『卑弥呼』第165話「足枷」
『ビッグコミックオリジナル』2026年4月20日号掲載分の感想です。前回は、金砂(カナスナ)国の出雲で、日下(ヒノモト)の吉備津彦(キビツヒコ)が、出雲の巨大神殿の階段を、棺を綱で自分の体に括りつけて登っていき、事代主(コトシロヌシ)に、日下が出雲に全面降伏する、と伝えたところで終了しました。今回は、その10日前、日下国の勾田(マガタ)で、日下の日見子(ヒミコ)であるモモソが、厲鬼(レイキ)、つまり疫病に感染したビビ王君(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)のため、祈祷を行なっている場面から始まります。そこへ、ビビ王の后であるイカガシ(『日本書紀』の開花天皇の皇后である伊香色謎命でしょうか)がモモソに話しかけます。モモソは、厲鬼退散の願いを文にしたため、鳥に結びつけて天照大神に送ろうとしていた、とイカガシに説明します。私の夫のビビ王君のためですね、とイカガシに言われたモモソは、やや焦ったような様子で、当然だと答えます。モモソは、鳥に文を高天原にまでとどけてもらう、とイカガシに説明し、今から都へ行く、と決意を示します。都の率川(ソツカワ)はもはや死人の棲み処だ、と案じるイカガシに、都の民のために祈ってほしいというのは、ビビ王君のたっての願いだ、とモモソは力強く言います。
その翌日、金砂国の汗入(アセイリ、後の伯耆国の汗入郡でしょうか)では、吉備津彦が姉のモモソからの文を受け取り、厲鬼の勢いが止まらず、厲鬼に感染したビビ王の命も危ないと知って、焦っていました。どうするのか、と日下から金砂国の支配者に任命された出雲フルネに、行くしかない、と吉備津彦は言いますが、出雲フルネは吉備津彦の意図が分かりません。さらにその翌日、率川では、多数の死者が斃れている中をモモソが訪れ、配下から、どこで祈るのか、聞かれて、祈っても無駄と判断したので帰る、と答えます。ビビ王のいる勾田に戻るのですね、と配下に言われたモモソは怒った様子ですぐに否定し、勾田は都の率川と同様に厲鬼に祟られているので、自分の住居である庵戸宮(イオトノミヤ)に帰る、と告げます。自分は今死ぬわけにはいかない、とモモソは焦り怒った様子で配下に伝えます。
話は現在に戻って、出雲の神殿では、古くから漢に伝わる降伏の作法である面縛與櫬(メンバクヨシン)で、吉備津彦が出雲の神殿を登り、事代主に全面降伏を申し出ます。配下のシラヒコからどうするのか、問われた事代主は、敵(吉備津彦)は面縛與櫬を選んだので、手の出しようがない、と答えます。事代主と面会した吉備津彦は、殺さないでいてくれて感謝感激だ、と大袈裟に言います。事代主なら面縛與櫬の意味を分かっている、と吉備津彦は確信しており、事代主は、面縛與櫬が秦の始皇帝の中土(中華地域のことでしょう)統一の遥か前からある降伏の儀礼であることを知っていました。事代主は、日下は出雲にも山社にも負けていないのに、吉備津彦が降伏した意図を理解できていません。吉備津彦は、事代主に降伏しても頼みたいことがあると言い、日下に来てモモソの婿となるよう懇願します。以前からそうするよう吉備津彦から要請というか脅迫されていた事代主は、その件については断ったはずだ、と冷静に伝えます。すると吉備津彦は、二礼二拍手、計さらに四拍手、一礼でどうだ、と事代主に提案します。天照大神様はもとより、八百万の神への儀礼は二礼二拍手一礼だが、事代主の神には倍の四拍手にする、というわけです。すると事代主は冷静に、以前と同じ提案で、人である自分は日下に下るが、自分が祀る神は天照大神より上位にするわけだ、と指摘します。
それでも吉備津彦は諦めず、天照大神様の御所を都から移し、その候補地として笠縫邑(カサヌイムラ)を考えている、と事代主に提案します。すると事代主は、そうまでして自分を日下に連れていきたい理由が今分かった、と言って、厲鬼が収まらないのだろう、と指摘します。すると吉備津彦は、正直に話す、と言って、日下に来て民を助けてほしい、事代主の医術が必要だ、と懇願します。しかし事代主は冷静に、厲鬼を軽んじ、戦の道具に使えると思ったそなたの自業自得ではないか、と吉備津彦に指摘します。それでも吉備津彦は諦めず、自分は金砂国の民を捕縛し、日下に新たな出雲を建造させたので、事代主が来なければその民も死ぬ、と脅迫します。しかし事代主は動じず、本当なのか、と吉備津彦に疑問を呈します。自分の民は厲鬼との戦い方を摂っており、日下全域が厲鬼に侵されても、元金砂国の民の邑だけは無事ではないのか、というわけです。冷静で残忍で狡猾な吉備津彦もさすがに苦しくなり、このまま厲鬼が勢力を強めれば、倭の金砂の民以外全員が死に絶える、と開き直ったように事代主を脅迫します。それでも事代主は冷静で、厲鬼は吉備津彦が思うより賢い、と指摘します。今は人に宿り、人を殺しまくっているが、いずれ、人を殺してしまえば自分も死ぬと気づくので、殺すのを止めて、人と共存する道を選ぶはずだから、今度の厲鬼も5年ほど経てば大人しくなるだろう、というわけです。
事代主の説明を聞いた吉備津彦は、愕然とした表情を浮かべます。ちょうど日下の民が全滅する頃に厲鬼は鎮まると言いたいのか、と激昂する吉備津彦に、わざわざ来たからこれだけは教えるが、先の厲鬼対策と同じで、こまめに手を洗い、口をゆすぎ、口元に布をつけ、他者との接触を極力避けるしか、厲鬼と戦う術はない、と事代主は冷静に指摘します。吉備津彦は、もっと前に貴様を殺しておけばよかった、と言って立ち上がり、シラヒコが吉備津彦を斬ろうとしますが、事代主はシラヒコを制し、日下のビビ王君が厲鬼に侵されたのだ、と悟ります。ビビ王君が亡くなったら、次の日下王は誰なのか、それともビビ王君の死をしばらく秘密にするのか、と事代主に問われた吉備津彦は、激昂しつつも反論できません。帰るように事代主に促された吉備津彦は、自分をここで殺さない情け深さはきっと足かせになる、と捨て台詞を吐きます。それでも事代主は動ぜず、本性を現したな、と冷静に呟き、風の噂と断ったうえで、山社(ヤマト)の日見子(ヤノハ)殿の使節団は無事に魏に到着しようだ、と伝えます。山社が魏と同盟を結んだら、倭の諸王は、厲鬼で瀕死の日下か、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の山社連合か、どちらにつくだろうか、と吉備津彦に問いかけます。しかし、激昂していた吉備津彦は冷静になり、使節団が無事に戻ればの話しだ、と事代主に伝えます。事代主は、山社連合の使節団に日下の間者がいるのではないか、と推測します。
山社の楼観では、ヌカデがアカメからの報告をヤノハに伝えていました。山社連合の使節団には、父親が穂波(ホミ)国の重臣で、日下に通じており亡命し、ミマアキの親友となったトモがいました。アカメの報告によると、トモは日下に降った父親と関係が切れていないようだ、と報告するヌカデに、トモは日下の間者と思うか、とヤノハは尋ねます。確たる証拠を掴んだ後で始末すべきだ、というヌカデに、ヤノハは躊躇った様子を見せます。不思議に思うヌカデに、トモはミマアキと親しかったな、とヤノハは尋ねます。ミマアキの友をまた奪うのは忍びないのか、とヌカデはヤノハに尋ね、ヤノハが以前より優しくなった、と指摘します。冷酷な表情で、何が言いたのか、とヤノハに問われたヌカデは、気おされて返答に詰まります。この情けが倭国統一の足枷にならねばよい、と思っているのだろう、とヤノハがヌカデに指摘するところで、今回は終了です。
今回は、事代主と吉備津彦のやり取りを中心に話が展開しました。疫病が流行した日下の状況は悲惨なようで、王君のビビも感染し、それでも吉備津彦は何とか事代主を騙し、自分が降伏する形ではあるものの、実質的に出雲を支配下に置こうとしていました。狡猾で冷静な吉備津彦が、今回は冷静さを失って激昂し、対照的に事代主は終始冷静で、この対比は面白くなっていました。これは、民の犠牲も厭わず、疫病を勢力拡大に利用する日下と、民から疫病を守るべく、全力を尽くす出雲というか事代主との対比にもなっていたように思います。ビビ王(開花天皇)とイカガシ(伊香色謎命)の間の息子が崇神天皇ですが、作中でこの二人の間に、崇神天皇に相当する息子がすでに生まれているのか、あるいはビビ王が回復して今後生まれるのか、現時点では不明です。ミマアキが『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇、つまり崇神天皇となる可能性を考えていましたが、予告では、日見子(ヤノハ)と日下は次回決着するそうなので、どのような話になるのか、たいへん楽しみです。山社連合と日下の対立は長く描かれるのではないか、と予想していただけに、そろそろ本作も完結が見えてきたのかもしれません。ただ、暈(クマ)国と山社連合の関係、さらにはヤノハの実子で、ヤノハを強く恨んでいるニニギ(ヤエト)の動向も描かれるでしょうから、完結はまだ先かな、とも考えています。ヤノハは、アカメに命じてミマアキの友であるクラトを殺したことを、ヌカデには知らせていなかったと思いますが、ヌカデがそれを知っていたのは、ヤノハから聞かされたのか、あるいは推測でしょうか。ヤノハが一瞬ヌカデに冷酷な表情を浮かべたのは、そのためでもあるのかもしれません。
その翌日、金砂国の汗入(アセイリ、後の伯耆国の汗入郡でしょうか)では、吉備津彦が姉のモモソからの文を受け取り、厲鬼の勢いが止まらず、厲鬼に感染したビビ王の命も危ないと知って、焦っていました。どうするのか、と日下から金砂国の支配者に任命された出雲フルネに、行くしかない、と吉備津彦は言いますが、出雲フルネは吉備津彦の意図が分かりません。さらにその翌日、率川では、多数の死者が斃れている中をモモソが訪れ、配下から、どこで祈るのか、聞かれて、祈っても無駄と判断したので帰る、と答えます。ビビ王のいる勾田に戻るのですね、と配下に言われたモモソは怒った様子ですぐに否定し、勾田は都の率川と同様に厲鬼に祟られているので、自分の住居である庵戸宮(イオトノミヤ)に帰る、と告げます。自分は今死ぬわけにはいかない、とモモソは焦り怒った様子で配下に伝えます。
話は現在に戻って、出雲の神殿では、古くから漢に伝わる降伏の作法である面縛與櫬(メンバクヨシン)で、吉備津彦が出雲の神殿を登り、事代主に全面降伏を申し出ます。配下のシラヒコからどうするのか、問われた事代主は、敵(吉備津彦)は面縛與櫬を選んだので、手の出しようがない、と答えます。事代主と面会した吉備津彦は、殺さないでいてくれて感謝感激だ、と大袈裟に言います。事代主なら面縛與櫬の意味を分かっている、と吉備津彦は確信しており、事代主は、面縛與櫬が秦の始皇帝の中土(中華地域のことでしょう)統一の遥か前からある降伏の儀礼であることを知っていました。事代主は、日下は出雲にも山社にも負けていないのに、吉備津彦が降伏した意図を理解できていません。吉備津彦は、事代主に降伏しても頼みたいことがあると言い、日下に来てモモソの婿となるよう懇願します。以前からそうするよう吉備津彦から要請というか脅迫されていた事代主は、その件については断ったはずだ、と冷静に伝えます。すると吉備津彦は、二礼二拍手、計さらに四拍手、一礼でどうだ、と事代主に提案します。天照大神様はもとより、八百万の神への儀礼は二礼二拍手一礼だが、事代主の神には倍の四拍手にする、というわけです。すると事代主は冷静に、以前と同じ提案で、人である自分は日下に下るが、自分が祀る神は天照大神より上位にするわけだ、と指摘します。
それでも吉備津彦は諦めず、天照大神様の御所を都から移し、その候補地として笠縫邑(カサヌイムラ)を考えている、と事代主に提案します。すると事代主は、そうまでして自分を日下に連れていきたい理由が今分かった、と言って、厲鬼が収まらないのだろう、と指摘します。すると吉備津彦は、正直に話す、と言って、日下に来て民を助けてほしい、事代主の医術が必要だ、と懇願します。しかし事代主は冷静に、厲鬼を軽んじ、戦の道具に使えると思ったそなたの自業自得ではないか、と吉備津彦に指摘します。それでも吉備津彦は諦めず、自分は金砂国の民を捕縛し、日下に新たな出雲を建造させたので、事代主が来なければその民も死ぬ、と脅迫します。しかし事代主は動じず、本当なのか、と吉備津彦に疑問を呈します。自分の民は厲鬼との戦い方を摂っており、日下全域が厲鬼に侵されても、元金砂国の民の邑だけは無事ではないのか、というわけです。冷静で残忍で狡猾な吉備津彦もさすがに苦しくなり、このまま厲鬼が勢力を強めれば、倭の金砂の民以外全員が死に絶える、と開き直ったように事代主を脅迫します。それでも事代主は冷静で、厲鬼は吉備津彦が思うより賢い、と指摘します。今は人に宿り、人を殺しまくっているが、いずれ、人を殺してしまえば自分も死ぬと気づくので、殺すのを止めて、人と共存する道を選ぶはずだから、今度の厲鬼も5年ほど経てば大人しくなるだろう、というわけです。
事代主の説明を聞いた吉備津彦は、愕然とした表情を浮かべます。ちょうど日下の民が全滅する頃に厲鬼は鎮まると言いたいのか、と激昂する吉備津彦に、わざわざ来たからこれだけは教えるが、先の厲鬼対策と同じで、こまめに手を洗い、口をゆすぎ、口元に布をつけ、他者との接触を極力避けるしか、厲鬼と戦う術はない、と事代主は冷静に指摘します。吉備津彦は、もっと前に貴様を殺しておけばよかった、と言って立ち上がり、シラヒコが吉備津彦を斬ろうとしますが、事代主はシラヒコを制し、日下のビビ王君が厲鬼に侵されたのだ、と悟ります。ビビ王君が亡くなったら、次の日下王は誰なのか、それともビビ王君の死をしばらく秘密にするのか、と事代主に問われた吉備津彦は、激昂しつつも反論できません。帰るように事代主に促された吉備津彦は、自分をここで殺さない情け深さはきっと足かせになる、と捨て台詞を吐きます。それでも事代主は動ぜず、本性を現したな、と冷静に呟き、風の噂と断ったうえで、山社(ヤマト)の日見子(ヤノハ)殿の使節団は無事に魏に到着しようだ、と伝えます。山社が魏と同盟を結んだら、倭の諸王は、厲鬼で瀕死の日下か、筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)の山社連合か、どちらにつくだろうか、と吉備津彦に問いかけます。しかし、激昂していた吉備津彦は冷静になり、使節団が無事に戻ればの話しだ、と事代主に伝えます。事代主は、山社連合の使節団に日下の間者がいるのではないか、と推測します。
山社の楼観では、ヌカデがアカメからの報告をヤノハに伝えていました。山社連合の使節団には、父親が穂波(ホミ)国の重臣で、日下に通じており亡命し、ミマアキの親友となったトモがいました。アカメの報告によると、トモは日下に降った父親と関係が切れていないようだ、と報告するヌカデに、トモは日下の間者と思うか、とヤノハは尋ねます。確たる証拠を掴んだ後で始末すべきだ、というヌカデに、ヤノハは躊躇った様子を見せます。不思議に思うヌカデに、トモはミマアキと親しかったな、とヤノハは尋ねます。ミマアキの友をまた奪うのは忍びないのか、とヌカデはヤノハに尋ね、ヤノハが以前より優しくなった、と指摘します。冷酷な表情で、何が言いたのか、とヤノハに問われたヌカデは、気おされて返答に詰まります。この情けが倭国統一の足枷にならねばよい、と思っているのだろう、とヤノハがヌカデに指摘するところで、今回は終了です。
今回は、事代主と吉備津彦のやり取りを中心に話が展開しました。疫病が流行した日下の状況は悲惨なようで、王君のビビも感染し、それでも吉備津彦は何とか事代主を騙し、自分が降伏する形ではあるものの、実質的に出雲を支配下に置こうとしていました。狡猾で冷静な吉備津彦が、今回は冷静さを失って激昂し、対照的に事代主は終始冷静で、この対比は面白くなっていました。これは、民の犠牲も厭わず、疫病を勢力拡大に利用する日下と、民から疫病を守るべく、全力を尽くす出雲というか事代主との対比にもなっていたように思います。ビビ王(開花天皇)とイカガシ(伊香色謎命)の間の息子が崇神天皇ですが、作中でこの二人の間に、崇神天皇に相当する息子がすでに生まれているのか、あるいはビビ王が回復して今後生まれるのか、現時点では不明です。ミマアキが『日本書紀』の御間城入彦五十瓊殖天皇、つまり崇神天皇となる可能性を考えていましたが、予告では、日見子(ヤノハ)と日下は次回決着するそうなので、どのような話になるのか、たいへん楽しみです。山社連合と日下の対立は長く描かれるのではないか、と予想していただけに、そろそろ本作も完結が見えてきたのかもしれません。ただ、暈(クマ)国と山社連合の関係、さらにはヤノハの実子で、ヤノハを強く恨んでいるニニギ(ヤエト)の動向も描かれるでしょうから、完結はまだ先かな、とも考えています。ヤノハは、アカメに命じてミマアキの友であるクラトを殺したことを、ヌカデには知らせていなかったと思いますが、ヌカデがそれを知っていたのは、ヤノハから聞かされたのか、あるいは推測でしょうか。ヤノハが一瞬ヌカデに冷酷な表情を浮かべたのは、そのためでもあるのかもしれません。
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