古代の病原体

 取り上げるのがたいへん遅れてしまいましたが、古代の病原体に関する研究(Sikora et al., 2025)が公表されました。感染症は、歴史を通してヒト集団に深刻な影響を及ぼしてきてましたが、それらの起源や過去の動態については重要な疑問が残っています。とくに完新世については、農業や牧畜が主要な生業となり、生産経済の開始によって人類の生活様式が大きく変化した中で、感染症の発生率への影響については議論が続いています。生物はヒトの死後もその遺体に残存し、何千年も前に亡くなった個体であっても、歯や骨のDNA塩基配列を解読することで、そうした微生物を検出することができます。

 この研究は、ヒト病原体の考古遺伝学に基づく時空間地図を作成するため、ユーラシアの歴史の37000年間を網羅する、古代人1313個体から得られたショットガン塩基配列解読データの検査を行ないました。その結果、古代の細菌やウイルスや寄生虫のDNAの広範な存在が明らかになり、136属492種に対して個別に5486件が特定されました。これらのうち、3384件が既知のヒト病原体に関係しており、その多くは古代人の遺骸でこれまで特定されていなかったものです。

 古代の微生物種を、その保有宿主である可能性の高い動物と伝播の種類によってまとめたところ、ほとんどの集団が試料採取期間全体を通じて見つかる、と分かりました。人獣共通感染の病原体は6500年前頃からしか検出されず、その最盛期は5000年前頃で、これは動物の広範な家畜化の時期と一致します。本論文の知見は、この生活様式の変化が感染症の負荷の増加につながったことを示す、直接の証拠を提示しています。また本論文の知見は、これらの病原体の拡散がその後数千年の間に大きく増加したことを示しており、これは牧畜民のユーラシア草原地帯からの移動の時期と一致します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


進化遺伝学:古代ユーラシアのヒト病原体の時空間的分布

Cover Story:微生物の地図:古代DNAが描き出す、ユーラシア大陸におけるヒト病原体の広がり

 ヒトの歴史を通じて、感染症は我々の健康と長寿に大きな脅威をもたらしてきた。微生物はヒトの死後もその遺体に残存し、何千年も前に亡くなった個体であっても、歯や骨のDNA塩基配列を解読することでそうした微生物を検出することができる。今回M Sikoraたちは、このことを利用して、3万7000年にわたるユーラシアの歴史を網羅する、ヒト病原体分布マップを作成している。研究チームは、1313人の古代人の塩基配列解読データを取得し、古代の細菌、ウイルス、寄生虫のDNAが広く存在していることを見いだした。特に、6500年前頃から動物起源と思われる病原体の証拠が検出され、その数は、家畜化が普及した約5000年前にピークに達していた。また彼らは、ユーラシアステップからのヒトの移動によって、さまざまな病原体がどのように拡散したかも描き出している。



参考文献:
Sikora M. et al.(2025): The spatiotemporal distribution of human pathogens in ancient Eurasia. Nature, 643, 8073, 1011–1019.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09192-8

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