朝鮮半島の古代のイヌのゲノム
取り上げるのが遅れてしまいましたが、朝鮮半島の古代のイヌのゲノムデータを報告した研究(Kim et al., 2026)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、韓国で発見された紀元前3世紀~紀元後6世紀のイヌの、被覆度(coverage、網羅率)が0.3~0.73倍のゲノムデータを報告しています。これら韓国で発見された古代のイヌは、ユーラシア東部系統内の独自系統を表しているとともに、紀元前3世紀頃までにユーラシア西部のイヌ集団的な遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)が朝鮮半島まで流入していたことを示しています。このユーラシア西部的祖先系統の割合は、4~6世紀の韓国で発見されたイヌではさらに高くなっており、追加の遺伝的混合があったことも示唆されます。
以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)、PCA(principal component analysis、主成分分析)、PC1(first principal component、第一主成分)、PC2(second principal component、第一主成分)です。本論文で取り上げられる主要なイヌ科動物は、イヌ(Canis lupus familiaris)、ハイイロオオカミ(Canis lupus)、NGSD(New Guinea singing dog、ニューギニア・シンギング・ドッグ)です。本論文で取り上げられる主要なイヌの品種は、トンギョイ(Donggyeongi、東京)、珍島(Jindo)、サプサル(Sapsal)です。本論文で取り上げられる主要な地域と遺跡は、韓国の泗川(Sacheon)市の勒島(Neuk-do)と金海(Gimhae)市の鳳凰洞(Bonghwang-dong)です。
●要約
イヌは、ユーラシア東部とユーラシア西部とそりイヌ系統の主要な3亜系統から構成される単系統群を形成します。古代ゲノム研究はユーラシア西部系統とそりイヌ系統内の関係を明らかにしてきましたが、ユーラシア東部系統の内部構造は依然として不明です。ディンゴとNGSDはユーラシア東部系統の混合が最小の系統とみなされていますが、ユーラシア東部の唯一の代表系統だったのかどうかは、不確実です。この研究では、泗川市の勒島で発掘され3匹のイヌ(紀元前3世紀~紀元後1世紀)と、金海市の鳳凰洞遺跡(紀元後4~6世紀)で発掘された1匹のイヌから古代ゲノムが配列決定されました。勒島のイヌのゲノム被覆度(coverage、網羅率)は0.5倍と0.73倍と0.64倍で、鳳凰洞のイヌの被覆度は0.3倍でした。イヌとオオカミの系統発生分析と外群f₃統計とPCAから、古代韓国のイヌはディンゴおよびNGSDと密接に関連していた、と示されました。しかし、イヌのみのPCAでは、古代韓国のイヌはディンゴ/NGSDと区別され、ユーラシア東部内の独特な系統が示唆されます。勒島のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の検出から、混合は紀元前3世紀以前に始まっていた、と論証されます。鳳凰洞のイヌにおけるより高い割合のユーラシア西部祖先系統から、追加の混合が紀元後4世紀~紀元後6世紀までに起きた、と示唆されます。これらの調査結果から、古代韓国のイヌは紀元前千年紀後半までにユーラシア西部からの遺伝子流動をすでに経ていた、独自のユーラシア東部系統を表している、と明らかになり、ユーラシア東部におけるイヌの進化史に新たな知見を提供します。
●研究史
イヌは最初に家畜化された動物の一つと考えられています。イヌ家畜化の起源は古代にまでさかのぼり、その推定値から、イヌ系統はオオカミ系統と4万~2万年前頃に分岐した、と示唆されています[2]。全ゲノム解析では、イヌは単系統群を形成する、と明らかになりました[5、6]。さらに、この単系統群(クレード)はアジア東部のオオカミの内部系統から分岐しており、イヌはアジア東部起源だった可能性が高い、と示唆されています[6]。
イヌの単系統群は主要な3亜系統に分かれました。これらのうち2系統は、ユーラシアの東部系統と西部系統です[2、5、6、9]。第三の系統であるそりイヌは、北極圏のそりイヌとヨーロッパ人との接触前のアメリカ大陸のイヌから構成され、シベリアのイヌやグリーンランドのそりイヌが含まれています[5、9、11、12]。イヌの古代ゲノムが報告されてきました[2、5、11、14、15]。これら古代の個体のほとんどはユーラシア西部系統もしくはそりイヌ系統に属しています[2、5、11、14]。したがって、これら2系統の各内部の関係のいくつかの側面が特徴づけられてきました。ユーラシアの東西のイヌ間の混合が報告されてきましたが、ユーラシア東部系統内の関係は依然として解明されていません。ユーラシア東部系統では、ディンゴとNGSDが他のイヌ系統との最小限の混合を示しています[6]。したがって、ディンゴとNGSDは初期のユーラシア東部イヌの祖先のゲノム特性を保持してきた、とみなされています。しかし、ユーラシア東部系統内の関係や、これらの系統がユーラシア東部からオセアニアにへとどのように拡大して進化したのか、示すのに利用可能なゲノム情報はほとんどありません。
2回の主要なオオカミからの遺伝子移入事象が、イヌの進化史で特定されてきました。最初の事象は、古代のイヌのゲノムによって論証されたように、現代のユーラシア南西部の個体群と関連するオオカミから初期の近東およびアフリカのイヌへの遺伝子流動に関わっていました[17]。2回目の事象は、ユーラシア東部のイヌへのニホンオオカミの祖先系統からの遺伝子移入に関わっていました[6]。しかし、古代のユーラシア東部のイヌが他の地域的なオオカミ系統からの遺伝子流動を経たのかどうかは、依然として不明です。
韓国では、イヌ遺骸が新石器時代にさかのぼる考古学的遺跡から発掘されてきました。注目すべき遺跡の一つが勒島で、朝鮮半島の南岸沖の小さな島に位置しています(図1)。勒島遺跡は紀元前3世紀頃までさかのぼり、紀元後初期にまでまたがります。勒島では、多くのイヌ遺骸が発掘されてきました。もう一方の遺跡は金海市の鳳凰洞で、年代は紀元後4~6世紀です(図1)。イヌの骨が鳳凰洞遺跡でも発掘されました。これらの遺跡で見つかったイヌは形態学的には小型~中型の個体と特定されましたが、他のイヌとの遺伝的関係は依然として不明です。以下は本論文の図1です。
この研究では、泗川市の勒島遺跡と金海市の鳳凰洞遺跡から発掘された4点のイヌ標本から、古代ゲノムが配列決定されました。これら古代韓国のイヌを古代のイヌおよびオオカミの刊行されている利用可能なゲノムと比較することによって、古代韓国のイヌと他のイヌ科系統との間の遺伝的関係が解明されました。
●DNA抽出および配列決定
勒島遺跡から発掘された3点のイヌ標本(紀元前3世紀~紀元後初期)と鳳凰洞遺跡から発掘された1点のイヌ標本(紀元後4~6世紀)から、DNAが抽出されました(図1)。DNA抽出は、歯根のセメント室の溶解によって、最小限の破壊手法を用いて実行されました。抽出されたDNAは、イルミナ社のiSeq100プラットフォームを用いて配列決定され、各標本で数千万塩基対のデータが生成されました。これらの配列がイヌ参照ゲノム(CanFam3.1)にマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)されると、抽出物における内在性のイヌDNAの割合は以下の通りで、勒島1号は1.3%、勒島8号は1.8%、勒島20号は1.5%、鳳凰洞遺跡標本(GB)は0.8%でした。DNA損傷パターンが評価され、4個体すべての読み取りが古代DNA損傷を示しました。
DNA抽出物からウラシル残基が除去され、さらにライブラリが構築され、イルミナ社のNovaSeq Xプラットフォームを用いてそれらが配列決定されました。イヌ参照ゲノム(CanFam3.1)へと読み取りがマッピングされました。各標本の平均ゲノム被覆度は以下の通りで、勒島1号が0.5倍、勒島8号が0.64倍、勒島20号が0.64倍、GBが0.3倍です。古代韓国のイヌのゲノムが、外群の標本6点、北アメリカ大陸と韓国の2点を含めてユーラシアのオオカミ36点、古代のイヌ30点と現代のイヌ82点を含めて、154個体を含む公開されているデータベース[2、11、12、14、23]とともに分析されました。古代と現代の韓国のイヌ間の関係を調べるために、本論文のデータセットには、韓国のトンギョイと珍島とサプサルやオオカミのゲノムが含まれました。古代韓国のイヌのデータの低被覆度のため、分析には疑似半数体データセットが使用されました。
●古代韓国のイヌと他のイヌ科との遺伝的関係
古代韓国のイヌと他のイヌとオオカミとの間の遺伝的関係を調べるために、まず系統樹が構築されました。古代韓国のイヌにおける重複するSNP部位の数が限られているため(部位の数はPCAとAdmixtoolsのデータセットでは423ヶ所)、古代韓国のイヌの各個体について、4通りの別々の系統樹が構築されました。その結果、古代韓国のイヌはすべてユーラシア東部系統に属し、ディンゴ/NGSDとともに単系統群を形成した、と示唆されました(図2)。さらに、これら古代のイヌは秋田犬や紀州犬などの日本犬と密接な遺伝的関係を示しました(図2)。以下は本論文の図2です。
古代韓国のイヌと他のイヌ個体群との間の遺伝的関係が、PCAを用いて調べられました。古代韓国のイヌと他の現代および古代のイヌとオオカミに基づくPCAでは、PC1はイヌをオオカミから分離しました(図3a)。一方で、PC2はユーラシア東部から西部のイヌ個体群の勾配を形成しました(図3a)。古代韓国のイヌはディンゴ/NGSDとボルネオ島やベトナムや日本のイヌの間でまとまっていします(図3a)。以下は本論文の図3です。
外群f₃統計では、古代韓国のイヌ4個体が単一の個体群として用いられ、古代韓国のイヌと他の古代のイヌとの間で共有されるSNP部位の数が増やされました。外群f₃統計では、ディンゴと古代オーストラリアのイヌとNGSDが古代韓国のイヌと最高の遺伝的類似性を示し、それに続くのがボルネオ島のイヌとベトナムの村落のイヌ(アジア南東部のイヌ)である、と明らかになりました(図4a)。古代韓国のイヌは、ユーラシア西部の現代(図4a)および古代のイヌ(図4b)やそりイヌ系統とは低い遺伝的類似性を示しました。以下は本論文の図4です。
イヌとオオカミ両方の標本を用いた系統樹と外群f₃統計とPCAから、古代韓国のイヌはディンゴおよびNGSDと密接に関連している、と示唆されます(図2および図3および図4a)。ユーラシア東部のイヌ間の関係をさらに調べるために、とくにイヌ標本のみを用いてPCAが実行されました(図3b)。イヌに焦点を当てたこのPCAでは、PC1がユーラシアの東西のイヌ系統を分離した一方で、PC2はユーラシア東部内の南北の個体群を区別しました(図3b)。ディンゴとNGSDは、古代韓国のイヌおよびベトナムの村落のイヌやボルネオ島のイヌなどアジア南東部のイヌから遠いクラスタ(まとまり)を形成しました。対照的に、古代韓国のイヌのクラスタはPCAの上部に位置しました。これらの調査結果から、古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDは異なる系統である可能性が高い、と示唆されます。
●古代韓国のイヌと他のイヌ科との間の遺伝子流動
イヌとオオカミとの間の遺伝子流動が、先行研究で報告されてきました[6、11、17]。しかし、古代アジア東部のイヌとオオカミとの間の遺伝子流動は、調査されてきませんでした。古代韓国のイヌとオオカミとの間の遺伝子流動の関係を調べるために、f₄統計を用いて分析されました。f₄統計の結果から、古代韓国のイヌはニホンオオカミと最も強い遺伝子流動を示し、それに続くのが、韓国および中国のアジア東部オオカミからの検出可能な遺伝子流動である、と明らかになりました。これらの調査結果は、ニホンオオカミとユーラシア東部のイヌとの間の遺伝子流動に関する先行研究と一致します[6]。これらの結果から、古代韓国のイヌはアジア東部のオオカミとの遺伝子流動を経た、と示唆されます。古代韓国のイヌとユーラシア東部のイヌとの間の遺伝子流動は、具体的には韓国のオオカミと起きたのではなく、一部のアジア東部のオオカミ個体群と起きました。
先行研究では、ユーラシア東部のイヌのゲノムにはニホンオオカミの遺伝的祖先系統が含まれる、と示唆されました[6]。古代韓国のイヌにおけるこの祖先系統を評価するために、f₄比統計を用いて、ニホンオオカミ祖先系統の割合が推定されました。その結果、古代韓国のイヌには7.5~9.7%のニホンオオカミ祖先系統があり、これはニホンオオカミ祖先系統の割合の範囲が6.4~8.5%のディンゴとNGSDと匹敵する、と示されました(図5a)。以下は本論文の図5です。
現代ユーラシア東部のイヌには、ユーラシア西部系統のイヌに由来する遺伝的構成要素があります[6、12、14]。このユーラシア西部祖先系統が古代韓国のイヌに存在したのかどうか、判断するために、f₄統計とf₄比が用いられました。f₄統計は古代韓国のイヌとユーラシア西部のイヌとの間の遺伝子流動を示しました。f₄比では、古代韓国のイヌのゲノムの15~19%はユーラシア西部のイヌ系統に由来した、と明らかになりました(図5bおよび図6)。具体的には、より古い勒島遺跡のイヌである勒島1号と勒島8号と勒島20号が、それぞれ21%と15%と16%のユーラシア西部祖先系統を示したのに対して、鳳凰洞遺跡のより新しい標本(GB)は19%のユーラシア西部祖先系統を示しました。現代の韓国の犬種のゲノムはさまざまな割合のユーラシア西部祖先系統を示し、その範囲は珍島では41~45%、トンギョイでは42~50%、サプサルでは60~70%です。この差異から、ユーラシア東部のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の割合は経時的に増加してきた、と示唆されます。以下は本論文の図6です。
●中緯度のアジア東部のイヌ系統
ディンゴとNGSDは最小限の混合のユーラシア東部イヌ系統の重要な代表で、遺伝学的研究ではユーラシア東部のイヌの代表として用いられています[6、14]。しかし、ディンゴとNGSDがユーラシア東部における唯一のイヌ系統だったのかどうか、或いは、他の異なる系統も存在したのかどうかは、依然として不明です。
この研究のイヌのみのデータに基づくPCAは、古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDを異なるクラスタへと明確に分離しました。ディンゴ/NGSDクラスタはベトナムの村落イヌやボルネオ島のイヌなど南方個体群の近くに位置し、ユーラシア東部南方系統に属することが示唆されます。対照的に、古代韓国のイヌはPCAの上部に位置し、ディンゴ/NGSDクラスタとは別の異なる系統を表している、と示唆されます。これらの調査結果から、ユーラシア東部では少なくとも二つのイヌ系統が存在した、と示唆されます。
オオカミとの系統発生分析やf₃統計やPCAではすべて、古代韓国のイヌは遺伝的にディンゴおよびNGSDと高い類似性を有している、と示唆されました。対照的に、ほとんどの現代の犬種は、ディンゴとNGSDを除いて、少なくとも32%の割合のユーラシア西部祖先系統を示します(秋田犬3号)。古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDとの間で観察された遺伝的関係は、ユーラシア西部からの比較的低水準の遺伝子移入に起因するかもしれません。
ユーラシア東部のイヌの内部の遺伝的構造をより深く理解するためには、最小限のユーラシア西部祖先系統を有している個体群、具体的には古代のイヌの分析が重要です。本論文は、分析に古代のイヌを含めることによって可能となった、南方と中緯度のユーラシア東部の2系統に焦点を当てました。
●古代韓国のイヌの祖先系統
鳳凰洞遺跡の古代のイヌ1個体は、ゲノムにおけるユーラシア西部祖先系統の割合で、より古い勒島遺跡で発見されたイヌである勒島8号と勒島20号の約2~3%より高い割合を示しました(勒島1号の標準誤差は比較には大きすぎました)。本論文の分析は鳳凰洞遺跡の単一個体に焦点を当てましたが、この違いは2ヶ所の考古学的遺跡の状況間の年代的隔たりを反映している可能性が高そうです。勒島遺跡の年代は紀元前3世紀~紀元後初期ですが、鳳凰洞遺跡の年代は紀元後4~6世紀です。
より古い勒島遺跡のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の存在から、ユーラシア西部のイヌとの混合はすでに紀元前3世紀の前には起きていた、と示唆されます。鳳凰洞遺跡の紀元後4~6世紀のイヌで観察されたユーラシア西部祖先系統のより高い割合から、この混合はその期間にも続いていた可能性が高い、と示唆されます。現代のアジア東部のイヌには少なくとも32%のユーラシア西部祖先系統があることを考えると、経時的なユーラシア東西間の接触と交流の増加が、ユーラシア東部のイヌ個体群におけるユーラシア西部からの遺伝的影響の漸進的増加に寄与していた、と結論づけるのが合理的です。
先行研究では、ニホンオオカミが家畜イヌ系統と最も密接に関連しており、ニホンオオカミとユーラシアオオカミとの間に遺伝子流動はなかった、と示唆されました[6]。古代韓国のイヌにも、ニホンオオカミの祖先系統がありました。この祖先系統の割合はディンゴおよびNGSDで見られるものと同等で、これは系統発生およびf₃統計分析で見られた遺伝的類似性を説明できるかもしれません。ニホンオオカミは日本列島に1世紀前まで存在していましたが、ニホンオオカミの祖先とユーラシア東部のイヌの祖先との間の遺伝子流動は、アジア東部本土で起きた可能性が高そうです[6]。古代韓国のイヌのゲノムにおけるニホンオオカミ祖先系統の存在から、この混合は大陸で少なくとも2000年前頃には起きていた、と示唆されます。
●古代と現代の韓国のイヌの関係
本論文では、古代韓国のイヌがアジア東部のオオカミとの遺伝子流動を経た、と論証されました。しかし、この遺伝子移入の痕跡は韓国のオオカミとは特に強いわけではなく、古代韓国のイヌと在来の韓国のオオカミ個体群との遺伝子移入は頻繁ではなかった可能性が高い、と示唆されます。
韓国では、珍島やトンギョイやサプサルなどいくつかの在来犬種が今も飼育されています。本論文では、古代韓国のイヌとこれら現代の犬種との間の直接的な遺伝的関係(つまり、系統発生的関係)を示すことができませんでした。このつながりの欠如は、現代の韓国の犬種で見られる顕著な割合のユーラシア西部祖先系統に起因する可能性が高そうです。
本論文では、古代韓国のイヌのゲノムおよび他のイヌやオオカミとの遺伝的関係の調査によって、ディンゴ/NGSDとは異なるアジア東部のイヌ系統が特定されました。古代韓国のイヌの祖先は、少なくとも2300年前頃には、ユーラシア西部のイヌとすでに混合していました。この混合は紀元までに増加しました。現代の韓国のイヌでは、今やゲノムの約半分がユーラシア西部祖先系統に由来します。古代韓国のイヌの祖先系統をさらに明らかにするには、韓国の新石器時代の古代イヌのゲノムの分析が不可欠です。そうしたデータは、アジア東部におけるイヌの進化史により深い知見を提供するでしょう。
参考文献:
Kim H, Kim S, Yu A-r, Song E, Kim S, Miyazaki T, et al. (2026) Ancient East Asian dog lineage is revealed by genome of ancient Korean dogs. PLoS One 21(5): e0346864.
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0346864
[2]Botigué LR. et al.(2017): Ancient European dog genomes reveal continuity since the Early Neolithic. Nature Communications, 8, 16082.
https://doi.org/10.1038/ncomms16082
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[5]Leathlobhair MN. et al.(2018): The evolutionary history of dogs in the Americas. Science, 361, 6397, 81–85.
https://doi.org/10.1126/science.aao4776
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[6]Gojobori J. et al.(2024): Japanese wolves are most closely related to dogs and share DNA with East Eurasian dogs. Nature Communications, 15, 1680.
https://doi.org/10.1038/s41467-024-46124-y
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[9]Perri AR. et al.(2021): Dog domestication and the dual dispersal of people and dogs into the Americas. PNAS, 118, 6, e2010083118.
https://doi.org/10.1073/pnas.2010083118
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[11]Sinding MHS. et al.(2020): Arctic-adapted dogs emerged at the Pleistocene–Holocene transition. Science, 368, 6498, 1495–1499.
https://doi.org/10.1126/science.aaz8599
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[12]Feuerborn TR. et al.(2021): Modern Siberian dog ancestry was shaped by several thousand years of Eurasian-wide trade and human dispersal. PNAS, 118, 39, e2100338118.
https://doi.org/10.1073/pnas.2100338118
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[14]Botigué LR. et al.(2017): Ancient European dog genomes reveal continuity since the Early Neolithic. Nature Communications, 8, 16082.
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[15]Zhang SJ. et al.(2025): Genomic evidence for the Holocene codispersal of dogs and humans across Eastern Eurasia. Science, 390, 6764, 735–740.
https://doi.org/10.1126/science.adu2836
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[17]Bergström A. et al.(2022): Grey wolf genomic history reveals a dual ancestry of dogs. Nature, 607, 7918, 313–320.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04824-9
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[23]Lin AT. et al.(2023): The history of Coast Salish “woolly dogs” revealed by ancient genomics and Indigenous Knowledge. Science, 382, 6676, 1303–1308.
https://doi.org/10.1126/science.adi6549
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以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)、PCA(principal component analysis、主成分分析)、PC1(first principal component、第一主成分)、PC2(second principal component、第一主成分)です。本論文で取り上げられる主要なイヌ科動物は、イヌ(Canis lupus familiaris)、ハイイロオオカミ(Canis lupus)、NGSD(New Guinea singing dog、ニューギニア・シンギング・ドッグ)です。本論文で取り上げられる主要なイヌの品種は、トンギョイ(Donggyeongi、東京)、珍島(Jindo)、サプサル(Sapsal)です。本論文で取り上げられる主要な地域と遺跡は、韓国の泗川(Sacheon)市の勒島(Neuk-do)と金海(Gimhae)市の鳳凰洞(Bonghwang-dong)です。
●要約
イヌは、ユーラシア東部とユーラシア西部とそりイヌ系統の主要な3亜系統から構成される単系統群を形成します。古代ゲノム研究はユーラシア西部系統とそりイヌ系統内の関係を明らかにしてきましたが、ユーラシア東部系統の内部構造は依然として不明です。ディンゴとNGSDはユーラシア東部系統の混合が最小の系統とみなされていますが、ユーラシア東部の唯一の代表系統だったのかどうかは、不確実です。この研究では、泗川市の勒島で発掘され3匹のイヌ(紀元前3世紀~紀元後1世紀)と、金海市の鳳凰洞遺跡(紀元後4~6世紀)で発掘された1匹のイヌから古代ゲノムが配列決定されました。勒島のイヌのゲノム被覆度(coverage、網羅率)は0.5倍と0.73倍と0.64倍で、鳳凰洞のイヌの被覆度は0.3倍でした。イヌとオオカミの系統発生分析と外群f₃統計とPCAから、古代韓国のイヌはディンゴおよびNGSDと密接に関連していた、と示されました。しかし、イヌのみのPCAでは、古代韓国のイヌはディンゴ/NGSDと区別され、ユーラシア東部内の独特な系統が示唆されます。勒島のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の検出から、混合は紀元前3世紀以前に始まっていた、と論証されます。鳳凰洞のイヌにおけるより高い割合のユーラシア西部祖先系統から、追加の混合が紀元後4世紀~紀元後6世紀までに起きた、と示唆されます。これらの調査結果から、古代韓国のイヌは紀元前千年紀後半までにユーラシア西部からの遺伝子流動をすでに経ていた、独自のユーラシア東部系統を表している、と明らかになり、ユーラシア東部におけるイヌの進化史に新たな知見を提供します。
●研究史
イヌは最初に家畜化された動物の一つと考えられています。イヌ家畜化の起源は古代にまでさかのぼり、その推定値から、イヌ系統はオオカミ系統と4万~2万年前頃に分岐した、と示唆されています[2]。全ゲノム解析では、イヌは単系統群を形成する、と明らかになりました[5、6]。さらに、この単系統群(クレード)はアジア東部のオオカミの内部系統から分岐しており、イヌはアジア東部起源だった可能性が高い、と示唆されています[6]。
イヌの単系統群は主要な3亜系統に分かれました。これらのうち2系統は、ユーラシアの東部系統と西部系統です[2、5、6、9]。第三の系統であるそりイヌは、北極圏のそりイヌとヨーロッパ人との接触前のアメリカ大陸のイヌから構成され、シベリアのイヌやグリーンランドのそりイヌが含まれています[5、9、11、12]。イヌの古代ゲノムが報告されてきました[2、5、11、14、15]。これら古代の個体のほとんどはユーラシア西部系統もしくはそりイヌ系統に属しています[2、5、11、14]。したがって、これら2系統の各内部の関係のいくつかの側面が特徴づけられてきました。ユーラシアの東西のイヌ間の混合が報告されてきましたが、ユーラシア東部系統内の関係は依然として解明されていません。ユーラシア東部系統では、ディンゴとNGSDが他のイヌ系統との最小限の混合を示しています[6]。したがって、ディンゴとNGSDは初期のユーラシア東部イヌの祖先のゲノム特性を保持してきた、とみなされています。しかし、ユーラシア東部系統内の関係や、これらの系統がユーラシア東部からオセアニアにへとどのように拡大して進化したのか、示すのに利用可能なゲノム情報はほとんどありません。
2回の主要なオオカミからの遺伝子移入事象が、イヌの進化史で特定されてきました。最初の事象は、古代のイヌのゲノムによって論証されたように、現代のユーラシア南西部の個体群と関連するオオカミから初期の近東およびアフリカのイヌへの遺伝子流動に関わっていました[17]。2回目の事象は、ユーラシア東部のイヌへのニホンオオカミの祖先系統からの遺伝子移入に関わっていました[6]。しかし、古代のユーラシア東部のイヌが他の地域的なオオカミ系統からの遺伝子流動を経たのかどうかは、依然として不明です。
韓国では、イヌ遺骸が新石器時代にさかのぼる考古学的遺跡から発掘されてきました。注目すべき遺跡の一つが勒島で、朝鮮半島の南岸沖の小さな島に位置しています(図1)。勒島遺跡は紀元前3世紀頃までさかのぼり、紀元後初期にまでまたがります。勒島では、多くのイヌ遺骸が発掘されてきました。もう一方の遺跡は金海市の鳳凰洞で、年代は紀元後4~6世紀です(図1)。イヌの骨が鳳凰洞遺跡でも発掘されました。これらの遺跡で見つかったイヌは形態学的には小型~中型の個体と特定されましたが、他のイヌとの遺伝的関係は依然として不明です。以下は本論文の図1です。
この研究では、泗川市の勒島遺跡と金海市の鳳凰洞遺跡から発掘された4点のイヌ標本から、古代ゲノムが配列決定されました。これら古代韓国のイヌを古代のイヌおよびオオカミの刊行されている利用可能なゲノムと比較することによって、古代韓国のイヌと他のイヌ科系統との間の遺伝的関係が解明されました。
●DNA抽出および配列決定
勒島遺跡から発掘された3点のイヌ標本(紀元前3世紀~紀元後初期)と鳳凰洞遺跡から発掘された1点のイヌ標本(紀元後4~6世紀)から、DNAが抽出されました(図1)。DNA抽出は、歯根のセメント室の溶解によって、最小限の破壊手法を用いて実行されました。抽出されたDNAは、イルミナ社のiSeq100プラットフォームを用いて配列決定され、各標本で数千万塩基対のデータが生成されました。これらの配列がイヌ参照ゲノム(CanFam3.1)にマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)されると、抽出物における内在性のイヌDNAの割合は以下の通りで、勒島1号は1.3%、勒島8号は1.8%、勒島20号は1.5%、鳳凰洞遺跡標本(GB)は0.8%でした。DNA損傷パターンが評価され、4個体すべての読み取りが古代DNA損傷を示しました。
DNA抽出物からウラシル残基が除去され、さらにライブラリが構築され、イルミナ社のNovaSeq Xプラットフォームを用いてそれらが配列決定されました。イヌ参照ゲノム(CanFam3.1)へと読み取りがマッピングされました。各標本の平均ゲノム被覆度は以下の通りで、勒島1号が0.5倍、勒島8号が0.64倍、勒島20号が0.64倍、GBが0.3倍です。古代韓国のイヌのゲノムが、外群の標本6点、北アメリカ大陸と韓国の2点を含めてユーラシアのオオカミ36点、古代のイヌ30点と現代のイヌ82点を含めて、154個体を含む公開されているデータベース[2、11、12、14、23]とともに分析されました。古代と現代の韓国のイヌ間の関係を調べるために、本論文のデータセットには、韓国のトンギョイと珍島とサプサルやオオカミのゲノムが含まれました。古代韓国のイヌのデータの低被覆度のため、分析には疑似半数体データセットが使用されました。
●古代韓国のイヌと他のイヌ科との遺伝的関係
古代韓国のイヌと他のイヌとオオカミとの間の遺伝的関係を調べるために、まず系統樹が構築されました。古代韓国のイヌにおける重複するSNP部位の数が限られているため(部位の数はPCAとAdmixtoolsのデータセットでは423ヶ所)、古代韓国のイヌの各個体について、4通りの別々の系統樹が構築されました。その結果、古代韓国のイヌはすべてユーラシア東部系統に属し、ディンゴ/NGSDとともに単系統群を形成した、と示唆されました(図2)。さらに、これら古代のイヌは秋田犬や紀州犬などの日本犬と密接な遺伝的関係を示しました(図2)。以下は本論文の図2です。
古代韓国のイヌと他のイヌ個体群との間の遺伝的関係が、PCAを用いて調べられました。古代韓国のイヌと他の現代および古代のイヌとオオカミに基づくPCAでは、PC1はイヌをオオカミから分離しました(図3a)。一方で、PC2はユーラシア東部から西部のイヌ個体群の勾配を形成しました(図3a)。古代韓国のイヌはディンゴ/NGSDとボルネオ島やベトナムや日本のイヌの間でまとまっていします(図3a)。以下は本論文の図3です。
外群f₃統計では、古代韓国のイヌ4個体が単一の個体群として用いられ、古代韓国のイヌと他の古代のイヌとの間で共有されるSNP部位の数が増やされました。外群f₃統計では、ディンゴと古代オーストラリアのイヌとNGSDが古代韓国のイヌと最高の遺伝的類似性を示し、それに続くのがボルネオ島のイヌとベトナムの村落のイヌ(アジア南東部のイヌ)である、と明らかになりました(図4a)。古代韓国のイヌは、ユーラシア西部の現代(図4a)および古代のイヌ(図4b)やそりイヌ系統とは低い遺伝的類似性を示しました。以下は本論文の図4です。
イヌとオオカミ両方の標本を用いた系統樹と外群f₃統計とPCAから、古代韓国のイヌはディンゴおよびNGSDと密接に関連している、と示唆されます(図2および図3および図4a)。ユーラシア東部のイヌ間の関係をさらに調べるために、とくにイヌ標本のみを用いてPCAが実行されました(図3b)。イヌに焦点を当てたこのPCAでは、PC1がユーラシアの東西のイヌ系統を分離した一方で、PC2はユーラシア東部内の南北の個体群を区別しました(図3b)。ディンゴとNGSDは、古代韓国のイヌおよびベトナムの村落のイヌやボルネオ島のイヌなどアジア南東部のイヌから遠いクラスタ(まとまり)を形成しました。対照的に、古代韓国のイヌのクラスタはPCAの上部に位置しました。これらの調査結果から、古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDは異なる系統である可能性が高い、と示唆されます。
●古代韓国のイヌと他のイヌ科との間の遺伝子流動
イヌとオオカミとの間の遺伝子流動が、先行研究で報告されてきました[6、11、17]。しかし、古代アジア東部のイヌとオオカミとの間の遺伝子流動は、調査されてきませんでした。古代韓国のイヌとオオカミとの間の遺伝子流動の関係を調べるために、f₄統計を用いて分析されました。f₄統計の結果から、古代韓国のイヌはニホンオオカミと最も強い遺伝子流動を示し、それに続くのが、韓国および中国のアジア東部オオカミからの検出可能な遺伝子流動である、と明らかになりました。これらの調査結果は、ニホンオオカミとユーラシア東部のイヌとの間の遺伝子流動に関する先行研究と一致します[6]。これらの結果から、古代韓国のイヌはアジア東部のオオカミとの遺伝子流動を経た、と示唆されます。古代韓国のイヌとユーラシア東部のイヌとの間の遺伝子流動は、具体的には韓国のオオカミと起きたのではなく、一部のアジア東部のオオカミ個体群と起きました。
先行研究では、ユーラシア東部のイヌのゲノムにはニホンオオカミの遺伝的祖先系統が含まれる、と示唆されました[6]。古代韓国のイヌにおけるこの祖先系統を評価するために、f₄比統計を用いて、ニホンオオカミ祖先系統の割合が推定されました。その結果、古代韓国のイヌには7.5~9.7%のニホンオオカミ祖先系統があり、これはニホンオオカミ祖先系統の割合の範囲が6.4~8.5%のディンゴとNGSDと匹敵する、と示されました(図5a)。以下は本論文の図5です。
現代ユーラシア東部のイヌには、ユーラシア西部系統のイヌに由来する遺伝的構成要素があります[6、12、14]。このユーラシア西部祖先系統が古代韓国のイヌに存在したのかどうか、判断するために、f₄統計とf₄比が用いられました。f₄統計は古代韓国のイヌとユーラシア西部のイヌとの間の遺伝子流動を示しました。f₄比では、古代韓国のイヌのゲノムの15~19%はユーラシア西部のイヌ系統に由来した、と明らかになりました(図5bおよび図6)。具体的には、より古い勒島遺跡のイヌである勒島1号と勒島8号と勒島20号が、それぞれ21%と15%と16%のユーラシア西部祖先系統を示したのに対して、鳳凰洞遺跡のより新しい標本(GB)は19%のユーラシア西部祖先系統を示しました。現代の韓国の犬種のゲノムはさまざまな割合のユーラシア西部祖先系統を示し、その範囲は珍島では41~45%、トンギョイでは42~50%、サプサルでは60~70%です。この差異から、ユーラシア東部のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の割合は経時的に増加してきた、と示唆されます。以下は本論文の図6です。
●中緯度のアジア東部のイヌ系統
ディンゴとNGSDは最小限の混合のユーラシア東部イヌ系統の重要な代表で、遺伝学的研究ではユーラシア東部のイヌの代表として用いられています[6、14]。しかし、ディンゴとNGSDがユーラシア東部における唯一のイヌ系統だったのかどうか、或いは、他の異なる系統も存在したのかどうかは、依然として不明です。
この研究のイヌのみのデータに基づくPCAは、古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDを異なるクラスタへと明確に分離しました。ディンゴ/NGSDクラスタはベトナムの村落イヌやボルネオ島のイヌなど南方個体群の近くに位置し、ユーラシア東部南方系統に属することが示唆されます。対照的に、古代韓国のイヌはPCAの上部に位置し、ディンゴ/NGSDクラスタとは別の異なる系統を表している、と示唆されます。これらの調査結果から、ユーラシア東部では少なくとも二つのイヌ系統が存在した、と示唆されます。
オオカミとの系統発生分析やf₃統計やPCAではすべて、古代韓国のイヌは遺伝的にディンゴおよびNGSDと高い類似性を有している、と示唆されました。対照的に、ほとんどの現代の犬種は、ディンゴとNGSDを除いて、少なくとも32%の割合のユーラシア西部祖先系統を示します(秋田犬3号)。古代韓国のイヌとディンゴ/NGSDとの間で観察された遺伝的関係は、ユーラシア西部からの比較的低水準の遺伝子移入に起因するかもしれません。
ユーラシア東部のイヌの内部の遺伝的構造をより深く理解するためには、最小限のユーラシア西部祖先系統を有している個体群、具体的には古代のイヌの分析が重要です。本論文は、分析に古代のイヌを含めることによって可能となった、南方と中緯度のユーラシア東部の2系統に焦点を当てました。
●古代韓国のイヌの祖先系統
鳳凰洞遺跡の古代のイヌ1個体は、ゲノムにおけるユーラシア西部祖先系統の割合で、より古い勒島遺跡で発見されたイヌである勒島8号と勒島20号の約2~3%より高い割合を示しました(勒島1号の標準誤差は比較には大きすぎました)。本論文の分析は鳳凰洞遺跡の単一個体に焦点を当てましたが、この違いは2ヶ所の考古学的遺跡の状況間の年代的隔たりを反映している可能性が高そうです。勒島遺跡の年代は紀元前3世紀~紀元後初期ですが、鳳凰洞遺跡の年代は紀元後4~6世紀です。
より古い勒島遺跡のイヌにおけるユーラシア西部祖先系統の存在から、ユーラシア西部のイヌとの混合はすでに紀元前3世紀の前には起きていた、と示唆されます。鳳凰洞遺跡の紀元後4~6世紀のイヌで観察されたユーラシア西部祖先系統のより高い割合から、この混合はその期間にも続いていた可能性が高い、と示唆されます。現代のアジア東部のイヌには少なくとも32%のユーラシア西部祖先系統があることを考えると、経時的なユーラシア東西間の接触と交流の増加が、ユーラシア東部のイヌ個体群におけるユーラシア西部からの遺伝的影響の漸進的増加に寄与していた、と結論づけるのが合理的です。
先行研究では、ニホンオオカミが家畜イヌ系統と最も密接に関連しており、ニホンオオカミとユーラシアオオカミとの間に遺伝子流動はなかった、と示唆されました[6]。古代韓国のイヌにも、ニホンオオカミの祖先系統がありました。この祖先系統の割合はディンゴおよびNGSDで見られるものと同等で、これは系統発生およびf₃統計分析で見られた遺伝的類似性を説明できるかもしれません。ニホンオオカミは日本列島に1世紀前まで存在していましたが、ニホンオオカミの祖先とユーラシア東部のイヌの祖先との間の遺伝子流動は、アジア東部本土で起きた可能性が高そうです[6]。古代韓国のイヌのゲノムにおけるニホンオオカミ祖先系統の存在から、この混合は大陸で少なくとも2000年前頃には起きていた、と示唆されます。
●古代と現代の韓国のイヌの関係
本論文では、古代韓国のイヌがアジア東部のオオカミとの遺伝子流動を経た、と論証されました。しかし、この遺伝子移入の痕跡は韓国のオオカミとは特に強いわけではなく、古代韓国のイヌと在来の韓国のオオカミ個体群との遺伝子移入は頻繁ではなかった可能性が高い、と示唆されます。
韓国では、珍島やトンギョイやサプサルなどいくつかの在来犬種が今も飼育されています。本論文では、古代韓国のイヌとこれら現代の犬種との間の直接的な遺伝的関係(つまり、系統発生的関係)を示すことができませんでした。このつながりの欠如は、現代の韓国の犬種で見られる顕著な割合のユーラシア西部祖先系統に起因する可能性が高そうです。
本論文では、古代韓国のイヌのゲノムおよび他のイヌやオオカミとの遺伝的関係の調査によって、ディンゴ/NGSDとは異なるアジア東部のイヌ系統が特定されました。古代韓国のイヌの祖先は、少なくとも2300年前頃には、ユーラシア西部のイヌとすでに混合していました。この混合は紀元までに増加しました。現代の韓国のイヌでは、今やゲノムの約半分がユーラシア西部祖先系統に由来します。古代韓国のイヌの祖先系統をさらに明らかにするには、韓国の新石器時代の古代イヌのゲノムの分析が不可欠です。そうしたデータは、アジア東部におけるイヌの進化史により深い知見を提供するでしょう。
参考文献:
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