『卑弥呼』第169話「使節団到来」

 『ビッグコミックオリジナル』2026年7月5日号掲載分の感想です。前回は、日下(ヒノモト)の王族であるハニヤスが、暈(クマ)国に船で到着し、出迎えた暈の兵士に、力を合わせて、山社(ヤマト)の日見子(ヒミコ)、つまりヤノハを殺そうという話を前向きに考えてくれるのだね、と語りかけるところで終了しました。今回は、末盧(マツラ)国の沿岸でヌカデが魏からの使節団を待っている場面から始まります。そこへ末盧国のミルカシ女王が声をかけます。先日届いた加羅(伽耶、朝鮮半島)からの文によると、魏の使節団は一昨日に伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)を出る予定だった、とヌカデは聞いていましたが、海が時化ているから、魏の船でも簡単な航海ではないから、今日の到着はないかもしれない、とミルカシ王は言います。ヌカデは、それでもしばらく待ってみる、と言って海岸に留まります。ミルカシは、魏からの使節来訪の重要性を認識していました。山社連合の背後に大国が控えている証になり、倭国全体が日見子(ヒミコ)様(ヤノハ)を、王と認めざるを得なくなる、というわけです。ヌカデは、その結果が泰平につながる、と考えています。

 魏の使節をどうもてなすよう日見子様に指示されたのか、とミルカシ王に訊かれたヌカデは、ミマアキがかつて提案した策(第42話)を用いる、とヤノハから指示されていました。まず、魏からの使節団が上陸したら、末盧国に110日間滞在してもらう、とヤノハは言います。末盧国の背の高い草と深い森を見れば、上陸しても簡単に移動できないことを悟るはず、というわけです。次に、魏からの使節団を伊都(イト)国に30日滞在させるよう、ヤノハは指示し、その間どうもてなせばよいのか、とヌカデは焦ります。伊都国のイトデ王は自分が定めた一大率、つまり海の向こうから入る品々を一手に吟味する重要な役で、伊都国の王がいかに強力な兵を抱えているか、魏の使節に実感してもらうつもりだ、とヤノハはヌカデに意図を明かします。最後の滞在地は那(ナ)国で、自分と魏からの使節団の長はそこで会う、とヤノハから伝えられたヌカデは、魏の使節団を山社に連れて行かないことに驚きます。那国の都は倭国で最も栄えており、魏には及びもつかないが、少なくとも野蛮国ではないと評価してもらえるだろう、というわけです。何を企んでいるのか、とヌカデに問われたヤノハは、魏の使節団の訪問の目的は二つで、一つは同盟の絆を倭国全土、さらには魏の敵国の呉に報せることだ、と答えます。もう一つは、倭と魏の度関係も未来永劫ではない、とまずヤノハは指摘します。ヌカデは、倭がどのような形で、いくつ国があり、戦力はどのくらいか、あらゆる情報を収集しようとして、最も知りたいのは、倭の都である山社の位置と、たどり着くのに何日かかるかだ、とヤノハは言います。つまり、那国から先には行かせないつもりだ、とヌカデは気づきます。ヤノハは魏の使節団に、山社は那国のはるか遠方にあるので、国王である自分が、魏の使節団に敬意を表して、自ら出向いた、と大嘘をつくつもりでした。ヤノハは倭国中に魏の威光を喧伝しつつ、一方で魏を騙すつもりだった、とヌカデは悟ります。ヌカデからヤノハの策を聞いたミルカシ王は、ヤノハが本当に策士だと感心します。そこへ、魏からの使節団らしき船が見えます。

 武庫(ムコ)国の武庫水文(ムコミナト)では、ミマアキとオオヒコが武庫の国王のツノヒと会っていました。山社の日見子女王(ヤノハ)の命で参った、と挨拶するミマアキに、和議の話ならば当方に異存はない、とツノヒ王は言います。すると、ミマアキは焦ります。隣国の針間(ハリマ)のミモリ王は最初、自分たちの話に耳を貸そうとすらしなかったのに、ツノヒ王はあっさりと和議に同意したからです。ツノヒ王はミマアキに、ミモリ王は日下への忠誠心が強いので、そなたらを殺しかねなかっただろう、と穏やかに言います。時間をかけ、丁寧に説明することで、ミモリ王にやっと納得してもらった、と説明するミマアキに、自分の決断は安易すぎるのか、とツノヒ王は尋ねます。何か裏がある、とミマアキが疑っていることを察したツノヒ王は、事情を説明します。まず、厲鬼(レイキ)、つまり疫病に冒され、絶滅寸前の日下に今さら忠義を尽くしても詮無く、諸国がほぼ日下を捨てて、山社連合に付くのは止めようがない趨勢であることとです。しかし、ツノヒ王が山社と和議を結ぶのは、別の理由からでした。ツノヒ王は、ミマアキとオオヒコより長く生きており、天下を統べる人の共通点が見える、と言います。天下を統べる人は嘘が上手く、平気で人を裏切り、それも穏やかな顔で行ない、殺人を何とも思わず、長年付き添った忠臣でもその家族でも例外はない、とツノヒ王は語ります。日見子様(ヤノハ)は冷酷ではない、とオオヒコは反論しますが、出雲攻めのさい、日下連合軍を破った女王(ヤノハ)の手口を見て確信した、とツノヒ王は言います。忠臣の中に、女王に殺された者や、愛しき者を奪われた者がいるのではないか、というわけです。しかし、そうしたお方なので、自分は迷うことなく山社連合の勢いに乗るのであり、日下には残念ながらそうした逸材はいない、とツノヒ王はミマアキに語ります。

 末盧国の沿岸に魏の使節団を乗せた船が近づき、ゴリが案内役を務めています。ヤノハは、魏の使節団長について、魏の天子が、自分の要請を待たずに、帯方郡経由で使節を派遣したならば、使節団長は自分の考えられる通りの使命を与えられているはずで、つまりは、山社連合に安心と信頼を与えつつ、裏で間諜活動をする者です。魏の使者は、一見すると人のよい顔をしているが、その裏では平気で嘘をつく男で、間違いなく、太守が認める帯方郡で最高の切れ者のはずだ、とヤノハ考えていました。魏の使節団がゴリの案内で上陸し、ミルカシ王が魏の使節団に挨拶をすると、ミルカシ王はヌカデを、山社の女王の使いと紹介します。魏の使節団の長が、笑顔を浮かべて、梯儁と名乗るところで、今回は終了です。


 今回は、魏からの使節団を迎えるヤノハの思惑と、武庫国での交渉が描かれました。武庫国のツノヒ王は今回が初登場で、これまで言及されたこともありませんでしたが、強い印象を残しました。今後、再登場がありそうです。ミマアキはツノヒ王の話を聞いて、自分と恋仲だったクラトがヤノハの指示で殺害されたことを思いだしていたでしょうが、忠臣の愛しい人さえ平然と殺すことこそ、天下を統べる人の条件とツノヒ王から聞かされ、ヤノハへの忠誠がどう変わるのか、今後もヤノハを支え続けるのか、いつか復讐するつもりなのか、注目されます。ただ、今回の描写からは、ミマアキがヤノハにどう対処すべきか、自分でも決断できていないように思われます。梯儁はいかにも曲者といった感じで、ヤノハとの駆け引きが楽しみです。現時点で240年と思われますが、『三国志』からは、卑弥呼の死まで10年なさそうなので、本作も完結が見えてきた感もあります。ただ、梯儁とヤノハの駆け引きは詳しく描かれそうですし、山社連合と日下や暈(クマ)との関係も描かれ、とくに暈については、ヤノハの実子であるヤエト(ニニギ)が絡むことを考えると、完結は当分先かもしれません。なお、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。

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