『卑弥呼』第168話「和平へのとどめ」

 『ビッグコミックオリジナル』2026年6月20日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)の楼観でヤノハがゴリに、魏の使節が倭に来れば、魏という大国の存在が倭の民にとって現実になり、もはや暈(クマ)も日下(ヒノモト)も何もできないだろう、と語るところで終了しました。今回は、山社の楼観の前の広場で、ヤノハが鏡を掲げ、日光に照らす場面から始まります。人々はヤノハの神々しい姿を日見子(ヒミコ)として崇め、天照大神が降臨している、と感動して、ヤノハを真の倭王と認めます。イクメは広場での祭祀が大成功と考え、これで山社の祈祷女(イノリメ)全員が平和な世の到来を確信しただろう、とヌカデは言います。ヤノハは魏から贈られた鉄製の鏡の見事さに感心し、自分の次の日見子と日見彦(ヒミヒコ)ら継承させる神宝だ、と言いつつも、この美しさだから本音は墓場まで持っていきたい、と呟きます。ヤノハが報告を促すと、ミマアキから文が届いた、とヌカデが言います。針間(ハリマ)は不承不承ながら山社との同盟を承諾しました。ミマアキとオオヒコは針間の隣の武庫(ムコ)国に向かっています。吉備(キビ)の動きについて問われたヌカデは、ミマアキからの文の内容をヤノハに伝えます。そこには、吉備津彦(キビツヒコ)不在の間に反乱が起きて、吉備の旧王朝が復活した、とありました。吉報だ、とヤノハは言います。テヅチ将軍は島国(高知県の沖の島などの島々と思われます)と同盟の約定を交わした後で、伊予之二名島(イヨノフタナノシマ、四国と思われます)の国々に鏡を届けている最中です。日下(ヒノモト)孤立策が功を奏すれば、残る脅威は独断で日見彦を擁立した暈国だけだ、とミマト将軍は言います。

 加羅(伽耶、朝鮮半島)の勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)では、ゴリがヒホコおよびイセキと会っていました。日見子様の希望はすでに叶ったようだ、とヒホコは言います。帯方郡の新たな太守である弓遵からの文には、倭に使節を送るので手配を頼む、とありました。魏が自主的に倭へと使節を送ることが、ゴリには意外でした。帯方郡からの書状を運んだ兵士によると、新たな天子に倭へ使節を送るよう、強く進言した将軍がいたそうです。ゴリは、それが司馬懿(司馬仲達)だとすぐに悟ります。

 魏の洛陽では、司馬懿が皇帝(曹芳、少帝)に、今警戒すべきは蜀ではなく呉だ、と進言しました。司馬懿が公孫淵を倒した後、襄平には海を越えて呉軍が押し寄せました。どうするのだ、と皇帝に問われた司馬懿は、呉が再び遼東郡に侵攻すれば、鎮圧に当たるのは遼隧(リョウスイ)の毌丘倹と帯方郡の弓遵の兵のみで、あまりにも手薄だ、と司馬懿は答えます。曹爽(曹昭伯)から、どうするのか、問われた司馬懿は、昨年、先代皇帝(明帝)が同盟国と定めた倭の山社を頼るべきと答えます。女間王が支配する野蛮国か、と曹爽は否定的です。先帝は具合がすぎれず、わざわざ訪ねてきた小国に感動して同盟国に格上げしたが、今思うと、どうだろうか、と曹爽は疑問を呈します。すると司馬懿は、先帝が正しいし判断を下した、と指摘します。自分が思うに、倭の女王(ヤノハ)は諸葛孔明(諸葛亮)に匹敵する軍師で、要請すれば、帯方郡に援軍を送るか、海上を航行して、呉を側面から突いてくれるだろう、と司馬懿は意見を述べます。倭国をどう遇するべきか、皇帝から問われた司馬懿は、帯方郡太守の弓遵に文を送り、早急に倭へ使節を送るよう、指示を出すべきと答えます。東の果ての大海の島にわざわざ使節団を送るのか、と曹爽は否定的ですが、自分は本気で言っている、と司馬懿は力説します。

 こうして、ヤノハの望み通り、帯方郡太守は倭国へ使節団を出しました。ヒホコはゴリに、その棟を日見子様(ヤノハ)に早急に伝えるよう、促します。イセキは、倭国始まって以来の大切な客なので、準備を急がねばならない、と興奮しています。するとゴリは、日見子様のことなので、こうなるのも想定済みだろう、と冷静に言います。自分は勒島で魏からの使節の到着を待って、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)に案内する、とゴリは言います。

 山社では、ヤノハがヌカデに、末盧(マツラ)まで行って、魏からの使節団を出迎えるよう準備せよ、と命じていました。ゴリに魏の使節団要請の使命を与えて、加羅に送ったばかりなのに、とヌカデは困惑します。するとヤノハは、ゴリに依頼した時から思っていたが、魏に賢い軍師がいれば、すでに訪倭団を送る準備が進められている、と答えます。大国の魏が東の果ての小さな倭をそこまで大切に思うだろうか、と疑問に思うヌカデに、なぜ魏が倭を対等な同盟国と認めたと思うか、とヤノハは尋ねます。公孫淵との戦いに何万人もの援軍を送るという、ヤノハのハッタリに騙されたのだろう、とヌカデは答えます。ヤノハは、それもある、と言います。もう一つは、公孫淵の戦場を、命の危険を冒して抜けたので、魏の天子が恩を感じたのだ、とヌカデが言うと、それもある、とヤノハは言います。しかし、一番は倭、というか筑紫島の幸運な位置だ、と言います。筑紫島から北に航海すれば十数日で加羅に到着するが、西に航海すればどうなるか、とヤノハはヌカデに問いかけます。ヌカデは、呉に行き着くことに気づきますが、倭人の航海術では大海を渡れない、としてきます。確かに、船団を率いてその距離を航海した倭人はいないが、島々を伝えば、行けなくもないはずだ、と指摘します。成功すれば呉軍の側面を突けるが、筑紫島の位置を考慮し、倭国に協力を要請するために、使節を送ろうとする賢人が本当に魏にいるだろうか、とヌカデは疑問を呈します。ヤノハは、何(カ)やミマアキから、恐ろしく頭の切れる魏の将軍の話を聞いたが、その方が新たな天子の側近になっていれば、あり得ると思う、と答えます。ヤノハと同じことを考えるはずなのか、とヌカデは得心し、祈祷女20人と戦女(イクサメ)10人を連れて末盧へ向かう、とヤノハに伝えます。

 暈国の肝属(キモツキ)では、兵士たちが近づいてくる船を警戒していました。兵士たちは、上陸した船を取り囲み、何者か名乗れ、と命じます。すると、ハニヤスが船から降りてきて名乗り、日下より参った、と伝えます。兵士たちは、遠く豊秋津島(トヨアキツシマ、本州を指すと思われます)から来たことに驚きます。ハニヤスは、百日以上かかり、とても遠かった、と言います。鞠智彦(ククチヒコ)様宛には、何日くらいに到着すると文を送っていたはずだが、とハニヤスが言うと、指揮官らしき男性は、失礼した、と言って、これより鹿文(カヤ)まで案内いたします、とハニヤスに伝えます。ということは、力を合わせて、山社の日見子を殺そうという話を前向きに考えてくれるのだね、とハニヤスが言うところで今回は終了です。


 今回は、ヤノハと司馬懿の思惑を中心に話が展開し、二人が作中でも有数の「軍師」であることが、改めて描かれました。しかし、『三国志』からは、これで倭国に泰平が訪れる展開にはならず、山社連合と暈国との間で戦いが始まる、と予想されます。どのように山社連合と暈国の戦いが始まるのか、注目していましたが、疫病で窮地の日下の吉備津彦は、暈と提携し、山社連合に対抗するというか、ヤノハを殺そうと考えているようです。吉備津彦がこの難題をハニヤスに命じたのは、失敗して鞠智彦に殺されてもよい、と考えているからでしょうか。鞠智彦は日下を嫌っていますが(第112話)、山社連合が魏と同盟を結んだことで、打開策を考えているでしょうから、日下とヤノハ排除で一時的に提携することは考えられます。おそらく作者の意図と思いますが、魏と呉と蜀の「三国志」と、倭国の山社連合と暈国と日下連合の鼎立は相似形になっており、面白くなっています。当初から予想していた通り、大陸も絡んで壮大な話になっており、これに加えて暈国が日見彦(候補)として抱えているニニギ(ヤエト)とヤノハの母子の愛憎関係も軸の一つになっていますから、そろそろ終盤とは思いますが、さらなる盛り上がりを期待しています。

この記事へのコメント

f2
2026年06月08日 17:27
人物造形の巧みさはこの作品の特長のひとつですが、司馬懿の場合もそれが見事に成功していると思います。 個人的には登場人物中(魅力的な人物ばかりですが)、司馬懿の大物感は傑出していて、作中における彼の役割同様、大きなインパクトを感じています。 仰る様に、ヤノハ、司馬懿、2人の軍師の思惑がシンクロして展開するストーリーは、ユニークでありながら納得感もあり、見事な構成だと感心しています。
管理人
2026年06月09日 11:40
本作の司馬懿は確かに大物感があります。

連載開始当初から登場を予想しており、期待していましたが、期待以上の人物造形になっています。