バチョキロ洞窟の新たな現生人類遺骸

 今月(2026年9月)17~19日にかけてスペインのブルゴスで開かれたヒト進化研究ヨーロッパ協会第16回総会で、ブルガリアのバチョキロ洞窟(Bacho Kiro Cave)で発見された新たな現生人類(Homo sapiens)遺骸に関する研究(Schuh et al., 2026)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P248)。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。

 バチョキロ洞窟は、ユーラシア西部への初期現生人類の最初期の拡散、およびUP(Upper Paleolithic、上部旧石器時代)の最初期段階における現生人類と最後のネアンデルタール人との相互作用に関する理解にとって、重要な遺跡として注目されてきました[1]。この期間のヒト遺骸の少なさのため、最初のユーラシア西部人の形態学的および遺伝学的差異はよく分かっていません。バチョキロ洞窟における最近の発掘調査では新たなヒト遺骸が得られ、それにはほぼ完全な左側上顎と数点の遊離した歯が含まれており、そのうち一部はIUP(Initial Upper Paleolithic、初期上部旧石器)遺物群と確実に関連づけられている層位から出土しました。以前に回収されたミトコンドリアおよび核の遺伝的データ[2]やこの研究で提示される新たな古遺伝学的データ(2点)から、少なくとも6個体を特定でき、その内訳は男性5個体と女性1個体です。この研究は、さまざまな年齢層によって表されるこれらの個体の解剖学的現分析を、以前に刊行された年代と一致する新たな放射性炭素年代測定とともに提示し、これらの遺物群は確実にIUP内に位置づけられます。

 上顎と歯の幾何学的形態計測分析は一貫して、6個体すべてを現代人の範囲内に位置づけ、形態学的記述は特徴的なネアンデルタール人形質の欠如を示唆しています。上顎と歯の大きさは現代人の分布の上限に近い傾向があり、成人と亜成人の両方で大きな個体が示唆されますが、顔面の比率の大きな減少は、中部旧石器時代の現生人類と比較して、本論文のデータセットのすべての初期UP個体ですでに特定できます。この期間では稀と考えられている1点の歯の形質(大臼歯のエナメル質伸長)が特定され、これは現在のアジア東部人およびアメリカ大陸先住民においてより高頻度で存在します。

 単一の考古学的人口集団に帰属するにも関わらず、遺伝学的証拠は、分析された個体間の最大6親等までの密接な親族関係の欠如を示しています。核DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)分析は、これらバチョキロ洞窟のIUP個体群が、その後のヨーロッパ集団とよりも、アジア東部およびアメリカ大陸の古代と現在両方の人口集団の方と密接な類似性を有している、と論証しており、バチョキロ洞窟IUP個体群がヨーロッパにおける連続性が限定的な初期人口集団の拡散を表している、との見解が強固になります。

 バチョキロ洞窟のすべてのIUP個体は少なくとも2回のネアンデルタール人からの遺伝子移入の証拠を示しており、2回目の波はこれらの個体が生きていた10~15世代前未満のことでした。遺伝子型と表現型の関係を調べるために、現代人と比較して有意により高い水準の遺伝子移入を示す、これらの個体におけるネアンデルタール人からの遺伝子移入のパターンが調べられました。まず、1000人ゲノム計画の比較現代人データセットにおけるこれらの断片の分布が、とくに頭蓋顔面発達と関わる遺伝子に焦点を当てて、調べられました。順列検定を用いた予備的な分析では、遺伝子のこの部分集合全体でのネアンデルタール人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)の枯渇は示唆されず、体系的な負の選択がなかったことを示唆しています。

 まとめると、これらの結果はヨーロッパ西部における最初期現生人類の形態学的および遺伝学的多様性を浮き彫りにしていますが、古代型の遺伝子移入の発達の影響について新たな問題を提起しています。


参考文献:
Schuh A. et al.(2026): New fossil remains from Bacho Kiro Cave, Bulgaria: morphological and genetic insights into early Homo sapiens variation. The 16th Annual ESHE Meeting.

[1]Hublin JJ. et al.(2020): Initial Upper Palaeolithic Homo sapiens from Bacho Kiro Cave, Bulgaria. Nature, 581, 7808, 299–302.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-2259-z
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[2]Hajdinjak M. et al.(2021): Initial Upper Palaeolithic humans in Europe had recent Neanderthal ancestry. Nature, 592, 7853, 253–257.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03335-3
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