上部旧石器時代ヨーロッパにおけるクジラの骨の利用
取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、上部旧石器時代ヨーロッパにおけるクジラの骨の利用を報告した研究(McGrath et al., 2025)が公表されました。沿岸地域に住んでいた古代の人類は、クジラを資源として利用していた可能性が高い、と考えられています。しかし、先史時代の沿岸遺跡は脆弱で海面上昇の影響を受けやすく、先史時代のヒトが大型クジラ類から得られた産物をどのように利用していたのか、再構築することは困難ではあるものの、初期のヒトの沿岸適応の歴史の理解には重要です。
本論文は、スペインのサンタ・カタリーナ洞窟(Santa Catalina Cave)を含めて、ビスケー湾(Bay of Biscay)周辺のマグダレニアン(Magdalenian、マドレーヌ文化)となる上部旧石器時代遺跡群とから発見された、クジラの骨で製作された加工品および未加工の骨片の、ZooMS(Zooarchaeology by Mass Spectrometry、質量分光測定による動物考古学)や放射性炭素年代測定やC(carbon、炭素)およびN(nitrogen、窒素)の安定同位体分析といった多代理分析を報告します。
ZooMSを用いての分類学的同定によって、少なくとも5種の大型クジラが明らかになり、この期間にヒトによって産物が利用されたと知られているクジラの分類群の範囲は拡大しました。この同定された5種とは、マッコウクジラ(sperm whales)とナガスクジラ(fin whales)とシロナガスクジラ(blue whales)とZooMSでは区別できないセミクジラ(right whales)またはホッキョククジラ(bowhead whales)です。これらの種は、現在もビスケー湾に生息しています。
放射性炭素年代測定によって、クジラから得られた産物の使用は較正年代で20000~14000年前頃に位置づけられ、最大分布でおよび多様性では17500~16000年前頃となり、これは既知のクジラの骨の加工としては最古の証拠です。δ¹³Cおよびδ¹⁵N安定同位体値は、採食行動における分類群固有の違いを反映しています。これらクジラ類個体群の多様性と年代は、旧石器時代後期におけるビスケー湾の海洋性体系の豊かさを証明しており、当時の沿岸適応に関する理解を深めます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:クジラの骨から作られた最古の道具の証拠
人類は2万年前までクジラの骨から道具を作っていたかもしれないことを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルNature Communications に掲載される。これらの道具の発見は、初期の人類によるクジラ遺骸の利用に関する理解を深めるだけでなく、古代のクジラ生態系を垣間見る手がかりとなる。
沿岸地域に住んでいた古代人類は、クジラを資源として利用していた可能性が高い。しかし、先史時代の沿岸遺跡は脆弱で海面上昇の影響を受けやすく、人類と海洋哺乳類の過去の相互作用を再構築するのは困難である。
Jean-Marc Pétillonら(トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学〔フランス〕)は、ビスケー湾(Bay of Biscay)周辺の遺跡から発掘された83点の骨製工具と、スペインのサンタ・カタリーナ洞窟(Santa Catalina Cave)から追加で発見された90点の骨を分析した。著者らは、質量分析法と放射性炭素年代測定法を用いて、標本の分類と年代を特定した。その結果、骨は少なくとも5種の大型クジラに由来し、最も古いものは約1万9,000–2万年前に遡るもので、人類がクジラの遺骸を道具として利用した最も古い証拠の一つだと著者らは指摘している。同定された種には、マッコウクジラ(sperm whales)、ナガスクジラ(fin whales)、シロナガスクジラ(blue whales)、およびセミクジラ(right whales)またはホッキョククジラ(bowhead whales)〔この技術では区別できない2種〕が含まれる。これらの種は、現在もビスケー湾に生息している。著者らはまた、現在主に北太平洋と北極海に分布するコククジラ(grey whales)の遺骸も同定した。クジラの骨から作られた道具の化学データは、クジラの食性習慣が現在の種とやや異なっていたことを示唆しており、行動や環境の変化を暗示している。
これらの発見は、特に沿岸地域における人類によるクジラの遺骸の最も古い利用に関する新たな証拠を提供し、過去2万年間におけるクジラの生態系の変化を明らかにしている。
参考文献:
McGrath K. et al.(2025): Late Paleolithic whale bone tools reveal human and whale ecology in the Bay of Biscay. Nature Communications, 16, 4646.
https://doi.org/10.1038/s41467-025-59486-8
本論文は、スペインのサンタ・カタリーナ洞窟(Santa Catalina Cave)を含めて、ビスケー湾(Bay of Biscay)周辺のマグダレニアン(Magdalenian、マドレーヌ文化)となる上部旧石器時代遺跡群とから発見された、クジラの骨で製作された加工品および未加工の骨片の、ZooMS(Zooarchaeology by Mass Spectrometry、質量分光測定による動物考古学)や放射性炭素年代測定やC(carbon、炭素)およびN(nitrogen、窒素)の安定同位体分析といった多代理分析を報告します。
ZooMSを用いての分類学的同定によって、少なくとも5種の大型クジラが明らかになり、この期間にヒトによって産物が利用されたと知られているクジラの分類群の範囲は拡大しました。この同定された5種とは、マッコウクジラ(sperm whales)とナガスクジラ(fin whales)とシロナガスクジラ(blue whales)とZooMSでは区別できないセミクジラ(right whales)またはホッキョククジラ(bowhead whales)です。これらの種は、現在もビスケー湾に生息しています。
放射性炭素年代測定によって、クジラから得られた産物の使用は較正年代で20000~14000年前頃に位置づけられ、最大分布でおよび多様性では17500~16000年前頃となり、これは既知のクジラの骨の加工としては最古の証拠です。δ¹³Cおよびδ¹⁵N安定同位体値は、採食行動における分類群固有の違いを反映しています。これらクジラ類個体群の多様性と年代は、旧石器時代後期におけるビスケー湾の海洋性体系の豊かさを証明しており、当時の沿岸適応に関する理解を深めます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。
古生物学:クジラの骨から作られた最古の道具の証拠
人類は2万年前までクジラの骨から道具を作っていたかもしれないことを報告する論文が、オープンアクセスジャーナルNature Communications に掲載される。これらの道具の発見は、初期の人類によるクジラ遺骸の利用に関する理解を深めるだけでなく、古代のクジラ生態系を垣間見る手がかりとなる。
沿岸地域に住んでいた古代人類は、クジラを資源として利用していた可能性が高い。しかし、先史時代の沿岸遺跡は脆弱で海面上昇の影響を受けやすく、人類と海洋哺乳類の過去の相互作用を再構築するのは困難である。
Jean-Marc Pétillonら(トゥールーズ・ジャン・ジョレス大学〔フランス〕)は、ビスケー湾(Bay of Biscay)周辺の遺跡から発掘された83点の骨製工具と、スペインのサンタ・カタリーナ洞窟(Santa Catalina Cave)から追加で発見された90点の骨を分析した。著者らは、質量分析法と放射性炭素年代測定法を用いて、標本の分類と年代を特定した。その結果、骨は少なくとも5種の大型クジラに由来し、最も古いものは約1万9,000–2万年前に遡るもので、人類がクジラの遺骸を道具として利用した最も古い証拠の一つだと著者らは指摘している。同定された種には、マッコウクジラ(sperm whales)、ナガスクジラ(fin whales)、シロナガスクジラ(blue whales)、およびセミクジラ(right whales)またはホッキョククジラ(bowhead whales)〔この技術では区別できない2種〕が含まれる。これらの種は、現在もビスケー湾に生息している。著者らはまた、現在主に北太平洋と北極海に分布するコククジラ(grey whales)の遺骸も同定した。クジラの骨から作られた道具の化学データは、クジラの食性習慣が現在の種とやや異なっていたことを示唆しており、行動や環境の変化を暗示している。
これらの発見は、特に沿岸地域における人類によるクジラの遺骸の最も古い利用に関する新たな証拠を提供し、過去2万年間におけるクジラの生態系の変化を明らかにしている。
参考文献:
McGrath K. et al.(2025): Late Paleolithic whale bone tools reveal human and whale ecology in the Bay of Biscay. Nature Communications, 16, 4646.
https://doi.org/10.1038/s41467-025-59486-8
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