真社会性哺乳類における繁殖抑制

 真社会性哺乳類における繁殖抑制についての研究(Khallaf et al., 2026)が公表されました。真社会性は哺乳類ではきわめて稀であり、その至近機構は依然として充分には理解されていません。ハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber)はその顕著な例で、地下に大規模なコロニーを形成し、繁殖は1個体の女王だけに限定されており、他の全ての雌は繁殖能力を有していません。ハダカデバネズミでは、この女王が、社会性のアリやハチにより近い階級制の社会システムを支配しています。

 本論文は、この繁殖における階級制を調節し得る、女王の化学シグナルを特定しました。化粧品に広く使われている成分であるミリスチン酸イソプロピルは揮発性の低いエステルで、女王には豊富に存在する一方、非繁殖個体にはほとんど確認されませんでした。ミリスチン酸イソプロピルは、末梢および中枢の嗅覚ニューロンによって検出され、上位個体に回避行動を引き起こします。ミリスチン酸イソプロピルへの曝露は、非繁殖個体でプロラクチンとプロゲステロンの濃度を変化させ、これらの個体で繁殖を抑制します。

 女王のいないコロニーにミリスチン酸イソプロピルを毎日添加すると、上位の雌は平静を保ち、女王の座を巡って争わなくなり、結果として、後継女王の出現が阻止されましたが、添加を中止すると、攻撃行動と繁殖を巡る競争が誘発されました。ミリスチン酸イソプロピルは、オオデバネズミ属 (Fukomys)属の複数のデバネズミ種の繁殖雌からも検出されましたが、ハダカデバネズミではその濃度がより高く、これは同種における極端な繁殖の偏りと対応しています。これらの知見では、哺乳類で繁殖抑制を媒介し得る化学的合図が明らかになっており、昆虫と哺乳類の真社会性が結びつけられています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


社会進化学:ある真社会性哺乳類では、女王のにおいが繁殖抑制を媒介する

Cover Story:「香気」なる女王:においの放出がハダカデバネズミの女王による繁殖の独占を助ける

 ハダカデバネズミ(Heterocephalus glaber、表紙写真)は、アフリカの角地域に固有の齧歯類である。ハダカデバネズミは地下に大規模なコロニーを形成し、繁殖する女王は1個体しかいない。この女王が、社会性のアリやハチにより近い階級制の社会システムを支配している。しかし、この階級制がどのように維持されるのかは、長い間謎だった。今週号ではM KhallafとG Lewinたちが、何がハダカデバネズミの女王をその王座にとどめているのかを調べている。著者たちは、女王が産生し、コロニー内で繁殖における階級制を調節する化学シグナルを特定した。それは、化粧品に広く使われている成分であるミリスチン酸イソプロピルであり、女王はこの化合物を放出することで、他の雌の繁殖を抑制していた。重要なことに、繁殖女王を取り除いた後のコロニーへミリスチン酸イソプロピルを人為的に添加すると、上位の雌は平静を保ち、女王の座を巡って争わなくなり、結果として、コロニーは女王不在の状態が続くようになった。ところがミリスチン酸イソプロピルの添加をやめると、たちまち激しい競争を通じて新たな女王が出現した。研究チームは、単一のにおいを使って繁殖を抑制することは哺乳類では極めて異例であり、ハダカデバネズミの社会システムが社会性昆虫のものと関連すると指摘している。



参考文献:
Khallaf MA. et al.(2026): A queen odour mediates reproductive suppression in a eusocial mammal. Nature, 656, 8127, 390–398.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10772-5

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