現代中国人のゲノムデータ

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、現代中国人のゲノムデータを報告した研究(Wang et al., 2026)が公表されました。汎ゲノムは、複雑な多様性があるゲノム領域を解明する能力に、革命をもたらしています。しかし、既存のヒト版ゲノムには標本規模の小ささという制約があり、遺伝医学や集団遺伝学の応用では有用性が限られています。本論文は、1000人の中国人汎ゲノム(1000 Chinese Pangenome、略して1KCP)計画の一環として、平均サイズが29億8千万塩基対、平均品質値(quality value、略してQV)が46である、1116点の二倍体ゲノムアセンブリを作成し、そのうち55点が新規変異アセンブリ、1061点がPIGA(pangenome-informed genome assembly、汎ゲノム情報ゲノムアセンブリ)です。

 本論文は、これらのアセンブリを基盤として、現在の参照ゲノムGRCh38およびCHM13には存在しない4億530万塩基対の配列(機能的遺伝子エレメントおよび予測される調節エレメントを2620万塩基対含みます)から構成されるなるパンゲノムを構築しました。我々は、3540万の小さな多様体、110530ヶ所の構造多様体(structural variant、略してSV)、485575ヶ所の縦列反復配列(tandem repeat、略してTR)、非参照塩基配列に埋め込まれた86万ヶ所の入れ子型多様体を含む、遺伝的多様性の全範囲の目録を作成しました。

 この広範なデータセットによってり、遺伝子を変化させるSVやTRの伸長、遺伝子クラスタ(まとまれ)の多様性、HLA(Human Leukocyte Antigen、ヒト白血球型抗原)遺伝子ハプロタイプなど、遺伝医学に関係する複数規模での遺伝子多様性の特徴を詳細に明らかにすることができました。また本論文は、1KCPの遺伝子発現データと組み合わせて、汎多様体のeQTL(expression quantitative trait loci、発現量的形質座位)のマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)を実行し、さまざまな多様体の種類を解析しました。

 その結果、複雑な多様体(SV、TR、入れ子型多様体)が関与する3256のeQTLが特定され、それらの調節の複雑性が明らかになった。さらに本論文は、1KCPの汎多様体の補完参照パネルを開発しました。これは、今後の関連研究の分解能を高めるための、複数種類の遺伝的標識を提供します。この情報資源は、複雑な多様体とそれらの機能的意義についての理解を深め、ヒトの健康について新たな洞察をもたらします。中国における人類進化史の基礎的情報源になる点でも、本論文は注目されます。


参考文献:
Wang Y. et al.(2026): The 1000 Chinese Pangenome empowers medical and population genetics. Nature, 654, 8117, 121–130.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10315-y

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