チーターの古代ゲノムデータ(追記有)
チーターの古代ゲノムデータを報告発見した研究(Boug et al., 2026)が報道されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、サウジアラビアの複数の洞窟で発見されたチーターのミイラ化を含めた遺骸から得られた古代ゲノムを分析し、最新の1個体がアジアチーターと遺伝的にクラスタ化した(まとまった)のに対して、より古い個体群は北西アフリカチーターとクラスタ化した、と示されました。これは、チーターの再野生化や絶滅地域での再導入に有益な情報となる点でも、注目されます。
追記(2026年3月10日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、mtDNA(Mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)、PCA(principal component analysis、主成分分析)、m(metre、meter、メートル)、km(kilometre、kilometer、キロメートル)、C(carbon、炭素)、PCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)、CT(computer tomography、計算断層写真術)です。本論文で取り上げられる主要な地域は、オマーンのジビャット・ドファール(Jibjat Dhofar)、サウジアラビア北部のアラル(Arar)地域のラウガ(Lauga)洞窟網です。
本論文で取り上げられる主要なチーター属の動物は、チーター(Acinonyx jubatus)、アジアチーター(Acinonyx jubatus venaticus)、北西アフリカチーター(Acinonyx jubatus hecki)、北東アフリカチーター(Acinonyx jubatus soemmeringii)、南アフリカチーター(Acinonyx jubatus jubatus)、東アフリカチーター(Acinonyx jubatus raineyi)です。本論文で取り上げられる主要なチーター属以外の動物は、アラビアオリックス(Oryx leucoryx)、アラビアガゼル(Gazella arabica)、サンドガゼル(Gazella marica)、ヌビアアイベックス(Capra nubiana)、ハイイロオオカミ(Canis lupus)、アカギツネ(Vulpes vulpes)、フクロオオカミ(Thylacinus cynocephalus)、アメリカチーター(Miracinonyx trumani)、ピューマ属(genus Puma)、シマハイエナ(Hyaena hyaena)です。
●要約
チーターは世界中で急速な個体数減少を経ており、サウジアラビアを含めてその歴史的範囲の91%で絶滅しました。チーターの歴史的範囲についての情報は、以前の生息地の大半で乏しいままです。サウジアラビアにおいて、いくつかの洞窟で、チーター54個体およびその獲物と推定される骨格遺骸とともに、自然にミイラ化したチーター7個体の予期せぬ幸運な発見は、チーターの以前の範囲における進化史の解明に貴重な機会を提供しました。時間的状況を確認するための古年代学的手法と、異なる期間に存在した亜種を推測するためのゲノム配列決定と、年齢層を判断するためのX線撮影が適用されました。ミイラ化したチーターの¹⁴C較正年代は4223±40~127±40年前頃でした。ミイラ化したチーターの全ゲノム配列から、最新の1個体がアジアチーターとまとまったのに対して、より古い標本群は北西アフリカチーターとまとまった、と示されました。本論文では、アラビア半島におけるチーターの再野生化は発見されたチーターの最も近縁な亜種から供給できる、と結論づけられます。本論文の結果は、基準となる再野生化の試みの欠如において、洞窟が古代の生物多様性情報の貯蔵庫として果たすかもしれない役割を浮き彫りにします。
●研究史
ほとんどの大型ネコ科種は絶滅の危機に瀕しており、おもに生息地の破壊と乱獲のために減少し続けています。ネコ科の中でも、チーターは世界中て魏とくに深刻な個体数減少を経ており、その歴史的に範囲のほぼ91%が失われました。チーターは、熱帯雨林のないアフリカの地域の大半や、アラビア半島からインドまでアジア西部および南部の大半にわたって広がっていました。現在、チーターの5亜種が認識されており、それは、北西アフリカチーター、北東アフリカチーター、南アフリカチーター、アジアチーター(今ではイランのみです)、東アフリカチーターです。全野生チーターの半分以上(約60%)が南アフリカチーターに属しているのに対して、歴史的にサウジアラビアに存在していたと推定されているアジアチーターは、絶滅の危機に瀕しています。わずか約50~70個体のアジアチーターが野生に残っており、イランの単一の小さな個体群で構成されています。
歴史的な目撃例から、チーターはアラビア半島とレヴァントについ1838~1977年まで生息していた、と示唆されています(図1A)。最新の証拠は、1977年にオマーンのジビャット・ドファール近郊で、地元の狩猟者によって撃たれた成体の雌1個体から得られています。これらの記録は、サウジアラビアやオマーンやイエメンやクウェートやイラクやヨルダンやパレスチナにおけるチーターの歴史的な存在を明白に裏づけていますが、証拠の少なさはチーターの真の歴史的分布を適切には反映していない、と主張した人もいます。この少なさは部分的には極端に低い生息密度のためで、サハラ砂漠のチーターの生息密度は1 km²あたりわずか0.0002頭です。アラビア半島におけるチーターの消滅の主因は充分に記録されていませんが、生息地の喪失および断片化、獲物の枯渇、ヒトと野生の軋轢、規制されていない狩猟、愛玩動物としてのチーターの交易もしくは競技としての狩猟と考えられています。サウジアラビアからのチーターの消滅以降、これらの侵襲要因の社会的および環境的背景は劇的に変わり、10ヶ所以上の保護区が設立され、有蹄類種の種回復および再導入計画、以生息地復元計画、地域教育計画の実行、野生犯罪執行部門のある政府野生期間の設立があります。以下は本論文の図1です。
サウジアラビアにおける過去半世紀の野生管理の変化は、地球規模の生物多様性目標の達成の関心の復活と一致しています。地球規模の生物多様性目標の達成には、絶滅危惧種の再興と回復の試み、および以前の生物地理的範囲に戻す試みが必要です。これは頂点捕食者についてとくに重要で、頂点捕食者の消滅は草食動物の調節解除によって生態系を劣化させるかもしれません。そうした対策は、種の以前の範囲へと再導入を含めて、再野生化における復活への関心に寄与してきました。頂点捕食者の再導入は、多くの生態系の機能回復に成功しており、保全のための重要な手段として、一部の肉食動物が提唱されています。最近数十年間、サウジアラビアは有蹄類の絶滅したもしくは個体群が減少下景観への復活に成功してきました(たとえば、アラビアオリックス、アラビアガゼル、サンドガゼル、ヌビアアイベックス)。長く失われていた有蹄類の個体数が回復するにつれて、絶滅した頂点捕食者、とりわけチーターの回復に好機となっています。
本論文は、サウジアラビア北部のアラル地域のラウガ洞窟網での、チーターのミイラ化した7個体および骨格遺骸54個体の発見について報告します。ミイラかしたチーターの発見は、標本を年代測定したその後の古年代学的分析や、どの亜種が異なる期間に存在したのか、推測するゲノム解析や、年齢層を判断するためのX線撮影分析とともに、サウジアラビアにおけるチーターの進化史と絶滅への前例のない知見を提供します。本論文は、サウジアラビアの先史時代のチーターがゲノム的には、アフリカ西部の北西アフリカチーター亜種と最も近い、との最初の証拠を報告します。本論文はこの発見に基づいて、現在サウジアラビアで行なわれている再野生化の試みに関して、保全管理のための提案事項についてさらに考察します。
●結果と考察
本論文は以下で、チーターのミイラが発見された環境の特徴を初めて報告します。次に、ミイラで行なわれた3通りの分析の調査結果が報告され、それは、(1)ミイラの放射性炭素年代測定、(2)ゲノムの古ゲノム解析、(3)洞窟で発見されたチーターの年齢を推定するための頭蓋のX線撮影分析です。その後、将来の再野生化への関心に対する、これらの調査結果の影響が考察されます。
●発見地の自然環境および概要
2022年と2023年に、サウジアラビア北部の1211km²の地域にまたがる地下洞窟で、野生生物が調査されました。5ヶ所の洞窟で、チーターの54個体の骨格遺骸と7個体のミイラ化した遺骸が発見されました。各チーター以外から最も近い洞窟入口までの距離は、平均して127m(最小で30m、最大で1245m)でした。5ヶ所の動口の入口全てで、平均温度は33.5度、相対湿度は22%でした(骨格遺骸54個体では、平均温度が29.1度で、相対湿度は24%、ミイラ化した7個体では、平均温度が26度で、相対湿度は28%)。
チーターは5ヶ所のチーターを含む洞窟のうち4ヶ所では高度に集中しており(80%)、チーターの獲物候補の動物はわずか数点の遺骸(3個体未満)しか見つかりませんでした。多数のサンドガゼル遺骸(164個体)が1ヶ所の洞窟(洞窟2号)のみで発見され、ここではチーターの遺骸(4個体)とアカギツネ1個体のミイラも発見されました。全チーター遺骸の67%(41個体)が陥没穴を通って行ける洞窟(洞窟1号)から発掘され、ミイラ化したハイイロオオカミ1個体とミイラ化したアカギツネ2個体がこの同じ洞窟で検出されましたが、有蹄類は見つかりませんでした。
●チーターの遺骸の放射性炭素年代測定
2点の完全なミイラと5点の骨格遺骸から抽出された骨遺骸が¹⁴C分析され、古代の組織の吹田亭年代が確認されました。標本7点のうち、2点のチーター遺骸は、¹⁴C較正年代で4223±40年前と127±40年前を示しました(表1)。
●チーターの頭蓋形態のX線撮影分析
頭蓋形態のX線撮影分析(表2)では、20点の頭蓋が評価され、そのうち14点は亜成体(月齢が18~24ヶ月)、6点は成体(24ヶ月超の月例)でした。9点の幼体(月齢が18ヶ月未満)遺骸が、洞窟1号で発見されました。最も保存状態の良好なミイラ遺骸の外部形態と内部構造は、骨組織および軟組織両方の高度な保存状態を示唆しており(図2E)、自然のミイラ化の過程と一致します。頭蓋と顎と大後頭孔の保存状態(図2A・B)、および頭蓋と下顎と頸部構造と胸郭と椎骨をもとの位置に保存している良好に維持された関節のつながり(図2C)は、ミイラ2号の三事件仮想復元で明らかです。チーターのミイラ2号の頭蓋では、縮小しているものの、明確に観察できる脳髄が明らかです(図2D)。以下は本論文の図2です。
●チーター遺骸の古遺伝学的分析
完全なミトコンドリアおよび核ゲノム配列が、最も新しい標本(ミイラ1号)と、年代順で5番目の¹⁴C年代の標本(骨格遺骸3号)と、最古の標本(骨格遺骸5号)で得られました。配列は、古代DNA配列決定ライブラリに特徴的な、PCR相対的に低いPCR重複率(8~11%)を示しました。塩基転換(ピリミジン塩基とプリン塩基との間の置換)のみ、もしくは塩基転位(ピリミジン塩基間もしくはプリン塩基間の置換)および塩基転換両方をそれぞれ含めての選別後に、系統地理的分析で約7000~23000ヶ所のSNPが得られました。前者【塩基転換のみ】は、一般的に塩基転換に影響を及ぼす、古代のチーターの出たからのDNA損傷に由来するかもしれない偏りを避けるために用いられました[20]。ゲノム分析は両データセットで同様の結果を示したので、23000ヶ所のSNPのより大きなデータ一式での結果のみが示されます。
ゲノム分析が、核DNAとmtDNAの両方に基づいて、ミイラ1号とアジアチーターの現代の標本との密接な関係を示唆するのに対して、遺骸3号および5号は、核DNAに基づいて北西アフリカチーターとの、mtDNAに基づいてアジアチーターとのより密接な関係を示します(図3A~D)。ゲノム規模SNPに基づくPCAは、アジアチーターと北西アフリカチーターを確実には区別しませんでした。しかし、サウジアラビアのより古い標本2点は、よりあたらしい標本からの明確な区別を論証し、北西アフリカチーターとのより密接にまとまっています。この調査結果は、系統樹および混合分析によって裏づけられます(図3B~D)。以下は本論文の図3です。
●まとめ
本論文で報告される結果は、チーターのミイラ化した7個体と骨格遺骸54個体がサウジアラビア北部の洞窟に保存された状態で見つかり、ほぼ2000年間良好な状態が維持され、一部の骨格遺骸が4000年前頃までさかのぼることを論証します。現代のチーターの多くの骨格遺骸がアフリカで発見されてきており、本論文は、アラビア半島の以前にミイラ化したチーター遺骸を報告します。エジプトの考古学的遺跡からは、人為的にミイラ化されたイエネコが何千個体も回収されてきましたが、本論文で報告された調査結果は、自然の洞窟体系内で自然にミイラ化したネコ科を表しています。
自然のミイラは、乾燥しやすい環境で作られ、最近活動が抑制される高温と乾燥した微気候を維持する酸性土壌の洞窟で最も一般的です。ミイラ化した肉食哺乳類は、オーストラリア西部のフクロオオカミ(タスマニアタイガー)で報告されてきたように、乾燥した洞窟で何千年も相対的に良好な保存状態を維持できます。洞窟環境の一定の気温と低湿度はミイラ化に適しており、古代のチーターの軟組織を保存できます。
生態学的要件を満たすための洞窟の使用は、チーター属では報告されてきませんでした。ただ、絶滅した「アメリカチーター」は洞窟を巣穴や死体の保存に使用しました。しかし、アメリカチーターは今では、ピューマ属の姉妹分類群と考えられており、チーターとの形態学的類似性は収束進化から生じしました。チーターのさまざまな年齢層の発見から、この地域では、チーターは巣穴として洞窟を使っていたかもしれない、と示唆されます。これは、獲物の動物と比較して、洞窟で見つかったチーターのより高い割合によって明らかです。
放射性炭素年代測定と現代の古ゲノム技術とCTは、サウジアラビアにおけるチーターの長期の存在に関する証拠を提供します。さらに、これらの古代の標本から回収されたゲノムデータは、2亜種、つまり今ではともにアラビア半島に存在しないアジアチーターおよび北西アフリカチーターとクラスタ化するチーターの存在を裏づけます。
サウジアラビアには、イラクとの北部の国境に沿って分布する、大きな洞窟および陥没穴網があります。洞窟は動物遺骸の重要な貯蔵場所で、存在していた期間には動物相の罠として機能することが多くありました。避難場所や巣穴や獲物の貯蔵庫として洞窟を使用する現代のチーターの証拠はありませんが、チーターは自然の罠となる洞窟に落ちるか、逃げることができない急斜面から侵入しているかもしれません。サウジアラビア北部の洞窟網の以前の調査では多くの動物遺骸が得られ、ハイイロオオカミやシマハイエナが含まれますが、本論文で報告された調査が実行されるまで、チーターの存在は検出できませんでした。
本論文で提示された研究は、古代DNA解析の可能な自然にミイラ化した大型ネコ科の最初の報告を提供します。この資料は、アラビア半島からの北西アフリカチーターの絶滅が、再野生化計画設計のための情報を得られる前に起きたため、再野生化への試みについての情報取得に最も有益なデータを提供する、過去への窓を開きます。サウジアラビアなどの乾燥した洞窟環境は、生態史や進化的知見や再野生化および保全の実践的な知恵に情報をもたらすことができる、さらに重要な知見を依然として保持しているかもしれません。チーターの遺骸から得られた古生物学とゲノムのデータの統合は、歴史的生態学を現在の保全計画と結びつける、稀な機会を提供します。これらの調査結果は、古代DNA記録が種分布や遺伝的多様性や生態学的関連の失われた基準をいかに再構築でき、それらが根拠に基づく再野生化および回復計画の開発に重要な情報を形成するのか、論証しています。歴史的な動物相の基準が何千年もの気候変化およびヒトの圧力によって消失したアラビア半島などの地域では、過去のチーター系統の特定は、遺伝的供給源と将来の再導入新構想の実現可能性評価について、貴重な参照点を提供します。
参考文献:
Boug AA. et al.(2026): Mummified cave cheetahs inform rewilding actions in Saudi Arabia. Communications Earth & Environment, 7, 24.
https://doi.org/10.1038/s43247-025-03021-6
[20]Briggs AW. et al.(2007): Patterns of damage in genomic DNA sequences from a Neandertal. PNAS, 104, 37, 14616-14621.
https://doi.org/10.1073/pnas.0704665104
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追記(2026年3月10日)
ナショナルジオグラフィックでも報道されました。
以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、mtDNA(Mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)、SNP(Single Nucleotide Polymorphism、一塩基多型)、PCA(principal component analysis、主成分分析)、m(metre、meter、メートル)、km(kilometre、kilometer、キロメートル)、C(carbon、炭素)、PCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)、CT(computer tomography、計算断層写真術)です。本論文で取り上げられる主要な地域は、オマーンのジビャット・ドファール(Jibjat Dhofar)、サウジアラビア北部のアラル(Arar)地域のラウガ(Lauga)洞窟網です。
本論文で取り上げられる主要なチーター属の動物は、チーター(Acinonyx jubatus)、アジアチーター(Acinonyx jubatus venaticus)、北西アフリカチーター(Acinonyx jubatus hecki)、北東アフリカチーター(Acinonyx jubatus soemmeringii)、南アフリカチーター(Acinonyx jubatus jubatus)、東アフリカチーター(Acinonyx jubatus raineyi)です。本論文で取り上げられる主要なチーター属以外の動物は、アラビアオリックス(Oryx leucoryx)、アラビアガゼル(Gazella arabica)、サンドガゼル(Gazella marica)、ヌビアアイベックス(Capra nubiana)、ハイイロオオカミ(Canis lupus)、アカギツネ(Vulpes vulpes)、フクロオオカミ(Thylacinus cynocephalus)、アメリカチーター(Miracinonyx trumani)、ピューマ属(genus Puma)、シマハイエナ(Hyaena hyaena)です。
●要約
チーターは世界中で急速な個体数減少を経ており、サウジアラビアを含めてその歴史的範囲の91%で絶滅しました。チーターの歴史的範囲についての情報は、以前の生息地の大半で乏しいままです。サウジアラビアにおいて、いくつかの洞窟で、チーター54個体およびその獲物と推定される骨格遺骸とともに、自然にミイラ化したチーター7個体の予期せぬ幸運な発見は、チーターの以前の範囲における進化史の解明に貴重な機会を提供しました。時間的状況を確認するための古年代学的手法と、異なる期間に存在した亜種を推測するためのゲノム配列決定と、年齢層を判断するためのX線撮影が適用されました。ミイラ化したチーターの¹⁴C較正年代は4223±40~127±40年前頃でした。ミイラ化したチーターの全ゲノム配列から、最新の1個体がアジアチーターとまとまったのに対して、より古い標本群は北西アフリカチーターとまとまった、と示されました。本論文では、アラビア半島におけるチーターの再野生化は発見されたチーターの最も近縁な亜種から供給できる、と結論づけられます。本論文の結果は、基準となる再野生化の試みの欠如において、洞窟が古代の生物多様性情報の貯蔵庫として果たすかもしれない役割を浮き彫りにします。
●研究史
ほとんどの大型ネコ科種は絶滅の危機に瀕しており、おもに生息地の破壊と乱獲のために減少し続けています。ネコ科の中でも、チーターは世界中て魏とくに深刻な個体数減少を経ており、その歴史的に範囲のほぼ91%が失われました。チーターは、熱帯雨林のないアフリカの地域の大半や、アラビア半島からインドまでアジア西部および南部の大半にわたって広がっていました。現在、チーターの5亜種が認識されており、それは、北西アフリカチーター、北東アフリカチーター、南アフリカチーター、アジアチーター(今ではイランのみです)、東アフリカチーターです。全野生チーターの半分以上(約60%)が南アフリカチーターに属しているのに対して、歴史的にサウジアラビアに存在していたと推定されているアジアチーターは、絶滅の危機に瀕しています。わずか約50~70個体のアジアチーターが野生に残っており、イランの単一の小さな個体群で構成されています。
歴史的な目撃例から、チーターはアラビア半島とレヴァントについ1838~1977年まで生息していた、と示唆されています(図1A)。最新の証拠は、1977年にオマーンのジビャット・ドファール近郊で、地元の狩猟者によって撃たれた成体の雌1個体から得られています。これらの記録は、サウジアラビアやオマーンやイエメンやクウェートやイラクやヨルダンやパレスチナにおけるチーターの歴史的な存在を明白に裏づけていますが、証拠の少なさはチーターの真の歴史的分布を適切には反映していない、と主張した人もいます。この少なさは部分的には極端に低い生息密度のためで、サハラ砂漠のチーターの生息密度は1 km²あたりわずか0.0002頭です。アラビア半島におけるチーターの消滅の主因は充分に記録されていませんが、生息地の喪失および断片化、獲物の枯渇、ヒトと野生の軋轢、規制されていない狩猟、愛玩動物としてのチーターの交易もしくは競技としての狩猟と考えられています。サウジアラビアからのチーターの消滅以降、これらの侵襲要因の社会的および環境的背景は劇的に変わり、10ヶ所以上の保護区が設立され、有蹄類種の種回復および再導入計画、以生息地復元計画、地域教育計画の実行、野生犯罪執行部門のある政府野生期間の設立があります。以下は本論文の図1です。
サウジアラビアにおける過去半世紀の野生管理の変化は、地球規模の生物多様性目標の達成の関心の復活と一致しています。地球規模の生物多様性目標の達成には、絶滅危惧種の再興と回復の試み、および以前の生物地理的範囲に戻す試みが必要です。これは頂点捕食者についてとくに重要で、頂点捕食者の消滅は草食動物の調節解除によって生態系を劣化させるかもしれません。そうした対策は、種の以前の範囲へと再導入を含めて、再野生化における復活への関心に寄与してきました。頂点捕食者の再導入は、多くの生態系の機能回復に成功しており、保全のための重要な手段として、一部の肉食動物が提唱されています。最近数十年間、サウジアラビアは有蹄類の絶滅したもしくは個体群が減少下景観への復活に成功してきました(たとえば、アラビアオリックス、アラビアガゼル、サンドガゼル、ヌビアアイベックス)。長く失われていた有蹄類の個体数が回復するにつれて、絶滅した頂点捕食者、とりわけチーターの回復に好機となっています。
本論文は、サウジアラビア北部のアラル地域のラウガ洞窟網での、チーターのミイラ化した7個体および骨格遺骸54個体の発見について報告します。ミイラかしたチーターの発見は、標本を年代測定したその後の古年代学的分析や、どの亜種が異なる期間に存在したのか、推測するゲノム解析や、年齢層を判断するためのX線撮影分析とともに、サウジアラビアにおけるチーターの進化史と絶滅への前例のない知見を提供します。本論文は、サウジアラビアの先史時代のチーターがゲノム的には、アフリカ西部の北西アフリカチーター亜種と最も近い、との最初の証拠を報告します。本論文はこの発見に基づいて、現在サウジアラビアで行なわれている再野生化の試みに関して、保全管理のための提案事項についてさらに考察します。
●結果と考察
本論文は以下で、チーターのミイラが発見された環境の特徴を初めて報告します。次に、ミイラで行なわれた3通りの分析の調査結果が報告され、それは、(1)ミイラの放射性炭素年代測定、(2)ゲノムの古ゲノム解析、(3)洞窟で発見されたチーターの年齢を推定するための頭蓋のX線撮影分析です。その後、将来の再野生化への関心に対する、これらの調査結果の影響が考察されます。
●発見地の自然環境および概要
2022年と2023年に、サウジアラビア北部の1211km²の地域にまたがる地下洞窟で、野生生物が調査されました。5ヶ所の洞窟で、チーターの54個体の骨格遺骸と7個体のミイラ化した遺骸が発見されました。各チーター以外から最も近い洞窟入口までの距離は、平均して127m(最小で30m、最大で1245m)でした。5ヶ所の動口の入口全てで、平均温度は33.5度、相対湿度は22%でした(骨格遺骸54個体では、平均温度が29.1度で、相対湿度は24%、ミイラ化した7個体では、平均温度が26度で、相対湿度は28%)。
チーターは5ヶ所のチーターを含む洞窟のうち4ヶ所では高度に集中しており(80%)、チーターの獲物候補の動物はわずか数点の遺骸(3個体未満)しか見つかりませんでした。多数のサンドガゼル遺骸(164個体)が1ヶ所の洞窟(洞窟2号)のみで発見され、ここではチーターの遺骸(4個体)とアカギツネ1個体のミイラも発見されました。全チーター遺骸の67%(41個体)が陥没穴を通って行ける洞窟(洞窟1号)から発掘され、ミイラ化したハイイロオオカミ1個体とミイラ化したアカギツネ2個体がこの同じ洞窟で検出されましたが、有蹄類は見つかりませんでした。
●チーターの遺骸の放射性炭素年代測定
2点の完全なミイラと5点の骨格遺骸から抽出された骨遺骸が¹⁴C分析され、古代の組織の吹田亭年代が確認されました。標本7点のうち、2点のチーター遺骸は、¹⁴C較正年代で4223±40年前と127±40年前を示しました(表1)。
●チーターの頭蓋形態のX線撮影分析
頭蓋形態のX線撮影分析(表2)では、20点の頭蓋が評価され、そのうち14点は亜成体(月齢が18~24ヶ月)、6点は成体(24ヶ月超の月例)でした。9点の幼体(月齢が18ヶ月未満)遺骸が、洞窟1号で発見されました。最も保存状態の良好なミイラ遺骸の外部形態と内部構造は、骨組織および軟組織両方の高度な保存状態を示唆しており(図2E)、自然のミイラ化の過程と一致します。頭蓋と顎と大後頭孔の保存状態(図2A・B)、および頭蓋と下顎と頸部構造と胸郭と椎骨をもとの位置に保存している良好に維持された関節のつながり(図2C)は、ミイラ2号の三事件仮想復元で明らかです。チーターのミイラ2号の頭蓋では、縮小しているものの、明確に観察できる脳髄が明らかです(図2D)。以下は本論文の図2です。
●チーター遺骸の古遺伝学的分析
完全なミトコンドリアおよび核ゲノム配列が、最も新しい標本(ミイラ1号)と、年代順で5番目の¹⁴C年代の標本(骨格遺骸3号)と、最古の標本(骨格遺骸5号)で得られました。配列は、古代DNA配列決定ライブラリに特徴的な、PCR相対的に低いPCR重複率(8~11%)を示しました。塩基転換(ピリミジン塩基とプリン塩基との間の置換)のみ、もしくは塩基転位(ピリミジン塩基間もしくはプリン塩基間の置換)および塩基転換両方をそれぞれ含めての選別後に、系統地理的分析で約7000~23000ヶ所のSNPが得られました。前者【塩基転換のみ】は、一般的に塩基転換に影響を及ぼす、古代のチーターの出たからのDNA損傷に由来するかもしれない偏りを避けるために用いられました[20]。ゲノム分析は両データセットで同様の結果を示したので、23000ヶ所のSNPのより大きなデータ一式での結果のみが示されます。
ゲノム分析が、核DNAとmtDNAの両方に基づいて、ミイラ1号とアジアチーターの現代の標本との密接な関係を示唆するのに対して、遺骸3号および5号は、核DNAに基づいて北西アフリカチーターとの、mtDNAに基づいてアジアチーターとのより密接な関係を示します(図3A~D)。ゲノム規模SNPに基づくPCAは、アジアチーターと北西アフリカチーターを確実には区別しませんでした。しかし、サウジアラビアのより古い標本2点は、よりあたらしい標本からの明確な区別を論証し、北西アフリカチーターとのより密接にまとまっています。この調査結果は、系統樹および混合分析によって裏づけられます(図3B~D)。以下は本論文の図3です。
●まとめ
本論文で報告される結果は、チーターのミイラ化した7個体と骨格遺骸54個体がサウジアラビア北部の洞窟に保存された状態で見つかり、ほぼ2000年間良好な状態が維持され、一部の骨格遺骸が4000年前頃までさかのぼることを論証します。現代のチーターの多くの骨格遺骸がアフリカで発見されてきており、本論文は、アラビア半島の以前にミイラ化したチーター遺骸を報告します。エジプトの考古学的遺跡からは、人為的にミイラ化されたイエネコが何千個体も回収されてきましたが、本論文で報告された調査結果は、自然の洞窟体系内で自然にミイラ化したネコ科を表しています。
自然のミイラは、乾燥しやすい環境で作られ、最近活動が抑制される高温と乾燥した微気候を維持する酸性土壌の洞窟で最も一般的です。ミイラ化した肉食哺乳類は、オーストラリア西部のフクロオオカミ(タスマニアタイガー)で報告されてきたように、乾燥した洞窟で何千年も相対的に良好な保存状態を維持できます。洞窟環境の一定の気温と低湿度はミイラ化に適しており、古代のチーターの軟組織を保存できます。
生態学的要件を満たすための洞窟の使用は、チーター属では報告されてきませんでした。ただ、絶滅した「アメリカチーター」は洞窟を巣穴や死体の保存に使用しました。しかし、アメリカチーターは今では、ピューマ属の姉妹分類群と考えられており、チーターとの形態学的類似性は収束進化から生じしました。チーターのさまざまな年齢層の発見から、この地域では、チーターは巣穴として洞窟を使っていたかもしれない、と示唆されます。これは、獲物の動物と比較して、洞窟で見つかったチーターのより高い割合によって明らかです。
放射性炭素年代測定と現代の古ゲノム技術とCTは、サウジアラビアにおけるチーターの長期の存在に関する証拠を提供します。さらに、これらの古代の標本から回収されたゲノムデータは、2亜種、つまり今ではともにアラビア半島に存在しないアジアチーターおよび北西アフリカチーターとクラスタ化するチーターの存在を裏づけます。
サウジアラビアには、イラクとの北部の国境に沿って分布する、大きな洞窟および陥没穴網があります。洞窟は動物遺骸の重要な貯蔵場所で、存在していた期間には動物相の罠として機能することが多くありました。避難場所や巣穴や獲物の貯蔵庫として洞窟を使用する現代のチーターの証拠はありませんが、チーターは自然の罠となる洞窟に落ちるか、逃げることができない急斜面から侵入しているかもしれません。サウジアラビア北部の洞窟網の以前の調査では多くの動物遺骸が得られ、ハイイロオオカミやシマハイエナが含まれますが、本論文で報告された調査が実行されるまで、チーターの存在は検出できませんでした。
本論文で提示された研究は、古代DNA解析の可能な自然にミイラ化した大型ネコ科の最初の報告を提供します。この資料は、アラビア半島からの北西アフリカチーターの絶滅が、再野生化計画設計のための情報を得られる前に起きたため、再野生化への試みについての情報取得に最も有益なデータを提供する、過去への窓を開きます。サウジアラビアなどの乾燥した洞窟環境は、生態史や進化的知見や再野生化および保全の実践的な知恵に情報をもたらすことができる、さらに重要な知見を依然として保持しているかもしれません。チーターの遺骸から得られた古生物学とゲノムのデータの統合は、歴史的生態学を現在の保全計画と結びつける、稀な機会を提供します。これらの調査結果は、古代DNA記録が種分布や遺伝的多様性や生態学的関連の失われた基準をいかに再構築でき、それらが根拠に基づく再野生化および回復計画の開発に重要な情報を形成するのか、論証しています。歴史的な動物相の基準が何千年もの気候変化およびヒトの圧力によって消失したアラビア半島などの地域では、過去のチーター系統の特定は、遺伝的供給源と将来の再導入新構想の実現可能性評価について、貴重な参照点を提供します。
参考文献:
Boug AA. et al.(2026): Mummified cave cheetahs inform rewilding actions in Saudi Arabia. Communications Earth & Environment, 7, 24.
https://doi.org/10.1038/s43247-025-03021-6
[20]Briggs AW. et al.(2007): Patterns of damage in genomic DNA sequences from a Neandertal. PNAS, 104, 37, 14616-14621.
https://doi.org/10.1073/pnas.0704665104
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