汚染とアジア南東部人は最高の割合のデニソワ人祖先系統を継承しています[52]。したがって、本論文では、超古代型祖先系統の一部はデニソワ人からの遺伝子流動によって継承され、現在のオセアニア人においてデニソワ人から遺伝子移入された断片内に存続しているかもしれない、と推論されました。これを検証するために、パプアニューギニアの25個体[65]とバヌアツおよびサンタクルーズ諸島の67個体[52]を含めて、オセアニアの個体群の92点の高被覆度の全ゲノム配列が分析されました。SINGERを用いて、1000Gヨルバ人個体群とともにARGが再構築され、tを15000世代としてTRACEが適用され、古代型祖先系統が検出されました。
オセアニア人個体群では、TRACEは平均で0.73%のネアンデルタール人祖先系統と0.66%のデニソワ人祖先系統と0.33%の亡霊祖先系統を推定しており(図4A)、先行研究[52]および他の1000G非アフリカ人の推定値より低くなっています(図2A)。ネアンデルタール人とデニソワ人は相互と、現生人類との合祖前に合祖している(tは13600~16900)ので、長い枝の多くは時間切断としてtを15000世として用いた場合には検出されません。より高い古代型からの遺伝子移入の割合はこの影響をさらに悪化させ、それは、合祖事象のより大きな割合が古代型系統間で起きるからです。オセアニア人の人口統計学的歴史を模倣した模擬試験は、この過小評価を再現しました。より低い回収率にも関わらず、TRACEによって検出されたネアンデルタール人およびデニソワ人断片の90%以上は、hmmixおよびIBDmixと重なっています。TRACEで検出された古代型断片は、一貫した古代型の類似性パターンおよび1000GとのSFS/cSFSを示しました。さらに、オセアニア人における亡霊断片は1000G人口集団で検出された断片と重複しており、これは現代人における共通の起源と一致します。以下は本論文の図4です。
超古代型からの遺伝子移入を特定するために、tを31500世代(超古代型系統と現代人との間の推定分岐時期[32])として、デニソワ人から遺伝子移入された断片内の「超深部」合祖事象が検索され、ILSから区別するために少なくとも10kbpおよび0.01cMが必要とされ、比較のため同じ分析がネアンデルタール人から遺伝子移入された断片に適用されました。ネアンデルタール人断片においてよりも、デニソワ人断片で超深部系統の割合が有意に高い、と分かりました(図4)。模擬実験では、このパターンは超古代型からの遺伝子移入がないモデルと一致しないものの、デニソワ人への超古代型からの遺伝子移入を含むモデルでは再現される、と示されます(図4C)。さらに、遺伝子移入されたデニソワ人断片における超古代型断片は、独特な遺伝的特徴を示しており、この特徴は、超古代型断片を背景のデニソワ人祖先系統と区別し、それに含まれるのは、現生人類とのずっと深い合祖時間、ネアンデルタール人の深い系統の平均ILS長より長いゲノム長、ネアンデルタール人およびデニソワ人両方の参照ゲノムとの低い類似性です(配列決定されたデニソワ人の同じ遺伝子座に超古代型祖先系統がないことを仮定しています)。これらの特徴を用いて、模擬実験では70.2%の精度で超古代型断片(95%CIで66.4~74.1%)が検出されました。
オセアニア人のゲノムに適用すると、デニソワ人祖先系統領域内に組み込まれた超古代型断片の範囲は20~83kbpの間で(平均37.6kbp)、オセアニア人における検出されたデニソワ人祖先系統の合計の約0.3%に寄与している、と推定されます。この推定値は超古代型祖先系統の真の割合におけるひじょうに慎重な下限値を構成しており、それは、本論文の分析がデニソワ人から遺伝子移入された領域に限られており、少なくとも20kbpの断片を必要として、配列決定されたデニソワ人が超古代型祖先系統有する遺伝子座は除外されているからです。超古代型断片は現代人と(サハラ以南のアフリカ人)とアルタイ山脈のデニソワ人の両方からりより高度なヌクレオチド分岐を示している(他のデニソワ人から遺伝子移入された領域と比較して)、と確証され、この兆候がARG推定の人為的産物ではないことを示唆しています。SINGERから得られた周縁系統樹を用いると、超古代型系統と現代人系統との間の合祖時期は177万年前頃(95%CIで183万~169万年前頃)と推定され、これは以前の報告[2、32]と一致します。
共通の遺伝子注釈付けおよび機能的濃縮のパターンの特徴づけによって、オセアニア人のゲノムから回収された超古代型断片の機能的影響の可能性が評価されました(図4B)。いくつかの遺伝的領域には、MHC内のRNF39やPPP1R11やPOLR1HおよびCYP24A1など超古代型断片が高い割合で存在し、CYP24A1は、シトクロームP450族の一部で、ヒトにおいてビタミンD分解の重要な調節因子です[30、66]。遺伝子概念体系分析は、複数の仮説の検証後に、MHCや細胞骨格活性関連を含むいくつかの経路で、かなりの濃縮を明らかにします。
●考察
本論文は、現代人のゲノムのみで推定されたARGから古代型からの遺伝子移入を検出するための枠組みである、TRACEを導入します。TRACEの参照および外群を用いない設計にわって、亡霊系統および超古代型からの遺伝子移入を含めて、既存の手法では解決困難な遺伝子移入の歴史の再構築が可能となります。あらゆるARGに基づく手法と同様に、TRACEの性能は根底にあるARG推定の精度と規模設定性に依拠しており、検証済の真の系図と比較して、推定ARGを用いると、回収率が減少します。ARG再構築手法の発展に伴って、TRACEの信頼性と解像度は改善され、直接的なゲノム参照がないヒトや他種の進化史の事象を解明するでしょう。
TRACEを現代人のデータに適用すると、既知のネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統が回収され、ヒトの歴史のさまざまな時点において以前には特徴づけられいていなかった古代型祖先系統の痕跡が特定されます。すべての現在の人口集団に祖先系統をもたらした、OOAに先行する少なくとも1回の亡霊系統からの遺伝子移入の証拠が見つかりました。この調査結果は、先行研究[17]のような個別の遺伝子移入と最も一致しますが、その事象がアフリカ西部人に局在するのではなく、すべての現代人集団に影響を及ぼした、と示すことによって、そのモデルを拡張します。本論文の推定された亡霊系統がネアンデルタール人と現生人類の分岐時期の頃に分岐したことを考えると、この亡霊系統は、提案された深い構造の状況よりも新しい事象を表しており、その深い構造に関わる人口集団の分岐(150万年以上前)の後で、30万年前頃の単一の再合同事象[23]もしくは複数の「合同」事象が続きました。最後に、オセアニア人におけるデニソワ人祖先系統内に組み込まれた深く分岐した系統が推定され、これは、超古代型人類から現生人類への追加の間接的寄与と一致します。これらの結果は、直接的および他の古代型集団による媒介の両方の遺伝子移入の複数層を示しており、現代人のゲノムを形成しました。
これらの遺伝子移入事象の時期および人口統計学的背景以外に、その供給源の人類は依然として未解決の問題です。考古学的記録は、不明な量の、あるとしても潜在的な現生人類への寄与を伴う、多くの古代型形態を報告しています[30、66]。亡霊系統はネアンデルタール人と同じ時期に【現代人系統と】分岐しており、OOA拡散の前に現代人の祖先と直接的に混合した、中期更新世ホモ属集団[70]もしくはアフリカのホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)集団に相当するかもしれません。超古代型系統については、180万年前頃の分岐時期と一致する潜在的候補の一つは、先行研究[2、32]によって示唆されているように、ホモ・エレクトス(Homo erectus)です。
TRACEも、現代人における古代型祖先系統のゲノム遺産の存続を明らかにしています。亡霊祖先系統と超古代型系統祖先系統は両方とも機能的領域で顕著に濃縮しており、ヒトの適応における役割が浮き彫りになっています。さらに、亡霊祖先系統はネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入事象の砂漠として以前に特定されたゲノム領域内で存続しています。これらの砂漠は、現生人類固有の差異への正の選択の結果もしくは古代型から遺伝子移入されたアレルに対する強い浄化選択として、古代型からの遺伝子移入への不耐性の領域として解釈されることが多くありました[57、58]。むしろ、これらの領域における深く分岐した亡霊祖先系統の存続は、現生人類の差異への正の選択ではなく、ネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入に対する系統固有の選択を示唆しています。このパターンから、分岐時期のみとではなく、ネアンデルタール人およびデニソワ人系統と関連する、遺伝的負荷もしくは上位不適合性における差異が、ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠を形成した、と示唆されます。
いくつかの未解決の問題が残っています。第一に、推定された亡霊系統からの遺伝子移入の回数と時期と地理的位置は依然として不明です。本論文の結果は、すべての現代人集団に影響を及ぼした、少なくとも1回のOOAに先行する遺伝子移入事象を裏づけますが、構造化されたアフリカの人口集団間の遺伝子移入のさらなる事象が起きたかもしれないものの、現在のデータでは依然として解決が困難です。第二に、超古代型系統の起源と地理的範囲は依然として不明で、それには、この祖先系統がデニソワ人経由のみで現生人類に入ったのか、あるいは現代人の祖先との直接的混合もあったのかどうか、と言う問題も含まれます。新たなデニソワ人の参照ゲノムを含めて将来の研究が、これら超古代型配列の時期と起源をさらに特定するのに役立つかもしれない、と期待されます。最後に、ゲノムにおける亡霊祖先系統の分布に影響を及ぼす選択の痕跡が検出されましたが、免疫や代謝における役割を含めて、遺伝子移入された古代型領域の機能的影響は、依然として完全には特徴づけられていません。とくにアフリカとアジアの深い時間規模での追加の古代ゲノムを統合した将来の研究が、これらの遺伝子移入事象の時期と供給源と進化的結果の精緻化には重要となるでしょう。史料および手法は補足資料で利用可能です。
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以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、RNA(Ribonucleic Acid、リボ核酸)、ARG(ancestral recombination graph、祖先組換え図)、TRACE(TRacking Archaic Contributions via ARG Estimation、ARG推定による古代型の寄与の追跡)、T古代型(divergence time of the archaic and modern lineages、古代型と現代型の系統の分岐時期)、T混合(time of the admixture event、混合事象の時期)、ILS(incomplete lineage sorting、不完全な系統分類)、CI(confidence interval、信頼区間)、cM(centimorgan、センチモルガン)、FDR(false discovery rate、偽発見率)、OOA(Out-of-Africa、出アフリカ)、SFS(site frequency spectrum、部位頻度範囲)、 cSFS(conditional SFS、条件付きSFS)、塩基対(base pairs、略してbp)、kbp(kilo base pairs、千塩基対)、Mbp(megabase pairs、百万塩基対)、MHC(major histocompatibility complex、主要組織適合複合体)、1000G(1000 Genomes Project、1000人ゲノム計画)です。
本論文で取り上げられる主要な遺伝子は、CSMD1(CUB And Sushi Multiple Domains 1、CUBおよびスシ複数ドメイン1)、RBFOX1(RNA binding fox-1 homolog 1、RNA結合FOX1ホモログ1)、FOXP2(Forkhead Box P2、フォークヘッドボックスP2)、CSNK2A2IP(Casein Kinase 2 Subunit Alpha' Interacting Protein、カゼインキナーゼ2のサブユニットアルファ相互作用タンパク質)、PPP1R11(Protein Phosphatase 1 Regulatory Inhibitor Subunit 11、タンパク質脱リン酸化酵素1調節阻害因子サブユニット11)、RNF39(Ring Finger Protein 39、環状フィンガー・プロテイン39)、POLR1H(RNA Polymerase I Subunit H、RNA重合酵素1サブユニットH)、CYP24A1(Cytochrome P450 Family 24 Subfamily A Member 1、シトクロームP450族24亜族Aメンバー1)です。
●構造化要約
○前提
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノムの配列決定は、現生人類と今では絶滅した古代型人類との間の広範な交雑を明らかにしてきており、ヒトの進化史に関する理解を一変させました。しかし、現代人の祖先系統に寄与した多くの古代型人口集団、とくに保存されている化石もしくはDNAが欠けている人口集団は、依然として特徴づけられていません。既存の計算手法がこれらの寄与を検出できないのは、古代型参照ゲノムもしくは混合していない外群に依存しているからです。結果として、古代型の遺伝子移入の全容と複雑さは依然として不明です。
○理論的根拠
ARGはゲノム全体にわたって標本一式の完全な系図史を符号化し、経時的な祖先人口集団の関係の記録を提供します。深く分岐した古代型供給源からの遺伝子流動はARGにおいて二つの特徴的な痕跡を残すと予測され、それは、(1)遺伝子移入した系統と受容人口集団との間の長い進化的分離を反映している、異常に深い合着(合祖)分岐と、(2)遺伝子移入した系統が連続的なハプロタイプとして存続するゲノムの長い領域で、これは遺伝子流動事象以降の組換え事象の回数が限られていることを反映しています。TRACEが開発され、これは参照および外群がない手法で、これらの痕跡について推定されたARGの走査によって、現代人のゲノムにおける古代型断片を特定します。
○結果
広範な模擬実験の実行によってTRACEが検証され、広範な人口統計学的状況および媒介変数にわたって高い精度と低い偽発見率になる、と示されます。1000人ゲノム計画にデータを適用すると、TRACEは非アフリカ系現代人全員におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入の既知の兆候と、アジア人およびオセアニア人におけるデニソワ人からの遺伝子移入を回収し、人口集団水準のパターンは以前の推定値と一致します。
これら確証された兆候以外に、TRACEは、アフリカ系および非アフリカ系両方の人口集団で、以前には特徴づけられていなかった人類系統である、亡霊古代型祖先系統の広範な断片を特定します。ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠内で、古代型からの遺伝子移入が枯渇しており、現生人類に固有と以前には解釈されていたゲノム領域である、亡霊祖先系統の存続が見つかります。これは、こうした領域に関する有力な解釈に疑問を呈し、遺伝子移入された祖先系統に対する選択作用がすべての古代型供給源にわたって均一ではなかったことを示唆しています。オセアニアの人口集団では、TRACEはデニソワ人祖先系統断片内でネアンデルタール人断片と比較して異常に負かい合祖系統の顕著な濃縮を検出しておりデニソワ人を介しての現生人類への超古代型の遺伝子流動のモデルと一致します。まとめると、これらの結果は、現代人のゲノムを形成してきた、直接的および他の古代型集団による媒介の両方の、遺伝子移入の複数層を示しています。
○結論
TRACEは古代型参照ゲノムを必要とせずに、古代型祖先系統をマッピングする系図に基づく手法で、現代人の進化の過去への隠れた層を明らかにします。現代人のゲノムのみから推定されたARGを用いて、この手法はDNAが利用可能ではない古代型人類からの遺伝子移入の兆候を回収し、それには亡霊および超古代型系統が含まれます。ARGの再構築が進むにつれて、TRACEは現代人の遺伝的多様性への絶滅人口集団の遺産に関する理解をますます深めていくでしょう。
●要約
現生人類と絶滅人類との間の混合は現在の個体群のゲノムを形成してきましたが、この歴史の再構築は古代型標本のおよび混合していない外群人口集団の少なさによって制約されてきました。本論文はTRACEを導入し、これは、古代型祖先系統特定のために祖先組換え図の特徴を用いる、参照および外群を必要としない手法です。模擬実験では、TRACEには高い精度と低い偽発見率になる、と論証されます。1000人ゲノム計画に他起用すると、TRACEは既知のネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入を回収し、アフリカ人と非アフリカ人の両方で特徴づけられていない人類からの亡霊混合を明らかにします。亡霊祖先系統はネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠に残っており、この砂漠が現生人類固有領域との解釈に異議を唱えます。オセアニア人では、深い系統がネアンデルタール人由来領域と比較してデニソワ人領域で多い、とTRACEによって分かり、超古代型からの遺伝子移入が裏づけられます。TRACEは古代型参照ゲノムなしで、古代型遺伝子移入のマッピングを可能とします。
●研究史
ネアンデルタール人とデニソワ人のゲノム配列決定はヒトの進化に関する理解を一変させ、現生人類と古代型人類との間の遺伝子流動の証拠を明らかにしています[1~5]。ほとんどの非アフリカ系現代人が1~2%のネアンデルタール人祖先系統を有しているのに対して、アジア人とオセアニア人は0.1~5%のデニソワ人祖先系統を有しています[6、7]。古代型祖先系統はヒトの適応および疾患に大きな影響を与えてきてやり、皮膚の色素沈着や高地適応や免疫機能などさまざまな形質に寄与しています[10、11、13]。しかし、これまでに、刊行されている高被覆度の古代型ゲノムは6点のみで、その内訳はネアンデルタール人が4個体、デニソワ人が2個体となり、すべてユーラシアで発見されています。したがって、ユーラシア外およびより深い時間規模での古代型祖先系統の進化史および影響に関する知識は、依然として不完全です[1~3、5、15]。
いくつかの研究では、ゲノム配列が現時点で存在しない、他の未知の古代型人類からの遺伝子流動がアフリカの内外両方で起きたかもしれない、と仮定されてきました[17~19、23、26、28~31]。現在のアフリカの人口集団の遺伝学的分析は、既知の人口統計学的歴史によって説明できない高度に分岐したハプロタイプを特定してきており、「亡霊」遺伝子移入が示唆されています[17~19、23、26、28、29、31]。より深い時間規模では、アルタイ山脈のデニソワ人のゲノムの分析から、デニソワ人は、「超古代型」と呼ばれており、現生人類とは140万~90万年前頃に分岐した、深く分岐した人口集団からの祖先系統を有している、と示唆されています[2、3、32]。亡霊系統が、現代人のゲノムに寄与した標本抽出されていない古代型人口集団を広く指すのに対して、超古代型祖先系統は具体的には、現生人類とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の前に分岐した系統からの寄与を意味します。超古代型祖先系統はデニソワ人からの遺伝子流動によって現生人類へと遺伝子移入した可能性が高いので、アジア人およびオセアニア人に存在するかもしれません。しかし、これらの歴史が依然としてよく分かっていないのは、古代型からの遺伝子移入の研究についてほとんどの利用可能な手法が、配列決定された古代型ゲノム[33]か、古代型祖先系統がない外群人口集団[18、35]か、その両方[6]のいずれかに依拠しているからです。アフリカの再構築の古代ゲノムは2万年前未満で[26]、永久凍土層以外の100万年以上前の人類のDNAの回収は見込みがないので[38]、そうした要件のない手法が必要です。
ARGを再構築する新たな手法が利用可能になったことで[42]、今では計算上扱いやすい方法で配列一式の完全な進化史の推定が可能です。ARGはすべての合祖および組換え事象の完全な記録を提供し、ゲノムの各部位における完全な系図を明示します。重要なことに、深く分岐した系統からの遺伝子流動は、異常に負かい合祖事象などARGに独特な痕跡を残すと予測され、それは古代型参照ゲノムがない場合でさえ、遺伝子移入を検出するのに使用できます[42]。
本論文は、現代人のゲノムから構築されたARGの特徴の活用によって、現代人のゲノムにおける古代型祖先系統の痕跡を特定する手法である、TRACEを導入します。TRACEは、古代型参照ゲノムも混合していない外群人口集団も必要としません。本論文は広範な模擬実験を行ない、真のおよび推定されたARGを用いて、さまざまな人口統計学的状況下での信頼性を特徴づけます。本論文は次に、TRACEを世界規模の個体群の全ゲノム配列に適用し、現代人における古代型からの遺伝子流動の進化史および遺産を再構築します。
●TRACEはARGを用いて古代型からの遺伝子流動を特定します
TRACEはARGに符号化された系図情報の活用によって、古代型祖先系統を推定します。その中心的な着想は、古代型からの遺伝子移入はARG内の周縁部系統樹の配列において、長い枝と長いハプロタイプという2点の特徴的な痕跡を残すことです。第一に、長い枝が生じるのは、深く分岐した人口集団からの遺伝子移入が、遺伝子移入されていない系統よりもずっと古い時代に合祖する系統をもたらすからです。ARGでは、これは、古代型系統と現代型系統の分岐時期(T古代型)と混合事象の時期(T混合)の間にまたがる、深い合祖時間の枝として現れます(図1A)[42]。第二に、混合は分岐より新しいので、遺伝子移入された領域はILSから生じる領域より長いと予測され、それは、祖先系統領域を分断する組換えについて、混合以降の時間が短いからです。以下は本論文の図1です。
TRACEは古代型と現代型のヒトという二つの状態で、隠れマルコフモデルとして実装されています。入力として、TRACEは現在の個体群の位相化された全ゲノム配列から推定されたARGを使用します。各周縁系統樹と焦点のハプロタイプについて、(1)時間tにおける焦点の標本の祖先となる枝の長さと、(2)同じ時間枠内に位置する系統樹上の他の合祖事象の数が調べられました(図1B)。媒介変数tは「長い」枝の特定のための時間切断を定義しており、使用者によって明示され、遺伝子移入系統間の分岐時期の代理を表しています。TRACEの最適な性能は、tが真の分岐時期であるT古代型に近い場合に達成され、tがT古代型よりずっと古くなるならば、一部の真の兆候は、遺伝子移入された古代型系統がtの前に現生人類系統と合祖する場合に、見逃されるかもしれません。あるいは、tが新しすぎるならば、古代型の推定結果は他の近い過去の人口統計学的事象に敏感になるかもしれません。
TRACEを検証するために、アフリカ人と非アフリカ人とネアンデルタール人を含む3人口集団についてゲノム配列が模擬実験され、OOAボトルネック(瓶首効果)と非アフリカ人への約2%のネアンデルタール人からの遺伝子流動が組み込まれました。TRACEで適用され、非アフリカ人(対象は100個体)とアフリカ人(対象は100個体)について真のARGを用いて、非アフリカ人における古代型祖先系統が検出されました。推定への人口瓶首効果の影響を最小限にするために、人口集団間でARGが共同で構築されました。tがネアンデルタール人と現生人類の間の分岐時期に近い15000世代で適用し、ILSから遺伝子移入された断片を区別するために、0.05cM以上の長さの断片に焦点を当てると、TRACEは高い精度と高い回収率(それぞれ92%と71%)を示す、と分かりました。古代型祖先系統を有さない人口集団へのTRACEの適用によって示されるように、偽発見率はひじょうに低く(0.25%未満)なります(図1C)。hmmixやSprime[35]やIBDmix[33]といった刊行されている古代型推定手法と比較すると、TRACEは配列決定された古代型ゲノムもしくは混合していない外群を必要としません。模擬実験では、外群への少量の古代型の遺伝子流動でさえ、hmmixとSprimeなどの参照を必要としない手法を偏らせるかもしれないのに対して、TRACEは高度な感受性と特定性を維持する、と観察されました。IBDmixなど参照に基づく手法は亡霊祖先系統の推定に適用できず、模擬実験では0.1%未満の亡霊祖先系統しか回収できません。TRACEはさまざまな追加の人口統計学的モデルおよび媒介変数で堅牢な性能を示し、それに含まれるのは、ネアンデルタール人祖先系統のさまざまな割合(0.5~10%)、分岐時期(約9250~24300世代)、遺伝子移入の時期(725~5725世代)、対象の標本規模(10~20)、媒介変数tの誤指定です。
次に、最近刊行された2点の手法であるSINGERおよびRelate[42]を用いて推定されたARGに、TRACEが適用されました。真のARGでの性能と同様に、TRACEは推定されたARGを用いて、高い精度(約90%)と低いFDR(0.25%未満)に達しました(図1C・D)。しかし、真のARGと比較すると、推定されたARGでは回収率はかなり低くなります。OOAモデルについては、真のARGを用いての回収率約80%と比較して、TRACEの回収率は、Relateを用いての真の領域の10%未満で、SINGERを用いての約50%です。さらに、回収はより複雑な人口統計学的モデル下では減少しますが、SINGERはほとんどの人口統計学的状況下でRelate(約30%)より高い回収率を維持します。したがって、実証的データのその後の分析では、SINGERで推定されたARGにTRACEが適用されました。
●OOA移住の前の現生人類集団における亡霊混合の証拠
SINGERによって再構築されたARGを用いて、1000Gの位相化された全ゲノム配列503点が分析されました(古代型ゲノムは含まれません)。古代型からの遺伝子移入の兆候を特定するために、現生人類とネアンデルタール人との間の推定分岐時期[4]に近い、t=15000世代(もしくは1世代28年と仮定して42万年)でTRACEが適用されました。ILSの影響を最小限にするために、50kbpおよび0.05cMより長い古代型断片(模擬実験において、これは0.2%未満のFDRに相当します)が保持されました(図1)。次に、推定された古代型断片上の差異が高被覆度で配列決定された古代型ゲノム4点(ネアンデルタール人3個体[2、3、5]とデニソワ人1個体[1])と比較され、古代型祖先系統の供給源が特定されました。比較のため、IBDmix(アルタイ山脈のネアンデルタール人およびデニソワ人のゲノムを仕様)とhmmix(外群としてサハラ以南のアフリカ人426個体)も適用されました。
非アフリカ系人口集団ではTRACEは、ヨーロッパ人とアジア東部人とアジア南部人では1個体あたり0.8~1%のネアンデルタール人祖先系統を特定しました(図2A)。ヨーロッパ人において最小限の(0.03%)、アジア東部人およびアジア南部人においてより高水準(それぞれ0.10%)のデニソワ人祖先系統が回収され、刊行されている結果[35、52~55]と一致します。TRACEによって特定された90%以上のネアンデルタール人断片と70%以上のデニソワ人断片は、hmmixもしくはIBDmixによっても推定されました。アフリカ西部および東部の両方で、TRACEでは1個体あたり0.1%未満のネアンデルタール人とデニソワ人を組み合わせた祖先系統が検出されました。サハラ以南のアフリカ人で特定されたネアンデルタール人断片の約半分はIBDmixでも推定されました(hmmixが適用されなかったのは、サハラ以南のアフリカ人について信頼できる外群が存在しないからです)。推定されたARGでのより低い回収率のため、一部の先行研究[33、54、55]と比較して、TRACEのネアンデルタール人およびデニソワ人の合計祖先系統の回収が少なかったものの、回収された断片はhmmixおよびIBDmixによって特定された断片と比較して、明らかな偏りを示さなかったことに留意してください。それにも関わらず、TRACEは世界中の人口集団にわたってネアンデルタール人およびデニソワ人の主要な特徴を堅牢に再構築しています。以下は本論文の図2です。
ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統以外に、TRACEは研究対象のすべての現代人集団において、ネアンデルタール人およびデニソワ人とより遠く関連している古代型系統からの遺伝子移入である、「亡霊」古代型祖先系統を明らかにしました。人口集団全体で、平均して0.5~1.1%の亡霊祖先系統が検出されました。非アフリカ人で見られるほとんどの亡霊祖先系統断片はサハラ以南のアフリカ人と共有されていますが、アフリカの東西両方の人々は異なる亡霊断片の多様性がより大きく、これはOOA瓶首効果によって引き起こされた非アフリカ人における遺伝的多様性の減少と一致します(図2B)。亡霊断片は周縁系統樹で深い分岐を示し、配列決定されたネアンデルタール人およびデニソワ人両方のゲノムとほぼ同一の遺伝的類似製を示しており、そうした断片が、ネアンデルタール人およびデニソワ人の両古代型集団と等しく関連している、配列決定されていない系統に由来することを示唆しています。亡霊系統と現代人の断片間の平均合祖時間は遺伝子移入された断片から推定され、83万年前頃(95%CIで84万~83万年前頃)です。
いくつかの追加の一連の証拠は、現代人における亡霊祖先系統の本論文の結果を裏づけます。第一に亡霊祖先系統があるゲノム領域は異型接合性水準の上昇を示しており、これはネアンデルタール人およびデニソワ人の断片でも観察されるパターンと分かりました。異型接合性の上昇は深く分岐した系統からの遺伝子移入のモデルと一致しており[56]、とくに、亡霊祖先系統がARG推定の人為的産物ではないことを示唆しています。第二に、検証対象の全人口集団で、亡霊祖先系統断片はネアンデルタール人およびデニソワ人の断片より短く、これはネアンデルタール人からの遺伝子流動に先行するより古い遺伝子移入事象を反映しています。さらに模擬実験では、亡霊系統からの遺伝子移入のないモデルにおいて、TRACEはごくわずかな水準の亡霊祖先系統(0.07%、95%CIで0~0.3%)を推定しており、これは実証的データからの推定値より顕著に低い、と確証されました。対照的に、亡霊系統を含めて模擬実験で得られた結果は、実証的観察とよく一致しました。さらに、TRACEによって特定された古代型断片に存在する多様体について、SFSとcSFSが計算されました。ネアンデルタール人およびデニソワ人の断片が予測される「U字型」を示す[17]のに対して、亡霊断片は異なるSFSおよびcSFSパターンを示し、このパターンは模擬実験におけるOOA前の亡霊系統からの遺伝子移入のモデルと一致します。
まとめると、これらの調査結果から、50万年以上前に分岐した【遺伝学的に】未知の古代型人口集団は、OOA移住に先行するすべての現代人の共通祖先に遺伝子移入し、非アフリカ人およびアフリカ人における亡霊祖先系統の同様のパターンが生じた、と示唆されます。
●現代人における亡霊祖先系統の景観
現代人における亡霊祖先系統の遺産を調べるために、世界中の人口集団における亡霊祖先系統のゲノム規模分布が調査されました。TRACEによって特定された全人口集団(サハラ以南のアフリカ人および非アフリカ人)で特定されたすべての亡霊ハプロタイプにわたって、解析可能なゲノムの1548.75Mbpもしくは71.54%が回収されました(図3)。大まかには、亡霊祖先系統断片のゲノム規模パターンは、深く分岐した系統間の交雑から予測されるパターンと類似しています[57、58]。機能的要素の近くおよび低い組換え率の領域では亡霊祖先系統は減少し、これらの領域における連鎖選択のより強い影響を反映しています。これらのパターンは、ネアンデルタール人およびデニソワ人の遺伝子移入地図で見られるパターンや、非ヒト種間の交雑のパターンと類似しています。以下は本論文の図3です。
亡霊祖先系統の頻度が人口集団固有のゲノム規模平均の2標準偏差を超える領域として定義される、亡霊祖先系統の「頂点」も探索されました。すべての検証対象の人口集団で、亡霊祖先系統の1932ヶ所の頂点(平均長は61kbp、標準偏差は64kbp)が特定されました(図3)。この結果はネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統のより少ない数となるそれぞれ1155ヶ所と160ヶ所の頂点のとは対照的です(平均長はそれぞれ84.97kbpと76.54kbp)。亡霊祖先系統の頂点は非アフリカ人集団と比較してサハラ以南のアフリカ人集団で多く見られ、これは非アフリカ人におけるより低い遺伝的多様性と一致します。CSMD1やRBFOX1など、いくつかの遺伝子は亡霊祖先系統の高頻度頂点と交差しており、免疫および大赦複合体において全体的な機能濃縮があり、それには主要組織適合複合体やリポタンパク質複合体が含まれます。亡霊祖先系統の97ヶ所の砂漠(つまり、少なくとも10Mbpの長さで、亡霊祖先系統の頻度が0.1%未満)も特定されました。これらの砂漠は非アフリカ人集団のみで見られ、ほぼ半数(43.3%)はさまざまな非アフリカ人集団間で共有されており、OOA瓶首効果中に形成された可能性が高そうです。サハラ以南のアフリカ人において、亡霊祖先系統の砂漠は特定されません(ただ、これは適用された特定の頻度およびハプロタイプ長閾値に依存するかもしれません)。全体的に、ゲノム全体で亡霊祖先系統断片の分布における大きな不均一性が見つかります。
ネアンデルタール人およびデニソワ人の砂漠は、現生人類固有領域の候補とみなされることが多くあります[7、63]。二つの先行研究[7、53]によって特定された5ヶ所のネアンデルタール人およびデニソワ人共通の砂漠において、亡霊祖先系統が調べられました。2ヶ所の砂漠におけるネアンデルタール人およびデニソワ人両方の祖先系統の欠如は再現されたものの、いくつかの他の量的では無視できないネアンデルタール人もしくはデニソワ人祖先系統が見つかり、これは最近の研究[7、53、54、63、65]と一致します。それにも関わらず、5ヶ所の領域すべてで、より長く確実に推定される断片に限定した後でさえ、かなりの亡霊祖先系統(100kbp超)が含まれています(図3B)。たとえば、FOXP2遺伝子を含む7番染色体上の共通の古代型砂漠には、13.3%の頻度で亡霊祖先系統の頂点があり(図3B)、3番染色体上のネアンデルタール人砂漠には、CSNK2A2IPと重複する約20%の亡霊頂点が含まれます。本論文の調査結果から、亡霊祖先系統は以前に定義された古代型砂漠に存在することが多い、と示唆され、推定される現生人類固有の進化的変化に追加の背景を提供します。
●オセアニア人における超古代型祖先系統の検出
ネアンデルタール人とデニソワ人と現代人の間のアレル(対立遺伝子)共有のパターンを調べた先行研究は、デニソワ人が超古代型人口集団に由来する祖先系統を有しているかもしれない、と示唆してきました[1、2、32]。現代人のうち、汚染とアジア南東部人は最高の割合のデニソワ人祖先系統を継承しています[52]。したがって、本論文では、超古代型祖先系統の一部はデニソワ人からの遺伝子流動によって継承され、現在のオセアニア人においてデニソワ人から遺伝子移入された断片内に存続しているかもしれない、と推論されました。これを検証するために、パプアニューギニアの25個体[65]とバヌアツおよびサンタクルーズ諸島の67個体[52]を含めて、オセアニアの個体群の92点の高被覆度の全ゲノム配列が分析されました。SINGERを用いて、1000Gヨルバ人個体群とともにARGが再構築され、tを15000世代としてTRACEが適用され、古代型祖先系統が検出されました。
オセアニア人個体群では、TRACEは平均で0.73%のネアンデルタール人祖先系統と0.66%のデニソワ人祖先系統と0.33%の亡霊祖先系統を推定しており(図4A)、先行研究[52]および他の1000G非アフリカ人の推定値より低くなっています(図2A)。ネアンデルタール人とデニソワ人は相互と、現生人類との合祖前に合祖している(tは13600~16900)ので、長い枝の多くは時間切断としてtを15000世として用いた場合には検出されません。より高い古代型からの遺伝子移入の割合はこの影響をさらに悪化させ、それは、合祖事象のより大きな割合が古代型系統間で起きるからです。オセアニア人の人口統計学的歴史を模倣した模擬試験は、この過小評価を再現しました。より低い回収率にも関わらず、TRACEによって検出されたネアンデルタール人およびデニソワ人断片の90%以上は、hmmixおよびIBDmixと重なっています。TRACEで検出された古代型断片は、一貫した古代型の類似性パターンおよび1000GとのSFS/cSFSを示しました。さらに、オセアニア人における亡霊断片は1000G人口集団で検出された断片と重複しており、これは現代人における共通の起源と一致します。以下は本論文の図4です。
超古代型からの遺伝子移入を特定するために、tを31500世代(超古代型系統と現代人との間の推定分岐時期[32])として、デニソワ人から遺伝子移入された断片内の「超深部」合祖事象が検索され、ILSから区別するために少なくとも10kbpおよび0.01cMが必要とされ、比較のため同じ分析がネアンデルタール人から遺伝子移入された断片に適用されました。ネアンデルタール人断片においてよりも、デニソワ人断片で超深部系統の割合が有意に高い、と分かりました(図4)。模擬実験では、このパターンは超古代型からの遺伝子移入がないモデルと一致しないものの、デニソワ人への超古代型からの遺伝子移入を含むモデルでは再現される、と示されます(図4C)。さらに、遺伝子移入されたデニソワ人断片における超古代型断片は、独特な遺伝的特徴を示しており、この特徴は、超古代型断片を背景のデニソワ人祖先系統と区別し、それに含まれるのは、現生人類とのずっと深い合祖時間、ネアンデルタール人の深い系統の平均ILS長より長いゲノム長、ネアンデルタール人およびデニソワ人両方の参照ゲノムとの低い類似性です(配列決定されたデニソワ人の同じ遺伝子座に超古代型祖先系統がないことを仮定しています)。これらの特徴を用いて、模擬実験では70.2%の精度で超古代型断片(95%CIで66.4~74.1%)が検出されました。
オセアニア人のゲノムに適用すると、デニソワ人祖先系統領域内に組み込まれた超古代型断片の範囲は20~83kbpの間で(平均37.6kbp)、オセアニア人における検出されたデニソワ人祖先系統の合計の約0.3%に寄与している、と推定されます。この推定値は超古代型祖先系統の真の割合におけるひじょうに慎重な下限値を構成しており、それは、本論文の分析がデニソワ人から遺伝子移入された領域に限られており、少なくとも20kbpの断片を必要として、配列決定されたデニソワ人が超古代型祖先系統有する遺伝子座は除外されているからです。超古代型断片は現代人と(サハラ以南のアフリカ人)とアルタイ山脈のデニソワ人の両方からりより高度なヌクレオチド分岐を示している(他のデニソワ人から遺伝子移入された領域と比較して)、と確証され、この兆候がARG推定の人為的産物ではないことを示唆しています。SINGERから得られた周縁系統樹を用いると、超古代型系統と現代人系統との間の合祖時期は177万年前頃(95%CIで183万~169万年前頃)と推定され、これは以前の報告[2、32]と一致します。
共通の遺伝子注釈付けおよび機能的濃縮のパターンの特徴づけによって、オセアニア人のゲノムから回収された超古代型断片の機能的影響の可能性が評価されました(図4B)。いくつかの遺伝的領域には、MHC内のRNF39やPPP1R11やPOLR1HおよびCYP24A1など超古代型断片が高い割合で存在し、CYP24A1は、シトクロームP450族の一部で、ヒトにおいてビタミンD分解の重要な調節因子です[30、66]。遺伝子概念体系分析は、複数の仮説の検証後に、MHCや細胞骨格活性関連を含むいくつかの経路で、かなりの濃縮を明らかにします。
●考察
本論文は、現代人のゲノムのみで推定されたARGから古代型からの遺伝子移入を検出するための枠組みである、TRACEを導入します。TRACEの参照および外群を用いない設計にわって、亡霊系統および超古代型からの遺伝子移入を含めて、既存の手法では解決困難な遺伝子移入の歴史の再構築が可能となります。あらゆるARGに基づく手法と同様に、TRACEの性能は根底にあるARG推定の精度と規模設定性に依拠しており、検証済の真の系図と比較して、推定ARGを用いると、回収率が減少します。ARG再構築手法の発展に伴って、TRACEの信頼性と解像度は改善され、直接的なゲノム参照がないヒトや他種の進化史の事象を解明するでしょう。
TRACEを現代人のデータに適用すると、既知のネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統が回収され、ヒトの歴史のさまざまな時点において以前には特徴づけられいていなかった古代型祖先系統の痕跡が特定されます。すべての現在の人口集団に祖先系統をもたらした、OOAに先行する少なくとも1回の亡霊系統からの遺伝子移入の証拠が見つかりました。この調査結果は、先行研究[17]のような個別の遺伝子移入と最も一致しますが、その事象がアフリカ西部人に局在するのではなく、すべての現代人集団に影響を及ぼした、と示すことによって、そのモデルを拡張します。本論文の推定された亡霊系統がネアンデルタール人と現生人類の分岐時期の頃に分岐したことを考えると、この亡霊系統は、提案された深い構造の状況よりも新しい事象を表しており、その深い構造に関わる人口集団の分岐(150万年以上前)の後で、30万年前頃の単一の再合同事象[23]もしくは複数の「合同」事象が続きました。最後に、オセアニア人におけるデニソワ人祖先系統内に組み込まれた深く分岐した系統が推定され、これは、超古代型人類から現生人類への追加の間接的寄与と一致します。これらの結果は、直接的および他の古代型集団による媒介の両方の遺伝子移入の複数層を示しており、現代人のゲノムを形成しました。
これらの遺伝子移入事象の時期および人口統計学的背景以外に、その供給源の人類は依然として未解決の問題です。考古学的記録は、不明な量の、あるとしても潜在的な現生人類への寄与を伴う、多くの古代型形態を報告しています[30、66]。亡霊系統はネアンデルタール人と同じ時期に【現代人系統と】分岐しており、OOA拡散の前に現代人の祖先と直接的に混合した、中期更新世ホモ属集団[70]もしくはアフリカのホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)集団に相当するかもしれません。超古代型系統については、180万年前頃の分岐時期と一致する潜在的候補の一つは、先行研究[2、32]によって示唆されているように、ホモ・エレクトス(Homo erectus)です。
TRACEも、現代人における古代型祖先系統のゲノム遺産の存続を明らかにしています。亡霊祖先系統と超古代型系統祖先系統は両方とも機能的領域で顕著に濃縮しており、ヒトの適応における役割が浮き彫りになっています。さらに、亡霊祖先系統はネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入事象の砂漠として以前に特定されたゲノム領域内で存続しています。これらの砂漠は、現生人類固有の差異への正の選択の結果もしくは古代型から遺伝子移入されたアレルに対する強い浄化選択として、古代型からの遺伝子移入への不耐性の領域として解釈されることが多くありました[57、58]。むしろ、これらの領域における深く分岐した亡霊祖先系統の存続は、現生人類の差異への正の選択ではなく、ネアンデルタール人およびデニソワ人からの遺伝子移入に対する系統固有の選択を示唆しています。このパターンから、分岐時期のみとではなく、ネアンデルタール人およびデニソワ人系統と関連する、遺伝的負荷もしくは上位不適合性における差異が、ネアンデルタール人およびデニソワ人祖先系統の砂漠を形成した、と示唆されます。
いくつかの未解決の問題が残っています。第一に、推定された亡霊系統からの遺伝子移入の回数と時期と地理的位置は依然として不明です。本論文の結果は、すべての現代人集団に影響を及ぼした、少なくとも1回のOOAに先行する遺伝子移入事象を裏づけますが、構造化されたアフリカの人口集団間の遺伝子移入のさらなる事象が起きたかもしれないものの、現在のデータでは依然として解決が困難です。第二に、超古代型系統の起源と地理的範囲は依然として不明で、それには、この祖先系統がデニソワ人経由のみで現生人類に入ったのか、あるいは現代人の祖先との直接的混合もあったのかどうか、と言う問題も含まれます。新たなデニソワ人の参照ゲノムを含めて将来の研究が、これら超古代型配列の時期と起源をさらに特定するのに役立つかもしれない、と期待されます。最後に、ゲノムにおける亡霊祖先系統の分布に影響を及ぼす選択の痕跡が検出されましたが、免疫や代謝における役割を含めて、遺伝子移入された古代型領域の機能的影響は、依然として完全には特徴づけられていません。とくにアフリカとアジアの深い時間規模での追加の古代ゲノムを統合した将来の研究が、これらの遺伝子移入事象の時期と供給源と進化的結果の精緻化には重要となるでしょう。史料および手法は補足資料で利用可能です。
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