「縄文時代」についての補足

 昨年(2025年)9月に「縄文時代」についての備忘録を掲載しましたが、その後、Twitterで投稿した断片的な情報や私見を短くまとめておきます。なお、以下では、千年前の略称としてK(kilo years ago、千年前)を用います。Twitterで検索すると、「縄文文化」は「南方系」と断定する投稿も見かけますが、かなり問題がある認識と思います。こうした言説は、「縄文」とアイヌを徹底的に切断したい願望を反映しているのでしょう。アイヌは二千年紀に北海道に新たに到来した外来の侵略者だった、というわけです。もちろん、前近代や近現代のアイヌ文化を「縄文文化」と同一視することも問題ではありますが。

 考古学的には、多くの研究者が「縄文文化」の始まりとする神子柴系石器群(島立.,2024)について、アムール川(Amur River、略してAR)中下流域など沿海州の、較正年代で16200~10700年前頃(Shoda et al., 2020)のオシポフカ(Osipovka)文化を起源とする見解もあります(関連記事)。「縄文文化」というか神子柴系石器群がオシポフカ文化に由来するのかどうか、私の知見では的確に判断できませんが、「縄文文化」の「起源」を単純に「南方系」と断定することは大間違いと考えています。もちろん、「縄文文化」に「南方系」要素はない、と主張するわけでもありませんが。

 神子柴系石器群とオシポフカ文化とが関連しているかもしれない可能性で興味深いのは、遺伝学的知見とも整合しているかもしれないことです。まだ昨年開催された国立科学博物館特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」での展示以上の情報は公表されていないと思いますが、「縄文人」のゲノムは、石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡で発見された27000年前頃の男性人類遺骸(4号人骨、白保4号)的な構成要素6割と、沿海州の古代人的な構成要素4割でモデル化できるそうです。沿海州というかアムール川流域では、まだオシポフカ文化初期の人類遺骸のゲノム解析には成功していないと思いますが、14000年前頃の個体のゲノム解析には成功しており、アムール川流域の現代人との強い遺伝的連続性が示唆されています(Mao et al., 2021)。「縄文人」のゲノムの構成要素の4割程度を占めるのが、このアムール川流域の14000年前頃の個体だとすると、「縄文人」は遺伝的にも文化的にも少なくとも一部は沿海州起源と考えることもできます。

 ただ、「縄文人」のゲノムの4割程度を占めるのが沿海州の古代人的な構成要素だとしても、それは沿海州の古代人が直接的祖先であることを証明するわけではありません。「縄文人」のゲノムにおける沿海州の古代人的な構成要素は、まだゲノム解析されていない、別の地域の集団に由来する可能性も考えられます。また、そもそも国立科学博物館特別展で明かされた沿海州の古代人が、アムール川流域の14000年前頃の個体とも限りません。アムール川流域では、LGM(Last Glacial Maximum、最終氷期極大期)の頃に人口置換があった、と推測されています(Mao et al., 2021)。33000年前頃の個体(AR33K)はアジア東部現代人と遺伝的に大きく異なり、19000年前頃の個体(AR19K)は現代人ではアジア東部の南方よりも北方の集団と遺伝的に近く、14000年前頃の個体(AR14K)はアムール川流域の現代人集団と強い遺伝的類似性を示します。

 これらのうちどの個体のゲノムが、「縄文人」のゲノムにおける沿海州の古代人的な構成要素を表しているのか、現時点では断定できません。おそらくはAR19KかAR14Kだと思いますが、両者の関係についても、現時点で断定は難しいようです。AR19KとAR14Kについては、単純な分岐の可能性も、AR19K的系統と他の系統の混合で現代人にまで続くAR14K的系統が形成された可能性も提示されています(Zhang et al., 2026)。白保4号のゲノムも、「縄文人」のゲノムにおける沿海州の古代人的な構成要素がどの個体と近いのかも、まだ明らかにされていないようですから、さらなる情報の公開を俟つしかなさそうです。

 遺伝学的な「縄文人」の起源については、昨年9月に備忘録を当ブログに掲載して以降、注目すべき論文も公表されています。ユーラシア東部の古代および現代の現生人類(Homo sapiens)個体における、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)からの遺伝的影響を検証した研究(Yang et al., 2025)では、「縄文人」はゲノムにおけるデニソワ人的構成要素の割合が最も低い、と示されました。これは、白保4号のゲノム解析結果とともに、「縄文人」の遺伝的起源を解明するうえで重要な知見となりそうです。

 「縄文人」については、高品質なゲノムデータが蓄積されてきたことも注目されます。査読前論文(Kato et al., 2025)では、複数の遺跡の「縄文人」の新しい高品質なゲノムデータが報告されています。これまでの研究で、「縄文人」は遺伝的に既知の現代人および古代人集団と比較して、独特な一まとまりを形成することが示されていましたが、それはこの査読前論文(Kato et al., 2025)でも変わりません。注目されるのは、PCA(principal component analysis、主成分分析)において、高品質なゲノムデータの「縄文人」が低品質なゲノムデータも含む「縄文人」全体の中で、とくに密接にまとまっていることです。以下は、Kato et al., 2025の図2です。
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 これは、品質の異なるゲノムデータを比較するさいの難しさを示唆しているかもしれません。じっさい、同じ個体を対象として、低品質なゲノムデータでの解析結果が、後からより高品質なゲノムデータを得ると、訂正されることもあります(関連記事)。高品質なゲノムデータを得られた「縄文人」遺骸が、時空間的に広範囲に分布していることを考えると、「縄文人」はこれまで考えられていた以上に遺伝的にかなり均質な集団だったかもしれません。もちろん、「縄文人」はその中でも遺伝的差異がありますし、時空間的に広範に分布していたことを考えると、縄文時代後期には、日本列島の「縄文人」の言語は地域間でかなりの違いが生じていた可能性もあるとは思います(関連記事)。


参考文献:
Kato M. et al.(2025): High-Coverage Jomon Genomes Provide Insights into Population Structure and Genetic Traits of Ancient Japanese Hunter-Gatherers. bioRxiv.
https://doi.org/10.64898/2025.12.14.694187

Mao X. et al.(2021): The deep population history of northern East Asia from the Late Pleistocene to the Holocene. Cell, 184, 12, 3256–3266.E13.
https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.04.040
関連記事

Shoda S. et al.(2020): Late Glacial hunter-gatherer pottery in the Russian Far East: Indications of diversity in origins and use. Quaternary Science Reviews, 229, 106124.
https://doi.org/10.1016/j.quascirev.2019.106124

Yang J. et al.(2025): An early East Asian lineage with unexpectedly low Denisovan ancestry. Current Biology, 35, 20, 4898–5808.E4.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.08.051
関連記事

Zhang G. et al.(2026): Ancient genomes provide insight into the Paleolithic-to-Neolithic transition in northern East Asia. Current Biology, 36, 6, 1399–1409.E7.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2026.02.004
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島立桂(2024)「縄文文化の起源と時代区分について」『研究連絡誌』第90巻P2785-2794
https://cir.nii.ac.jp/crid/1520583790099527680

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