『卑弥呼』第166話「勝利の日」

 『ビッグコミックオリジナル』2026年5月5日号掲載分の感想です。前回は、山社(ヤマト)の楼観で、以前より優しくなった、とヌカデに指摘されたヤノハが、この情けが倭国統一の足枷にならねばよい、と思っているのだろう、と言ったところで終了しました。今回は、魏の昌黎県に留まっているトメ将軍一行が、遼東郡を抜けてどのように倭に向かうのか、検討している場面から始まります。すでに、ゴリおよびヤノハと旧知の何(カ)は、魏から下賜された金印を持って、先に倭に向かっています。トメ将軍は朝鮮半島沿いに海上を進んではどうか、と提案しますが、魏側から、呉軍は船団を率いて遼東に来ており、危険と指摘されます。ミマアキは、襄平を迂回して玄菟との郡境を行ってはどうか、と提案しますが、そこは鮮卑や高句麗が跋扈しており、呉以上に危険と魏側は指摘します。魏が手をこまねいているのは、治安維持に残した兵が少ないからで、洛陽に援軍を要請したものの、新たな天子(皇帝)はまだ幼く、誰が指示を出しているのか、はっきりしないようです。父親が穂波(ホミ)国の重臣で、日下に通じており亡命し、ミマアキの親友となったトモは、一年もすれば呉郡も引き揚げるだろうから、気長に待つよう、提案します。しかしトメ将軍は、敗戦の地には兵糧がなく、呉軍も長くは駐屯できないだろうから、一か八か出発してはどうか、と提案し、示斎(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)であるミマアキに意見を求めます。ミマアキは、自分たちが運ぶ土産の品々は、魏が日見子(ヒミコ)様(ヤノハ)と同盟関係を結んだ証なので、一刻も早く届けるべきと答え、明日出発するよう提案します。日下(ヒノモト)と通じていることがヤノハにも疑われているトモは、早計と反対しますが、トメ将軍はミマアキの案を採用します。

 帯方郡では、先行したゴリと何をオオヒコが出迎えていました。遼東は呉郡や鮮卑が押し寄せ、楽浪郡には公孫郡の残党や高句麗の兵が要る中、トメ将軍率いる本体は魏の皇帝からの貴重な贈答品を運び、ゴリと何のみ馬で先行したわけです。ゴリは、魏が日見子様(ヤノハ)を倭王と認め、同盟関係を承諾した、とオオヒコに伝え、オオヒコは、勒島(ロクド、慶尚南道泗川市の沖合の島)のヒホコに伝えれば、約40日で筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)中に日見子様の偉業が知れ渡る、と興奮した様子で言います。すると何は、伝令を出すなら我々が直接行くと言って、オオヒコに新たな馬を要求します。ゴリと何は、(先ほど崩御した)魏の皇帝(曹叡)から下賜された金印をヤノハに一刻も早く届けようとします。

 日下国の庵戸宮(イオトノミヤ)では、吉備津彦(キビツヒコ)が双子の姉で日下の日見子であるモモソから、ビビ王君(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)は助かりそうになく、王君どころか4人の后と3人の子供も直に厲鬼(レイキ)、つまり疫病に冒されるだろうし、日下湖の北側はほぼ全滅した、と伝えます。吉備津彦は苛立ち、次の王君を誰にするのか、思案しますが、事代主(コトシロヌシ)が言ったように、王君の死を伏せる手もある、と考えます。するとモモソは、次の王君として、ビビ王君の異母弟であるハニヤスを提案します。

 山社では、公孫淵が成敗されて少なくとも250日は経過したのに、魏への使節団の動向が分からないため不安に思っているイクメを、焦ることはない、と言ってヤノハが諭していました。加羅の勒島では、ゴリと何がヒホコに見送られて、舟で出立します。金砂(カナスナ)国の出雲では、ヤマトの使節を案ずるシラヒコに、大丈夫と事代主が諭していました。ゴリと何は津島(ツシマ、現在の対馬でしょう)国の三根(ミネ)に到着し、コミミ王に魏と山社連合の同盟を伝えて、コミミ王は、倭国泰平が夢ではなくなる、と安堵します。ゴリと何は伊岐(イキ、現在の壱岐諸島でしょう)でイカツ王にも魏と山社連合の同盟を伝えた後、末盧(マツラ)国へと向かいます。末盧国のミルカシ女王は、日守りのミナクチに、山社連合の王に平和は近いと伝令を出すよう、命じます。日下にも、山社の使者2名(ゴリと何)が筑紫島に戻ってきた、と伝わり、我々は何をすればよいのか、と姉のモモソに問われた吉備津彦は、負けたのだからもうおしまいだ、と答えます。日下は厲鬼で風前の灯火になっており、山社は魏と同盟を結び、我々は何もできないから、少なくとも10年は山社の日見子の天下になる、と吉備津彦は考えています。魏からの使者が戻ったことは、出雲の事代主にも伝わっていました。ゴリと何がヤノハに、魏から贈られた金印を献上し、これで倭に泰平の世が訪れる、とヤノハが言うところで今回は終了です。


 今回はついに、魏から倭王というか山社連合の盟主で山社の日見子でもあるヤノハへと贈られた金印がヤノハに届けられました。前号の予告では、日見子とヤノハの対決は次号で決着とありましたが、吉備津彦が言うように、少なくとも10年は山社の日見子の天下になりそうではあるものの、日下が山社の傘下に入ったわけではなく、日下が巻き返す可能性も残されています。ただ、今回の予告では、「そとしてヤノハは止めの策を打つ!!」とあるので、日下が山社連合に屈するのかもしれません。以前から気になっていましたが、記紀の系譜や説話は本作では基本的に日下に当てはまります。山社連合が最終的に日下に屈する可能性も、山社連合と日下が同盟を締結し、山社連合が日下の神話と系譜を受け入れる可能性も想定していましたが、この展開だと、日下の系譜と神話を受け入れる形で、日下が山社連合の傘下に入るのかな、とも思います。ただ、暈(クマ)国の実質的な最高権力者である野心家の鞠智彦(ククチヒコ)は、呉と結ぶことも考えており、暈による筑紫島、さらには倭国統一をまだ諦めていませんから、『三国志』も参考にすると、倭の泰平が実現しても短期間で終わり、ヤノハとその実子であるヤエト(ニニギ)との因縁から、山社連合と暈国との対立が激化し、山社連合は日下の旧都(纏向遺跡?)に遷都することになるかもしれません。それはまだ先のことでしょうから、まずは、ヤノハが日下に対してどのような策を講じるのか、注目されます。なお、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。

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