人類の分布範囲へのマラリアの影響
取り上げるのが遅れてしまいましたが、現生人類(Homo sapiens)の分布におけるマラリアの影響についての研究(Colucci et al., 2026)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、カの分布と古気候データと疫学的データを組み合わせて、サハラ砂漠以南のアフリカにおける経時的なマラリア感染の危険性の指標を推定し、現生人類の生態的地位の独立した再構築と相関させることで、現生人類がマラリアの潜在的多発地域を回避していたか、定着に失敗していた、と示しています。ヒトの拡散には、感染のような気候以外の要因も影響していることが窺えます。
以下の略称は、SDM(species distribution model、種分布モデル)、LGM(Last Glacial Maximum、最終氷期極大期)、LAI(leaf area index、葉面積指数)、TSS(true skill statistics、真の技術統計量)です。本論文で取り上げられる病原体のプラスモジウム属(Plasmodium)の主要な種は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)です。本論文で取り上げられる主要なカ科ハマダラカ属は、アノフェレス・メラス(Anopheles melas)、アノフェレス・メルス(Anopheles merus)、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、フネスタスハマダラカ(Anopheles funestus)です。
●要約
気候はアフリカにおける初期のヒトの空間的構成のおもな要因と考えられることが多いものの、遺伝学的および考古学的研究は更新世における選択圧として疾患も示唆しています。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアが74000~5000年前頃のヒト社会における生息地選択を左右していたのかどうか、本論文は調べました。本論文は、カの複合群の種分布モデルと古気候データと疫学的データを組み合わせて、サハラ砂漠以南のアフリカにおける経時的なマラリア感染の危険性の指標を推定しました。本論文は次に、このデータをヒトの生態的地位の独立した再構築と相関させ、ヒトはマラリアの潜在的多発地域を回避していたか、定着に失敗していた、と論証します。本論文の結果は、過去のヒトの人口動態をモデル化するさいに、疾患の分布の考慮の重要性を浮き彫りして、気候以外の要因が人口構造や生息地選択のパターンや拡散の背景にある、と論証します。
●研究史
現生人類にはアフリカにおいて単一の発生地があったわけではない、と論証する証拠が集まりつつあります[1~3]。むしろ、現生人類の最古級の構成員は、アフリカ大陸の大半に広がった小さな人口集団に分かれており、固有の単一の中心地との長年の認識とは大きく異なる想定が提示されています[1~3]。この枠組みの変化は、現生人類の起源においてアフリカの複数の地域と環境[3]と、ヒトが「一般家万能家」の生態的地位を示していた、との認識を示唆しています[4]。種としてのヒトが、亜集団水準では高度に局所的に適応しながら、初期段階から広範な環境を占めていた、と論証する証拠が次第に明らかになりつつあります[5]。結果として、この背景における人口拡大/孤立および生態学的適応の気候機序の特定に、多くの関心が寄せられてきました[6、7]。しかし、さまざまな地域と環境に適応したのはヒトだけではなく、病原体も同様でした。ヒトの適応と拡大の過程を解明する現在の競争において、ヒトの選択圧への気候と疾患とその後の影響との間のつながりには、ほとんど焦点が当てられてきませんでした。現生人類の先史時代の最初期には、何が疾患の負荷だったのでしょうか?疾患は古代のヒトの行動と人口動態にどのような影響を及ぼしたのでしょうか?これらの要因はどのように相互作用し、ヒトの進化の過程、最終的には現在の全人口集団の歴史を累積的に形成した、混合と拡散に影響を及ぼしたのでしょうか?
本論文の目的は、ヒトの過去における疾患の影響の研究によって、これらの問題に取り組むことです。本論文はとくに、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアが、74000~5000年頃の間にサハラ砂漠以南のアフリカにおいて現生人類の歴史をどのように形成したのか、調べます。この期間は狩猟採集民人口集団によるアフリカの内外での大きな人口統計学的拡大[1、7、10~12]から、農耕生活様式の拡大の直前の期間にまでにまたがっています[14]。
マラリアは現在において地球規模の健康問題となっている世界的な主要疾患で、年間に2億6300万人が感染しています。重要なことに、遺伝学的研究でも、マラリアは最近の先史時代[18]や更新世に置いても大きな問題だった、と示唆されており、鎌状赤血球症と関連する変異は熱帯熱マラリア原虫に対応してアフリカで25000~22000年前頃に出現しました。考古学的研究からも、たとえば、殺虫および殺幼虫作用のある化学物質を含む芳香性の葉で寝床に植物を敷くことによって、ヒトが疾患の媒介生物との接触を避けるための処置について、それ以前の間接的証拠が特定されました[19]。他のデータは、特定の場所を避けていた、と示唆しているかもしれません。たとえば、最終間氷期の最盛期(125000~71000年前頃)においてアフリカ北部の主要河川の近くには遺跡が存在しないことは、カ(や他の寄生生物および媒介生物)が繁栄していた、沼地の回避の可能性を示唆しているかもしれません。
マラリアがサハラ砂漠以南のアフリカにおける初期のヒトの居住パターンを形成したかもしれない、との遺伝学的および考古学的データを考えて、マラリアの経時的な分布が再構築されました。過去の疾患の発生およびヒトへの影響の再構築は、そうした遠い時代の直接的な証拠が限られているため、通常は困難だった試みです。本論文はまず、マラリアの主要媒介動物の生態的地位の定量化によって、直接的証拠の不足を克服し、次にこれによって、気候条件に基づく特定の時点の潜在的な空間分布の再構築が可能となりました。これは、現在の発生状況と地域固有の環境および気候変数に基づくSDMの構築と、過去にさかのぼっての範囲の投影によって行なわれました。得られた媒介生物の生息的適合性を疫学的情報と組み合わせることによって、次に、「マラリア安定性指標」として定義され、熱帯熱マラリア原虫によるマラリア伝染の潜在的危険性指標が計算されました。この指標は、マラリアの存続に適した環境および生息地条件を考慮した、マラリア伝染の潜在的安定性を表しているので、伝染の全体的な潜在的危険性が定量化されます。高い安定性指標は、マラリアの存在ではなく、むしろ、存在した場合に持続する潜在的影響を意味していることに、注意してください。このように、本論文はマラリアの経時的な潜在的安定性を推測し、地図化しました。種の生態系や環境や気候変化や病原体安定性(つまり、潜伏期間)を取り込むことによって、マリアナがヒトに影響を及ぼしたかもしれない地域を時空間的に地図化できました。次に、考古学的記録に基づくヒトの適した範囲(ヒト生態的地位)の独立した再構築が用いられ[7]、景観全体にわたるヒトの拡大が追跡されました。これら2点の再構築(潜在的なマラリア危険性とヒトの生息範囲)の比較によって、ヒトの人口動態および拡散へのマラリアの影響を推測し、定量化できました。
鎌状赤血球症の原因となる多様体のモデルから、この変異作物の栽培化よりずっと古く、アフリカ西部のバントゥー人の祖先においてはLGMの直前にまでさかのぼる可能性が最も高い、と明らかになりました。したがって、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアがヒトに強い負荷を貸していたならば、過去にはヒトの居住とマラリアに適した地域との間の重なりは限られており、LGMの間もしくはその直後にアフリカ西部から始まった、じょじょに拡大したことになりそうです(変異が人口集団内で充分に広がり、影響を及ぼす時間を考えると)。本論文の再構築はそのパターンを正確に示しており、ヒトの居住パターンがマラリアの存在によって大きく形成されてきたことを示唆しています。
●研究対象のハマダラカ属の媒介生物の空間的な分布モデル
SDMを使用することで、地域全体の潜在的分布を回収するために、その地点における環境および気候変数に既知の発生を関連づけることによって、研究対象の媒介生物種の現実的な生態的地位の再構築が可能になります。本論文が存在量ではなく発生に焦点を当てているのは、現在の局所的なカの密度が都市化のパターンやヒトの医療介入(殺虫剤の使用など)に大きく影響を受けているからです。一方で、媒介生物の大規模な根絶は依然としてかなり限定的なので、発生はそうした要因に対して比較的堅牢であるはずです。人為的な景観の利用は、ハマダラカ属のカ(したがって、マラリア)の分布に追加の潜在的要因を提供します。景観利用の変化に起因する局所的な生息地における変化を把握するために、自然景観と人為景観の両方における植生構造の定量的代理として、LAIが用いられます。LAIは、気候変数から予測される自然の植生に基づく推定値を、特定の場所における作物や牧草や放牧地への転換率と組み合わせることによって、現在に合わせて推定され、調整されました。本論文が人口密度を考慮しなかったのは、ヒトが狩猟採集民だった(したがって、人口密度が現在の水準とは比較できない)過去にさかのぼるために、カの分布の気候要因に焦点を当てる、モデルを構築したかったからです。本論文のSDMはカの密度ではなく広範囲の地理的地域にわたる存在に焦点を当てているので、この省略はSDMに大きな影響を及ぼさないはずです。それは、アフリカ大陸全域のある種の存在が気候により強い影響を受けるはずである一方で、それは多発地域の密度など他の要因によって影響を受ける局所的な存在量だからです。
選択されたマラリアの媒介生物3集団についてSDMが生成され、それは、ガンビエハマダラカ複合種、別の集団としてのその海水繁殖種(アノフェレス・メラス、アノフェレス・メルス)、フネスタスハマダラカ集団です。これらの種は歴史的記録で分類学的に同定された主要な媒介生物を表しており、さまざまなカ媒介種の中で、最も大きな影響力を有しています。それにも関わらず、過去の環境は、より動物寄生性もしくは機械主義的な行動のカの他種にも適していたかもしれません。媒介西部の選択に対する本論文の結論の堅牢性を調べるために、補足資料にあるいくつかの追加の種を考慮した、全分析が繰り返され(霊長類とウシにも影響を及ぼす一部の種が含まれます)、本論文の重要な結論には定性的影響がありませんでした。種の観察データを環境予測因子と組み合わせて、分析された全期間(図1B・D・F)について、景観全域(図1A・C・Eで例証されています)で、生息適合性(低から高まで)が地図化されました。最適なモデルが全体の予測因子で選択され、最小の閾値は最大TSSで0.7です。これら選択された変数と地図解像度で、現時点で得られた媒介変数分布は、存在データおよび以前に刊行されたSDMと一貫しています。気候に焦点を当てた本論文のSDMと、人口密度も含んだ先行研究との間の、この後者の一貫性は、カの大陸規模の地理的分布はおもに気候が原因である、との本論文の論理を確証します。アノフェレス・メラスとアノフェレス・メルスなどの種の沿岸分布(図1E・F)と、ガンビエハマダラカ複合種の残りのアフリカ西部および中央部における高度に適した地域(図1C・D)が特定されました。以下は本論文の図1です。
●経時的なマラリアの潜在的な危険性
カの複数種の存在の影響が組み合わされ、特定の場所における感染性疾患としてのマラリアの潜在的な伝染危険性を表す、マラリア安定性指標が生成されました。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの潜在的危険性は、マラリアにとって好適な(生態学的)条件を考慮した、伝染の安定性(つまり、通年での一貫した伝染性)を反映しており、概念的には種の生息地適合性のモデル化(たとえば、SDMを用いてのカの生態的地位)と同等です。したがって、マラリアの安定性指標はマラリアの高い危険性と関連した生態学的条件、その結果としてマラリアの潜在的範囲を示唆しているかもしれません。この指標の高い値は疾患の存在を意味しておらず、むしろ、存在した場合の持続性を意味している可能性が高くなります(繰り返すと、SDMから回収された適合性と同等です)。この文脈では、現在の定住生活様式と人々の存在は潜在的範囲に影響を及ぼしませんが、マラリアの発生率には影響し、伝染の実際の危険性が高まります。したがって、マラリア安定性指標は伝染の潜在的安定性を表しており、生態系と熱帯熱マラリア原虫の存続への寄与に基づいて、存在する各媒介生物の影響を組み合わせています(マラリアの伝染の安定性に、一貫して強く影響する因子です)。それにも関わらず、マラリア安定性指標は疾患の発生とも充分に相関する、と示されてきましたが、要注意なのは、他の媒介生物が関わっていた場合、この関係は過去にはより弱かったかもしれないことです。サハラ砂漠以南のアフリカ全域の、過去74000年間にわたるマラリア安定性指標が計算されました。
明らかになったこのパターンは、景観全体の経時的なマラリア安定性の明確な増加を示しています(図2)。マラリアの最初の盛期は6万~5万年前頃の主要な「出アフリカ」拡大に相当しており、先行研究で示唆されていたように、アフリカ大陸から去った特定の集団がマラリアを運んだ可能性がより高そうです。アジア南部の気候条件は、他の媒介カにとって感染の維持に適していた可能性が高そうです。次に、主要な盛期はLGMの直後の13000年前頃に起きており、マラリアの高い安定性の地域の範囲の拡大が、農耕慣行が8000年前頃に始まったずっと前に起きつつあった、と示されています。この結果は、マラリアの選択圧は作物の栽培化に先立っていた、との先行研究の調査結果と一致しており、疾患との接触が激しかったかもしれない期間を示唆しています。本論文の結果は、定住生活様式と人口規模の増加はマラリアの局所的発生に独立した影響を及ぼした、との提案と必ずしも矛盾しないことに要注意です。前に強調したように、得られたマラリア安定性指標は、疾患の局所的発生ではなく、マラリアの潜在的危険性を表しており、その範囲を定量化しています。以下は本論文の図2です。
●ヒトの範囲拡大へのマラリアの影響
次に、狩猟採集民人口集団のみに焦点を当てる、74000~5000年前頃の時間枠を考慮して、本論文のサハラ砂漠以南のアフリカ全域のマラリア安定性指標再構築を、同じ期間と地域の狩猟採集民の潜在的分布の独立した再構築と比較することによって、ヒトの居住パターンへの潜在的なマラリアの危険性の影響が検証されました。狩猟採集民の分布のこれらの再構築は、気候変数と考古学的遺跡の分布との間の関係のモデル化によって、ヒトの生態的地位を再構築するために、SDMを用いて得煮れました。これらの発生は考古学的遺跡の厳選された汎アフリカデータセット(これは先行研究[7]に基づいており、5000年前頃へと拡張されました)に基づいており、生態的地位の経時的変化が考慮されました。強調する価値があるのは、この再構築はマラリアに関する本論文の分析とは完全に独立しているものの、おなじ古気候データを用いているので、この2点の再構築を比較できることです。
現れたパターンは、高いマラリア安定性と現生人類の適合性地域間の負の関係を明らかにしています。これが示唆するのは、アフリカ内のヒトの拡大は熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの存在に大きく影響を受けており、ヒトは経時的にマラリア伝染の高い潜在的危険性の地域を避けていたことです(図3)図3Aでは、ヒトの生息の可能性が最も高い地域(中核地域)が、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの潜在的危険性の地図に重ねられています(黒枠)。この図は、マラリア伝染の低い安定性の地域が、どのようにヒトの居住に一貫してより適していたのか、示しています。経時的に、これはヒトの移動と拡大の潜在的回廊や、孤立したヒト集団の孤立地帯を生み出しました。たとえば、サハラ砂漠とエチオピアの居住可能地帯との間の地域が、分断(たとえば、図3の54000年前頃と、再び8000年前頃)と接続(たとえば、図3の16000年前頃)の周期を経た、と気づくことができます。以下は本論文の図3です。
このパターンをさらに調べるために、景観全体のマラリア安定性指標(中央値と四分位)の水準が推定され、(中核)「ヒト生態的地位」(考古学的遺跡の95%を含む中核地域に基づきます)と「生態的地位外」に区分されました。マラリア安定性指標の水準は、ヒトの範囲外の地域よりもヒトに適した地域の方でずっと低い、と見ることができ、この違いは経時的に持続しています(図3B)。ヒトの生態的地位は、74000年前頃から13000年前頃まで、一貫して低い値によって特徴づけられていました(図3B、たとえば、図3Aの54000年前頃)。14000~13000年前頃まで、マラリア地域とヒトの範囲の周辺部との間の重複が、とくにアフリカ西部で増加したことに気づくこともでき、これは、ヒトがおそらくはそれ以前に到達していなかったより高いマラリア危険性の地域へと進んだことを意味しています。1万年前頃までに、重なりの増加を見ることができ、とくにアフリカ西部では最高値に達し(図3Aの8万年前頃)、これは、鎌状赤血球症の体制変異の最初の拡大と予測されます。
●考察
本論文の結果から、マラリア伝染の潜在的危険性が少なくとも過去74000年間、ヒト集団の空間的構成を形成し、サハラ砂漠以南のアフリカのさまざまな地域への人口を構造化し、一部の局所的人口集団と他集団との接触を減少させ、おそらくは遺伝学的分析によって明らかにされた人口構造[33]に寄与した、と示されます。高いマラリア危険性とヒトの範囲との間の重なりは、アフリカ西部では15000~14000年前頃以後によりはっきり現れるようになります。このパターンは、アフリカ西部のバントゥー人の祖先における鎌状赤血球変異の起源の年代測定を考えると、本論文の予測と一致し、本論文の再構築の間接的な確認を提供します。このパターンは、同時代の媒介生物の主要な3集団のみに基づいたSDMとさほど重要ではない種を含む個々の媒介生物のSDMの両方で見られ、これら3集団はヒトとマラリアの間の相互作用の初期段階から重要な役割を果たした可能性が高い(ものの、今ではさほど目立たないかもしれない他他もの重要な役割は除外されません)、と示唆されます。
さらに、本論文の結果から、農耕牧畜生活様式が始まったとされる8000~7000年前頃以前に、マラリアは13000年前頃にはすでにきわめて高水準で存在していた、と示されます。したがって、本論文の結果から、気候条件のため、マラリアは作物の栽培化の前にすでに選択の主因だったかもしれない、と示唆されます。これらの結果は、新石器化といくつかの伝染性疾患の起源との間のつながりを仮定することへの、警告にもなります。病原体がどのようにして、なぜ、健康問題を超えてヒトに拡大し、影響したのかは、明らかに、依然としてほぼ調べられていないヒトの過去の重要な側面です。
今まで、更新世におけるマラリアの直接的な証拠と精緻な年代測定のために古代ゲノムが利用できなかったことは、プラスモジウム属および現代人の歴史時代および現代のデータへの研究が制約されることによる、課題を表している、と考えられてきました。本論文は、ヒトと病原体の相互作用の直接的な証拠なしに、ヒトの先史時代の最初期における疾患負荷を調べることができる、との概念実証を提供します。これは、複雑な人為的生息地調査もしくは生計経済における大きな変化なしに、気候のみが疾患の存在を判定できるかもしれない、との点でも有益です。
これは多くの疾患に当てはまるかもしれません。本論文の方法論と研究法は、過去における疾患負荷や、これがヒト集団の空間的構成や拡散のパターンや接触/孤立の程度にどのような影響を及ぼしたかもしれないのか、理解するための手段を提供し、現生人類の動的な形成と成立を理解するための、知識の追加的で革新的な側面を表しています。
参考文献:
Colucci M. et al.(2026): Malaria shaped human spatial organization for the past 74 thousand years. Science Advances, 12, 17, eaea2316.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aea2316
[1]Bergström A. et al.(2021): Origins of modern human ancestry. Nature, 590, 7845, 229–237.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03244-5
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[2]Ragsdale AP. et al.(2023): A weakly structured stem for human origins in Africa. Nature, 617, 7962, 755–763.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06055-y
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[3]Scerri EML. et al.(2018): Did Our Species Evolve in Subdivided Populations across Africa, and Why Does It Matter? Trends in Ecology & Evolution, 33, 8, 582-594.
https://doi.org/10.1016/j.tree.2018.05.005
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[4]Roberts P, and Stewart BA.(2018): Defining the ‘generalist specialist’ niche for Pleistocene Homo sapiens. Nature Human Behaviour, 2, 8, 542–550.
https://dx.doi.org/10.1038/s41562-018-0394-4
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[5]Arous EB. et al.(2025): Humans in Africa’s wet tropical forests 150 thousand years ago. Nature, 640, 8058, 402–407.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08613-y
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[6]Timmermann A, and Friedrich T.(2016): Late Pleistocene climate drivers of early human migration. Nature, 538, 7623, 92–95.
https://doi.org/10.1038/nature19365
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[7]Hallett EY. et al.(2025): Major expansion in the human niche preceded out of Africa dispersal. Nature, 644, 8075, 115–121.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09154-0
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[10]Lipson M. et al.(2020): Ancient West African foragers in the context of African population history. Nature, 577, 7792, 665–670.
https://doi.org/10.1038/s41586-020-1929-1
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[11]Poznik GD. et al.(2016): Punctuated bursts in human male demography inferred from 1,244 worldwide Y-chromosome sequences. Nature Genetics, 48, 6, 593–599.
https://doi.org/10.1038/ng.3559
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[12]Skoglund P. et al.(2017): Reconstructing Prehistoric African Population Structure. Cell, 171, 1, 59–71.
http://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2017.08.049
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[14]Fortes-Lima CA. et al.(2024): The genetic legacy of the expansion of Bantu-speaking peoples in Africa. Nature, 625, 7995, 540–547.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06770-6
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[18]Michel M. et al.(2024): Ancient Plasmodium genomes shed light on the history of human malaria. Nature, 631, 8019, 125–133.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07546-2
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[19]Wadley L. et al.(2011): Middle Stone Age Bedding Construction and Settlement Patterns at Sibudu, South Africa. Science, 334, 6061, 1388-1391.
https://doi.org/10.1126/science.1213317
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[33]Lipson M. et al.(2022): Ancient DNA and deep population structure in sub-Saharan African foragers. Nature, 603, 7900, 290–296.
https://doi.org/10.1038/s41586-022-04430-9
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[37]Sikora M. et al.(2025): The spatiotemporal distribution of human pathogens in ancient Eurasia. Nature, 643, 8073, 1011–1019.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09192-8
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以下の略称は、SDM(species distribution model、種分布モデル)、LGM(Last Glacial Maximum、最終氷期極大期)、LAI(leaf area index、葉面積指数)、TSS(true skill statistics、真の技術統計量)です。本論文で取り上げられる病原体のプラスモジウム属(Plasmodium)の主要な種は、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)です。本論文で取り上げられる主要なカ科ハマダラカ属は、アノフェレス・メラス(Anopheles melas)、アノフェレス・メルス(Anopheles merus)、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)、フネスタスハマダラカ(Anopheles funestus)です。
●要約
気候はアフリカにおける初期のヒトの空間的構成のおもな要因と考えられることが多いものの、遺伝学的および考古学的研究は更新世における選択圧として疾患も示唆しています。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアが74000~5000年前頃のヒト社会における生息地選択を左右していたのかどうか、本論文は調べました。本論文は、カの複合群の種分布モデルと古気候データと疫学的データを組み合わせて、サハラ砂漠以南のアフリカにおける経時的なマラリア感染の危険性の指標を推定しました。本論文は次に、このデータをヒトの生態的地位の独立した再構築と相関させ、ヒトはマラリアの潜在的多発地域を回避していたか、定着に失敗していた、と論証します。本論文の結果は、過去のヒトの人口動態をモデル化するさいに、疾患の分布の考慮の重要性を浮き彫りして、気候以外の要因が人口構造や生息地選択のパターンや拡散の背景にある、と論証します。
●研究史
現生人類にはアフリカにおいて単一の発生地があったわけではない、と論証する証拠が集まりつつあります[1~3]。むしろ、現生人類の最古級の構成員は、アフリカ大陸の大半に広がった小さな人口集団に分かれており、固有の単一の中心地との長年の認識とは大きく異なる想定が提示されています[1~3]。この枠組みの変化は、現生人類の起源においてアフリカの複数の地域と環境[3]と、ヒトが「一般家万能家」の生態的地位を示していた、との認識を示唆しています[4]。種としてのヒトが、亜集団水準では高度に局所的に適応しながら、初期段階から広範な環境を占めていた、と論証する証拠が次第に明らかになりつつあります[5]。結果として、この背景における人口拡大/孤立および生態学的適応の気候機序の特定に、多くの関心が寄せられてきました[6、7]。しかし、さまざまな地域と環境に適応したのはヒトだけではなく、病原体も同様でした。ヒトの適応と拡大の過程を解明する現在の競争において、ヒトの選択圧への気候と疾患とその後の影響との間のつながりには、ほとんど焦点が当てられてきませんでした。現生人類の先史時代の最初期には、何が疾患の負荷だったのでしょうか?疾患は古代のヒトの行動と人口動態にどのような影響を及ぼしたのでしょうか?これらの要因はどのように相互作用し、ヒトの進化の過程、最終的には現在の全人口集団の歴史を累積的に形成した、混合と拡散に影響を及ぼしたのでしょうか?
本論文の目的は、ヒトの過去における疾患の影響の研究によって、これらの問題に取り組むことです。本論文はとくに、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアが、74000~5000年頃の間にサハラ砂漠以南のアフリカにおいて現生人類の歴史をどのように形成したのか、調べます。この期間は狩猟採集民人口集団によるアフリカの内外での大きな人口統計学的拡大[1、7、10~12]から、農耕生活様式の拡大の直前の期間にまでにまたがっています[14]。
マラリアは現在において地球規模の健康問題となっている世界的な主要疾患で、年間に2億6300万人が感染しています。重要なことに、遺伝学的研究でも、マラリアは最近の先史時代[18]や更新世に置いても大きな問題だった、と示唆されており、鎌状赤血球症と関連する変異は熱帯熱マラリア原虫に対応してアフリカで25000~22000年前頃に出現しました。考古学的研究からも、たとえば、殺虫および殺幼虫作用のある化学物質を含む芳香性の葉で寝床に植物を敷くことによって、ヒトが疾患の媒介生物との接触を避けるための処置について、それ以前の間接的証拠が特定されました[19]。他のデータは、特定の場所を避けていた、と示唆しているかもしれません。たとえば、最終間氷期の最盛期(125000~71000年前頃)においてアフリカ北部の主要河川の近くには遺跡が存在しないことは、カ(や他の寄生生物および媒介生物)が繁栄していた、沼地の回避の可能性を示唆しているかもしれません。
マラリアがサハラ砂漠以南のアフリカにおける初期のヒトの居住パターンを形成したかもしれない、との遺伝学的および考古学的データを考えて、マラリアの経時的な分布が再構築されました。過去の疾患の発生およびヒトへの影響の再構築は、そうした遠い時代の直接的な証拠が限られているため、通常は困難だった試みです。本論文はまず、マラリアの主要媒介動物の生態的地位の定量化によって、直接的証拠の不足を克服し、次にこれによって、気候条件に基づく特定の時点の潜在的な空間分布の再構築が可能となりました。これは、現在の発生状況と地域固有の環境および気候変数に基づくSDMの構築と、過去にさかのぼっての範囲の投影によって行なわれました。得られた媒介生物の生息的適合性を疫学的情報と組み合わせることによって、次に、「マラリア安定性指標」として定義され、熱帯熱マラリア原虫によるマラリア伝染の潜在的危険性指標が計算されました。この指標は、マラリアの存続に適した環境および生息地条件を考慮した、マラリア伝染の潜在的安定性を表しているので、伝染の全体的な潜在的危険性が定量化されます。高い安定性指標は、マラリアの存在ではなく、むしろ、存在した場合に持続する潜在的影響を意味していることに、注意してください。このように、本論文はマラリアの経時的な潜在的安定性を推測し、地図化しました。種の生態系や環境や気候変化や病原体安定性(つまり、潜伏期間)を取り込むことによって、マリアナがヒトに影響を及ぼしたかもしれない地域を時空間的に地図化できました。次に、考古学的記録に基づくヒトの適した範囲(ヒト生態的地位)の独立した再構築が用いられ[7]、景観全体にわたるヒトの拡大が追跡されました。これら2点の再構築(潜在的なマラリア危険性とヒトの生息範囲)の比較によって、ヒトの人口動態および拡散へのマラリアの影響を推測し、定量化できました。
鎌状赤血球症の原因となる多様体のモデルから、この変異作物の栽培化よりずっと古く、アフリカ西部のバントゥー人の祖先においてはLGMの直前にまでさかのぼる可能性が最も高い、と明らかになりました。したがって、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアがヒトに強い負荷を貸していたならば、過去にはヒトの居住とマラリアに適した地域との間の重なりは限られており、LGMの間もしくはその直後にアフリカ西部から始まった、じょじょに拡大したことになりそうです(変異が人口集団内で充分に広がり、影響を及ぼす時間を考えると)。本論文の再構築はそのパターンを正確に示しており、ヒトの居住パターンがマラリアの存在によって大きく形成されてきたことを示唆しています。
●研究対象のハマダラカ属の媒介生物の空間的な分布モデル
SDMを使用することで、地域全体の潜在的分布を回収するために、その地点における環境および気候変数に既知の発生を関連づけることによって、研究対象の媒介生物種の現実的な生態的地位の再構築が可能になります。本論文が存在量ではなく発生に焦点を当てているのは、現在の局所的なカの密度が都市化のパターンやヒトの医療介入(殺虫剤の使用など)に大きく影響を受けているからです。一方で、媒介生物の大規模な根絶は依然としてかなり限定的なので、発生はそうした要因に対して比較的堅牢であるはずです。人為的な景観の利用は、ハマダラカ属のカ(したがって、マラリア)の分布に追加の潜在的要因を提供します。景観利用の変化に起因する局所的な生息地における変化を把握するために、自然景観と人為景観の両方における植生構造の定量的代理として、LAIが用いられます。LAIは、気候変数から予測される自然の植生に基づく推定値を、特定の場所における作物や牧草や放牧地への転換率と組み合わせることによって、現在に合わせて推定され、調整されました。本論文が人口密度を考慮しなかったのは、ヒトが狩猟採集民だった(したがって、人口密度が現在の水準とは比較できない)過去にさかのぼるために、カの分布の気候要因に焦点を当てる、モデルを構築したかったからです。本論文のSDMはカの密度ではなく広範囲の地理的地域にわたる存在に焦点を当てているので、この省略はSDMに大きな影響を及ぼさないはずです。それは、アフリカ大陸全域のある種の存在が気候により強い影響を受けるはずである一方で、それは多発地域の密度など他の要因によって影響を受ける局所的な存在量だからです。
選択されたマラリアの媒介生物3集団についてSDMが生成され、それは、ガンビエハマダラカ複合種、別の集団としてのその海水繁殖種(アノフェレス・メラス、アノフェレス・メルス)、フネスタスハマダラカ集団です。これらの種は歴史的記録で分類学的に同定された主要な媒介生物を表しており、さまざまなカ媒介種の中で、最も大きな影響力を有しています。それにも関わらず、過去の環境は、より動物寄生性もしくは機械主義的な行動のカの他種にも適していたかもしれません。媒介西部の選択に対する本論文の結論の堅牢性を調べるために、補足資料にあるいくつかの追加の種を考慮した、全分析が繰り返され(霊長類とウシにも影響を及ぼす一部の種が含まれます)、本論文の重要な結論には定性的影響がありませんでした。種の観察データを環境予測因子と組み合わせて、分析された全期間(図1B・D・F)について、景観全域(図1A・C・Eで例証されています)で、生息適合性(低から高まで)が地図化されました。最適なモデルが全体の予測因子で選択され、最小の閾値は最大TSSで0.7です。これら選択された変数と地図解像度で、現時点で得られた媒介変数分布は、存在データおよび以前に刊行されたSDMと一貫しています。気候に焦点を当てた本論文のSDMと、人口密度も含んだ先行研究との間の、この後者の一貫性は、カの大陸規模の地理的分布はおもに気候が原因である、との本論文の論理を確証します。アノフェレス・メラスとアノフェレス・メルスなどの種の沿岸分布(図1E・F)と、ガンビエハマダラカ複合種の残りのアフリカ西部および中央部における高度に適した地域(図1C・D)が特定されました。以下は本論文の図1です。
●経時的なマラリアの潜在的な危険性
カの複数種の存在の影響が組み合わされ、特定の場所における感染性疾患としてのマラリアの潜在的な伝染危険性を表す、マラリア安定性指標が生成されました。熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの潜在的危険性は、マラリアにとって好適な(生態学的)条件を考慮した、伝染の安定性(つまり、通年での一貫した伝染性)を反映しており、概念的には種の生息地適合性のモデル化(たとえば、SDMを用いてのカの生態的地位)と同等です。したがって、マラリアの安定性指標はマラリアの高い危険性と関連した生態学的条件、その結果としてマラリアの潜在的範囲を示唆しているかもしれません。この指標の高い値は疾患の存在を意味しておらず、むしろ、存在した場合の持続性を意味している可能性が高くなります(繰り返すと、SDMから回収された適合性と同等です)。この文脈では、現在の定住生活様式と人々の存在は潜在的範囲に影響を及ぼしませんが、マラリアの発生率には影響し、伝染の実際の危険性が高まります。したがって、マラリア安定性指標は伝染の潜在的安定性を表しており、生態系と熱帯熱マラリア原虫の存続への寄与に基づいて、存在する各媒介生物の影響を組み合わせています(マラリアの伝染の安定性に、一貫して強く影響する因子です)。それにも関わらず、マラリア安定性指標は疾患の発生とも充分に相関する、と示されてきましたが、要注意なのは、他の媒介生物が関わっていた場合、この関係は過去にはより弱かったかもしれないことです。サハラ砂漠以南のアフリカ全域の、過去74000年間にわたるマラリア安定性指標が計算されました。
明らかになったこのパターンは、景観全体の経時的なマラリア安定性の明確な増加を示しています(図2)。マラリアの最初の盛期は6万~5万年前頃の主要な「出アフリカ」拡大に相当しており、先行研究で示唆されていたように、アフリカ大陸から去った特定の集団がマラリアを運んだ可能性がより高そうです。アジア南部の気候条件は、他の媒介カにとって感染の維持に適していた可能性が高そうです。次に、主要な盛期はLGMの直後の13000年前頃に起きており、マラリアの高い安定性の地域の範囲の拡大が、農耕慣行が8000年前頃に始まったずっと前に起きつつあった、と示されています。この結果は、マラリアの選択圧は作物の栽培化に先立っていた、との先行研究の調査結果と一致しており、疾患との接触が激しかったかもしれない期間を示唆しています。本論文の結果は、定住生活様式と人口規模の増加はマラリアの局所的発生に独立した影響を及ぼした、との提案と必ずしも矛盾しないことに要注意です。前に強調したように、得られたマラリア安定性指標は、疾患の局所的発生ではなく、マラリアの潜在的危険性を表しており、その範囲を定量化しています。以下は本論文の図2です。
●ヒトの範囲拡大へのマラリアの影響
次に、狩猟採集民人口集団のみに焦点を当てる、74000~5000年前頃の時間枠を考慮して、本論文のサハラ砂漠以南のアフリカ全域のマラリア安定性指標再構築を、同じ期間と地域の狩猟採集民の潜在的分布の独立した再構築と比較することによって、ヒトの居住パターンへの潜在的なマラリアの危険性の影響が検証されました。狩猟採集民の分布のこれらの再構築は、気候変数と考古学的遺跡の分布との間の関係のモデル化によって、ヒトの生態的地位を再構築するために、SDMを用いて得煮れました。これらの発生は考古学的遺跡の厳選された汎アフリカデータセット(これは先行研究[7]に基づいており、5000年前頃へと拡張されました)に基づいており、生態的地位の経時的変化が考慮されました。強調する価値があるのは、この再構築はマラリアに関する本論文の分析とは完全に独立しているものの、おなじ古気候データを用いているので、この2点の再構築を比較できることです。
現れたパターンは、高いマラリア安定性と現生人類の適合性地域間の負の関係を明らかにしています。これが示唆するのは、アフリカ内のヒトの拡大は熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの存在に大きく影響を受けており、ヒトは経時的にマラリア伝染の高い潜在的危険性の地域を避けていたことです(図3)図3Aでは、ヒトの生息の可能性が最も高い地域(中核地域)が、熱帯熱マラリア原虫によるマラリアの潜在的危険性の地図に重ねられています(黒枠)。この図は、マラリア伝染の低い安定性の地域が、どのようにヒトの居住に一貫してより適していたのか、示しています。経時的に、これはヒトの移動と拡大の潜在的回廊や、孤立したヒト集団の孤立地帯を生み出しました。たとえば、サハラ砂漠とエチオピアの居住可能地帯との間の地域が、分断(たとえば、図3の54000年前頃と、再び8000年前頃)と接続(たとえば、図3の16000年前頃)の周期を経た、と気づくことができます。以下は本論文の図3です。
このパターンをさらに調べるために、景観全体のマラリア安定性指標(中央値と四分位)の水準が推定され、(中核)「ヒト生態的地位」(考古学的遺跡の95%を含む中核地域に基づきます)と「生態的地位外」に区分されました。マラリア安定性指標の水準は、ヒトの範囲外の地域よりもヒトに適した地域の方でずっと低い、と見ることができ、この違いは経時的に持続しています(図3B)。ヒトの生態的地位は、74000年前頃から13000年前頃まで、一貫して低い値によって特徴づけられていました(図3B、たとえば、図3Aの54000年前頃)。14000~13000年前頃まで、マラリア地域とヒトの範囲の周辺部との間の重複が、とくにアフリカ西部で増加したことに気づくこともでき、これは、ヒトがおそらくはそれ以前に到達していなかったより高いマラリア危険性の地域へと進んだことを意味しています。1万年前頃までに、重なりの増加を見ることができ、とくにアフリカ西部では最高値に達し(図3Aの8万年前頃)、これは、鎌状赤血球症の体制変異の最初の拡大と予測されます。
●考察
本論文の結果から、マラリア伝染の潜在的危険性が少なくとも過去74000年間、ヒト集団の空間的構成を形成し、サハラ砂漠以南のアフリカのさまざまな地域への人口を構造化し、一部の局所的人口集団と他集団との接触を減少させ、おそらくは遺伝学的分析によって明らかにされた人口構造[33]に寄与した、と示されます。高いマラリア危険性とヒトの範囲との間の重なりは、アフリカ西部では15000~14000年前頃以後によりはっきり現れるようになります。このパターンは、アフリカ西部のバントゥー人の祖先における鎌状赤血球変異の起源の年代測定を考えると、本論文の予測と一致し、本論文の再構築の間接的な確認を提供します。このパターンは、同時代の媒介生物の主要な3集団のみに基づいたSDMとさほど重要ではない種を含む個々の媒介生物のSDMの両方で見られ、これら3集団はヒトとマラリアの間の相互作用の初期段階から重要な役割を果たした可能性が高い(ものの、今ではさほど目立たないかもしれない他他もの重要な役割は除外されません)、と示唆されます。
さらに、本論文の結果から、農耕牧畜生活様式が始まったとされる8000~7000年前頃以前に、マラリアは13000年前頃にはすでにきわめて高水準で存在していた、と示されます。したがって、本論文の結果から、気候条件のため、マラリアは作物の栽培化の前にすでに選択の主因だったかもしれない、と示唆されます。これらの結果は、新石器化といくつかの伝染性疾患の起源との間のつながりを仮定することへの、警告にもなります。病原体がどのようにして、なぜ、健康問題を超えてヒトに拡大し、影響したのかは、明らかに、依然としてほぼ調べられていないヒトの過去の重要な側面です。
今まで、更新世におけるマラリアの直接的な証拠と精緻な年代測定のために古代ゲノムが利用できなかったことは、プラスモジウム属および現代人の歴史時代および現代のデータへの研究が制約されることによる、課題を表している、と考えられてきました。本論文は、ヒトと病原体の相互作用の直接的な証拠なしに、ヒトの先史時代の最初期における疾患負荷を調べることができる、との概念実証を提供します。これは、複雑な人為的生息地調査もしくは生計経済における大きな変化なしに、気候のみが疾患の存在を判定できるかもしれない、との点でも有益です。
これは多くの疾患に当てはまるかもしれません。本論文の方法論と研究法は、過去における疾患負荷や、これがヒト集団の空間的構成や拡散のパターンや接触/孤立の程度にどのような影響を及ぼしたかもしれないのか、理解するための手段を提供し、現生人類の動的な形成と成立を理解するための、知識の追加的で革新的な側面を表しています。
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