ダイアウルフのゲノム

 北アメリカ大陸の絶滅したダイアウルフのゲノムを報告した研究(Gedman et al., 2026)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、72000年以上前と13000年前頃のダイアウルフ個体から得られたゲノムデータを、他のイヌ科と比較し、イヌ科の進化系統樹にダイアウルフを位置づけています。ダイアウルフの遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)は、その約2/3がハイイロオオカミとコヨーテとドールを構成するクレード(単系統群)との姉妹系統に、約1/3がイヌ族の多様性の基底部近くの系統に由来する、と明らかになりました。以下は本論文の要約図です。
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 以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、mtDNA(mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)、CI(confidence interval、信頼区間)、IBS(identity-by-state、同じアレルを有していること)、kg(kilogram、キログラム)、A(adenine、アデニン)、T(thymine、チミン)、G(guanine、グアニン)、C(cytosine、シトシン)です。本論文で取り上げられる主要なイヌ科動物の出土地および生息地は、アメリカ合衆国ではオハイオ州のシェリデン・ピット(Sheriden Pit、略してSP)とアイダホ州のギガントバイソン湾(Gigantobison Bay、略してGB)です。

 本論文で取り上げられる主要なイヌ科動物は、ダイアウルフ(Aenocyon dirus)、小型ダイアウルフ(Aenocyon dirus guilday)、大型ダイアウルフ(Aenocyon dirus dirus)、エウキオン属(Eucyon)、カニクイイヌ亜族(Cerdocyonina)、イヌ属(Canis)、イヌ亜科(Canina)、ハイイロ(タイリク)オオカミ(Canis lupus)、コヨーテ(Canis latrans)、ドール(Cuon alpinus)、イヌ族(Canini)、アカギツネ(Vulpes vulpes)、ハイイロギツネ(Urocyon cinereoargenteus)、リカオン(Lycaon pictus)、タテガミオオカミ(Chrysocyon brachyurus)、アメリカオオカミ(Canis rufus)、アフリカンゴールデンウルフ(Canis lupaster)、ルプルエラ属(Lupulella)、アフリカジャッカル(Lupulella spp.)、セグロジャッカル(Lupulella mesomelas)です。本論文で取り上げられる主要なイヌ科以外の動物は、コロンビアマンモス(Mammuthus Columbi)、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)です。


●要約

 ダイアウルフは更新世北アメリカ大陸の絶滅した捕食動物です。ダイアウルフは表現型ではハイイロオオカミと類似していますが、まだイヌ科系統樹において確実に位置づけられていませんでした。13000年前頃と72000年以上前の保存状態良好なダイアウルフ2個体から、3.4倍と12.8倍の被覆度の古ゲノムが生成され、この2個体とイヌ科10種についてコンセンサス種系統樹が推定されました。その結果、ダイアウルフ祖先系統の約2/3はハイイロオオカミとコヨーテとドールを構成する単系統群との姉妹系統に、残りの約1/3はイヌ族の多様性の基底部近くの系統に由来する、と明らかになりました。この結果は、長年の分類学的問題を解決する、古ゲノムの検出力を強調しており、進化圧として種分化後の遺伝子流動の役割についての増加しつつある証拠に寄与します。


●研究史

 ダイアウルフは、北アメリカ大陸の化石記録に中期更新世後期の25万年前頃に初めて現れ、較正これた放射性炭素年代で12900年前頃の絶滅まで北アメリカ大陸における最も著名なイヌ科種でした[2]。現在、ダイアウルフ化石は大きさと地理に基づいて2亜種分類されており、西方のより小型の小型ダイアウルフと、東方のより大型の大型ダイアウルフです。形態学的に、ダイアウルフはハイイロオオカミと類似しており、側頭筋がより大きく、これはより強い咬合力を示唆し、陰茎骨が相対的により長く、これは性的競合を示唆しています。

 ダイアウルフは北アメリカ大陸銀ですが、その進化史および他のイヌ科種との分類学的関係は、依然として不明です。被覆度が約0.01~0.23倍のダイアウルフのゲノムに関する最近の分析では、ダイアウルフはまずも600万年前頃となる後期中新世にオオカミ的なイヌ科から分岐した、と結論づけられました[11]。こり時期は、エウキオン属のユーラシアとアフリカの化石記録における出現と一致し、おそらくエウキオン属系統から絶滅したオオカミ的なイヌ科種が派生しました。更新世には、生息地の変化やベーリンジア(ベーリング陸橋)の一時的な出現によって、オオカミ的な系統にとって北アメリカ大陸への出入りの機会が繰り返しありました。密接に関連するイヌ科種間の混合は一般的なので、ダイアウルフと同所性のイヌ科との間の遺伝子流動の欠如は、時間か地理か繁殖か行動の隔離を示唆しています。

 先行研究[11]では、ダイアウルフは独特な進化系統だった、と確証されましたが、推定された遺伝子系統樹間の不一致から、初期の進化史については不確実でした。遺伝子系統樹は矛盾する形態を示しており、約50%は最初に分岐したオオカミ的なイヌ科系統としてのダイアウルフを指示しますが、残りはジャッカルをダイアウルフと他のオオカミ的なイヌ科の外群に位置づけます[2]。分岐時期の推定値から、ダイアウルフ系統は、南アメリカ大陸のカニクイイヌ亜族との500万~400万年前頃の分岐の後で、アフリカジャッカルとの共通祖先とは760万~350万年前頃、オオカミ的なイヌ科との共通祖先とは850万~400万年前頃の分岐の前に出現した、と示唆されました。この急速な多様化から生じた不完全な系統分類[17]は、観察された系統樹の不一致の一因かもしれず、標本抽出されていない個体群からの遺伝子流動も除外できません。

 ダイアウルフの系統発生的位置の解決と、遺伝子流動の証拠の評価は、イヌ科間の深い分岐および古代DNA解析の技術的課題によって妨げられています。古代DNAは、損傷に加えて、参照の偏りにも影響を受けやすく、分岐した読み取りはマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)できず、参照配列との類似性が不自然に高まり、系統発生および個体群動態の推論に影響を及ぼします。この偏りは、ダイアウルフの事例のように、参照ゲノムが古ゲノムと進化的に異なっている場合に、とくに問題となります。

 ダイアウルフの起源と進化をより深く理解するために、改善された古ゲノム手法を活用して、保存状態良好なダイアウルフ2個体[11]から追加の古代DNAが回収され、一方はオハイオ州のシェリデン・ピットの13000年前頃の切歯であるダイアウルフSP、もう一方は、アイダホ州のギガントバイソン湾の72000±14000年以上前となる骨格のダイアウルフGBです。両標本の古ゲノムが生成され、ダイアウルフの進化に新たな知見を提供する、系統発生および混合分析が実行されました。


●分析結果

 生成されたゲノムデータの被覆度の深度は、ダイアウルフSPが3.4倍、ダイアウルフGBが12.8です。選別と整理と重複読み取りの統合後に、ダイアウルフSPについては28億、ダイアウルフGBについて333億の固有読み取り配列が保持されました。BWA alnを用いて、グリーンランドのハイイロオオカミの染色体水準(Y染色体を含みます)ゲノム構築(遺伝子銀行、「canLor」としても知られているGCA_905319855.2)に対して、読み取りがマッピングされました。マッピング後に、5倍を超える領域の回収は、ダイアウルフSPではゲノムの6%、ダイアウルフGBでは82%でした。以前に、これら同じ個体から抽出された古代DNAの被覆度は、ダイアウルフSPでは0.2倍、ダイアウルフGBでは0.3倍でした[11]。一本鎖ライブラリで予測されるDNA損傷パターンが見つかりました(5’末端のC→Tの割合は、ダイアウルフGBでは30.2%、ダイアウルフSPでは26.6%)。ハイイロオオカミの参照性染色体に対する常染色体のマッピングのRx比は、雄個体であることを示唆しています(95%CIで、ダイアウルフSPでは0.539~0.554、ダイアウルフGBでは0.538~0.554)。

 反復過程を用いて、段階的に分岐の少ない核古ゲノム参照配列(aenDir)が構築されました。6回の反復後に、シード参照構築(ハイイロオオカミ)との約1460万ヶ所の変化(一塩基多様体で13665448ヶ所、挿入で388514ヶ所、欠失で515129ヶ所)が特定されました。次に、高深度アレル(対立遺伝子)を表す多様体に基づくコンセンサス配列である、疑似半数体が呼び出されました。並行して、高被覆度(平均深度は158.4倍)のミトコンドリア古ゲノムを再構築するために、確立された手法が用いられました[28]。核とミトコンドリア両方で再構築された古ゲノムを統合すると、16.84%のハードマスクされたN含有量の最終参照配列構築が得られました。

 古代DNAライブラリを再構築されたる古ゲノム参照配列(aenDir)にマッピングすると、全ゲノムとエクソームの水準の両方で被覆度が増加しました(図1A・B)。ハイイロオオカミの参照配列(canLor)への最初のマッピングと比較すると、aenDirへのマッピングでは、平均網羅率が、ダイアウルフGBでは2.8倍、ダイアウルフSPでは1.5倍増加しました。aenDirの注釈付けは、canLorのタンパク質コード遺伝子の大半(71%)を特定し、ほとんどの遺伝子欠落は低被覆度領域のマスキングに起因します。エクソンにおける被覆度の深度は、aenDirにマッピングすると、ダイアウルフSPとダイアウルフGBの両方で約2倍改善しました。以下は本論文の図1です。
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 aenDirに対するマッピングは、参照配列の偏りの影響も減少させました(図2A)。D統計を用いての推定(ハイイロオオカミのシード参照配列と非シード参照配列と外群のアカギツネ、aenDirのD統計は−0.152でZ得点が−16.01、canLorのD統計は−0.521でZ得点が−76.51)では、canLorと比較してaenDirに対して呼び出されたダイアウルフGBコンセンサス配列のアレル共有では顕著な減少が見つかりました。補完的検定では、aenDirに対してマッピングされたダイアウルフSPの読み取りについて、IBSが評価されました。その結果、aenDirへマッピングされたダイアウルフSPの読み取りは、すべての読み取り長でもとくに35塩基対未満の読み取りでcanLorより多いIBS(つまり、より多い配列同一性)を示す、と分かり、おもにより短い読み取りにおける残存参照配列の偏りの存在が示唆されます。以下は本論文の図2です。
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 イヌ属種で較正された変異率と、事前分布として幅の広い世代時間を用いて、580万年前頃の分岐時間を考えると、ダイアウルフの古ゲノムは予想以上に現生イヌ亜科と類似していました。aenDirの非N配列長と比較して、5倍で網羅された部位における固定された常染色体塩基転換上の配列分岐が計算されました(2310286013塩基対)。ダイアウルフの古ゲノムは、事前媒介変数に基づく予測(0.6~0.9%)よりも分岐しておらず(平均で0.09%)、ジャッカルとは99.91%の推定配列類似性、オオカミ的なイヌ科多様性のどちらかの端の非シード参照配列のハイイロオオカミとは99.94%の類似性でした。マッピングにおける残存参照配列の偏りは配列の類似性を高めるかもしれないので、ゲノムの距離を推定するmashを用いて、汚染が選別された配列読み取りから、固有の32塩基長の分布も評価されました。その結果、ハイイロオオカミおよびジャッカル種と比較して、ダイアウルフは等しく低い32塩基長多様性を示した(約0.01)、と分かり、アカギツネおよびハイイロギツネに対しては距離がより大きくなりました(0.02~0.03)。

 本論文で推定されたミトコンドリアおよび核の系統発生は、以前に刊行されたものと類似していました(図3)。ミトコンドリアの系統発生は、イヌ科系統間の既知のミトコンドリアと核ゲの不一致を示しました。タンパク質コード遺伝子から少なくとも100万塩基対離れている非コードのダイアウルフ配列の1950万塩基対と25%未満の平均欠損率に基づいた本論文の核系統発生は、ダイアウルフをセグロジャッカルとオオカミ的なイヌ科の間の分岐に先行して分岐する単系統群に位置づけます(図3)。しかし、この配置は入力した遺伝子座の44%にしか裏づけられなかったのに対して、遺伝子座の39%はダイアウルフと非ルプルエラ属のオオカミ的なイヌ科との間のより近い関係を裏づけました(図3)。分岐時期推定値から、ダイアウルフは他のイヌ科から450万年前頃に分岐し(95%CIで584万~289万年前頃)、ジャッカルは408万年前頃(95%CIで534万~258万年前頃)に分岐した、と示唆されました。以下は本論文の図3です。
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 推定される遺伝子系統樹の形態間の不一致は、ダイアウルフにおける混合した祖先系統から生じます(図4)。参照配列の偏りを最小化するための、イヌ科ゲノムへの配列比較を用いると、ダイアウルフは他のイヌ科と比較してハイイロオオカミと派生的アレルの過剰を共有していた、と分かり、他のイヌ科には、ドールやリカオンやアフリカジャッカルや南アメリカ大陸のイヌ科ました(図4A)。コヨーテやアメリカオオカミなどハイイロオオカミとより密接に関連推しているオオカミ的なイヌ科と比較すると、ダイアウルフとハイイロオオカミとの間で同様の類似性は見つかりませんでした(図4A)。ダイアウルフと比較すると、アフリカジャッカルや他のオオカミ的なイヌ科が、ハイイロオオカミとより多くの派生的アレルを共有していることも観察されました(図4B)。まとめると、これらのパターンから、ダイアウルフは異なる2系統の祖先系統の混合を有しており、一方はアフリカジャッカルの前に分岐した系統、もう一方はハイイロオオカミおよびコヨーテの分岐前の系統である、と示唆されます。現生のオオカミ的なイヌ科と比較してのダイアウルフと南アメリカ大陸のイヌ科との間のアレル共有は、カニクイイヌ亜族の多様性内に収まるより深い祖先系統構成要素と一致します(図4B)。ダイアウルフの両個体は、すべての他のコヨーテおよびハイイロオオカミ個体に対して単系統群を形成し、ダイアウルフと特定のイヌ属系統との間の分岐後の限定的な遺伝子流動が示唆されます。以下は本論文の図4です。
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 イヌ科集団史の混合図モデルは、ダイアウルフ系統におけるオオカミ的なイヌ科と深い祖先系統構成要素の両方を特定しました(図4C)。イヌ科間の関係(ダイアウルフ、ユーラシアハイイロオオカミ、コヨーテ、ドール、リカオン、タテガミオオカミ、外群として用いられたのはアカギツネ)をモデル化する最適な混合図を見つけるために、発見的演算法が適用されました。混合事象がないか1回としたモデルはデータでは裏づけられませんでしたが、2回の混合事象を想定した最適なモデルには統計的裏づけがありました(図4C)。このモデルでは、ダイアウルフは南アメリカ大陸のイヌ科とまとまる系統から約39%の祖先系統を受け取り、残りの約61%はドールとコヨーテとハイイロオオカミの姉妹系統に由来する、と分かりました。オオカミ的な祖先は、オオカミ的なイヌ科の多様性内に収まる、系統発生的に一致しないダイアウルフのミトコンドリアゲノムの供給源だったかもしれません。ダイアウルフと南アメリカ大陸のイヌ科との間で共有されている過剰な派生的アレルの証拠によって示唆されるように、ダイアウルフの少ない祖先系統構成要素を南アメリカ大陸のイヌ科系統上ではなく現生イヌ族の多様性外に位置づける同様のモデルは、低下した適合度を供給しますが、カニクイイヌ亜族内にこの系統を位置づける枝は、短い浮動の枝を有していました。別々に分析すると、ダイアウルフの2個体両方から同様の最適図が生成され、混合はダイアウルフの個体群史の特徴だったことが示唆されます。追加の外群(ハイイロギツネ)と追加の南アメリカ大陸のイヌ科種の両方を含めた図から、ダイアウルフ祖先系統の分岐の一部はイヌ族の多様性の基底部近くに位置する、と確証されました。

ダイアウルフにおけるオオカミ的な構成要素の系統発生的位置は、コヨーテとオオカミの共通祖先に祖先系統を伝えた、提案されている標本抽出されていないイヌ科系統と類似しています。最適な混合図も、ダイアウルフからオオカミおよびコヨーテへの遺伝子流動を特徴づけており、これはこの標本抽出されていない祖先系統の供給源かもしれません。しかし、コヨーテやオオカミではなくドールが混合している、との想定もデータに同様の適合度を提供し、現生のオオカミ的なイヌ科間の関係はこの標本抽出されていない混合を必要とせずにモデル化できます。追加のイヌ科系統を含むイヌ科の集団史のモデルは、他の既知で謎めいた混合事象を浮き彫りにしており、ダイアウルフにつながる遺伝子流動事象を特定します。謎めいた混合を反映しているかもしれない、ドール系統からリカオン系統への遺伝子移入の混合裏づけもと、他の以前に検出された混合事象への一貫した裏づけが見つかりました。これらの調査結果から、この手法が多様なイヌ科にわたる交雑の検出に高感度であることが補強されます。

ダイアウルフにおける二重祖先系統の裏づけを評価するために、さまざまな複雑さのモデルが検証されました。裏づけられた最も単純なモデルは2回の混合事象を必要としましたが、3回の混合事象のモデルもデータに適合し、より広範な図の形態が得られ、それにはダイアウルフ以外の系統が混合した想定も含まれます。配列および遺伝子型呼び出し戦略が比較され、混合推定への影響が評価されました。パンゲノム配列比較からのConsensify方式の疑似半数体遺伝子型呼び出しは、他の手法と比較して偏りの減少を示しましたが、この手法にはより多くの読み取り一致が必要で、低被覆度の領域ではマッピングの歪みを増幅するかもしれません。参照配列比較戦略では、アレル頻度や系統発生の兆候に違いが観察されました。


●ダイアウルフの進化史

後期更新世のダイアウルフは2祖先集団間の交雑によって形成された混合イヌ科系統の子孫で、一方はアフリカジャッカルと他のオオカミ的なイヌ科(イヌ亜科)の分岐後に南アメリカ大陸のイヌ科(カニクイイヌ亜族)につながる枝に沿った集団で、もう一方はリカオンの出現後に分岐したより新しく派生したオオカミ的系統です。この二重祖先系統は、本論文と先行研究で観察された核遺伝子系統樹の不一致を説明し、本論文の反復洗練ダイアウルフ参照配列とイヌ科パンゲノムの両方を用いた分析によって裏づけられ、配列比較戦略全体の堅牢性が論証されます。

これらの2種類のマッピング手法を用いて推定された系統発生間の主要な差異はダイアウルフの深い少数の祖先構成要素の位置づけで、パンゲノム手法はこの祖先系統を南アメリカ大陸のイヌ科の多様性内に、反復手法はイヌ族外に位置づけます。この不一致の原因は部分的には、洗練されたダイアウルフの参照配列について外群アカギツネの配列比較における参照配列の偏りに起因し、それは不快祖先系統構成要素をこの集団に向けて牽引します。これらの結果から、主要なダイアウルフの祖先はリカオン系統の後に、おそらくは北アメリカ大陸へと戻って拡大した絶滅イヌ属集団から分岐した、と示唆されます。

イヌ科間における遺伝子流動の遍在は、これらの分類群間における混合事象の正確な配置の推定において課題となります。本論文の最も単純な裏づけられているモデルは、ダイアウルフ祖先系統の説明に2回の混合事象を必要としますが、3回の混合事象のより複雑なモデルもデータに適合し、他の系統が混合している図を含めて、代替的な想定が得られます。この広範な交雑史を考えると、真の集団史はあらゆる単一モデルが把握できるよりも複雑である可能性が高そうです。それにも関わらず、ダイアウルフの二重祖先系統に関する本論文の結論は、さまざまなモデルと配列比較戦略と複雑さの水準で堅牢に裏づけられます。

他のオオカミ的なイヌ科と比較してのオオカミおよびコヨーテにおける過剰な基底部祖先系統は以前に、リカオンの分岐後に出現した未知のオオカミ的系統との遺伝子流動に起因する、とされました。本論文の結果から、ダイアウルフ内のこのオオカミ的系統は、おそらくダイアウルフを媒介した遺伝子流動によって、オオカミおよびコヨーテにも祖先系統をもたらした、と示唆されます。しかし、分岐したイヌ科系統間の遺伝子流動は一般的で、オオカミ的なイヌ科の関係はこの未知の系統の想定なしにモデル化できる、と推測されます。本論文の混合図分析は、東コヨーテやアメリカオオカミやアフリカンゴールデンウルフやドールにおける以前には報告されていなかった遺伝子流動事象を解明し、ダイアウルフとともに放浪していたコロンビアマンモスでも明らかになったように、主要な進化圧としての分岐後の遺伝子流動と交雑種分化の可能性が分かりました[39、40]。


●核ゲノム推論への反復的手法

これまでのコンセンサス呼び出しと組み合わされた反復マッピングは、古ゲノミクスにおける参照配列の偏りおよびDNA損傷の影響を軽減するのに役立つことができる、と論証されました。EAGERは同様の伝統的な手法を用いていますが、単一のマッピング回のみを採用しているので、読み取り数の捕獲は少なくなります。反復構築手法は通常、計算上の制約のためミトコンドリアゲノムに限定されますが[42]、先行研究[28]では、デニソワ人のゲノムに反復マッピングを2回適用することに成功しています(ただ、低被覆度の空白をヒトの配列で埋めており、偏りが生じます)。複数回で観察された改善を考えると、とくに近い参照ゲノムが利用可能ではない場合には、この手法が推奨されます。

重要な懸念は、シード参照配列が分岐しすぎている場合、反復マッピングが偏りを減少させるのではなく、悪化させるかもしれないのかどうか、ということです。たとえば、この手法は最も類似した古代の読み取りのマッピングのみを可能としており、情報をもたらす差異は隠されるかもしれません。独立したダイアウルフ個体(ダイアウルフSP)を用いての本論文のD統計[28]およびIBS分析は、複合偏りを明らかにしませんでした(図2)。むしろ、グリーンランドオオカミのシード参照配列への偏りの減少と、全読み取り長にわたるマッピング改善が観察されましたが、残存の偏りは予測されたようにより短い読み取りで残ります。

パンゲノム手法は、複数の分岐した種を同時にマッピングすることによって、反復マッピングへの補完戦略を提供します。パンゲノムは、単一の参照配列マッピングでは見逃される、高度に分岐した読み取りと構造的な多様体を把握します。しかし、パンゲノムでさえ、表現された経路に存在しないハプロタイプを把握できません。反復マッピングをパンゲノム手法と組み合わせる将来の最適化は、短い読み取りデータからの古ゲノムの精度をさらに改善するでしょう。


●まとめ
これらのデータは、この象徴的な種【ダイアウルフ】の進化史に新たな知見を提供します。再構築された参照古ゲノムは、より広範な研究界隈に情報源を、高被覆度の古代DNAの活用を目指す将来の研究に行程表を提供します。名家の複雑な系譜が綿密な系譜学的研究によって明らかになるのと同様に、ダイアウルフの真の祖先系統、つまり古代のイヌ科2血統の結合から生じた交雑系統から、進化の最大の圧力は深い時間で作られた予期せぬ同盟から生じることが多い、と論証されます。本研究は、イヌ科の進化のより広範なパターンにおけるダイアウルフとその位置づけの理解を深めて、絶滅した場合でさえ、これらの雄大な動物が生命史の複雑な綴れ織りを解明し続ける、と証明します。


●本研究の限界

本研究には、上述にはないいくつかの限界があります。第一に、高品質のダイアウルフ標本の数が限られていました(2点)。これらのデータは大きな時間規模(約6万年間)の差異を把握しましたが、追加の高被覆度の標本は、下流分析にさらなる裏づけを提供できるでしょう。第二に、イヌ科の化石記録におけるデータの欠落によって、分岐時期推定などダイアウルフの進化史における重要な事象を解決し、混合系統を明らかにする能力が制約されました。これらの推論の精緻化には、化石標本の将来の発見と配列決定が必要でしょう。最後に、現時点ではどのジャッカル種でも高品質な参照ゲノムがなく、本論文のイヌ科パンゲノムにおけるこの単系統群の代表性が制約されています。これらの情報源の生成は、イヌ科の進化的関係の解決を目指す将来の研究に有益となるでしょう。


参考文献:
Gedman GL. et al.(2026): On the ancestry and evolution of the extinct dire wolf. Cell Genomics, 6, 8, 101306.
https://doi.org/10.1016/j.xgen.2026.101306

[2]O’keefe FR. et al.(2023): Pre–Younger Dryas megafaunal extirpation at Rancho La Brea linked to fire-driven state shift. Science, 381, 6659, eabo3594.
https://doi.org/10.1126/science.abo3594
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[11]Perri AR. et al.(2021): Dire wolves were the last of an ancient New World canid lineage. Nature, 591, 7848, 87–91.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-03082-x
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[17]Westbury MV. et al.(2020): Hyena paleogenomes reveal a complex evolutionary history of cross-continental gene flow between spotted and cave hyena. Science Advances, 6, 11, eaay0456.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aay0456
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[28]Meyer M. et al.(2012): A High-Coverage Genome Sequence from an Archaic Denisovan Individual. Science, 338, 6104, 222-226.
https://doi.org/10.1126/science.1224344
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[39]Valk T. et al.(2021): Million-year-old DNA sheds light on the genomic history of mammoths. Nature, 591, 7849, 265–269.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03224-9
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[40]James Mallet.(2007): Hybrid speciation. Nature, 446, 7133, 279-283.
https://doi.org/10.1038/nature05706
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[42]Green RE. et al.(2008): A Complete Neandertal Mitochondrial Genome Sequence Determined by High-Throughput Sequencing. Cell, 134, 3, 416-426.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2008.06.021
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