デニソワ人と確認された新たな人類遺骸

 3年前(2023年)の9月に、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)についてまとめましたが(関連記事)、その後もデニソワ人に関する研究の進展は目覚ましく、そのうちまとめようと思いつつも、怠惰なので進んでいません。今回は、前回のデニソワ人に関するまとめ記事以降に新たにデニソワ人と特定された人類遺骸について短くまとめておき、次のまとめ記事に活かすつもりです。この他にも、この3年間のデニソワ人に関する研究の進展は目覚ましく、毎年とまではいかずとも、2年間に1回くらいはまとめ記事を更新していかねばならないかな、と考えています。

 前回のまとめ記事でも述べましたが、デニソワ人は、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見された、現生人類(Homo sapiens)ともネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)とも異なる後期ホモ属の分類群です。人類系統の分類群は基本的には形態学的に定義されていますが、デニソワ人は人類系統の分類群としては例外的に、遺伝学的に定義された分類群です。デニソワ人については、詳細な遺伝学的情報が得られているものの、形態学的情報がきわめて少なく、遺伝学的情報が得られていないものの、それなりに形態学的情報は得られている個体がデニソワ人系統に属しているのか、判断が難しい状況でした。こうした状況は、分子生物学的手法によってデニソワ人と特定されるホモ属遺骸が増えつつある現在、大きく変わってきている、と言えそうです。

 チベット高原では、プロテオーム(タンパク質の総体)解析や堆積物のDNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)解析によってデニソワ人の存在が確認されていましたが、2年前の研究(Xia et al., 2024)ではプロテオーム解析によって、チベット高原で発見された人類遺骸が新たにデニソワ人と特定されました。この肋骨は、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave)で発見されました。注目されるのは、この肋骨(夏河2号)の年代が48000~32000年前頃と推定されていることで、チベット高原における最初期現生人類の年代(Ge et al., 2024)と重複しています。チベット高原では一定期間デニソワ人と現生人類が共存していたかもしれませんが、チベット高原は広いだけに、両者の実際の接触頻度がどの程度だったのかは、まだ不明です。

 台湾本島と澎湖諸島の間の水深60m~120mの海域で、他の脊椎動物とともに漁網にかかって発見された、「澎湖1号(Penghu 1)」と呼ばれているホモ属の下顎骨は、以前からデニソワ人系統に属する可能性が指摘されていましたが、プロテオーム解析によってデニソワ人系統と示されました(Tsutaya et al., 2025)。この下顎骨からは有用な形態学的情報も得られているので、これはデニソワ人研究の進展に大きく貢献すると思います。この研究で重要なのは、デニソワ人の分布範囲がアルタイ山脈やチベット高原のような比較的寒冷な地域のみならず、時期によっては亜熱帯と言えそうな地域にも及んでいたことです。ただ、デニソワ人がどのような気候条件の時代に台湾周辺に存在したのか、まだ確定していません。

 中華人民共和国黒竜江省ハルビン市で1933年に松花江(Songhua River)における東江橋(Dongjiang Bridg)の建設中に発見された、と報告されている146000年以上前のホモ属頭蓋(ハルビン頭蓋)も、デニソワ人系統の可能性が以前から指摘されていましたが、プロテオーム解析(Fu et al., 2025A)とmtDNA(mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)解析(Fu et al., 2025B)によって、デニソワ人系統に属する、と示されました。このハルビン頭蓋は以前からホモ・ロンギ(Homo longi)と分類されており、種区分が定まっていないデニソワ人の正式な分類名称はホモ・ロンギになるかもしれません。このハルビン頭蓋は保存状態が良好で、多くの形態学的情報を得ることが可能なため、他の遺伝学的情報を得られていないホモ属化石がデニソワ人系統なのか否か、判断が以前よりずっと容易になった点でも、この二つの研究の意義は大きいように思います。

 こうしたデニソワ人系統に属すると新たに示されたホモ属頭蓋を含めて、ホモ属の形態から進化系統樹を構築した研究(Feng et al., 2025)によると、ハルビン頭蓋は夏河1号や澎湖1号などと共にロンギ単系統群(クレード)を形成しています。ただ、この研究では、ネアンデルタール人単系統群がロンギ単系統群と現生人類単系統群(サピエンス単系統群)の共通祖先と分岐した後に、ロンギ単系統群とサピエンス単系統群が分岐したことになります。前回のまとめ記事で述べましたが、核DNAというか常染色体DNAでは、まず現生人類系統とネアンデルタール人およびデニソワ人の共通祖先の系統が分岐し、mtDNAとY染色体DNAでは、まず現生人類およびネアンデルタール人の共通祖先の系統とデニソワ人系統が分岐した、と推定されています。形態に基づく系統樹はDNAに基づく系統樹と一致せず、形態に基づく進化系統樹を直ちに有力な新説と認めることは難しいように思います。

 デニソワ人の存在が確認された当初から、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸の中に、デニソワ人に分類できる化石があるのではないか、との見解が提示されていました(Reich et al., 2010)。形態に基づく進化系統樹でも、ロンギ単系統群には中国で発見された中期~後期更新世ホモ属遺骸が含まれており、具体的には、河北省張家口市陽原県の許家窯(Xujiayao)遺跡や遼寧省営口市の金牛山(Jinniushan)遺跡や安徽省池州市東至県の華龍洞(Hualongdong)遺跡で発見されたホモ属遺骸です。これらの遺骸のDNA解析は難しそうですが、中華人民共和国江西省の吹風(Chuifeng)洞窟で発見された、190万±20万年前と推定されているギガントピテクス・ブラッキー(Gigantopithecus blacki)のプロテオーム解析に成功しているので(Welker et al., 2019)、中期~後期更新世ホモ属遺骸のプロテオーム解析は有望なように思います。もし成功すれば、中国で発見された分類の曖昧な中期~後期更新世ホモ属遺骸の進化系統樹における位置づけがもっと明確になるのではないか、と期待されます。

 中華人民共和国の北京市の周口店(Zhoukoudian)遺跡と河南省洛陽市欒川(Luanchuan)県の孫家洞(Sunjiadong)遺跡と安徽省馬鞍山市の和県(Hexian)遺跡で発見された、40万年前頃のホモ属遺骸のプロテオーム解析を報告した研究(Fu et al., 2026)では、これらのホモ属はデニソワ人およびネアンデルタール人および現生人類の共通祖先の系統と100万年前頃に分岐した系統に属する、と推定されています。和県遺跡個体は、形態に基づく系統樹では、ネアンデルタール人単系統群とロンギ単系統群とサピエンス単系統群を含む単系統群と200万~150万年前頃に分岐した単系統群に属しています(Feng et al., 2025)。これは、プロテオーム解析に基づく系統樹と整合的と言えそうです。注目されるのは、孫家洞遺跡個体を含む系統からデニソワ人系統へと遺伝子流動の可能性が指摘されていることです(Fu et al., 2026)。これは、前回のまとめ記事でも述べた後期ホモ属における複雑な遺伝的混合を裏づける知見かもしれません。今後もユーラシア東部では、デニソワ人系統と特定されるホモ属遺骸が増えていくと期待され、できるだけ最新の研究を追いかけていきたいものです。


参考文献:

Fu Q. et al.(2025A): The proteome of the late Middle Pleistocene Harbin individual. Science, 389, 6761, 704–707.
https://doi.org/10.1126/science.adu9677
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Fu Q. et al.(2025B): Denisovan mitochondrial DNA from dental calculus of the >146,000-year-old Harbin cranium. Cell, 188, 15, 3919–3926.E9.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2025.05.040
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Fu Q. et al.(2026): Enamel proteins from six Homo erectus specimens across China. Nature, 655, 8121, 141–147.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10478-8
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Ge J. et al.(2024): New dating indicates intermittent human occupation of the Nwya Devu Paleolithic site on the high-altitude central Tibetan Plateau during the past 45,000 years. Science China Earth Sciences, 67, 2, 531–551.
https://doi.org/10.1007/s11430-022-1225-7

Reich D. et al.(2010): Genetic history of an archaic hominin group from Denisova Cave in Siberia. Nature, 468, 7327, 1053-1060.
https://doi.org/10.1038/nature09710
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Tsutaya T. et al.(2025): A male Denisovan mandible from Pleistocene Taiwan. Science, 388, 6743, 176–180.
https://doi.org/10.1126/science.ads3888
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Welker F. et al.(2019): Enamel proteome shows that Gigantopithecus was an early diverging pongine. Nature, 576, 7786, 262–265.
https://doi.org/10.1038/s41586-019-1728-8
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Xia H. et al.(2024): Middle and Late Pleistocene Denisovan subsistence at Baishiya Karst Cave. Nature, 632, 8023, 108–113.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07612-9
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