小型ティラノサウルスの化石

 小型ティラノサウルスの化石を報告した研究(Zanno, and Napoli., 2025)が公表されました。ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)は、絶滅した脊椎動物の中で最も研究が進んでいる動物の一種で、恐竜の古生物学のモデル系です。最後まで生き残った非鳥類型恐竜の一種として、ティラノサウルスは、地球の生物にとって最大の破局的事象の一つであった、白亜紀末の大量絶滅の直前の陸上の生物多様性と生態系の構造と生物地理学的な入れ替わりを評価する上で、重要な基準となります。

 ティラノサウルスの古生物学的研究(個体発生的なニッチ分割、摂餌、移動に関する生体力学、生活史など)は、増え続ける骨格標本群に基づいて行なわれてきましたが、それは複数の異なる成長段階のものと仮定される標本から構成されており、ティラノサウルスのハイポダイム(種の記載に使用可能な全ての標本)については議論が続いています。主要な未解決問題は、ティラノサウルスの幼体の典型例と考えられてきた標本に関するもので、これはナノティラヌス(Nanotyrannus)という別の分類群に属するとも主張されてきました。

 本論文は、ナノティラヌス・ランケンシス(Nanotyrannus lancensis)の模式標本と固有派生形質を共有する、アメリカ合衆国モンタナ州のヘルクリーク累層(Hell Creek Formation of Montana)から出土した、保存状態がきわめて良好で身体的に成体に近いティラノサウルス類の骨格(NCSM 40000)について報告します。本論文は、比較解剖学と縦断的成長モデルと個体発生的特徴の不変性に関する観察結果と新規の系統学的データセットを組み合わせて、これがナノティラヌス類であることの妥当性を検証し、このタクソンがティラノサウルスと区別可能であり、ティラノサウルス科の外側に位置していて、予想外にナノティラヌス・ランケンシスと新種ナノティラヌス・レサエウス(Nanotyrannus lethaeus)という2種を含む、と明確に示します。

 本論文の結果は、現在根拠の不確かな個体発生的軌跡に基づく数十の既存の仮説について、再評価を促すものとなります。さらに本論文は、北アメリカ大陸のマーストリヒチアン期(Maastrichtian)に、生態形態学的に異なる少なくとも2つの属が共存していたことを示し、白亜紀末の大量絶滅前の100万年間におけるティラノサウルス類のα多様性は高く維持されていた、と実証します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:小さなティラノサウルスの謎

 ナノティラヌス(Nanotyrannus)と呼ばれる小型の恐竜は、これまでティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)の幼体と考えられていたが、実際には別属の恐竜であったことを報告する論文が、Nature に掲載される。米国モンタナ州のヘルクリーク累層(Hell Creek Formation of Montana)で発見された化石に基づくこの発見は、白亜紀末期(約6,700万年前)にさかのぼるもので、恐竜や他の生物の大量絶滅を引き起こした小惑星衝突以前に、この地域で恐竜の多様性が豊かであったことを示している。

 Nanotyrannus lancensisと命名された小さなティラノサウルスの頭蓋骨は、少なくとも40年にわたり議論の的となってきた。その後の研究では、この恐竜はティラノサウルス・レックスの幼体である可能性が示唆された。なぜなら、この種にのみ見られる特徴を有していると主張されたからだ。もしティラノサウルス・レックス幼体説が誤りであれば、ティラノサウルス・レックスに関する既存の仮定や、その生息環境の生態系の構成および構造について再考が必要となる。

 Lindsay Zanno(ノースカロライナ州立大学〔米国〕)とJames Napoliは、ヘルクリーク累層から発見されたティラノサウルスの新たな全身骨格を報告した。この標本は、ティラノサウルス・レックスとは区別され、Nanotyrannus lancensisと共通する特徴を有しており、これにより、ナノティラヌスが別属であることが確認された。骨の分析から、これらは幼体ではなく成熟個体(ほぼ完全な成長状態)であることが判明した。これにより、Nanotyrannus lancensisとティラノサウルス・レックスの成体サイズに顕著な差異があることが示された。前者の推定最大体重は、約700キログラムであるのに対し、後者は約6,700~8,200キログラムに達する。モデル化により、ナノティラヌスはティラノサウルスとは異なる骨成長軌跡を示したことも判明し、両者が別種の恐竜である証拠がさらに加わった。加えて、Nanotyrannus lancensisの分析により、以前に発見された標本の再分析が可能となり、著者らは新たにNanotyrannus lethaeusと命名される同属内の別種の存在も明らかにした。

 これらの結果は、白亜紀末の絶滅から100万年以内に、少なくとも2種の異なる肉食恐竜がティラノサウルスと共存していた可能性を示しており、当時の恐竜の多様性が豊かであったことを示唆している。著者らは、この発見がティラノサウルス類の進化に関する重要な示唆を与える可能性があると指摘する。さらに、ナノティラヌスがティラノサウルスの幼体標本であるという従来の仮定に基づいた、ティラノサウルスの成長や生態に関する仮説の再評価を促すかもしれないと付け加えている。


古生物学:ナノティラヌスとティラノサウルスは白亜紀末期に共存していた

Cover Story:小型のティラノサウルス類:ティラノサウルス類の若い成体個体の骨格標本が、ナノティラヌスの存在を裏付けた

 ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex、以下T. rex)は、最も象徴的でよく知られた恐竜の一種だが、何十年にもわたってある論争に巻き込まれてもいた。その議論の中心にあるのは、1940年代に発見されたT. rexの小型の近縁種と見られる恐竜の頭骨化石である。この頭骨はその後、新種ナノティラヌス・ランケンシス(Nanotyrannus lancensis)として記載されたが、近年では単にT. rexの幼体と見なされるようになっていた。今週号ではL ZannoとJ Napoliが、この論争を決着させるに違いない証拠を提示している。著者たちは今回、米国モンタナ州のヘルクリーク累層で見つかった、小型のティラノサウルス類の化石について報告している。この骨格化石は保存状態が極めて良好で、研究者たちはこれが若い成体個体のものであると判断することができた。この個体はまだ成長途中だが、極めて重要なことに、完全に成長しきったとしてもT. rexの成体サイズにははるかに及ばない可能性が高い。解析の結果、この恐竜は実際には新種であることが明らかになり、彼らはこれをNanotyrannus lethaeusと命名した。今回の発見は、T. rexと少なくとも2種のより小型の肉食恐竜がこの時代に共存していたことを裏付けている。



参考文献:
Zanno LE, and Napoli JG.(2025): Nanotyrannus and Tyrannosaurus coexisted at the close of the Cretaceous. Nature, 648, 8093, 357–367.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09801-6

この記事へのコメント