大規模群衆によって生み出される振動運動
取り上げるのが遅れてしまいましたが、大規模群衆によって生み出される振動運動に関する研究(Gu et al., 2025)が公表されました。コンサートやフェスティバルのような密集した群衆は、現代社会における最も危険な環境の一つです。危険は、制御されていない集団運動から生じ、壁への圧迫や窒息や死亡事故につながります。群衆動態に関する現状の理解は、おもに発見法的な衝突モデルに依存していますが、こうしたモデルは少人数の集団に観察される挙動を効果的に把握するものです。一方、数千人もの人々で構成される密集した群衆の創発的な動態は、定量的な実験的評価や第一原理に根差した説明の得られていない、依然として一筋縄ではいかない多体問題です。
本論文は、スペインのパンプローナ(Pamplona)で開催されたサン・フェルミン祭(San Fermín festival)において、4ヶ所の場面で、長さ50m、幅20mの広場に設置された2ヶ所の観測地点から、推定5000人の群衆を追跡したデータに基づいて、数千人の密に押し込められた人々の動態を解析し、閉じ込められて密集した群衆の物理理論を推察した。測定の結果から、密集した群衆が自己組織化して巨視的なカイラル振動子となり、これが外部からの誘導なしに数百人の人々による軌道運動を調整する、と明らかになりました。より具体的には、祭りが始まる前の1時間には1m²あたり2人だった群衆の密度が、祭りの最中には1m²あたり6人にまで増加した、と分かりました。また、群衆の密度は最大で1m²あたり9人に達することも分かりました。この上限密度に達すると、数百人の群衆が外部からの刺激(押すなど)なしに、予測可能な18秒間隔で振動する一つの流体のように自然に行動する様子が観察されました。
本論文は、こうした測定結果と対称性の原理を指針として、密集群衆運動の力学モデルを構築しました。このモデルは、創発的で奇妙な摩擦力が、集団的なカイラル振動に向けて非相反的な相転移を駆動することを実証しており、今回の実験的観測結果を全て把握しています。本論文は、この知見の堅牢性を検証するために、2010年にドイツのデュイスブルク・ラブパレード(Duisburg Love Parade)で起きた群衆事故の発生時にも、同様のカイラルダイナミクスが現れていたことを示し、こうしたこれまで予測不可能だった動態を予測するのに役立ち得る、プロトコルを提案します。日本でもこうした事故が過去に起きており、注目すべき研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
物理学:大規模な群衆の力学を理解する
ある一定の密度に達した集団の動きはある程度予測できるかもしれないことを報告する論文が、Nature に掲載される。スペインの伝統的な祭りを4年間にわたって観察した結果に基づくこの研究結果は、閉鎖された環境における危険な群衆の行動を予測するのに役立つ洞察を提供している。
コンサートやフェスティバルのような密集した群衆は、数百人単位で集団移動が起こり、押しつぶされ、窒息および死にいたる可能性もあるため、大きな危険要因となり得る。大勢の群衆が互いにどのように移動するかを理解することは、悲劇を防ぐのに役立つが、特にそのような規模での再現性のある安全な実験が不可能であるため、数千人の集団における力学を説明したりモデル化したりすることは困難であった。
Denis Bartoloらは、スペインのパンプローナ( Pamplona)で開催されたサン・フェルミン祭(San Fermín festival)の4つの場面で、長さ50メートル、幅20メートルの広場に設置された2つの観測地点から、推定5,000人の群衆を追跡した。著者らの映像と数学モデル(人々が密集し、群衆が連続体として扱える場合、流体のようになる)により、著者らは、祭りが始まる前の1時間には1平方メートルあたり2人だった群衆の密度が、祭りの最中には1平方メートルあたり6人にまで増加したことを発見した。また、群衆の密度は最大で1平方メートルあたり9人に達することが分かった。この上限密度に達すると、著者らは数百人の群衆が外部からの刺激(押すなど)なしに、予測可能な18秒間隔で振動するひとつの流体のように自然に行動する様子を観察した。
この発見の一般的な性質を立証するために、著者らはスペインのサン・フェルミン祭の映像と、パニックに陥った群衆のなかで200人以上が負傷し、21人が死亡した2010年のドイツのデュイスブルク・ラブパレード(Duisburg Love Parade)の映像を比較した。Bartoloらは、デュイスブルクの群衆がサン・フェルミン祭と同程度の密度に達した際にも、同じ振動が観察されたことを発見した。
著者らは、この発見が限られた空間における大規模な群衆の行動を予測する方法についての洞察をもたらすかもしれないと指摘している。
統計物理学:大規模群衆における集団振動の出現
統計物理学:大規模群衆によって生み出される振動運動
今回、スペインのサン・フェルミン祭の閉じ込められた群衆に関する制御された反復的観測に基づいて、臨界密度を超えた群衆が、数百人の人々の同期した軌道運動からなる自発的なカイラル振動を生じることが示されている。この動態は、力学的理論で捉えることができる。
参考文献:
Gu F. et al.(2025): Emergence of collective oscillations in massive human crowds. Nature, 638, 8049, 112–119.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08514-6
本論文は、スペインのパンプローナ(Pamplona)で開催されたサン・フェルミン祭(San Fermín festival)において、4ヶ所の場面で、長さ50m、幅20mの広場に設置された2ヶ所の観測地点から、推定5000人の群衆を追跡したデータに基づいて、数千人の密に押し込められた人々の動態を解析し、閉じ込められて密集した群衆の物理理論を推察した。測定の結果から、密集した群衆が自己組織化して巨視的なカイラル振動子となり、これが外部からの誘導なしに数百人の人々による軌道運動を調整する、と明らかになりました。より具体的には、祭りが始まる前の1時間には1m²あたり2人だった群衆の密度が、祭りの最中には1m²あたり6人にまで増加した、と分かりました。また、群衆の密度は最大で1m²あたり9人に達することも分かりました。この上限密度に達すると、数百人の群衆が外部からの刺激(押すなど)なしに、予測可能な18秒間隔で振動する一つの流体のように自然に行動する様子が観察されました。
本論文は、こうした測定結果と対称性の原理を指針として、密集群衆運動の力学モデルを構築しました。このモデルは、創発的で奇妙な摩擦力が、集団的なカイラル振動に向けて非相反的な相転移を駆動することを実証しており、今回の実験的観測結果を全て把握しています。本論文は、この知見の堅牢性を検証するために、2010年にドイツのデュイスブルク・ラブパレード(Duisburg Love Parade)で起きた群衆事故の発生時にも、同様のカイラルダイナミクスが現れていたことを示し、こうしたこれまで予測不可能だった動態を予測するのに役立ち得る、プロトコルを提案します。日本でもこうした事故が過去に起きており、注目すべき研究です。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
物理学:大規模な群衆の力学を理解する
ある一定の密度に達した集団の動きはある程度予測できるかもしれないことを報告する論文が、Nature に掲載される。スペインの伝統的な祭りを4年間にわたって観察した結果に基づくこの研究結果は、閉鎖された環境における危険な群衆の行動を予測するのに役立つ洞察を提供している。
コンサートやフェスティバルのような密集した群衆は、数百人単位で集団移動が起こり、押しつぶされ、窒息および死にいたる可能性もあるため、大きな危険要因となり得る。大勢の群衆が互いにどのように移動するかを理解することは、悲劇を防ぐのに役立つが、特にそのような規模での再現性のある安全な実験が不可能であるため、数千人の集団における力学を説明したりモデル化したりすることは困難であった。
Denis Bartoloらは、スペインのパンプローナ( Pamplona)で開催されたサン・フェルミン祭(San Fermín festival)の4つの場面で、長さ50メートル、幅20メートルの広場に設置された2つの観測地点から、推定5,000人の群衆を追跡した。著者らの映像と数学モデル(人々が密集し、群衆が連続体として扱える場合、流体のようになる)により、著者らは、祭りが始まる前の1時間には1平方メートルあたり2人だった群衆の密度が、祭りの最中には1平方メートルあたり6人にまで増加したことを発見した。また、群衆の密度は最大で1平方メートルあたり9人に達することが分かった。この上限密度に達すると、著者らは数百人の群衆が外部からの刺激(押すなど)なしに、予測可能な18秒間隔で振動するひとつの流体のように自然に行動する様子を観察した。
この発見の一般的な性質を立証するために、著者らはスペインのサン・フェルミン祭の映像と、パニックに陥った群衆のなかで200人以上が負傷し、21人が死亡した2010年のドイツのデュイスブルク・ラブパレード(Duisburg Love Parade)の映像を比較した。Bartoloらは、デュイスブルクの群衆がサン・フェルミン祭と同程度の密度に達した際にも、同じ振動が観察されたことを発見した。
著者らは、この発見が限られた空間における大規模な群衆の行動を予測する方法についての洞察をもたらすかもしれないと指摘している。
統計物理学:大規模群衆における集団振動の出現
統計物理学:大規模群衆によって生み出される振動運動
今回、スペインのサン・フェルミン祭の閉じ込められた群衆に関する制御された反復的観測に基づいて、臨界密度を超えた群衆が、数百人の人々の同期した軌道運動からなる自発的なカイラル振動を生じることが示されている。この動態は、力学的理論で捉えることができる。
参考文献:
Gu F. et al.(2025): Emergence of collective oscillations in massive human crowds. Nature, 638, 8049, 112–119.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08514-6
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