カンブリア紀の海洋生態系

 カンブリア紀の海洋生態系について報告した研究(Zeng et al., 2026)が公表されました。カンブリア紀のBST(Cambrian Burgess Shale-type 、バージェス頁岩型)化石生物相には、顕生代最古の海洋生態系のほぼ完全なスナップショットが記録されています。しかし、軟組織を保存する多様性の高いBST生物相を含む堆積層はきわめて少ないため、約5億4000万年前に始まったカンブリア爆発(Cambrian explosion)の進化的および生態的動態に関する理解は限られています。

 本論文は、中国南部の湖南省に広がる揚子地塊の大陸棚外縁の深海環境で発見された、前期カンブリア紀(ステージ4、約5億1200万年前)のBST化石鉱脈である、華源(Huayuan)生物相について報告します。華源生物相は分類学的にきわめて多様で、門水準の16クレード(単系統群)に属する153の動物種から構成されています。その大部分は節足動物や海綿動物や刺胞動物で、そのうち59%の種が新種でした。この華源生物相を構成する生物では圧倒的に軟体生物が多く、それらの細胞組織も保存されていました。

 この複雑な生態系には、多様なラディオドンタ類(放射歯類)や外洋性の被嚢類が含まれ、これにより、カンブリア紀のステージ4に由来する多様性の高いBST生物相における空白が埋められた。重要なことに、カンブリア紀のBST生物相の全球データセットに基づく多変量序列化によって、華源生物群はカンブリア紀のステージ3からステージ4にかけての海洋動物生態系の主要な移行段階に位置づけられました。

 ネットワーク解析では、華源生物相とバージェス頁岩生物相との間で動物相に密接な関係がある、と明らかになり、海洋をまたぐ分散が示されました。華源生物相の年代は、カンブリア爆発を終わらせたシンスク事象(Cambrian Sinsk event)の直後に相当し、顕生代最初の大量絶滅の期間に絶滅事象が浅海環境と深海環境に与えた影響の差異を明らかにするとともに、前期カンブリア紀の全球の生態系の変容に関して重要な知見をもたらしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:中国における種多様性の高い古代の海洋生態系

 約5億1200万年前にさかのぼる、中国南部の採石場で発見された多様な軟体動物の化石群が今週のNature に掲載される。いわゆる「花園生物群(Huayuan biota)」は、16の主要グループに属する153種の動物を含み、そのうち59%がこれまで未発見の新種である。これらの保存状態の良い化石は、カンブリア紀爆発(Cambrian explosion)を終わらせた大量絶滅であるカンブリア紀初期のシンスク事件(early Cambrian Sinsk event)後の海洋生態系について、これまでで最も包括的に示している。

 約5億4000万年前に始まったカンブリア爆発に関する私たちの知識の多くは、軟組織を保存するバーガス頁岩型の希少な堆積物(Burgess Shale type deposits)に由来する。シンスク事件は、この爆発を中断させ、特に浅海域の骨格をもつ動物を中心に約41~49%の絶滅率をもたらした。約5億1350万年前のシンスク絶滅直後の時代から、豊富で多様な標本が得られる場所はほとんどない。そのため、軟体生物群集がこの事象にどう対応したか、特に深海域における反応についてはほとんど知られていなかった。中国の澄江(チェンジャン;Chengjiang)や清江(チンジャン;Qingjiang)からの既存の記録は絶滅以前にさかのぼり、バーガス頁岩がとらえているのははるかに後世の生態系だけである。

 2021年から2024年にかけての4回の現地調査で、Fangchen ZhaoとMaoyan Zhu(中国科学院〔中国〕)らは、中国南部の湖南省にある採石場で数千点の良好な保存状態の標本を発見した。花園生物群には、節足動物(arthropods)、海綿動物(sponges)、被嚢動物(tunicates)、およびそのほかの無脊椎動物に加え、カンブリア紀の頂点捕食者である完全な放射歯類(radiodonts)が含まれており、複雑な食物網を示唆している。世界45箇所のカンブリア紀生物群集との統計的比較により、花園と後のバージェス頁岩との間に強い動物相の関連性が明らかになった。これは、海流や海面変動などの要因による海洋を越えた長距離分散を示唆している。また、この結果により、深海の軟体生物環境は、浅海域よりもシンスク絶滅の影響を受けにくく、これらの深海域が避難場所や進化的革新の中心地として機能した可能性が示されている。

 この包括的な生物群集は、カンブリア紀初期の最初の大量絶滅前後における化石記録の空白を埋めるものである。バージェス頁岩と共有する分類群は、中国南部と北米洲の間に早期から動物相の連続性があったことを裏づけ、カンブリア紀初期における地球規模の海洋生態系の再編成過程に関する新たな洞察をもたらしている。


古生物学:顕生代最初の大量絶滅の後に出現したカンブリア紀の軟体生物相

古生物学:前期カンブリア紀の新たな生物相

 今回、中国南部で前期カンブリア紀(約5億1200万年前)の「華源生物相」が発見された。この生物相は、年代がカンブリア爆発に終止符を打った大量絶滅事象であるシンスク事象(約5億1300万年前)の直後に当たり、有名なバージェス頁岩生物相に似ているが、はるかに多様性が高い。華源生物相でこれまでに発見された8600点以上の化石標本には、16の動物門に属する153種が含まれ、その半数以上が新種であった。



参考文献:
Zeng H. et al.(2026): A Cambrian soft-bodied biota after the first Phanerozoic mass extinction. Nature, 651, 8106, 679–687.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-10030-0

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