ナウマンゾウのミトコンドリアDNA

 ナウマンゾウのミトコンドリアDNAを報告した研究(Segawa et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。パレオロクソドン属の絶滅種であるナウマンゾウは日本列島に分布し、後期更新世後半に絶滅しました。本論文は、ナウマンゾウのミトコンドリアDNAを報告し、パレオロクソドン属でもかつてユーラシア全域に広く分布していた母系に属することを示しました。この母系のパレオロクソドン属は祖先的形態を有しており、ユーラシアではその後、派生的形態を有する別の母系が全域に拡大しましたが、ナウマンゾウは孤立的傾向の強い日本列島において存続しました。以下は本論文の要約図です。
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 以下の略称は、DNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)、mtDNA(Mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)、PCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)、bp(base pairs、塩基対)、kb(kilo base、千塩基対)、UDG(uracil-DNA-glycosylase、ウラシルDNAグリコシラーゼ)、tMRCA(time of the most recent common ancestor、最新共通祖先の時間)、POC(parieto-occipital crest、頭頂後頭隆起)、MIS(Marine Isotope Stage、海洋酸素同位体ステージ)、IVPP(Institute of Vertebrate Paleontology and Paleoanthropology、中国科学院古脊椎動物古人類研究所)です。

 本論文で取り上げられる主要なゾウ科動物は、パレオロクソドン(Palaeoloxodon)属、アジアゾウ(Elephas)属、ステゴテトラベロドン(Stegotetrabelodon)属、プリメレファス(Primelephas)属、ステゴディベロドン(Stegodibelodon)属、アフリカゾウ(Loxodonta)属、マンモス(Mammuthus)属、ステゴロキソドン(Stegoloxodon)属、ナウマンゾウ(Palaeoloxodon naumanni)、ナルバダゾウ(Palaeoloxodon namadicus)、アンティクウスゾウ(Palaeoloxodon antiquus)、トルクメニスタンゾウ(Palaeoloxodon turkmenicus)、ヒュアイホゾウ(Palaeoloxodon huaihoensis)、シチリア小型ゾウ(Palaeoloxodon mnaidriensis)、シチリア小型ゾウと推定される種(Palaeoloxodon cf. mnaidriensis)、マルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)、レッキゾウ(Palaeoloxodon recki、Elephas recki)、レッキゾウの各亜種(Elephas recki brumpti、Elephas recki shungurensis、Elephas recki atavus、Elephas recki ileretensis、Elephas recki recki)、です。

 本論文で取り上げられる主要なゾウ科動物の出土地は、ドイツのシュトゥットガルト(Stuttgart)市のバート・カンシュタット(Bad Cannstatt)とノイマルク・ノルト(Neumark-Nord、略してNN)とヴァイマル・エーリングスドルフ(Weimar-Ehringsdorf、略してWE)、ギリシアのマラスーサ1(Marathousa 1)遺跡、シチリア島のプンタリ洞窟(Puntali Cave)、中華人民共和国河北省張家口(Zhangjiakou)市の陽原(Yangyuan)県と泥河湾(Nihewan)盆地、インドのソナキア(Sonakia)とビシュワース(Biswas)とナルマダー(Narmada)県のドゥハンジ層(Dhansi Formation)とスラージカンド層(Surajkund Formation)とバネタ層(Baneta Formation)、イスラエルのGBY(Gesher Benot Ya’aqov、ゲシャー・ベノット・ヤーコブ)遺跡、エチオピアのブーリ(Bouri、略してBOU)のダカ層(Daka Member)とシュングラ層(Shungura Formation)です。


●要約

 パレオロクソドンは直牙ゾウの絶滅した属で、アフリカに起源があり、ユーラシア全域に拡散しました。後期更新世後半に絶滅した日本列島の種である、ナウマンゾウの古代mtDNAが分析されました。データから、ユーラシア全域のWE単系統群(ヴァイマル・エーリングスドルフ標本によって定義され、中国の標本でも表されます)内に収まるナウマンゾウは単系的集団群を形成し、105万年前頃に分岐したと推定される、初期に分岐した系統を表している、と示唆されます。化石頭蓋形態と組み合わせた結果は、アジア東部への祖先的な「シュトゥットガルト型」の初期の東方拡大が裏づけられ、その後に大陸部では派生的な「ナルバダゾウ型」が優勢となった一方で、ナウマンゾウは島嶼孤立下で日本列島において残存種として存続しました。これらの結果は、パレオロクソドン属の進化的軌跡に関する理解を深めて、とくに日本列島について、更新世の絶滅種に光を当てるさいの、古代mtDNA分析の重要性を強調します。


●研究史

 ゾウ科はかつて北半球全域やアフリカに広く分布しており、大型動物相の中で有名であり、中枢種(キーストーン種)として重要な役割を果たしてきました。ゾウ科はアフリカに起源があり、その後で少なくとも8属へと分岐し、それは、ステゴテトラベロドン属、プリメレファス属、ステゴディベロドン属、アフリカゾウ属、パレオロクソドン属、アジアゾウ属、ステゴロキソドン属、マンモス属です。アジアゾウ属とマンモス属とパレオロクソドン属はその範囲をユーラシアへと広げ、化石証拠から、パレオロクソドン属は78万年前頃(遅くとも)以降にユーラシアへと移動したこれら3属の最後で、その後ユーラシア全域に広く拡散した、と示唆されています。

 パレオロクソドン属は、更新世日本の種であるナウマンゾウについて、アフリカゾウ属の亜属として、松本彦七郎氏によって提唱され、当初は「Loxodonta (Palaeoloxodon) namadicus naumanni」として分類されました。しかし、ナウマンゾウをアジアゾウ属と同義とする見解がある一方で、多くの見解ではアジアゾウ属の亜属とみなされました。それにも関わらず、形態学的およびゲノム証拠が蓄積されると、パレオロクソドン属はアフリカゾウ属と最も密接に関連しており、さらなる遺伝子移入を伴う交雑の起源を考慮すると、アジアゾウとは異なる単純な単系統群として扱われるべきではない、と示唆されています。とくに、現在認識されているミトコンドリア系統(ノイマルク・ノルトおよびユーラシア全域のWE)は、マルミミゾウの単系統群(F単系統群)内に収まる一方で、核ゲノム分析はパレオロクソドン属がアフリカゾウ属の姉妹群の属であることを示しており、その後、マルミミゾウとの交雑によって確立された、と示しています。

 この長きにわたる議論は、おもに形態学的特徴のさまざまな解釈に起因します。パレオロクソドン属の大臼歯は、咬合面の数と頻度に観点ではアジアゾウ属と似ており、細かく折り重なったエナメル質がありますが、その咬合エナメル質のパターンは、中間に菱形のエナメル質の輪がある点で、アフリカゾウ属とより類似しています。そうした形態学的複雑さは、パレオロクソドン属のゾウ類の進化関係を混乱させてきました。逆に、アジアゾウにおける頭蓋形質の類似性から、多くの研究者は、パレオロクソドン属はアジアゾウ属と密接に関連している、と考えるようになりました。

 本論文は、ユーラシア全域のWE単系統群(クレード)を、ヴァイマル・エーリングスドルフ標本(ドイツ)によって元々は確立され、後にアジアで特定された(中国のCADG841)として呼びます。ゲノムデータの最近の系統発生分析は、ヨーロッパの本土パレオロクソドン属の進化史の側面を解明してきました。これらの研究では、主要な3構成要素に基づいて、パレオロクソドン属は数回の交雑によって生じた、と明らかになりました。これらの構成要素のうち最大のものはアフリカゾウ属の祖先に由来し、それに続くのがマルミミゾウからの遺伝子流動で、マンモス属からの遺伝的寄与はより少なくなっています。アンティクウスゾウの全ミトコンドリアゲノムは種間交雑によってマルミミゾウに置換され、現在では、パレオロクソドン属のミトコンドリアの異なる2系統、つまり、NNおよびWE単系統群がマルミミゾウ単系統群内で特定されています。そうした発見は、ユーラシアにおけるパレオロクソドン属の進化と分類群の改訂に役立ってきました。

 NN単系統群がヨーロッパで発見されたパレオロクソドン属化石で構成されるのに対して、ユーラシア全域のWE単系統群には、ヨーロッパ(ドイツのヴァイマル・エーリングスドルフ)およびアジア(中国の陽原)の遺跡ゾウ類化石が含まれています。しかし、ヴァイマル・エーリングスドルフ化石(骨断片、KY499558)は形態学的に診断可能ではなく、地質年代学的配列とこの種の地理的範囲のため、アンティクウスゾウと同定されました。さらに、形態に基づいてアジアゾウ属と以前に分類された陽原化石(大臼歯、CADG841)は、母方の系統発生的位置のためパレオロクソドン属と同定されました。アフリカ外ではアフリカゾウ属化石は見つかっておらず、パレオロクソドン属とマルミミゾウとの間の交雑が、パレオロクソドン属がヨーロッパへと拡大する前にアフリカで起きたことを示唆しています。

 ヨーロッパのパレオロクソドン属への遺伝的寄与は、アフリカ中央部のマルミミゾウよりもアフリカ西部のマルミミゾウの方が大きくなっています。これは、パレオロクソドン属とマルミミゾウとの間の交雑が、アフリカの中央部と西部の集団間の分化後に起きたことを示唆しており、その年代は60万~46万年前頃とステイされています。一方で、ユーラシアのパレオロクソドン属の最古級の化石の年代は78万年前頃です。したがって、先行研究では、アフリカからユーラシアへと78万年前頃までに侵入した系統と、その後でヨーロッパに広がった系統は、その後の事象においてアフリカゾウと独立して交雑したかもしれない、と示唆されました。しかし、上述のように、ユーラシア全域のWE単系統群を構成するゾウ化石では形態学的診断が存在せず、ユーラシア全域のWE単系統群の分類群は確証されていませんでした。ユーラシア全域のWE単系統群は、先行研究の仮説によるとユーラシアへと最初に侵入した系統に相当するので、この単系統群の分類学的確証は、マルミミゾウと交雑した集団がユーラシア全域やヨーロッパに広がった、との仮説を検証するためにはひじょうに重要となります。

 本論文は、ナウマンゾウとして知られている絶滅した日本のゾウ(図1)の最初のDNA分析を提示します。ナウマンゾウの化石記録は、日本全域の約300ヶ所の異なる遺跡から発掘された2000点以上の標本で構成されており、これらの標本は日本で最も多く回収された化石を表していまするこの絶滅したゾウ種は、中期更新世後半から後期更新世の22000年前頃まで繁栄していました。化石記録の多さはかつて広範に存在したことを強調しており、後期更新世における日本の生態学的および環境的状況への貴重な知見を提供します。以下は本論文の図1です。
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 ユーラシアでは、複数のパレオロクソドン属種が報告されてきており、つまりは、ナルバダゾウ(1845年)、アンティクウスゾウ(1847年)、シチリア小型ゾウ(1874年)、ナウマンゾウ(1924年)、トルクメニスタンゾウ(1960年)、ヒュアイホゾウ(1977年)で、とりわけ、2点の主要な頭蓋形態型、つまり「シュトゥットガルト型」と「ナルバダゾウ型」が認識されています(図2)。これらの差異が異なる種か、異なる成長段階か、単純に単一個体群内の個体差を表しているのかどうかに関して、議論が続いています。異なる種との仮説は、アフリカからの2回の移動を示唆しており、それは異なる「シュトゥットガルト型」と「ナルバダゾウ型」の個体群に対応しているかもしれません。これまでに、パレオロクソドン属の形態型のDNA分析は限られており、利用可能な遺伝的情報はシチリア島とドイツで見つかった「ナルバダゾウ型」標本(つまり、シチリア小型ゾウと推定される種とアンティクウスゾウ)のみでした。残念ながら、「シュトゥットガルト型」(つまり、トルクメニスタンゾウとナウマンゾウ)では遺伝的データは得られておらず、これら先史時代のゾウの進化に関する理解には大きな空白が生じています。「シュトゥットガルト型」からの遺伝的情報の欠如は、パレオロクソドン属の進化史の研究を妨害し、今後の研究の必要性を強調しています。以下は本論文の図2です。
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 日本列島は野生生物の退避地として機能してきており、更新世の海水準変動期において大陸とは短期にしかつながらない長い孤立のため、古代の系統が存続していることは多くあります。したがって、哺乳類の歴史の研究にとって、日本列島は重要な系統地理学的位置を表しています。故に、成熟した雌と雄の両方で「シュトゥットガルト型」を示すと唯一知られている種である、ナウマンゾウの古代DNAの研究は、ユーラシア全域のパレオロクソドン属種の進化の謎の全体像の理解にきわめて重要です。そこで、本論文は、「シュトゥットガルト型」のみを示す種として認識されている、ナウマンゾウ(図1)の古代DNAの分析結果を提示します。これらの調査結果は、ユーラシア全域のパレオロクソドン属種の進化史への重要な知見を提供します。


●ナウマンゾウの系統発生と分岐年代

 ナウマンゾウの古代DNAの分析は、低いmtDNAの保存状態を明らかにし、少量のmtDNA配列しか得られませんでした。mtDNAの配列は、4点の標本のうち2点(NMNS-PV 22669、AoPM 1975-5)から得られず、mtDNAの量が不充分なため、分析から除外されました。部分的なmtDNA配列は他の2点の標本(NMNS-PV 22670、AoPM 1975-7)から得られましたが、その網羅率は、ショットガン配列決定のみから完全なミトコンドリアゲノムを再構築するには低すぎました。この限界を克服するために、myBaits捕獲を用いての標的濃縮が実行されました。配列クラスタ化(まとまること)によるPCR重複の除去後に、ミトコンドリア読み取りクラスタ(まとまり)が、NMNS-PV 22670からは7770点、AoPM 1975-7からは6137点、得られました。両標本では、この濃縮によって、1kb区画につきそれぞれ約10.7倍と約8.2倍の平均深度で、ミトコンドリアゲノムの概要配列の再構築が可能となりました。この2点の標本のコアは、死後損傷の痕跡を示しました。平均的なミトコンドリア読み取り長は38.9bp(NMNS-PV 22670)と38.2bp(AoPM 1975-7)で、最小/最大読み取り長はそれぞれ30/76bpと30/78bpでした。30bpの最小読み取り長は回収された最短の断片を反映しておらず、むしろ、30bpより短い読み取り長いの選別に適用された均一な除外から生じていることに要注意です。

 系統樹は、他のゾウ類標本の完全なミトコンドリアゲノム配列とともに、2点のナウマンゾウ標本のミトコンドリアの概要配列に基づいて、再構築できました。ナウマンゾウ2個体は単系統群を形成すると分かり、この単系統群はさらに、イツのヴァイマル・エーリングスドルフ標本と中国のCADG841標本を含む、ユーラシア全域のWE単系統群と単位系統的集団を形成し、ナウマンゾウはこの集団の最古級の系統です。この系統発生的関係は、高い統計的信頼性で強く裏づけられ、この結果の堅牢性が示唆されます。最尤系統樹は、ユーラシアのパレオロクソドン属におけるミトコンドリアの2系統を特定し、それは、(1)ナウマンゾウに加えてユーラシア規模のWE単系統群と、(2)マルミミゾウのミトコンドリア系統内に収まるナルバダゾウ関連系統です。このパターンは、マルミミゾウからのmtDNA獲得の少なくとも1回の事象と一致しており、最も明確にはナルバダゾウ関連系統においてですが、mtDNAのみでは複数の遺伝子移入と単一の事象を区別できません。

 ナウマンゾウがユーラシア全域のWE単系統群に含まれることで、ドイツのヴァイマル・エーリングスドルフ標本と中国のCADG841大臼歯が、マルミミゾウではなく、ユーラシアへと拡散したパレオロクソドン属を表している、と確証されます。ナウマンゾウの異常に長い末端枝は、古代DNA損傷と低複雑性ライブラリにおけるPCR増幅の偏りに起因し、これによって枝長が増加し、と先端に基づく年代測定が偏るかもしれません。そこで、ナウマンゾウの標本2点の単系統性を考慮して、祖先のミトコンドリアゲノム配列が再構築され、この祖先分岐点を用いて残りのWE単系統群からの分岐が推定されました(図3)。この分岐年代は105万年前頃です。祖先分岐点の再構築手法を検証するために、ノイマルク・ノルトのUDG処理されたアンティクウスゾウのミトコンドリアゲノムを用いて、低解像度処理(100~1000ヶ所の読み取り)とコンセンサス配列および生の配列の両方に1%の人為的誤差を導入することによって、堅牢性検定が実行されました。両分析では、ノイマルク・ノルト個体群とシチリア島の1個体との間の分岐時期は依然として40万年前頃で安定しており、誤差が生じやすい古代mtDNAについての、祖先分岐点に基づく年代測定の信頼性が裏づけられます。以下は本論文の図3です。
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 この研究で推定された分岐時期から、ユーラシア全域のWE単系統群の最新共通祖先の年代は105万年前頃で、マルミミゾウとの交雑事象はこの分岐前のある時点で起き、193万年前頃(最も近いマルミミゾウ系統との分岐、図3)と105万年前頃の間のある時点の可能性がある、と示唆されます。同様に、NN単系統群におけるマルミミゾウとの交雑事象の可能性は、103万年前頃(最も近いマルミミゾウ系統との分岐)と39万年前頃(NN単系統群のtMRCA)との間のある時点で起きた、と推定されます。

 さらに、パレオロクソドン属は祖先的なアフリカの形態と派生的なユーラシアの形態の両方を示します。パレオロクソドン属の実際の最古級の種は依然として解明されていませんが、その最古級の種がアフリカの鮮新世~更新世の「レッキゾウ」複合体で記載された5亜種(Elephas recki brumpti、Elephas recki shungurensis、Elephas recki atavus、Elephas recki ileretensis、Elephas recki recki)のうち1亜種から派生したはずなのは、疑いがありません。これら屑籠分類群には、異なる種のみならず、異なる属も含まれているかもしれません。頭蓋歯の子孫形質に基づくと、パレオロクソドン属の最古かもしれない構成員は、レッキゾウ亜種(Elephas recki atavus)によって表されるかもしれず、その化石はエチオピアのシュングラ層の下部更新世堆積物にたどることができ、年代は234万~190万年前頃です。しかし、まだ強固な合意はありません。POCの顕著な発達や、遠位および側面に突出する前上顎の顕著な発達を含めて、パレオロクソドン属の明確な頭蓋歯の子孫形質を示す唯一の亜種は、エチオピアのブーリ(ダカ層)で発見された100万年前頃の「BOU-VP-3/131」頭蓋によって表される、「Elephas recki recki」です。しかし、やや古い前期更新世中期の「Elephas recki ileretensis」(つまり、KNM-ER 799の若年頭蓋)も、同様にパレオロクソドン属に属しているかもしれません。

 アフリカのパレオロクソドン属のうち、「Elephas recki recki」で見られる形態学的特徴は、ユーラシアのパレオロクソドン属と共有されている派生的形質で、パラントロプス属のこれらの派生的形態型の出現の年代(100万年前頃)は、ユーラシア規模のWE単系統群とNN単系統群の両方で、マルミミゾウとの交雑の仮定的な時間枠と重なっています。これらの年代は、直線的な前上顎から側面に突出する前上顎へと移行する、形態的進化における明らかな不連続性とも一致します。

 パレオロクソドン属の祖先は交雑後にユーラシアへと移動した、と考えられていますが、アジア東部へのその後の拡大の時期は依然として不明で、中期更新世にさかのぼるかもしれません。本論文の分析結果から、ナウマンゾウのミトコンドリア系統はユーラシア規模のWE単系統群と、GBY遺跡における最古級(78万年前頃)のユーラシア化石の年代に近い105万年前頃に分岐した、と示唆されます。これが示唆するのは、パレオロクソドン属の個体群が、アフリカからの移動の直後に、アジア東部を含めてユーラシア全域に広がったことで、ナウマンゾウの系統はユーラシアへの拡散内の初期の分岐として解釈できます。まとめると、これらの結果から、母系と拡散経路を統合する、図4で要約された概念的な進化の仮説に至ります。以下は本論文の図4です。
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●パレオロクソドン属の「シュトゥットガルト型」と「ナルバダゾウ型」の形態型

 ナウマンゾウとヒュアイホゾウなどさまざまなアジアのパレオロクソドン属種や、ヨーロッパのアンティクウスゾウとシチリア小型ゾウと推定される種や、アジア中央部のトルクメニスタンゾウや、インドのナルバダゾウが特定されてきており、それらはすべて2種類の形態型に分類でき、つまりは、頭蓋形態に基づく「シュトゥットガルト型」と「ナルバダゾウ型」ですが、依然として、その分類の合意には達していません。「シュトゥットガルト形態」と「ナルバダゾウ形態」との概念は、パレオロクソドン属内の2種類の頭蓋形態型を区別するために、2008年に提唱されました。「シュトゥットガルト型」はPOCの弱い発達によって特徴づけられ、頭蓋正面位置が高く、ドイツのシュトゥットガルト市のバート・カンシュタットの「SMNS 32888」などアンティクウスゾウの個体発生的な未成熟個体の頭蓋や、アジア中央部のトルクメニスタンゾウや日本のナウマンゾウによって例証されます。対照的に、「ナルバダゾウ型」は強く発達したPOCを示し、これは前方に伸びて前頭骨の大半に突き出ており、外鼻孔に達しており、インドのナルバダゾウに典型的な特徴です。

 アジアとヨーロッパの両方で認められるこれらの各形態型は、明確な分類学的差異か、種内もしくは種間のさまざまな発達段階のいずれかを表している、と示唆されています。それにも関わらず、「シュトゥットガルト形態」はヨーロッパ本土のアンティクウスゾウではヨーロッパの堆積物に存在していた、との以前の見解は、最近になって明確になりました。先行研究では、発達の弱いPOCの標本(「シュトゥットガルト型」)は個体発生的に若い個体と関連していた、と観察されました。対照的に、ヨーロッパの南北両方の完全に成長した個体はすべて、よく発達したPOCを示しており、ヨーロッパ本土のパレオロクソドン属には「ナルバダゾウ形態」のみが存在する、と示唆されます。しかし、例外があり、それはノイマルク・ノルト1遺跡の頭蓋(152-E9)です。ただ、この頭蓋は前頭に顕著な楕円形の開口部を示しており、これは生涯の早い時期から続いている傷で、よく発達したPOCの欠如は、この病状に起因するかもしれません。それにも関わらず、この頭蓋はひじょうに隆起した頭蓋を示しており、これはパレオロクソドン属における祖先的状態で、トルクメニスタンゾウやナウマンゾウと類似しているものの、ヨーロッパ南部のアンティクウスゾウ標本とは異なっていますが、前頭の傷がこの形態にどの程度寄与したのか、確認は困難です。

 シュトゥットガルト型とナルバダゾウ型を区別するには完全な頭蓋標本が必要なので、不完全な化石記録の状況ではこれらの違いの出現の特定は困難です。これに関して、おそらくは強いPOCを有しているゾウ類の頭蓋が、インドのナルマダー県の下部中期更新世のドゥハンジ層(240万~70万年前頃)から発見されたナルバダゾウ(つまり、「ナルバダゾウ形態」)として先行研究によって同定されており、先行研究では、ナルバダゾウの最古の既知の記録と呼ばれています。しかし、この標本の実際の位置と化石の絵得られた岩は著者たちによってその研究では明確に言及されておらず、インドにおけるこの種の信頼できる記録は現時点では、スラージカンド層からバネタ層の下層の中期~後期更新世(16万~1万年前頃)の標本と考えられます。したがって、「ナルバダゾウ型」の最古級の信頼できる化石はギリシアのマラスーサ1 のMIS12にさかのぼり、48万~42万年前頃です。

 それにも関わらず、この形態型のより古い出現は、より古い年代の生体頭蓋が発見されるまで、却下できません。「ナルバダゾウ型形態」から得られた現在の分子証拠はは、シチリア島のプンタリ洞窟から発掘された標本GP4に限られており、GP4はNN単系統群に属しています。さらに、先行研究で用いられたドイツのノイマルク・ノルトの全標本も、NN単系統群に属します。ノイマルク・ノルトの全てのアンティクウスゾウの成体標本は、上述のように標本152-E9を除いて、ナルバダゾウ形態型を有しています。もう一つの標本168-E30は、HK 2007:25:280 = E15.1.9 [NEPEC]と同じ個体ですが、完全には明らかではないものの、大臼歯の標本はHK 2007:25.285,117 [NEU2A]おそらく、175-E 23Bに属しています。これらの個体には顕著なPOCがあります。NN単系統群の最新共通祖先の時期は40万年前頃と推定されました。一方で、「シュトゥットガルト型」の発達が弱いPOCは、祖先的状態と考えられています。「シュトゥットガルト型」は成体のナウマンゾウに存在すると知られているので、本論文の結果は、決定的なシュトゥットガルト形態型のパレオロクソドン属の最初の分子データを構成しており、ユーラシア規模のWE単系統群に含まれることを確証します。

 先行研究では、ユーラシアのパレオロクソドン属の2単系統群は独立した交雑事象から生じた、と示唆されました。各ミトコンドリア単系統群間で観察された形態学的違いは、2祖先種のアレル(対立遺伝子)が各個体群内でどのように固定されていったのかについて、差異を反映しているかもしれません。これらの単系統群と形態型の間の正確な関係を解明するには、さらなる研究が必須です。さらに、先行研究はマルミミゾウのアフリカ中央部とアフリカ西部の個体群間の分岐に基づいて、2回の独立した交雑事象を仮定しており、これはマルミミゾウのこれら2個体群間の完全な遺伝的孤立との仮定下に由来する推定です。しかし、マルミミゾウの地理的分布を考えると、より妥当なのは、遺伝子流動がアフリカの中央部と西部の個体群間で起きたことです。もしそうならば、アフリカの中央部と西部のマルミミゾウ個体群間の真の分岐時期は、以前の推定よりずっと古いでしょう。したがって、ユーラシアのパレオロクソドン属はマルミミゾウとの単一の交雑事象に起源がある、という可能性は除外できません。これらの交雑事象の頻度と時期をより正確に判断するには、アジアのパレオロクソドン属個体群の核ゲノム分析が必要でしょう。

 本論文のデータから、ナウマンゾウはユーラシアのパレオロクソドン属内のより古く分岐した系統、少なくとも、ユーラシア規模のWE単系統群内の最も基底的な系統を表している、と示唆されます。その分岐年代は105万年前頃で、ユーラシアにおける「ナルバダゾウ型」の最初の出現(48万~406000年前頃)に先行します(図4)。ナウマンゾウが成熟した雌雄両方で一貫してシュトゥットガルト形態型を示すことを考えると、妥当なのは、この系統が初期の歴史において他のユーラシア個体群と遺伝的に異なるようになったことです。トルクメニスタンゾウはパレオロクソドン属では弱いPOC発達を示し、ノイマルク・ノルトの152-E9標本と類似しているものの、152-E9は病的なようです。かなり祖先的なアジア中央部の中期更新世の「シュトゥットガルト型」のトルクメニスタンゾウも、ユーラシア規模のWE単系統群内に含まれることは、この謎めいた種からの古代DNAが欠如している状況では、確証が困難です。ナウマンゾウとの形態学的類似性のため、この可能性を完全には除外できません。それにも関わらず、トルクメニスタンゾウの独特な形態は、あるいは異なる単系統群に属していたかもしれないアンティクウスゾウ的な祖先に由来する、隔世遺伝的な変異を通じて生じたかもしれません。

 更新世において、日本列島は繰り返しさまざまな種の退避地として機能し、海水準の周期的な変動のため、短期間のみの接続である島の長い孤立のため、古代の系統が残存生物として生き残ることを可能としました[42]。したがって、ナウマンゾウは、日本で後期更新世まで生き残った残存生物個体群とみなされ、発達の弱いPOCや鼻の下向きの側縁やひじょうに高い頭蓋を含めて、ユーラシアのパレオロクソドン属の祖先的特徴を示しています。ナウマンゾウはシュトゥットガルト形態型を有する、と確認されましたが、「ナルバダゾウ型」は一般的にアジア東部大陸部で観察されます。じっさい、中国の河北省の後期更新世の泥河湾から発見された唯一の完全な頭蓋化石は、明確に「ナルバダゾウ型」と分類されてきました。化石記録における完全な頭蓋の少なさのため、ユーラシアに存在する形態型の多様性に関して明確な結論を下すことはできず、ナルバダゾウ形態型のみが古代において存在していたのかどうか、あるいは、シュトゥットガルト形態型とナルバダゾウ形態型が共存していたのかどうか、不明なままです。本論文の結果は、とくに、日本列島のナウマンゾウが最も古くにユーラシア系統と分岐した、との知見を提供します。本論文の結果は、アジアへの「シュトゥットガルト型」の初期の拡散も示唆しており、シュトゥットガルト型はその後、ナルバダゾウ形態型によって表される個体群に置換されました(図4)。

 先行研究では形態学的分析を通じて、ナウマンゾウはユーラシアのパレオロクソドン属の祖先的な系統を表しているかもしれず、地理的孤立のために、「ナルバダゾウ型」を有するその後の個体群によって置換されずに、日本列島内で残存生物個体群として存続した、と仮定されました。ゾウ科における個体群構造の時間規模を考えると、前期更新世後半~中期更新世のユーラシアのパレオロクソドン属種間の遺伝子流動事象はあり得ます。性的に成熟した個体で発現する派生的な「ナルバダゾウ型」はヨーロッパにおいてMIS12(48万年前頃)に現れ、ヨーロッパの個体群(つまり、アンティクウスゾウ)においてほぼ固定されました。「ナルバダゾウ型」は、泥河湾(中国)標本(つまり、IVPP 4443)の完全な頭蓋で見られるように、後期更新世にさらにアジアへと広がりました。この標本は、ヨーロッパのアンティクウスゾウと共有された派生的特徴(「ナルバダゾウ型」)を示します。

 一方で、上述のように、中期更新世に日本列島へと移動したナウマンゾウは、日本列島の地理的孤立のため、ユーラシア大陸部個体群による侵入が避けられました。ナウマンゾウは後期更新世まで生き残り、最新の化石記録の年代は22000年前頃で、この種がその頃に絶滅したことを示唆しています。ナウマンゾウの核ゲノムの包括的分析、つまり、多数の兵法を用いることで、ユーラシアのパレオロクソドン属の進化史と、ナウマンゾウの絶滅をもたらした要因の理解が深まる、と期待されます。しかし、本論文における配列データの網羅率の低深度のため、2点のミトコンドリアゲノム配列には約10%の満ちのヌクレオチド部位が含まれており、核DNAをこれらの標本から確実に得ることはできませんでした。したがって、ナウマンゾウの詳細な進化史は依然として不明です。堆積物由来の古代DNA分析や他の高解像度のゲノム手法を含めて、技術的手法における将来の進歩が、これらの限界の克服と、この種【ナウマンゾウ】の進化史と絶滅につながった要因へのより深い知見の提供には重要です。


●この研究の限界

 ナウマンゾウ2個体(NMNS-PV 22670、AoPM 1975-7)から捕獲濃縮概要ミトコンドリアゲノムが回収され、核DNAは確実には得ることができませんでした。パレオロクソドン属における報告されている遺伝子移入を考えると、mtDNAのみではユーラシアの単系統群間の交雑事象の回数や時期もしくはゲノム規模の関係を、明確には解明できません。分岐時期の推定は、特徴的な死後損傷を示し、注意深く解釈されるべきである低網羅率のミトコンドリアゲノムに適用された、祖先分岐点の再構築に依存しています。本論文の標本抽出は地理的に日本列島に限られ、確実な大陸部の「シュトゥットガルト型」のゲノムが欠如しており、個体群動態の状況を検証し、時期を精緻化するには、より広範な標本抽出と核ゲノムデータが必要でしょう。


参考文献:
Segawa T. et al.(2025): Ancient DNA from Palaeoloxodon naumanni in Japan reveals early evolution of Eurasian Palaeoloxodon. iScience, 28, 12, 114156.
https://doi.org/10.1016/j.isci.2025.114156

[42]Segawa T. et al.(2022): Paleogenomics reveals independent and hybrid origins of two morphologically distinct wolf lineages endemic to Japan. Current Biology, 32, 11, 2494–2504.E5.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.04.034
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