ホモ・フロレシエンシスの足と歩行運動

 ホモ・フロレシエンシス(Homo floresiensis)の足の形態と歩行運動について、今年(2026年)3月18日~21日にかけてアメリカ合衆国コロラド州デンバーで開催された第95回アメリカ生物学会(旧称はアメリカ自然人類学会)総会で報告されました(Tsegai et al., 2026)。この報告の要約はPDFファイルで読めます(P192)。ホモ・フロレシエンシスはインドネシアのフローレス島の考古学的洞窟遺跡であるリアン・ブア(Liang Bua、略してLB)で発見された、中期~後期更新世の小柄なホモ属です。ホモ・フロレシエンシスの起源というか、人類進化系統樹における位置づけについては、まだ広範な合意はないようで、議論になっています(関連記事)。

 この研究は、ホモ・フロレシエンシスの足の形態を、現生人類(Homo sapiens)やチンパンジー属種(Pan spp.)やゴリラ属種(Gorilla spp.)やオランウータン属種(Pongo spp.)と比較し、その混在的性格である形態的特徴が改めて示されているように思います。ただ、現生人類と比較してのホモ・フロレシエンシスの特異な形態は、ホモ・フロレシエンシスが現生人類と大きく異なる系統、たとえば現生人類の直接的な祖先と思われる(広義の)ホモ・エレクトス(Homo erectus)の出現前に、現生人類につながる系統から分岐した祖先集団に由来するのではなく、ともにホモ・エレクトスを共通の祖先集団とするものの、島嶼化によって現生人類と大きく異なる形態へと進化した可能性もあるように思います。以下、この研究の要約です。

 小柄で島に居住していたホモ・フロレシエンシスの頭蓋後方(首から下)の形態学的特徴は、最近のヒトと比較した場合、歩行運動における違いを示唆しています。骨格の内部構造は生涯の力学的負荷に応じて再構築されるので、行動の兆候を保持しており、化石人類について重要な解剖学的情報を提供できるかもしれません。本研究では、ホモ・フロレシエンシスの完模式標本(LB1)の足のいくつかの要素の内部海綿骨構造が評価されます。

 LB1の距骨と舟状骨と第五中足骨における相対的骨量率の分布を定量化するために、骨全体の海綿骨分析が適用され、最近の現生人類やチンパンジー属種やゴリラ属種やオランウータン属種の比較標本と比較されました。現生人類よりも背屈および内反の度合いが強い足首の姿勢を示唆する、LB1の距骨滑車における海綿骨パターンが見つかりました。距骨頭および距骨脛の海綿骨パターンはヒトとの他の大型類人猿との中間ですが、舟状骨の近位関節面はひじょうに類人猿的で、比較的高い移動性の中足部が示唆されます。第五中足骨頭は、より中立的な位置での中足指節関節の負荷を示唆しており、骨頭の背側隆起にも関わらず、蹴り出し時の背屈の程度はヒトより小さくなっています。

 まとめると、最近のヒトと比較してLB1では、足首と中足部と中足指節関節の負荷の位置や可動性の違いの指標が見つかります。これは、モザイク状の外部形態に加えて、ホモ・フロレシエンシスにおける木登りおよび/もしくは運動学的に異なる二足歩行を示唆しています。


参考文献:
Tsegai Z. et al.(2026): Models for Population History of the Tibetan Plateau: Toward an Integration of Archaeology and Genetics. The 95th Annual Meeting of the AABA.
https://doi.org/10.1002/ajpa.70227

この記事へのコメント