硬骨魚類の起源
硬骨魚類の起源に関する二つの研究が公表されました。一方の研究(Zhu et al., 2026)は、前期シルル紀の地層から発見された、関節がつながった最古の硬骨魚類標本を報告しています。硬骨魚類は肉鰭類と条鰭類から構成されており、現生脊椎動物の生物多様性の大部分を占めますが、それらのデボン紀以前の化石記録は依然として少なく、断片的です。関節がつながった最古の肉鰭類とステム群硬骨魚類の化石は後期シルル紀にさかのぼりますが、議論の余地なく条鰭類のものとされる化石で関節がつながったものは中期デボン紀以降でしか見つかっていません。本論文は、前期シルル紀の重慶化石鉱脈(約4億3600万年前)で発見された、関節がつながったほぼ完全な硬骨魚類を報告します。この化石はエオステウス・チョンキンゲンシス(Eosteus chongqingensis)、と命名され、硬骨魚類のものとしては微化石を含め最古の標本です。この全長3 cmの小型魚類は、体の輪郭が一般的な硬骨魚類のものである紡錘形をしており、鱗状鰭条の欠如や、連続した中間背板、胸鰭棘と背鰭棘、以前はステム群硬骨魚類と板皮類の一種でのみ報告されていた臀鰭棘の存在といった、硬骨魚類の原始形質を有しています。また、条鰭類で一般的な単一の背鰭や稜鱗などの特徴も見られます。ベイズ推定および最大節約法解析の多数決コンセンサスでは、この新たな魚類は硬骨魚類のステム群に位置づけられましたが、厳密なコンセンサスでは硬骨魚類内での位置は確定されませんでした。この発見によって、シルル紀の硬骨魚類の多様性が増すとともに、ステム群硬骨魚類に新たな種が加わりました。初期の硬骨魚類間に見られる形態的な差異は、シルル紀から前期デボン紀にかけて起きた硬骨魚類の放散が、従来の一連の証拠で示唆されていたよりも大規模であったことを示しています。
もう一方の研究(Lu et al., 2026)は、硬骨魚類の形質の起源について報告しています。硬骨魚類(四肢類を含む)は現生脊椎動物種の98%を占めています。しかし、ステム群硬骨魚類の形質進化の流れに関する理解は、既知のステム群硬骨魚類化石が断片的であることによって大きく制限されてきました。本論文は、メガマスタクス・アンブリョドゥス(Megamastax amblyodus)の新たに発見された標本(関節がつながった頭部と胴部から構成されています)を調べ、シルル紀のステム群硬骨魚類に関してこれまで知られていなかった形態学的詳細を明らかにしました。メガマスタクス・アンブリョドゥスはこれまで肉鰭類と解釈されてきましたが、吸収による歯の脱落や外肩甲骨の存在など、皮骨頭蓋に明瞭な硬骨魚類的形質が認められました。ただ、背側大動脈の配置はクラウン群軟骨魚類のものに近くなっています。大きく広がった口蓋板を伴う前上顎骨と脳頭蓋の長い後下垂体領域は、上顎骨を有する板皮類の状態を想起させます。重要なことに、個々の付着基部上に位置する独立した歯のクッション要素(tooth cushion)からなる内側歯列弓の発見によって、メガマスタクス・アンブリョドゥスと断片的に知られていたロフォステウス(Lophosteus)属およびアンドレオレピス(Andreolepis)属との系統関係が明らかになり、遊離した状態で発見された歯のクッション要素が顎の歯列の一部である、との従来の解釈が裏付けられるとともに、これらの属がステム群硬骨魚類であることが確認されました。系統解析の結果、メガマスタクス・アンブリョドゥスは、硬骨魚類のステム群内においてクラウン群の節(分岐点)付近に位置づけられ、硬骨魚類の基幹に沿った形質獲得の流れを探るための枠組みが得られました。総合すると、これらの新たな知見は、ステム群顎口類と現生硬骨魚類との間の形態的な隔たりを埋める一助となり、硬骨魚類の系統を形作った初期の進化段階の流れを明らかにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:中国の化石がとらえた初期の硬骨魚類における進化の証拠
中国で発見された化石群から、これまでで最も古い骨格が完全な硬骨魚および硬骨魚の歯の初期の例が確認された。これらは、シルル紀(約4億4400万~4億1900万年前)にさかのぼる。今週のNature に掲載される2つの論文で報告されたこの発見は、硬骨魚類の起源に関する新たな知見を提供する。
硬骨魚類(osteichthyans)は、全脊椎動物種の約98%を占める(ほとんどの魚類とすべての陸上脊椎動物を含む)。硬骨魚類の進化の初期段階に関する情報は、基幹的硬骨魚類の化石がほとんど見つかっていないため、これまで限られてきた。デボン紀以前(約4億1900万年前より古い)の化石は、稀であり、初期の標本の多くは断片的で不完全である。中国南西部の2地点から発見された新たな化石資料は、硬骨魚類系統を形成した初期進化段階の連続性に関する理解を深めることに貢献している。
You-an Zhu、Min Zhuら(中国科学院古人類及古脊椎動物研究所〔中国〕)は、重慶ラーゲルシュテッテ(Chongqing Lagerstätte)化石産地から発見された、シルル紀前期(約4億3600万年前)にさかのぼる小型のほぼ完全な硬骨魚の連結骨格を報告した。著者らは、この標本が現在までに報告されている最古の硬骨魚類であると述べている。Eosteus chongqingensisと命名されたこの魚は、全長3センチメートル未満である。Eosteusは、硬骨魚類および軟骨魚類(軟骨魚;chondrichthyans〔cartilaginous fish〕)の両方にみられる鰭棘(fin spines)など、異なる硬骨魚類の分類群に共通する特徴を持っており、これらの組み合わせは硬骨魚類における進化のごく初期の段階に位置づけられる。
別の論文では、Jing Lu、Per Ahlberg、Min Zhuら(中国科学院古人類及古脊椎動物研究所〔中国〕)が、Megamastax amblyodusと呼ばれる魚の新たな化石資料を発表している。これは、現在知られている最古の先デボン紀脊椎動物である。化石は、雲南省(Yunnan province)のクアンティ層(Kuanti Formation)で発見され、約4億2300万年前のものとされる。これまでのMegamastax化石では、顎骨の例が限られていた。最新の標本には、歯と顎を含む頭蓋骨と胴体全体が含まれている。これらの標本には、個別の基部に付着した独立した歯台(歯を保持する構造)が列をなしており、これは現代の硬骨魚類の歯の構造とは異なる。この初期の硬骨魚類における歯の組織に関する証拠は、硬骨魚類の進化に関する重要な段階を明らかにしている。
これらの発見は、総合的に、硬骨魚類系統を形成した変遷に関する私たちの理解を深めるものである。
古生物学:前期シルル紀の地層から発見された関節がつながった最古の硬骨魚類標本
古生物学:シルル紀最大の魚類が明らかにする硬骨魚類の形質の起源
Cover Story:太古の姿:硬骨魚類の起源のスナップショットとなる初期の化石
硬骨魚類(四肢類を含む)は全脊椎動物種の約98%を占めるが、その進化の初期段階についてはよく分かっていない。根本的な問題は、約4億1900万年前から始まるデボン紀以前の標本の化石記録が断片的であることだ。今週号では2報の論文で、M Zhuたちがその空白を埋める手掛かりを示している。1報目の論文では、シルル紀の前期(約4億3600万年前)にさかのぼる小型の硬骨魚類のほぼ完全な骨格が明らかにされており、これによって最古の硬骨魚類の記録が更新された。Eosteus chongqingensisと命名された全長3 cmのこの魚類は、硬骨魚類進化の極めて初期の段階に位置付けられる特徴を示している。2報目の論文では、デボン紀以前の脊椎動物として既知最大の種であるMegamastax amblyodusという魚類の新たな化石標本が明らかにされている。約4億2300万年前のものと年代付けられた新たな標本によって、断片的であった全体像に歯と顎を備えた頭骨全体が加わり、これにより硬骨魚類の形質の起源に新たな知見がもたらされた。表紙は、EosteusがMegamastaxの口の中に入り込む様子を、デジタルモデルで描いたものである。
参考文献:
Lu J. et al.(2026): Largest Silurian fish illuminates the origin of osteichthyan characters. Nature, 651, 8104, 122–127.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-10008-y
Zhu YA. et al.(2026): The oldest articulated bony fish from the early Silurian period. Nature, 651, 8104, 128–134.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10125-2
もう一方の研究(Lu et al., 2026)は、硬骨魚類の形質の起源について報告しています。硬骨魚類(四肢類を含む)は現生脊椎動物種の98%を占めています。しかし、ステム群硬骨魚類の形質進化の流れに関する理解は、既知のステム群硬骨魚類化石が断片的であることによって大きく制限されてきました。本論文は、メガマスタクス・アンブリョドゥス(Megamastax amblyodus)の新たに発見された標本(関節がつながった頭部と胴部から構成されています)を調べ、シルル紀のステム群硬骨魚類に関してこれまで知られていなかった形態学的詳細を明らかにしました。メガマスタクス・アンブリョドゥスはこれまで肉鰭類と解釈されてきましたが、吸収による歯の脱落や外肩甲骨の存在など、皮骨頭蓋に明瞭な硬骨魚類的形質が認められました。ただ、背側大動脈の配置はクラウン群軟骨魚類のものに近くなっています。大きく広がった口蓋板を伴う前上顎骨と脳頭蓋の長い後下垂体領域は、上顎骨を有する板皮類の状態を想起させます。重要なことに、個々の付着基部上に位置する独立した歯のクッション要素(tooth cushion)からなる内側歯列弓の発見によって、メガマスタクス・アンブリョドゥスと断片的に知られていたロフォステウス(Lophosteus)属およびアンドレオレピス(Andreolepis)属との系統関係が明らかになり、遊離した状態で発見された歯のクッション要素が顎の歯列の一部である、との従来の解釈が裏付けられるとともに、これらの属がステム群硬骨魚類であることが確認されました。系統解析の結果、メガマスタクス・アンブリョドゥスは、硬骨魚類のステム群内においてクラウン群の節(分岐点)付近に位置づけられ、硬骨魚類の基幹に沿った形質獲得の流れを探るための枠組みが得られました。総合すると、これらの新たな知見は、ステム群顎口類と現生硬骨魚類との間の形態的な隔たりを埋める一助となり、硬骨魚類の系統を形作った初期の進化段階の流れを明らかにしています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
古生物学:中国の化石がとらえた初期の硬骨魚類における進化の証拠
中国で発見された化石群から、これまでで最も古い骨格が完全な硬骨魚および硬骨魚の歯の初期の例が確認された。これらは、シルル紀(約4億4400万~4億1900万年前)にさかのぼる。今週のNature に掲載される2つの論文で報告されたこの発見は、硬骨魚類の起源に関する新たな知見を提供する。
硬骨魚類(osteichthyans)は、全脊椎動物種の約98%を占める(ほとんどの魚類とすべての陸上脊椎動物を含む)。硬骨魚類の進化の初期段階に関する情報は、基幹的硬骨魚類の化石がほとんど見つかっていないため、これまで限られてきた。デボン紀以前(約4億1900万年前より古い)の化石は、稀であり、初期の標本の多くは断片的で不完全である。中国南西部の2地点から発見された新たな化石資料は、硬骨魚類系統を形成した初期進化段階の連続性に関する理解を深めることに貢献している。
You-an Zhu、Min Zhuら(中国科学院古人類及古脊椎動物研究所〔中国〕)は、重慶ラーゲルシュテッテ(Chongqing Lagerstätte)化石産地から発見された、シルル紀前期(約4億3600万年前)にさかのぼる小型のほぼ完全な硬骨魚の連結骨格を報告した。著者らは、この標本が現在までに報告されている最古の硬骨魚類であると述べている。Eosteus chongqingensisと命名されたこの魚は、全長3センチメートル未満である。Eosteusは、硬骨魚類および軟骨魚類(軟骨魚;chondrichthyans〔cartilaginous fish〕)の両方にみられる鰭棘(fin spines)など、異なる硬骨魚類の分類群に共通する特徴を持っており、これらの組み合わせは硬骨魚類における進化のごく初期の段階に位置づけられる。
別の論文では、Jing Lu、Per Ahlberg、Min Zhuら(中国科学院古人類及古脊椎動物研究所〔中国〕)が、Megamastax amblyodusと呼ばれる魚の新たな化石資料を発表している。これは、現在知られている最古の先デボン紀脊椎動物である。化石は、雲南省(Yunnan province)のクアンティ層(Kuanti Formation)で発見され、約4億2300万年前のものとされる。これまでのMegamastax化石では、顎骨の例が限られていた。最新の標本には、歯と顎を含む頭蓋骨と胴体全体が含まれている。これらの標本には、個別の基部に付着した独立した歯台(歯を保持する構造)が列をなしており、これは現代の硬骨魚類の歯の構造とは異なる。この初期の硬骨魚類における歯の組織に関する証拠は、硬骨魚類の進化に関する重要な段階を明らかにしている。
これらの発見は、総合的に、硬骨魚類系統を形成した変遷に関する私たちの理解を深めるものである。
古生物学:前期シルル紀の地層から発見された関節がつながった最古の硬骨魚類標本
古生物学:シルル紀最大の魚類が明らかにする硬骨魚類の形質の起源
Cover Story:太古の姿:硬骨魚類の起源のスナップショットとなる初期の化石
硬骨魚類(四肢類を含む)は全脊椎動物種の約98%を占めるが、その進化の初期段階についてはよく分かっていない。根本的な問題は、約4億1900万年前から始まるデボン紀以前の標本の化石記録が断片的であることだ。今週号では2報の論文で、M Zhuたちがその空白を埋める手掛かりを示している。1報目の論文では、シルル紀の前期(約4億3600万年前)にさかのぼる小型の硬骨魚類のほぼ完全な骨格が明らかにされており、これによって最古の硬骨魚類の記録が更新された。Eosteus chongqingensisと命名された全長3 cmのこの魚類は、硬骨魚類進化の極めて初期の段階に位置付けられる特徴を示している。2報目の論文では、デボン紀以前の脊椎動物として既知最大の種であるMegamastax amblyodusという魚類の新たな化石標本が明らかにされている。約4億2300万年前のものと年代付けられた新たな標本によって、断片的であった全体像に歯と顎を備えた頭骨全体が加わり、これにより硬骨魚類の形質の起源に新たな知見がもたらされた。表紙は、EosteusがMegamastaxの口の中に入り込む様子を、デジタルモデルで描いたものである。
参考文献:
Lu J. et al.(2026): Largest Silurian fish illuminates the origin of osteichthyan characters. Nature, 651, 8104, 122–127.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-10008-y
Zhu YA. et al.(2026): The oldest articulated bony fish from the early Silurian period. Nature, 651, 8104, 128–134.
https://doi.org/10.1038/s41586-026-10125-2
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