岩明均『剣の舞』(講談社)

 当ブログを始める前に読んでおり、まだ当ブログで取り上げておらず、最近再読した本や漫画も今後当ブログに掲載していくことにしましたが、本作もその一環です。私が所有しているのは講談社漫画文庫版で、2004年10月に刊行されました。本作の親本『雪の峠・剣の舞』は講談社より2001年3月に刊行され、本作は『ヤングチャンピオン』2001年8号~12号に連載されていました。本作を古書店で購入したのは、2005年末~2006年春の間だった、と記憶しています。その頃、『ヒストリエ』を知り、作者の他の作品にも興味を抱いたのが、本作を読む契機になった、と記憶しています。『雪の峠』については、以前当ブログで取り上げました(関連記事)。

 本作の舞台は武田家と長野家が争っている戦国時代の上州で、主人公は疋田文五郎(景兼)とハルナという村人の女性です。検索したところ、疋田文五郎を主人公とした小説もあるようですし、疋田文五郎の師の上泉伊勢守(秀綱、信綱)は有名で、主人公とした小説も割とあるようですが、本作の舞台も現代日本社会ではさほど人気がないように思います。考えてみると、作者の代表作の一つと言ってもよい『ヒストリエ』にしても、アレクサンドロス大王はさすがに有名でも、現代日本社会では知名度が低かったと思われるエウメネスが主人公で、そうした題材を面白く描けるところが、著者の並々ならぬ力量と言うべきでしょうか。

 本作は、恐らく創作の人物と思われる村人のハルナが登場し、戦国時代の一側面を描いているところも、上手い構成というか、私の好みです。ハルナの村は、武田と長野が戦う中で軍勢の略奪に遭い、ハルナは強姦され、ハルナの家族は殺害されてしまいます。戦国時代にこうした事例は珍しくなかったでしょうし、英雄の「勇敢な戦い」や「知略」や「忠義」といった物語に耽溺し、大河ドラマでは戦国時代の「勇壮な合戦」を描くよう、要求する日本人もそれなりにいるかもしれませんが、やはり戦争は悲惨なものだと強く意識することは必要だと思います。その意味で、偏りはあったとしても、第二次世界大戦後の日本の「平和教育」の意義を全面的に否定することはできない、と私は考えています。

 本作は表題にあるように、剣を中心に話が展開していき、家族を殺されたハルナが、復讐のために疋田文五郎に剣術を習おうとします。ハルナのように、家族を殺された女性は当時珍しくなかったでしょうが、さすがに復讐のために剣術を学ぼうとする女性はほとんどいなかったかもしれません。しかし、本作はハルナと疋田文五郎のやり取りを面白く魅力的に描いており、やはり歴史を舞台とした創作でまず優先されるのは、「史実」に忠実であることよりも面白さだと思ったものです。本作の結末は憂鬱ですが、そうした物語も悪くはないと思います。ただ、そうした物語のみを読みたいわけではありませんが。最後に柳生新左衛門(宗厳、石舟斎)も登場し、疋田文五郎と立ち会って敗れたことも描かれ、この逸話は恐らく、多くの創作でも描かれていると思います。

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