中期更新世ヨーロッパの人類進化史

 中期更新世ヨーロッパの人類進化史の総説(Rosas et al., 2026)が公表されました。本論文は、中期更新世ヨーロッパの人類進化史について、証拠が限られていることもあって提唱されている複数の仮説を検証しており、最新の知見が得られる点でもたいへん有益と思います。本論文は、中期更新世ヨーロッパ人類の異なる形態の混在について、必ずしも複数系統の共存の共存を想定する必要はなく、単一の構造化された個体群内で生じ得る、と指摘しており、たいへん興味深い見解と思います。

 以下の略称は、EP(Early Pleistocene、前期更新世)、MP(Middle Pleistocene、中期更新世)、CADE(central area of dispersals of Eurasia、ユーラシアの拡散の中核地域)、LCA(last common ancestor、最終共通祖先)、LCT(large cutting tool、大型切断用道具)、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、mtDNA(Mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)です。本論文で取り上げられる主要な人名は、アンリ=ヴィクトール・ヴァロワ(Henri-Victor Vallois)、サンタ・ルカ(Santa Luca)、ジャン=ジャック・ハブリン(Jean-Jacques Hublin)です。本論文で取り上げられる主要な人類は、ホモ・エレクトス(Homo erectus)、ホモ・アンテセッサー(Homo antecessor)、ホモ・ハイデルベルゲンシス(Homo heidelbergensis)、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)、現生人類(Homo sapiens)です。本論文で取り上げられる主要な文化は、アシューリアン(Acheulian、アシュール文化)です。

 本論文で取り上げられる主要な遺跡および地名は、スペインのアタプエルカ山地(Sierra de Atapuerca)の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」(略してSH)遺跡およびグラン・ドリナ(Gran Dolina)およびシマ・デル・エレファンテ(Sima del Elefante)とバランク・デ・ラ・ボエッラ(Barranc de la Boella)、ポルトガルのアロエイラ洞窟(Gruta de Aroeira)、フランスのシャラント(Charente)県のフォンテシュバード(Fontéchevade)とペイール(Payre)とアラゴ洞窟(La Caune de l’Arago)とラ・ノワール(La Noira)とムーラン・キニョン(Moulin Quignon)とモンモラン(Montmaurin)、イタリアのノタルチリコ(Notarchirico)、イギリスのピルトダウン(Piltdown)とスウォンズクーム(Swanscombe)とボックスグローヴ(Boxgrove)、ドイツのマウエル(Mauer)とシュタインハイム(Steinheim)とビルツィングスレーベン(Bilzingsleben)とエーリングスドルフ(Ehringsdorf)、ギリシアのペトラローナ(Petralona)、セルビアのマラ・バラニカ(Mala Balanica)洞窟、ルーマニアのグラウンセアヌ(Grăunceanu)、ウクライナのコレロヴォ(Korolevo)、エチオピアのボド(Bodo)、ザンビアのカブウェ(Kabwe)、中華人民共和国の陝西省渭南市の大茘(Dali)と遼寧省営口市の金牛山(Jinniushan)です。



◎要約

 ヨーロッパの中期更新世人類の記録は、ネアンデルタール人系統の起源と出現の根底にある、進化的過程についての議論において中心的役割を果たしていますが、顕著な形態学的多様性およびずっと続く分類学的不確実性によって依然として特徴づけられています。過去10年間、この記録は、人類集団の人口連続性や人口統計学的入力や地理的起源についての過程で異なる、広範な進化モデルを通じて解釈されてきました。これらのモデルに含まれるのは、(1)中期更新世人口集団は在来の前期更新世集団から生じた、とする基本的な連続性想定、(2)完全な人口入れ替わりを含む全体的な置換モデル、(3)複数の同時代の系統を提案する共存モデル、(4)アジア南西部からの繰り返しの拡散に基づく東方の供給源・吸収地およびCADEモデル、(5)重要なネアンデルタール人の形質のヨーロッパ西部起源を示唆する西方から東方への拡大モデル、(6)ヨーロッパの琴似る地域への独立した拡散を想定する二重アシューリアン起源モデルです。

 本論文では、こうした違いにも関わらず、これらのモデルは、特徴がほぼ独立した単位とされる、形質ごとの分析前提を共有していることが多い、と示されます。本論文は代替案として、形質が統合された発達的および機能的基本単位として組み込まれている、有機体論的枠組みを概説します。モザイク状のパターンが予測されるのは、基本単位が共有された生物水準の摂動へのさまざまな感受性および時間動態に応じており、独立した進化的軌跡に従っていないからです。本論文は最後に、体重/代謝およびその後の大脳化/頭蓋底再編成における変化が、同等ではあるものの非同時的な解剖学的変化を生み出す、2段階モデルを用いて、モザイク状の結果を時系列へと結びつけます。この過程指向の観点は、複数の同時代の中期更新世系統を想定させる必要性を減少させ、人口構造および基本単位固有の進化的応答に関する将来の研究に検証可能な予測をもたらします。



◎背景

 正式な記載の169年後も、ネアンデルタール人の起源と進化史は依然として強い科学的および社会的関心を集めています。ネアンデルタール人の現生人類と並行するヒトとしての位置づけは、ホモ属内の進化的多様性、およびヒトの生物学的構造はどのように形成される可能性があるのか、ということについての根本的問題を提起します。巨大な脳の人類系統であるネアンデルタール人と現生人類とデニソワ人の進化に関する未解決の問題の多くの解決は、依然として混乱している中期更新世の記録の解明に大きく依存しています。


●ヨーロッパの中期更新世の記録に関する初期の解釈

 ヨーロッパ中期更新世(774000~129000年前頃)の記録に関する科学的解釈は、20世紀初頭以降、大きな変容を経てきました。1907~1908年におけるマウエルの下顎の発見とともに、中期更新世(MP)の科学的研究の枠組みが形成され始めましたが、何十年間も、一貫した年代学的および比較的背景の欠如によって制約を受け続けました。初期の提案は直線的な進化的体系に基づいており、ヨーロッパのネアンデルタール人は単純に現生人類へとつながる中間段階と考えられていました(歴史的観点では、Trinkaus, and Shipman.,1998)。絶対年代が欠如している中で、シュタインハイム(発見は1933年)やスウォンズクーム(発見は1935~1936年)などの化石は、「現代的」形質を示す初期形態として解釈されました。

 しかし、他の化石の発見とともに、マウエル下顎と1911~1915年におけるピルトダウン人の発見以後、ヒトの2系統がヨーロッパにおいて並行的に進化した、との見解が信頼性を得ました。一方の系統はマウエルやエーリングスドルフから発見された化石によってとくに表されており、ネアンデルタール人につながった、と考えられており、ピルトダウン人によって表されるもう一方の系統は、現代型のヒトにつながった、と考えられました。この観点は、華奢なヨーロッパMPの化石が現生人類の直接的祖先を表しているかもしれない、とのアンリ=ヴィクトール・ヴァロワの示唆で20世紀半ばに最盛期を迎えました。とくに影響のあった事例は、1937年以降に発掘されたフォンテシュバード(フランスのシャラント県)のヒト資料で、その頭蓋断片はひじょうに古かったうえに、形態では驚くほど現代的だった、と考えられました。


●先ネアンデルタール人の年代的見直しと出現

 1960年代と1970年代には、絶対年代測定技術および体系的な層序再調査の導入によって、この状況が劇的に変わりました。多くの「現代的」とされたMP化石は、以前の推定よりずっと新しい、と証明されました。フォンテシュバード化石はその典型的事例となり、再分析では、人類遺骸はその後の年代の層に由来していた、と示されました。ヨーロッパにおけるプレ・サピエンス仮説は、次第に放棄されました。一方で、ペトラローナ(発見は1960年)やアラゴ洞窟(発見は1971年)やビルツィングスレーベン(発見は1974年)といった新たな発見によって、化石記録は拡大し、古典的な後期更新世ネアンデルタール人に先行する形態を指す、先ネアンデルタール人(anteneandertal)との概念が裏づけられました。


●ネアンデルタール人および現生人類系統の分岐分類学と認識

 1970年代には、古人類学に分岐分類学的体系が導入されたことで、大きな変化がありました。サンタ・ルカの1978年の画期的研究は、派生的特徴分析を適用して、MPヨーロッパ人類はネアンデルタール人系統と明確に関連する頭蓋形質を有していた、と論証しました。ネアンデルタール人の共有派生形質が、スウォンズクームやシュタインハイムなどの標本で認識されたのに対して、現生人類はより新しいアフリカおよび近東の標本に限られました。この退避によって、現生人類とネアンデルタール人の2姉妹系統は中期更新世の最終共通祖先(LCA)から生じた、との認識が可能となりました。分岐分類学的推論の採用によって、派生的特徴の状態へのより明示的な焦点がもたらされましたが、形態学的特徴を直接的な系統発生的意義のある個別の単位として扱う傾向も強化されました。

 1990年代には、ホモ・ハイデルベルゲンシスという分類群は、現生人類とネアンデルタール人のLCAに近い人口集団を表しているかもしれない、アフリカ(ボドやカブウェ)とヨーロッパ(マウエルやアラゴやペトラローナ)のMP化石を統合する分類として注目を集めました。分類学的には議論があったものの、ホモ・ハイデルベルゲンシスは、MPを異なる充分に分化した系統へと移行していく人口集団のモザイク状とみなすための、枠組みを提供しました。さらに最近では、歴史的にホモ・ハイデルベルゲンシスと分類されていたアジアの化石(たとえば、大茘や金牛山)がデニソワ人関連と再評価され(Fu et al., 2025)、旧世界の系統発生パターンに複雑さを追加しました。これらの分類学的発展を補完するものとして、ジャン=ジャック・ハブリンの増加モデルでは、中顔面突出や二重弓状眼窩上隆起や特定の頭蓋冠および下顎の形状などのネアンデルタール人の形質は、持続的な地域的進化を通じて次第に蓄積された、と提唱されました。


●ヨーロッパMPのSHと古代DNAと進化的枠組み

 増加的枠組みでは、アタプエルカのSHの発見で強い実証的裏づけが見つかりました。下顎および歯と頭蓋と頭蓋後方(人類では首から下)の詳細な研究は、多くの派生的なネアンデルタール人の形質の早期の存在を明らかにしました。43万年前頃とのSHのその後の絶対年代測定(Arsuaga et al., 2014)は、ヨーロッパにおけるネアンデルタール人系統の初期の出現を確証しました。

 同じ頃の発見は、それ以前のヨーロッパの居住に関する解釈を作り変えました。短期年代モデルと長期年代モデルとの間の議論に続いて、グラン・ドリナのTD6化石はホモ・アンテセッサーに分類され、前期更新世後葉のヨーロッパにおけるヒトの存在が裏づけられました。現生人類とネアンデルタール人のLCAとしてホモ・アンテセッサーを特定した提案は、ホモ・ハイデルベルゲンシスについてのそれまでの推定よりも深い分岐を示唆しました。この状況で、ホモ・ハイデルベルゲンシス概念の改訂が提示され、狭義のホモ・ハイデルベルゲンシスがネアンデルタール人の直接的前身として区別されたのに対して、広義のホモ・ハイデルベルゲンシスはLCAに近いと考えられる大まかに定義されたアフロユーラシアのMP化石群を指すのに、次第に用いられるようになりました(Roksandic et al., 2022)、その後の研究も、アタプエルカのTD6化石におけるネアンデルタール人的形質を特定しており、ネアンデルタール人系統の起源は前期更新世後葉までさかのぼるかもしれない、と示唆されています。シマ・デル・エレファンテの120万年前頃となるTE9や130万年前頃となるTE7(Huguet et al., 2025)、ウクライナのコレロヴォ(Garba et al., 2024)、ルーマニアの200万年前頃となるグラウンセアヌ(Curran et al., 2025)といったさらに古い遺跡は、ヨーロッパにおけるヒトの居住の年代をさらにさかのぼらせます。

 MP人類からの古代DNAの回収によって、大きな解釈の変化が起きました。SHのmtDNAはデニソワ人とまとまりましたが(Meyer et al., 2014)、その核DNAはネアンデルタール人との類似性を確証し、現生人類とネアンデルタール人の分岐は765000~55万年前頃と推定され(Meyer et al., 2016)、年代的枠組みが改善されました。しかし、他の研究はずっと早い分岐時期を提唱しています(Gómez-Robles., 2019、Feng et al., 2025)。

 アロエイラ洞窟(Daura et al., 2017)やマラ・バラニカやペイールの資料とともに、化石記録が拡大するにつれて、ヨーロッパ全域で形質の異質な組み合わせが蓄積されていきました。この多様性を、複数の系統の共存として解釈する研究者もいれば、単一の進化していくネアンデルタール人系統内の差異増加と見る研究者もいます。これらの対照的な解釈は、個体もしくは人口集団内の異なる進化的状態を示す特徴の組み合わせとして定義されるモザイク状の形態が、どのように概念化されているかにほぼ依存しています。形質ごとの手法がそうした差異を分類学的もしくは系統発生的障壁と解釈する傾向にあるのに対して、有機体論的統合および形態発生的動態に基づく観点では、代替的解釈が可能です。これらの対照的観点は、ヨーロッパMPにおける形態学的多様性が進化モデルへとどのように統合されるのかについて、批判的再評価の必要性を強調しています。



◎進化的モデル

 概念的には、MP人類について提唱された広範なモデル(図1)は3点の重要な変数の相互作用から生じており、それは、(a)連続的な更新世人口集団間の連続性の程度、(b)不連続性想定で援用される外部からの人口統計学的流入の数、(c)そうした流入の地理的起源です。これらのモデルは、異なっているか競合する仮説として提示されることが多いものの、形態学的差異がどのように解釈され、進化的連続性もしくは不連続性がどのように推測されるのかに関して、共通の仮定を有しています。初期の解釈は、ヨーロッパMP全体の単純で直線的な連続性を支持する傾向にありました。しかし、化石と考古学と年代学の解像度が次第に高まると、ずっと複雑な人口統計学的景観が明らかになってきました。以下は本論文の図1です。
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●連続性モデル

 基本的な連続性モデルでは、ヨーロッパMP人口集団は在来の前期更新世(EP)集団から直接的に派生し(図1A)、実質的な人口置換はなく、局所的な進化的過程が観察された形態学的多様性を説明する、と提唱されています。この観点は当初、現生人類とネアンデルタール人のLCAおよびその後のMP人口集団の祖先的蓄積の両方とみなされていた、TD6化石の解釈によって支持されました。しかし、その後の研究では、形態学的類似性のみでは直接的な系統発生的連続性を必ずしも意味するわけではない、と強調されてきました。


●不連続性および置換モデル

 不連続性モデルは、ヨーロッパへの新たな人口集団の到来を含めて、EPとMP初期との間の移行期の頃の人口統計学的断絶を想定しています。完全置換接では、侵入してきた集団が在来のEP人口集団を完全に置換した、と主張されています(図1B)。この枠組み下では、気候の不安定性や景観の異質性や下部人口集団間の相互作用が、MPヨーロッパにおける形態学的差異を形成する主因とみなされています。対照的に、共存モデルでは、侵入してきた人口集団は【ヨーロッパ在来の】EP集団の子孫とともに居住しており、同時代の少なくとも2系統の存在が生じた、と提唱されています(Arsuaga et al., 2014、Zanolli et al., 2018)。この観点からは、MPの形態学的多様性は在来人口集団と侵入してきた人口集団との間の相互作用を反映していることになります。

 侵入してきた人口集団の起源に関して、不連続性モデルの主要な部分集合では、ヨーロッパのMP人類は東方からの1回(図1B・C)もしくは複数回の波(図1D)で到来し、究極的にはアフリカ起源のヨーロッパ外の人類に由来する、と示唆されています(Mounier, and Lahr., 2019)。これらの集団は、アシューリアン技術と関連づけられることが多くなっています。ハブリンは2009年に、ネアンデルタール人系統の出現は、アフリカにおけるずっと早い存在にも関わらず、60万年前頃のアシューリアン製作人口集団の到来と関連する、大きな人口統計学的および気候変化の文脈内で最適に理解される、と主張しました。このパターンは一般的に、在来の進化的連続体ではなく、アフリカ由来の技術複合体をヨーロッパへともたらした、1回もしくは複数回の移動事象(最も可能性が高いのは、近東経由でのヨーロッパへの侵入)を反映している、と解釈されました。この見解によると、これらの集団は技術的革新をもたらし、ネアンデルタール人の形態がその後進化して、祖先的蓄積を構成しました。

 さらに、アシューリアンの拡大とアフリカのMP人口集団と類似したヒトの形態型のヨーロッパにおける存在との間の時間的一致が、この解釈を補強します。カブウェなどの化石は、ペトラローナなど移民としてこれまで解釈されてきたヨーロッパの人類を見つけたようです。共有されている特徴には、ホモ・エレクトスより多い脳容量や関連する頭蓋の変化や強く発達した顔面の起伏隆起が含まれていました。これらの類似性は、そうした化石が、分類学的参照としてマウエルの下顎を用いて、ホモ・ハイデルベルゲンシスとして同定された現生人類とネアンデルタール人のLCAに相当する種を表していた、との提案を裏づけました。グラン・ドリナ(アタプエルカ)のTD6人類のよく制約された年代測定の前には、ヨーロッパの考古学的および古生物学的記録には、その後の複雑なインダストリーにつながる在来の技術的軌跡の堅牢な証拠が欠けていました。

 しかし、近年では、この古典的モデルは大きく修正されてきました。考古学的研究では、アシューリアンはヨーロッパライブにおいて、以前の推定よりもっと早く出現し、さらに広がっていた、と示唆されています。バランク・デ・ラ・ボエッラ(イベリア半島北東部)では、打俸や鉈状石器やナイフや大型剥片を含めてLCTは、初期アシューリアンと解釈され、99万~78万年前頃の間と年代測定されてきました。同様に、アシューリアン石器技術は70万年前頃のヨーロッパ南部においてノタルチリコ(イタリア)で報告されています。この地域におけるアシューリアンの到来についての可能性がある拡散経路の検証において、これらの研究者は、チュニジアとシチリア島との間のシチリア海峡の横断の可能性も提起しています。最近の年代技術的統合では、標準化されたLCT石器群はヨーロッパ西部において少なくとも70万年前頃までに現れた、と示されており、様式2技術(関連記事)の比較的急速で広範な拡散が示唆されています。

 東方からの拡散の複数の波を想定するモデルのうち、2011年の研究は供給源・受容地枠組みを発展させ(図1D)、この枠組みでは、ヨーロッパはアジア南西部のより安定した人口集団から繰り返し補充される人口統計学的受容地として機能しました。この想定では、ネアンデルタール人の形質はその場での進化的過程と繰り返し起きる人口統計学的流入の組み合わせを通じて現れ、地域間の長期の連続性が維持されます。この観点は後に、CADEモデルを通じて2011年の研究でより明確にされ、CADEモデルでは、好適な気候期間にヨーロッパの人口集団へと供給する、アジア南西部の拡散の中核地域からの繰り返しの拡散が提唱されています。

 代替的な想定では、重要なネアンデルタール人の形質はヨーロッパ西部起源で、その後に東方へと拡大し(図1E)、関連する人口集団の起源地を明示的に特定しない、交雑不連続性モデルを表している、と提唱されています。同様に、バルカン半島におけるネアンデルタール人の特徴の相対的に遅い出現に基づいて、2022年の研究は初期ネアンデルタール人の西方から東方への移動を示唆しました。

 最後に、二重アシューリアン起源モデル(図1F)は、アシューリアン・インダストリーが著しく均質ではない地理的パターンでヨーロッパ全域に分布している、と仮定し、独立した2回の拡散を提案しており、それは、(a)ヨーロッパの東部および南東部に影響を及ぼした近東からの拡散と、(b)アフリカ北部からイベリア半島およびアキテーヌに影響を及ぼし、ブリテン諸島に到達した拡散です。これらの侵入は、既存のEP石核および剥片伝統と相互作用し、複雑な人口統計学的景観が形成されました。ヨーロッパ南西部の退避地、とくにイベリア半島を、系統存続の潜在的な貯蔵地および回廊として解釈する点でも、モデルは異なります。2020年の提案を反映しているかもしれない、2018年の研究は、ヨーロッパMPにおける異なる2「人口集団」の存在を示唆しており、一方は派生的なネアンデルタール人の形態を一貫して示すヨーロッパ西部で、もう一方は東方のより多様な人口集団です。

 上記で概説したモデルは、相互に排他的な代替案として必ずしも解釈すべきではないことに注意するのが重要です。むしろ、これらのモデルは、さまざまな時空間的規模で作用した動的な進化的過程過程のさまざまな側面を捉えているかもしれません。たとえば、2011年の研究で提唱された供給源・受容地枠組みもしくは2013年の研究で提唱されたCADEモデルなど、アジア南西部からの繰り返しの拡散を想定する状況は、在来人口集団がその後のMP集団に大きく寄与した、との地域的連続性の段階と両立するかもしれません。同様に、ネアンデルタール人の形質の出現についてヨーロッパ西部の中心地を想定するモデルは、アシューリアン製作人口集団の拡散と関連づけられることが多い、東部もしくは南部地域からの間欠的な人口統計学的流入と共存できるかもしれません。この観点の下では、ヨーロッパのMPの記録は、厳密異なる進化的軌跡ではなく、局所的な進化的過程と断続的な人口移動との間の変化する均衡を反映しているかもしれず、これはユーラシアにおける拡散動態の議論と大まかには一致するパターンです。

 これらの人口動態は、MPにおける古気候変動によって強く条件づけられた可能性が高そうです。氷期と間氷期の周期は繰り返しヨーロッパの環境を再編成し、寒冷期には居住可能地域を分断して、間氷期には人口拡大を促進しました(Tzedakis et al., 2007)。そうした変動は交互に、地域的孤立を促進し、人口集団間の接続性を復活させ、ヨーロッパ大陸全体の拡散と縮小と遺伝子流動の複雑なパターンを形成しました。人口分布の同様の気候による再編成は、ヒトを含めて更新世の多くの種で記録されてきました(Mounier, and Lahr., 2019)。しかし、これらの人口統計学的および環境的動態の認識自体では、化石記録で観察されたモザイク状の形態学的パターンによって課せられた解釈の難しさは解決されません。以下の項目で考察されるように、多くの進化的モデルは、形態学的特徴がほぼ独立した単位として扱われる分析的枠組みに依存し続けており、これは、形態学的多様性が系統発生的想定にどのように解釈されるのか、強く条件づける前提です。

 ヨーロッパMPについて提唱されたさまざまな進化的想定の評価におけるさらなる難しさは、化石記録の不均一な地理的分布に関連しています。ヨーロッパ西部および南西部ではいくつかの重要な人類化石が発見されており、その多くはアタプエルカやフランス南西部など数ヶ所の集中的に研究された地域に集中していますが、ヨーロッパ大陸の他地域の記録は比較すると依然として少ないままです。とくに、ヨーロッパ東部のEPおよびMPの人類化石は、依然としてひじょうに限られています。結果として、競合する人口統計学的および進化的モデルを大陸規模で検証することは依然として困難なので、ヨーロッパ全域人口構造および拡散動態の現時点の解釈は暫定的で、新たな発見があれば修正されるべきです。

 要するに、現在の証拠では以下の2モデルを区別でき、それは、(1)すべてのヨーロッパMP人口集団はネアンデルタール人につながる進化的軌跡に関わっている、とのモデルと、(2)ヨーロッパ内で複数の同時代の系統もしくは地域集団の共存を提唱するモデルです。単一系統解釈では、MPはネアンデルタール人種となる統合的な進化的軌跡とみなされ、漸進的な累積変化を強調する増加モデルなど過程に関する枠組みや、ネアンデルタール人系統の起源における急速な系統分岐学的事象を想定する、2段階モデルを含んでいます。対照的に、複数系統の提案では、いくつかの地域集団がMPヨーロッパで共存しており(Arsuaga et al., 2014、Daura et al., 2017)、これらはネアンデルタール人祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)とすべて等しく関連しているわけでも、同程度関連していたわけでもない、と主張されています。

 まとめると、これら6通りのモデルは、ヨーロッパMPについて提唱された人口統計学的および系統発生的想定の多様性を示しています。以下の項目では、これらの枠組みを支える、推論的論理を再評価し、モザイク状の形態と派生の程度の差異が、系統に基づく解釈を裏づけるためにどのように用いられてきたのかに、焦点を当てます。



◎ヨーロッパMPにおける人類進化のモデル:批判的再評価


●モザイク状の形態と古典的モデルにおける進化的推論

 ヨーロッパMPにおける人類進化の説明に提唱されたほとんどのモデルは、形態学的特徴が個別でほぼ独立している単位として扱われる、分析的枠組みに依拠しています(図2)。連続性と不連続性と複数系統の枠組みは、そり概念的違いにも関わらず、この共通の前提を有しています。この観点においては、化石標本間の形態学的起源の全体的な程度における差異は、祖先的特徴と派生的特徴の特定の組み合わせで評価されます。著しく異なる程度の派生を明らかに示す標本が大まかには同年代の場合(たとえば、SHとアラゴ)、そうした違いは単純な時間的順序内で容易に蓄積できないので、単一の進化人口集団/地域集団内の構造化された差異としてではなく、別々の系統として提案される、一般的に異なる進化的軌跡の証拠として解釈されます。以下は本論文の図2です。
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 しかし、この解釈の結果は、実証的パターンそれ自体よりも、形態学的差異が評価される分析的枠組み、とくに個別のほぼ独立した単位として特徴が扱われることに由来します。これらの限界は、モザイク状の形態と派生の程度の同時代の差異が、系統発生的断片化を前提としない、代替的解釈の必要性を促します。そうした一つの観点は、形態学的特徴をほぼ独立した特徴ではなく、統合された解剖学的体系の構成要素とみなす手法によって提供されます。したがって、以下の分析の目的は、ヨーロッパMP人類の代替的な系統発生再構築の提案ではなく、さまざまな解釈的枠組みが形態学的差異にどのように影響するのか、進化的想定への解釈を調べることです。


●モザイク状の進化の解釈についての有機体論的枠組み

 モザイク状の形態が形質ごとでのみ解釈される場合、形質発現における差異は容易に分類学的もしくは系統発生的境界へと変換されます。しかし、そうした推論は、人口集団が大きな内部の差異を示しながら、単一の進化的連続体の一部であり続けるかもしれない可能性を見落としています。この文脈では、派生的特徴の蓄積は、系統分岐ではなく、1人口集団内の漸進的もしくは不均一な解剖学的再編成か人口統計学的構造か時間的深度を反映しているかもしれません(図2)。

 有機体論的観点は、特徴の独立性もしくは複数系統を前提とせずに、モザイク状の形態の解釈について、代替的な枠組みを提供します。この観点からは、解剖学的形質は自律的単位ではないものの、頭蓋底や中顔面や下顎や後頭部や胸郭など、機能的および発展的基本単位へと組織化された統合的体系の構成要素です。2014年の研究によると、「形質はもはや、合理的に独立して表現型に‘追加’もしくは表現型から‘削除’できず、むしろ、全体的な発達の連続体における変化は、表現型の多くの側面が同時に代わるような形で起きる可能性が高そうです」。この観点では、モザイク状のパターンが生じるのは、異なる基本単位が、異なる感受性と時間動態で、共通の生物水準の摂動に対して異なって応答するからであり、独立した進化的軌跡に従うからではありません。この枠組みでは、モザイク状の形態は複雑な生物に作用する進化的変化の予測される結果です。

 この有機体論的枠組み内で、2006年の研究と2022年の研究は、ネアンデルタール人系統の進化を構造化する、二つの主要な生物水準の摂動を特定しており、それは、体重および代謝要求の増加で、顔面の構造や鼻腔の大きさや頭蓋後方の比率に影響を及ぼし、(2)大脳化は頭蓋底の再編成が伴い、頭蓋冠の形態や頭蓋底の角形成や胸郭上部に影響を及ぼします。解剖学的基本単位全体にわたるこれらの過程の異なる影響と発現は、既存の人口集団水準の構造的差異を伴う相互作用において(たとえば、相対成長、頭部形態パターン、性的二形)、派生的特徴の出現と時期の両方で多様性を生じ、それによってモザイク状の形態が生じます。重要なことに、この手法では、単一の構造化された人口集団内で、大きな形態学的多様性が生じるかもしれない、と予測されます。


●検証事例としてのSH化石群

 SH化石群は、この解釈的枠組みに重大な検証事例を提供します。単一の堆積状況に由来する多数の個体から構成され、狭い年代間隔内に制約されているSHは、複数の解剖学的体系に影響するかなりの形態学的多様性を記録しています(Arsuaga et al., 2015)。重要なことに、この多様性には、モザイク状の組み合わせであることが多い、個体間のネアンデルタール人の派生的特徴の発現と程度における顕著な違いが含まれています。しかし、この化石群の人口統計学的一貫性と共有されている進化的背景から、この多様性を複数の独立した進化的軌跡の結果と解釈する余地はほとんど残されていません。むしろ、SH標本からは、派生の程度の違いは、解剖学的領域全体において顕著で均一ではない分布の場合でさえ、共通の制約したで進化する単一の構造化された人口集団内で生じるかもしれない、と論証されます。これは、異なる派生的形態と組み合わさった同時代性は必ず系統発生的分離を意味している、との仮定に疑問を呈しています。

 このパターンの意味は、SH化石群の内部多様性がさまざまな解剖学的体系にわたって詳細に調べられるさいに、とくに明確になります。内耳形態は明確な事例を提供しており、後半規管の位置は祖先的状態で顕著に高いものの、一部の個体は派生的な低い位置を示しています。同様のパターンは乳様突起部で観察され、ほとんどの頭蓋は乳様突起が下方に突出しているのに対して、頭蓋7号および頭蓋12号にはそうした突出が欠けています。頭蓋冠の形態は、同等の多様性を示します。頭蓋4号は頑丈な角状円環を示しますが、他の個体は次第に隆起が弱くなり、連続的な形態学的勾配を形成します。眼窩上部の形態もこの範囲をさらに示しており、ほとんどのSH頭蓋、とくに頭蓋5号は傍矢状領域において二重弓状で滑らかに丸みがかった眼窩上隆起を示し、ネアンデルタール人の状態に近いのに対して、頭蓋13号は眉間部と隆起の側面との間で顕著な捻じれを保持しており、これはそれ以前のMPの形態型により典型的な形態型です(Arsuaga et al., 2014)。

 多様性は側頭下顎領域でも明らかです。頭蓋4号と頭蓋5号を含めて多くの個体では、関節隆起は比較的平坦で、ホモ・エレクトスの角張った後頭隆起とネアンデルタール人の丸みを帯びた後頭髷の中間的状態として解釈されることが多いものの、頭蓋16号はネアンデルタール人の状態に近い後頭部形態を示しています。イニオン上窩領域と全体的な頭蓋幅は同様に、SH化石群の高水準な内部多様性を示します。まとめると、この差異の範囲から、系統発生的に診断できると扱われることが多い特徴は、SH化石群内で観察される場合にはじっさい、単一の構造化された人口集団内で大きく変わるかもしれない、と示されます。

 下顎の差異は、このパターンを強く裏づけています。たとえば、AT-950などの標本は、癒合線におけるより祖先的な形態を示しており、これは、傾斜した恥骨結合や深い顎下切痕や比較的広い上行枝によって特徴づけられます。対照的に、AT-605などの標本はより派生的な形状を示し、垂直に近い癒合や比較的狭い上顎枝や広い後臼歯間隙があります。これらの下顎の対照性から、明らかな形態学的発達の違いは異なる進化的軌跡に対応するとは限らない、とさらに論証されます。

 全体的に、この内部多様性から、これまで異なる系統を表すと扱われてきたか、アラゴやSHなど同時代の標本間観察される場合に、系統発生的分離を裏づける、と考えられていた形態型は、共通の発達的および機能的制約下で進化した、単一の構造化された人口集団内で生じるかもしれない、と論証されます。


●SHと他のヨーロッパMP標本の対比の再評価

 SH化石群と他のヨーロッパMP標本との間の対比は、この期間のヨーロッパ内における複数の進化的系統を想定するモデルの裏づけのため、実行されてきました(Zanolli et al., 2018)。とくに、アラゴの標本は、SHで記録された人口集団とは異なる形態型を表し、SHとは進化的に独立している、と解釈されたことが多く、SHとアラゴの二つの化石群間の差異は、分岐した系統発生的軌跡を反映している、と考えられていました。同様の推論は、SHとボックスグローヴなど他のヨーロッパMP標本間の比較にも拡張されてきました。上述のように、これらの解釈は、アラゴとSHの間で観察された形態学的差異は、共有された進化的過程の発現における差異ではなく、独立した特徴の組み合わせを反映している、との暗黙の仮定に依拠しています。この枠組み内では、アラゴとSHの差異は、ヨーロッパMPの記録の系統発生的断片化を支持する議論で、重要な役割を占めることになりました。

 SHで記録された広範な内部多様性の文脈で見ると、アラゴとSHとの間でこれまで強調されてきた形態学的差異は、その系統発生的重要性の多くを失います。SH化石群内に含まれる差異の範囲は、ヨーロッパMP人類を特徴づけるのに用いられている形態型のかなりの割合にまたがっており、祖先的形質と派生的形質のさまざまな組み合わせを発現し、全体的に形態学的派生度の異なる個体群は、単一の構造化された人口集団内で共存し得る、と論証されます。この観点からは、アラゴ的な形態とSH敵な形態は、異なる進化系統証拠として解釈する必要はなく、むしろ、広く共有されている人口集団内の異なる発現として解釈されます。

 このように把握し直すと、アラゴとSHの対比はもはや、ヨーロッパMPの記録の多系統的解釈の説得力がある基礎として機能しません。利用可能な証拠は、系統発生的断片化を示唆するのではなく、進化した共通の遺伝子プール内の、人口構造および解剖学的体系の異なるものの統合されている発現によってより節約的に説明されます。この解釈は、本論文で展開されたより広範な主張を補強しており、モザイク状の形態と派生度の差異は、有機体論的枠組み内で評価される場合、複数の同時代の進化系統の存在を必要としません。

 追加の証拠がこの解釈をさらに裏づけます。一部の事例では、個体の骨格要素は、あるとしてほとんど派生的特徴を示さないので、個別に検証すると著しく祖先的に見えます。しかし、他の体系との解剖学的官憲で調べると、そうした一部の個体は、骨格のどこかで明確な派生的特徴を示すかもしれません。この文脈では、以下で考察する事例の目的は、下顎を孤立した系統発生的代理として扱うのではなく、明らかな形態学的派生における大きな差異は、解剖学的体系が統合された有機体論的枠組み内で検証される場合に、単一の人口集団内でどのように生じ得るのか、説明することです。たとえば、モンモランの下顎は、とくに例証となる事例を提供しており、祖先的な下顎形態にも関わらず、関連する歯列は明確な派生的形質を示しています。

 さほど明確に発現しているわけではないものの、同様の状況はマウエルの下顎で指摘されてきており、類似した解釈上の難しさが生じており、ホモ・ハイデルベルゲンシスの正基準標本としての位置づけによってさらに複雑になっています。古典的なMP化石は、解剖学的体系全体にわたる非同期的な形態学的変化のこのパターンを補強します。1997年の研究によって指摘されているように、ペトラローナ頭蓋ではネアンデルタール人的な顔面形態が祖先的な後頭骨と組み合わされているのに対して、シュタインハイム標本はより祖先的な顔面とともに後頭部で派生的特徴を示しています。化石群内および化石群間で発現しているこれらの対照的なモザイク状は、個別に検証される個々の解剖学的領域の明らかな派生度からの系統発生的関係の推測の限界を強調しています。



◎モザイク状のパターンから進化的過程へ:2段階モデル

 この枠組みは、これまでモザイク状の形態および異なる派生度と関連づけられてきた概念的な困難の解決に役立ちますが、同時に、系統に基づく解釈が取り組んできた、大きな形態学的再編成は広く共有されている人口集団内で経時的にどのように展開したのか、との補完的問題に焦点を当てます。ヨーロッパMPの記録から、異なる解剖学的体系は同時もしくは均一に進化圧に反応したわけではなく、相対的な形態学的安定性の期間がより顕著な再編成の事象と交互に起きた、と示唆されます(図3)。このパターンの説明は、静的な分類学的体系を超えて、進化的変化の時間的構造を検証することが必要です。以下は本論文の図3です。
画像

 この文脈では、2006年や2022年の研究で提唱された2段階モデルなど過程指向的手法が、MP全体を通じて、ネアンデルタール人の進化の後期段階までの、モザイク状のパターンや異なる派生度や形態学的変化の明らかな非直線性を統合するのに、一貫した枠組みを提供します(図3)。そうしたモデルは、形態学的結果のみならず、それらを形成した過程の、時期や統合や順序についてもの説明することを目的としています。このモデルの中核は、大きな形態学的再編成は必ずしも骨格全体にわたって同時に蓄積するわけではない、との認識にあります。むしろ、進化的変化は、特定の生物水準の摂動が支配的な段階で進行し、各摂動は統合された解剖学的体系において同等の反応を生じさせます。したがって、これらの段階は、身体構成や生理機能や機能的要求における変化と関連する、体系水準の再編成によって定義されます。

 当初の定式化では、最初の段階は体重および関連する代謝要求の増加によって占められています。そうした変化は、呼吸や咀嚼や姿勢維持と関わる解剖学的体系に顕著な結果をもたらす、と予測されます。中顔面突出や鼻腔拡大を含めての顔面構造および下半身の比率の側面は、これらの摂動に対してとくに敏感です。重要なことに、これらの変化の発現は均一ではなく、異なる人口集団および個体は、さまざまな強度と時期に反応し、系統分岐を必要とせずに、大きな形態学的多様性が生じるかもしれません。第2段階は大脳化と頭蓋底の再編成によって特徴づけられ、頭蓋冠の形態や頭蓋底の角度や上部胸郭の形態に影響を及ぼしました。2024年の研究によって強調されているように、この段階の解剖学的特徴は、単に第1段階の特徴への追加ではなく、それらと相互作用し、モザイク状のパターンと明らかな派生度の差異へとさらに寄与しました。

 重要なことに、この2段階モデルは段階間の鮮明な境界を仮定しませんし、すべての人口集団が同時に段階を進むことも必要としません。むしろ、この2段階モデルは、重複する反応や地域的差異や人口構造が予測される、柔軟な時間的枠組みを提供します。この枠組み内では、一部の解剖学的体系でより多い数の派生的形質を発現しているものの、他の解剖学的体系では発現していない個体もしくは集団は、共有されている生物水準の過程との異なる関与を反映している、と解釈されます。したがって、これまでヨーロッパMPの記録を複数系統へと分割するのに用いられてきた多様性のほとんどは、広く共有されている進化的軌跡内の、段階と関連し、人口集団の構造化された差異として解釈できます。したがって、この2段階モデルは上述のモザイク状形態の有機体論的解釈を補完し、異なる解剖学的体系が異なる速度で変化するように見える理由や、派生度が人口集団内と人口集団間の両方で異なる理由について、動的な説明を提供します。



◎まとめと将来の研究の方向性

 本論文の再評価は、ヨーロッパMP人類の記録の解釈におけるずっと続く難しさに関する、背景の項目で提起され問題に立ち返ります。全体的な派生度の差異から特徴のモザイク状の組み合わせを明示的に区別し、有機体論的および人口集団水準の枠組み内に形態学的多様性を位置づけることによって、本論文は化石証拠のより節約的で過程指向の解釈を提供します。SHの事例では、アラゴとSHの対比の再評価とともに、ヨーロッパMPの記録の分割にこれまで用いられてきた差異の大きな割合は、共有された発達および機能的制約下で進化した、単一の構造化された人口集団内で生じ得る、と論証されます。

 この解釈的枠組み内で、将来の研究は、人類の形態を形成する主要な生物水準の要因の経時的変化を明示的に扱う進化的過程に、有益に焦点を当てることができます。ネアンデルタール人の進化に関する2段階の見解と大まかに一致する観点は、この点に関して、実証的観察と理論的検証の両方に基づく、有益な発見的手法を提供します。身体構成や代謝要求や大脳化における変化が、経時的にどのように相互作用し、同等ではあるものの同時ではない解剖学的反応を生み出したのか、調べることによって、将来の研究は、系統中心の解釈を超えて、ヨーロッパMPにおける形態学的多様性を構造化している進化的な動態に、より直接的に取り組むことができるかもしれません。

 重要なことに、この2段階モデルは、検証可能な予測を生成します。この2段階モデルが正しければ、各段階と関連する解剖学的変化は骨格全体で無作為に分布するはずがなく、統合された解剖学的体系内でまとまり、共変異の同等のパターンを示すはずである、と予測されます。たとえば、第2段かと関連する頭蓋底の再編成は、頭蓋冠や顔面構造や上部胸郭を含む、より広範な機能的複合体の一部として調べられるべきです。この枠組み内では、頭蓋底の形態の変化も、舌骨組織と舌骨上および舌骨舌筋系の組織の変化と関連している、と予測されます。とくに、下顎の舌骨上筋の付着部は、これらの機能的再編成の骨学的相関を提供する可能性があるので、化石記録における検証可能な兆候を構成するかもしれません。そうした相関には、二腹筋窩や顎舌骨線や頤棘や下顎体形態の側面など、構造における差異が含まれるかもしれず、その全ては口腔底および舌骨複合体の機能的組織と関連しています。より一般的には、このモデルは、体重および代謝要求と関連する形質がより早く現れる一方で、大脳化や頭蓋底再編成や関連する頸部および舌骨の機能体系がその後でより強く発現するような、時間順序を予測しています。これらの予測は、解剖学的基本単位間の共変動や年代順に構成された化石標本や人口集団内の多様性のパターンの比較研究を通じて、評価できます。


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