中期更新世ホモ属のタンパク質解析

 中国で発見された中期更新世ホモ属のタンパク質を報告した研究(Fu et al., 2026)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、中国で発見されてホモ・エレクトスに分類されている中期更新世の化石6点から、エナメル質タンパク質の解析に成功しました。その結果、これら6個体に共通するアミノ酸多様体が2ヶ所見つかりました。一方は他の人類系統ではまだ特定されていませんが、もう一方はデニソワ人系統と一部の現代人集団で確認されました。この一部の現代人集団にはデニソワ人からの遺伝子流動が確認されており、本論文は、これがホモ・エレクトスからデニソワ人を経て一部の現生人類集団へと伝わったのではないか、と推測しています。中期更新世の人類遺骸のゲノム解析は難しいため、得られる遺伝的情報はゲノムよりもずっと少ないとはいえ、解析がより容易なタンパク質は、今後も人類進化史の解明に大きく貢献していくのではないか、と期待されます。

 以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)、A(adenine、アデニン)、G(guanine、グアニン)、PSM(peptide spectrum matches、ペプチド範囲一致)、MALDI-TOF(matrix-assisted laser desorption/ionization-time-of-flight、マトリックス支援レーザー脱離/電離飛行時間型)、SAP(single–amino acid polymorphism、単一アミノ酸多型)、LC–MS/MS(liquid chromatography–tandem mass spectrometry、液体色層縦列質量分光法)、C(carbon、炭素)、N(nitrogen、窒素)、RY(ratio of peptide counts covering the AMELY-specific positions relative to all peptides from both AMELY and AMELX、AMELYおよびAMELX両方の全てのペプチドと比較してのAMELY固有部位を網羅するペプチドの数の比率)、HGDP(Human Genome Diversity Panel、ヒトゲノム多様性パネル)です。

 以下のタンパク質とアミノ酸の略称は、AMEL(amelogenin、アメロゲニン)、AMELY(amelogenin Y isoform、アメロゲニンのYアイソフォーム)、AMELX(アメロゲニンのXアイソフォーム)、AMBN(ameloblastin、アメロブラスチン)、AHSG(alpha-2-HS-glycoprotein、アルファ2HS糖タンパク質)、ALB(Albumin、アルブミン)、AMTN(Amelotin、アメロチン)、ENAM(Enamelin、エナメリン)、KLK4(kallikrein related peptidase 4、カリクレイン関連ペプチド加水分解酵素4型)、MMP20(Matrix metalloproteinase 20、マトリックスメタロプロテアーゼ20型)、ODAM(Odontogenic Ameloblast-associated protein、歯原性エナメル芽細胞関連タンパク質)、SERPINC1(SerpinC1、セルピンC1型)です。

 本論文で取り上げられる主要な人類は、パラントロプス・ロブストス(Paranthropus robustus)、ホモ・ジョルジクス(Homo georgicus)、ホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)、ホモ・エレクトス(Homo erectus)、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)、現生人類(Homo sapiens)、です。

 本論文で取り上げられる主要な中華人民共和国の遺跡は、北京市の周口店(Zhoukoudian)、河南省洛陽市欒川(Luanchuan)県の孫家洞(Sunjiadong)、安徽省馬鞍山市の和県(Hexian)、陝西省藍田県の公王嶺(Gongwangling)、江蘇省南京市の猿人洞とも呼ばれる湯山洞窟(Tangshan Cave)、雲南省楚雄イ族自治州の元謀(Yuanmou)、山東省の沂源(Yiyuan)県です。

 本論文で取り上げられる中華人民共和国以外の主要な遺跡は、スペインのアタプエルカ山地(Sierra de Atapuerca)のシマ・デル・エレファンテ(Sima del Elefante)、ジョージア(グルジア)のドマニシ(Dmanisi)、台湾沖の澎湖海峡(Penghu Channel)、ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2、略してTNH2)遺跡(コブラ洞窟)です。


●要約

 ホモ・エレクトス遺骸はアフリカとユーラシアとアジア南東部で発見されてきており[2、3]、200万年前頃にさかのぼれますが、その年代と保存状態のため、それらの遺骸からの情報をもたらす分子データの取得は困難と証明されてきました。この研究は、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡で発見された40万年前頃の中期更新世のホモ・エレクトスの男性5個体と女性1個体から、古代のエナメル質タンパク質の抽出に成功し、それらを分析しました。3ヶ所すべての遺跡の全標本は、2ヶ所のアミノ酸多様体を共有しています。これらのうち、AMBNのA253Gは以前には知られておらず、ジョージア(グルジア)のドマニシのホモ・エレクトス【別種のホモ・ジョルジクスに分類する見解もあります】やスペインのアタプエルカのホモ・アンテセッサーやデニソワ人やネアンデルタール人や現生人類を含めて、他のヒト系統では特異されていませんでした。もう一方の多様体であるAMBN(M273V)は以前にデニソワ人で特定されており、この証拠は今や、その多様体がこれら中期更新世ホモ・エレクトスと関連する人口集団を通じてもたらされたかもしれない、と示唆しています。デニソワ人のゲノムにおける超越古代型遺伝子移入に由来するこの領域は、その一部が後に現生人類へと受け継がれ、ホモ・エレクトスに起原だった可能性が高そうです。中期更新世後期のホモ・エレクトスはアジア東部の一部でデニソワ人と共存していたかもしれず、そこではこれらの相互作用が起きた、と推定されます。


●研究史

 広義のホモ・エレクトスは3大陸全域に広く分布しており、地質学的に長きに亘って生存し、200万年近く存続しました[2、3]。ホモ・エレクトスはアフリカからアジア西部へと広がった、と考えられており(ジョージアのドマニシでは180万年前頃)、アフリカ外のホモ属の最古級の一般的に認められている証拠となります[4、5]。ヨーロッパで発見された最古級のホモ・エレクトス標本は、シマ・デル・エレファンテ(スペインのアタプエルカ山地)のTE7層で発見され[6]、年代は140万~110万年前頃の間です。中国とインドネシアへの拡散後、ホモ・エレクトスはかなりの地質学的期間にわたってこれらの地域で存続しました。中国では、ホモ・エレクトスの記録は210万~160万年前頃までさかのぼり[8、9]、40万~30万年前頃に消滅しています。インドネシアのジャワ島では、ホモ・エレクトスの化石の範囲は、150万年前頃から、最近では10万年前頃までとなります。総じて、ホモ・エレクトスはヒトの進化にいて重要な役割を果たしてきました。この系統の分子的特性の理解は、ホモ属を通じての人類の生物学をより深く理解するのに不可欠です。それにも関わらず、ホモ・エレクトスから以前に回収された唯一の分子データは、アジア西部のジョージアのドマニシに由来する、177万年前頃の1点のはから抽出されたペプチドから構成されています。しかし、これらの配列には、ホモ・エレクトスを他のヒト系統から区別できるSAPが欠けています[11]。

 周口店化石によって表されるホモ・エレクトス標本の年代は、中国北部の中期更新世となる78万~30万年前頃です[12]。ホモ・エレクトスは、すべてのホモ・エレクトスもしくはアジアのホモ・エレクトスの全体的な解剖学的特徴の主要な参照として、頻繁に用いられています。この集団はホモ・エレクトスの起源と進化に関する研究において、重要な役割を果たしてきました。周口店化石の研究は、インドネシアのジャワ島の化石が類人猿なのかヒトなのか、という議論を決着させ、ヒト系統内におけるホモ・エレクトスの系統的位置を確証しました。周口店化石に加えて、いくつかの他の中期更新世ホモ・エレクトス化石が中国では発見されてきて、それには41万年前頃の和県遺跡遺骸や少なくとも58万年前頃となる南京の湯山洞窟遺骸や40万年前頃の孫家洞遺跡の遺骸が含まれます。南京および孫家洞化石が周口店化石と類似した形態を示すのに対して、和県遺骸は形態学的に周口店化石よりもインドネシアのジャワ島化石の方と近くなっています。さらに、いくつかの類似性が、デニソワ人と推定されている台湾の澎湖海峡の中期~後期更新世下顎骨と共有されています[21]。これらの化石のうち複数からタンパク質を回収すれば、こうした化石が、他の化石と区別でき、中期更新世ホモ・エレクトスの遺伝的資料への知見を提供できる、共通の分子的特性を有しているのかどうか、判断するのに役立つでしょう。

 この研究のタンパク質実験および分析でもちられた化石は、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡で発見されています(図1)。中国北部の北京の周口店で1927~1937年の間に発掘されたヒト化石は失われましたが、いくつかのヒト化石が1949~1951年の間にこの遺跡で発見され、1966年にも再び発見されました。この研究で用いられたヒトの歯(PA69)は第8~9層に由来し、1949~1951年の間に発見されました。中国南部の安徽省の和県遺跡で発見されたの2点のヒトの歯と、中国北部の河南省の孫家洞遺跡で発見された3点のヒトの歯も研究されました。孫家洞遺跡の歯のうち2点(12SJD1#10-42と12SJD1#10-45)は第4層で、他の歯(12SJD1#14-22)は第5層で発見されました。まとめると、これら3ヶ所の遺跡の標本6点全ての年代は40万年前頃で、およそ同年代となり、中国の南両方の個体を表しています。さらに、中国のハルビンの以前に報告されたデニソワ人頭蓋[27、28]の歯1点も含められました。以下は本論文の図1です。
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●動物化石のタンパク質の保存状態

 まず、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡の【非ヒト】動物化石のタンパク質の保存状態を調べることによって、古代人化石を損傷せずに、分析の可能性について最初の知見が得られました。MALDI-TOF質量分析法を用いての検証では、周口店遺跡の8点の標本、和県遺跡の40点の標本、孫家洞遺跡の37点の標本で、動物の象牙質もしくは骨における古代のタンパク質の証拠は明らかになりませんでした。しかし、これらの各遺跡の3点と14点と5点の動物の歯のエナメル質は、タンパク質の兆候を示しました。動物のエナメル質から得られたプロテオーム(タンパク質の総体)データ回収の成功から、ヒトの歯のエナメル質タンパク質の抽出は可能と示唆されます。


●内在性エナメル質プロテオーム

 古代エナメル質タンパク質は、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡のホモ・エレクトスの歯6点と、中国のハルビンの歯1点から、最小限侵襲技術を用いて抽出に成功しました。内在性ペプチド配列の検索に用いられたデータベースには、現代時゜んおよび他の人類の翻訳ゲノムおよび刊行されているプロテオームから得られたエナメル質タンパク質が含まれており[11、31]、LC–MS/MSの連続体データは、MaxQuantとPEAKS OnlineとpFindを用いて分析されました。これらの手法で、7点の標本全体で、4097~22107点のPSM、652~3476点のペプチドが生成されました。複数の遺伝子と一致するペプチドは非特異的とみなされ、以後の分析から除外されました。

 次に、いくつかの基準に基づいて、これらエナメル質タンパク質の内在性が評価されました。その基準は、(1)7点のヒト標本すべてでタンパク質とアミノ酸の特性が類似しており、他の刊行されている古代エナメル質タンパク質[35]と一致し、外来性汚染は最小限であること(図2a)、(2)ペプチド長とペプチド結合加水分解の水準が他の古代エナメル質タンパク質[11、35]に典型的であること、(3)脱アミノ化水準の上昇はより広範なタンパク質分解を示唆しており、古代プロテオームを確証するのに役立つこと[11、36]です。以下は本論文の図2です。
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 これらの基準によって、7点の標本について、6~11種類のエナメル質関連タンパク質(たとえば、AMEL、AHSG、ALB、AMBN、AMTN、COL17A1、ENAM、KLK4、MMP20、ODAM、SERPINC1)から回収された、650~3457点のペプチドが生成されました。タンパク質のPSM網羅率は図3aと補足図4に示されています。合計で、各標本からの内在性タンパク質の一致配列が、PEAKS OnlineとpFindとMaxQuantにおける重複するアミノ酸範囲の保持によって構築され、6点のホモ・エレクトス標本およびハルビンの1個体で269~903ヶ所のアミノ酸部位が網羅されました。以下は本論文の図3です。
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●性別判定

 男性固有の標識AMELYはY染色体上に位置し、歯のエナメル質の発達と関わっており、その存在は男性の判定に用いられています。しかし、エナメル質の限られたデータベースと検索ソフトウェアの高い感度のため、AMELY固有のペプチドの誤検出は、標本を男性と偽陽性で割り当てるかもしれません。この結果が予想外ではないのは、先行研究が検索データベースの偏りから生じる種間プロテオーム効果を論証してきたからです。この問題に対処するために、厳密な選別基準を用いて、内在性プロテオームで特定された全てのSAPの信頼性が確保され、それにはアメロゲニンの性別判定に用いられたSAPが組まれます。

 性別判定をさらな検証するために、protSexInfererが構築されました。これは、AMELYおよびAMELX両方の全てのペプチドと比較しての、AMELY固有部位を網羅するペプチドの数の比(RY)に基づく手法です。性別が確証されている、パラントロプス属標本4点(SK14132、SK830、SK835、SK850)および古代型人類4個体(澎湖1号[35]、ドマニシ個体D4163およびアタプエルカ個体ATD6-92[11]、ラオス_TNH2[43])とともに、古代人16個体と現代人4個体を用いて、RYが0.058を超えていれば、標本は男性、RYが0.024未満であれば標本は女性と分類できます(図2c)。この手法を用いて、周口店遺跡の標本1点と孫家洞遺跡の標本2点とハルビン標本1点は、RYが0.187~0.295なので、男性と特定されました(図2c)。残りの標本である孫家洞遺跡のSJD10A(12SJD1#10-45、成人)はRYが0.019でなので、女性と分類されました(図2c)。性別判定の結果は、先行研究[31]に記載されている強度手法で確証されました。


●SAP

 これらの標本と他のヒトと霊長類との間の関係を調べるために、9点の内在性タンパク質すべてで、現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人とチンパンジーとゴリラとオランウータンに固有のアミノ酸置換がある、ペプチド数が特定されました。これらには、異なる質量分析法装置もしくは実験室に由来する、各アミノ酸アレルにつき少なくとも2点のペプチドが必要でした。内在性プロテオームから回収されたすべてのSAPについて、関連するPSMと結びつくMS/MS連続体が主導で検査され、高エネルギー衝突衝突分離の典型的断片化パターンの存在が確証され、これはこの研究の質量分析法で用いられた断片化手法です。さらにもSAP部位を挟む4点のy/bイオンのうち少なくとも3点が、高品質な確証の保証に必要とされました。ペプチドのCもしくはN末端におけるSAPは、関連するPSMに1点以上のyもしくはbイオンが含まれていた場合に受容され、それは、これらが最大で1点のyもしくはbイオンしか生成できないからです。すべてのSAPはPEAKS OnlineとpFindとMaxQuantを用いてこの手法で確証され、2ヶ所のSAPが確実に特定されました。

 AMBNにおける新たなSAP(A253>G)が周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡のすべてのヒト標本6点で特定され、各標本を裏づけるPSM数はそれぞれ124点と3点と9点と191点と24点と145点で、ペプチド数はそれぞれ21点と2点と4点と39点と9無添と35点でした。6点の標本それぞれにおけるこのSAPの高品質なペプチドには、少なくとも3点のy/bイオンがありました(図3b)。哺乳類とすべての霊長類、アタプエルカのホモ・アンテセッサー[11]、ドマニシのホモ・エレクトス[11]とデニソワ3号と澎湖1号[35]、すべてのネアンデルタール人とHGDPの現代人を含めて、この部位を網羅する利用可能なデータのある比較標本にはほぼ全てAMBN A25があり、数個体の哺乳類がT(ウマ類)かS(ブタ類)かV(小モグラネズミ)の残基を有している、もしくは欠落(ウシ属)していました。したがって、大きく異なる地理的地域を表す中国の南北にわたる3ヶ所の異なる遺跡の、ヒト標本6点すべてで特定されたAMBN(A253G)は、他の霊長類種では以前に特定されておらず、これら中期更新世のホモ・エレクトスに固有の多様体である可能性が高そうです。この変異によって、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡の6点の中期更新世ホモ・エレクトス標本は、系統樹では密接にクラスタ化する(まとまる)ことになります。これらの結果は、和県遺跡の歯がホモ・エレクトスに分類でき、形態に基づいて以前に提案された[21]ような、デニソワ人ではないことも示唆しています。

 もう1ヶ所のSAPであるAMBN(M273V)も、中期更新世ホモ・エレクトス標本6点すべてに存在します(表1、図3)。対応するSNPアレル(rs564905233、A>G)はデニソワ人で見られ、デニソワ人からの遺伝子移入を通じて現代人に寄与したようです。このSNPは、フィリピン人では21%、インドでは1.17%、パプアニューギニアでは0.71%の頻度を示し、ほとんどの他の現代人集団には存在しません。注目すべきことに、ゲノム研究では、デニソワ人は祖先がネアンデルタール人とデニソワ人と現生人類の祖先となる共通の傾倒から100万年以上前に分岐した人類から、0.5~8%の遺伝子流動を受けており[45]、これら「超古代型」DNA領域の約15%はデニソワ人からアジア人およびオセアニア人個体へと遺伝子移入された、と明らかになっています[46]。この状況は、AMBN(M273V)での観察と類似しています。したがって、この多様体はデニソワ人のみに見られるのではなく、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡の中期更新世ホモ・エレクトスと関連する人口集団を通じて、アジアとオセアニアの個体群にもたらされたようです(図4)。以下は本論文の図4です。
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 さらに、AMBNの273番目の部位のタンパク質に対応するrs564905233を含むDNA領域は、感受性領域内多点関連解析を通じて特定されたように、アフリカ人とデニソワ2号との間で、アフリカ人とアルタイのネアンデルタール人との間より大きな配列の差異を示しています。これは、rs564905233を含めてこの領域が、より分岐した超古代型集団に由来するかもしれない、との見解を裏づけます。さらに、AMBN(M273V)多様体はより新しいデニソワ人であるデニソワ3号と澎湖1号では同型接合ですが、既知のより「古い」デニソワ人であるハルビン頭蓋(少なくとも15万年以上前)とデニソワ25号(20万年前頃)[47]の両方では異型接合で(表1、図3b)、初期のデニソワ人は派生的なアレル(対立遺伝子)の頻度がより低かった、と示唆されます。さらに、周口店遺跡と和県遺跡の化石の形態は、ハルビン頭蓋とは異なります[48]。したがって、年代と形態と既知の遺伝的多様体の違いから、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡の化石は初期デニソワ人から除外できます。


●考察と結論

 最近の研究は、ヒトの進化史を解明するための、古代タンパク質解説の可能性を論証してきました[11、35、36、49、50]。しかし、重要な人類で、地理的に多様な地域を移動して居住した最初の人類であるホモ・エレクトスの遺伝的データは不足しています。中国の南北にまたがるよく知られた3ヶ所の遺跡である、周口店遺跡と和県遺跡と孫家洞遺跡の中期更新世ホモ・エレクトス化石6点から得られたエナメル質タンパク質は、ホモ・エレクトスの遺伝的構成への貴重な知見をもたらします。

 これら3ヶ所の遺跡の化石間の形態学的変異性、とくに周口店遺跡および孫家洞遺跡の標本と異なる和県遺跡の標本は、これらの個体がインドネシアのホモ・エレクトス、あるいはデニソワ人とより密接に関連しているのかどうか、という議論を促しました[21]。タンパク質の証拠から、和県遺跡標本は周口店遺跡と孫家洞遺跡のホモ・エレクトス標本のように新たに特定されたAMBN(A253G)変異を有しており、この変異はデニソワ3号や澎湖1号やハルビン頭蓋で見られない、と明らかに示されており、和県遺跡と周口店遺跡と孫家洞遺跡の化石はホモ・エレクトスに位置づけられます。ホモ・エレクトス内の分子的多様性を調べるには、さらなる古プロテオーム研究が必要です。

 AMBN(A253G)およびAMBN(M273V)多様体は、これら6点の中期更新世ホモ・エレクトス標本が属していた人口集団に固有かもしれません。注目すべきことに、AMBN(A253G)は以前にはどのヒトと【非ヒト】霊長類でも観察されておらず、この調査結果はひじょうに貴重となります。これらホモ・エレクトス標本はアジア東部にまたがる3ヶ所の遺跡に由来し、その年代はすべて40万年前頃で、デニソワ人はネアンデルタール人と47万~38万年前頃に分岐しました[45]。デニソワ人の既知の範囲にはアジア北東部のシベリアとチベット高原とハルビン、アジア南東部の澎湖海峡が含まれており、これらのホモ・エレクトスが発見された遺跡は、中国の南北に存在します。この共通の生息地は、これら中期更新世ホモ・エレクトス個体群と関連する人口集団とデニソワ人との間の相互作用の機会を形成します。

 この研究のアジア東部のホモ・エレクトス標本すべてにおける派生的なAMBN(M273V)多様体の特定と、デニソワ人におけるその存在から、ホモ・エレクトスはデニソワ3号のゲノムで特定された超古代型の遺伝子移入の候補供給源となります。この多様体は、デニソワ人と相互作用した中期更新世後期のホモ・エレクトスと関連する人口集団に由来する可能性が高そうで、その期間に、これらの集団はアジア東部で共存していました[51]。異なる期間および地域の分子データを含めて、ホモ・エレクトスに関するさらなる研究は、その大進化および人口多様性およびデニソワ人との相互作用の解明に役立つでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:古代の歯が原初的な人類集団間の交流を示唆している

 約40万年前に中国に生息していた6体のホモ・エレクトス(Homo erectus)の歯から得られたエナメル質タンパク質が、古代の遺伝物質がどのように現代人へ受け継がれてきたのかについて、新たな手がかりを提供している。これらの古人類近縁種に由来するタンパク質の解析結果を報告する論文が、今週のNature にオープンアクセスで掲載される。解析の結果、デニソワ人と呼ばれる、より新しい古人類集団にも見られる遺伝的特徴が特定された。これらの発見は、両集団が東アジアの一部地域で共存し、相互に交流していた可能性を示唆している。

 ホモ・エレクトス――初期のホモ属(Homo)やほかのホミニン(hominins)とは解剖学的に異なり、現代人により近い古代のヒトの近縁種――は、約200万年前に出現し、アフリカからユーラシアおよび東南アジアへと広がったホモ属の最初の種である。この系統がホミニンの進化において果たした役割を理解する一つの方法は、分子データ(DNAやタンパク質など)を研究することである。しかし、古いホモ・エレクトスの標本は年代が古く、保存状態も悪いため、こうした証拠を回収するのは困難であった。

 Qiaomei Fuら(中国科学院古人類及古脊椎動物研究所〔中国〕)は、約40万年前の中国の中期更新世に由来する6点のホモ・エレクトス標本から、歯のエナメル質タンパク質の抽出に成功したことを報告している。これらの化石は、男性5体、女性1体に由来し、周口店(しゅうこうてん;Zhoukoudian)、和県(わせん;Hexian)、および孫家洞(そんかどう;Sunjiadong)の3つの異なる遺跡から出土したものである。6本すべての歯から、2つのアミノ酸変異体が確認された。そのうちの一つ(AMBN〔ameloblastin;アメロブラスチン〕(A253G))はこれまで報告されたことがなく、東アジアのホモ・エレクトスを特徴づける分子マーカーである可能性がある。もう1つの変異(AMBN(M273V))は、以前デニソワ人や一部の現代人において観察されていた。著者らは、AMBN(M273V)が、これらの中期更新世のホモ・エレクトスに関連する集団をつうじて、デニソワ人に導入された可能性があると示唆している。この発見は、デニソワ人を介して現代人に受け継がれた古代の遺伝物質が、ホモ・エレクトスに起源を持つ可能性があることを示唆している。

 著者らは、さまざまな時代や地域のホモ・エレクトス標本からの分子データのさらなる分析が、デニソワ人との交流に関するさらなる情報を明らかにし、ホモ属内の進化に光を当てる助けとなるだろうと結論づけている。


進化学:中国各地の6体のホモ・エレクトス標本から得られたエナメル質タンパク質

進化学:ホモ・エレクトスのエナメル質タンパク質

 今回、中国の3遺跡に由来する6体のホモ・エレクトス(Homo erectus)標本の歯からエナメル質タンパク質が抽出され、得られたペプチドのアミノ酸配列から、ホモ・エレクトスの非常に古い遺伝物質の小さな断片が、デニソワ人を介して現生人類へと伝わった可能性があることが示唆された。



参考文献:
Fu Q. et al.(2026): Enamel proteins from six Homo erectus specimens across China. Nature, 655, 8121, 141–147.
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[3]Mussi M. et al.(2023): Early Homo erectus lived at high altitudes and produced both Oldowan and Acheulean tools. Science, 382, 6671, 713–718.
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