人類の二足歩行の進化
取り上げるのが遅れてしまいましたが、人類の二足歩行の進化に関する研究(Senevirathne et al., 2025)が公表されました。二足歩行はヒトを特徴づける形質です。二足歩行を可能にしている、なじみ深い御椀形の骨盤では、体の側面に沿って湾曲した短い幅広の腸骨翼が歩行を安定させ、内臓器官や大きな脳と広い肩幅の胎児を支えています。こうした腸骨の変化は、現生霊長類と比較すると進化的に新規のものですが、この進化がどのように起こったのかは、まだ明らかにされていません。
本論文は、組織学と比較ゲノミクスと機能ゲノミクスによる多面的な手法を用いて、二足歩行を可能にしたヒトの骨盤における形態形成変化の発生学的基盤を特定しました。まず、ヒト腸骨の軟骨成長板は異所的変化を経ており、他の霊長類(およびマウス)の腸骨の配向に対して直交している、と観察されました。次に、骨化の異時的および異所的変化が観察され、これは非ヒト霊長類の腸骨やヒトの長骨での骨化とは異なっていました。骨化は後方から開始し、骨芽細胞に寄与する繊維芽細胞(および軟骨膜細胞)と共に外部に存在しており、ヒトの他の骨や霊長類の腸骨と比較すると遅れて起きます。これら二つの変化の根底にあるのは、統合的な軟骨細胞と軟骨膜と骨芽細胞経路における調節性の変化で、SOX9–ZNF521–PTH1RとRUNX2–FOXP1/2の間の複雑で階層的な相互作用が関わっています。これらの新機軸が、ヒトの骨盤のさらなる成長と霊長類に固有な腸骨の形成を促したと考えられます。
こうした二足歩行の解剖学的特徴としては、大後頭孔やS字形前弯や大腿骨両顆角などがあります。化石記録からは、こうした二足歩行の指標となる特徴が同時に出現したわけではなかった、と示唆されます。440万年前頃のアルディピテクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)や385万年前頃のアウストラロピテクス属には短く幅広い腸骨が見られ、この頃には移動形態として一定以上の二足歩行があった可能性は高そうです。本論文は、人類進化史において二足歩行への移行には3段階あった、と想定しており、初期(800万~500万年前頃)における軟骨細胞の再配向による現生類人猿のような移動形態から二足歩行への移行、中期(500万~200万年前頃)における後腸骨への骨化による筋肉機能に応じた前方の成長、後期(200万年前頃以降)における胎児の頭部と肩部増大に伴う骨化時期の遅れと出生後の成長促進と複雑な腸骨形状の維持です。おそらく現代人的な二足歩行は、異論の余地のないホモ・エレクトス(Homo erectus)において確立したのでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化:人間の二足歩行への二つの小さなステップ
人間の骨盤の上部である腸骨(ilium)は、進化の過程で二つの主要な構造的革新を遂げたことにより、人間の二足歩行が可能になったことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この研究は、人間を特徴付ける二足歩行の特性を支える発生学的および遺伝的な基盤を提示するものである。
腸骨は、人間が直立姿勢を維持するために使用する重要な殿筋(gluteal muscles)を固定する、骨盤(pelvis)の大きな広がった部分である。人間と他の類人猿の腸骨の違いは、進化上の特徴的な違いである。しかし、人間特有の腸骨の形状にいたった発生過程は不明であった。
Terence Capelliniら(ハーバード大学〔米国〕)は、組織学、解剖学、および機能ゲノム学の手法を用いて、この構造が独自の形状を獲得した仕組みを明らかにした。一つの重要な変化は、軟骨の形成に関するものである。軟骨の成長板の向きが変化したことで、腸骨は他の霊長類の腸骨とは異なり、直角に配置されるようになった。もう一つの重要な変化は、骨の形成の過程に関わるものである。著者らは、人間の腸骨における軟骨上の骨細胞の沈着のタイミングと空間的な違いを、非人間霊長類の腸骨や人間の長骨と比較して特定した。
これら二つの革新は、組織および分子レベルで相互に関連している。人間の腸骨の発生過程中に活性化する数百の調節配列が同定された。これらの配列は、人間の進化的変化の証拠を示しており、複雑な相互作用する配列が時間をかけて選択され、人間の骨盤の独自の形状が生み出されたことを示唆している。
移動運動:ヒト族の二足歩行は2段階で進化した
移動運動:ヒトの二足歩行を可能にした骨盤の発生学的変化
ヒトの骨盤に見られる、外側に広がった独特な形をした腸骨が、進化の過程で2つの大規模な構造的革新を経たことが、今回明らかになった。1つは、軟骨成長板の方向の空間的な変化(異所的変化)で、もう1つは骨化の時間的および空間的な変化(異時的・異所的変化)である。
参考文献:
Senevirathne G. et al.(2025): The evolution of hominin bipedalism in two steps. Nature, 645, 8082, 952–963.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09399-9
本論文は、組織学と比較ゲノミクスと機能ゲノミクスによる多面的な手法を用いて、二足歩行を可能にしたヒトの骨盤における形態形成変化の発生学的基盤を特定しました。まず、ヒト腸骨の軟骨成長板は異所的変化を経ており、他の霊長類(およびマウス)の腸骨の配向に対して直交している、と観察されました。次に、骨化の異時的および異所的変化が観察され、これは非ヒト霊長類の腸骨やヒトの長骨での骨化とは異なっていました。骨化は後方から開始し、骨芽細胞に寄与する繊維芽細胞(および軟骨膜細胞)と共に外部に存在しており、ヒトの他の骨や霊長類の腸骨と比較すると遅れて起きます。これら二つの変化の根底にあるのは、統合的な軟骨細胞と軟骨膜と骨芽細胞経路における調節性の変化で、SOX9–ZNF521–PTH1RとRUNX2–FOXP1/2の間の複雑で階層的な相互作用が関わっています。これらの新機軸が、ヒトの骨盤のさらなる成長と霊長類に固有な腸骨の形成を促したと考えられます。
こうした二足歩行の解剖学的特徴としては、大後頭孔やS字形前弯や大腿骨両顆角などがあります。化石記録からは、こうした二足歩行の指標となる特徴が同時に出現したわけではなかった、と示唆されます。440万年前頃のアルディピテクス・ラミダス(Ardipithecus ramidus)や385万年前頃のアウストラロピテクス属には短く幅広い腸骨が見られ、この頃には移動形態として一定以上の二足歩行があった可能性は高そうです。本論文は、人類進化史において二足歩行への移行には3段階あった、と想定しており、初期(800万~500万年前頃)における軟骨細胞の再配向による現生類人猿のような移動形態から二足歩行への移行、中期(500万~200万年前頃)における後腸骨への骨化による筋肉機能に応じた前方の成長、後期(200万年前頃以降)における胎児の頭部と肩部増大に伴う骨化時期の遅れと出生後の成長促進と複雑な腸骨形状の維持です。おそらく現代人的な二足歩行は、異論の余地のないホモ・エレクトス(Homo erectus)において確立したのでしょう。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
進化:人間の二足歩行への二つの小さなステップ
人間の骨盤の上部である腸骨(ilium)は、進化の過程で二つの主要な構造的革新を遂げたことにより、人間の二足歩行が可能になったことを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この研究は、人間を特徴付ける二足歩行の特性を支える発生学的および遺伝的な基盤を提示するものである。
腸骨は、人間が直立姿勢を維持するために使用する重要な殿筋(gluteal muscles)を固定する、骨盤(pelvis)の大きな広がった部分である。人間と他の類人猿の腸骨の違いは、進化上の特徴的な違いである。しかし、人間特有の腸骨の形状にいたった発生過程は不明であった。
Terence Capelliniら(ハーバード大学〔米国〕)は、組織学、解剖学、および機能ゲノム学の手法を用いて、この構造が独自の形状を獲得した仕組みを明らかにした。一つの重要な変化は、軟骨の形成に関するものである。軟骨の成長板の向きが変化したことで、腸骨は他の霊長類の腸骨とは異なり、直角に配置されるようになった。もう一つの重要な変化は、骨の形成の過程に関わるものである。著者らは、人間の腸骨における軟骨上の骨細胞の沈着のタイミングと空間的な違いを、非人間霊長類の腸骨や人間の長骨と比較して特定した。
これら二つの革新は、組織および分子レベルで相互に関連している。人間の腸骨の発生過程中に活性化する数百の調節配列が同定された。これらの配列は、人間の進化的変化の証拠を示しており、複雑な相互作用する配列が時間をかけて選択され、人間の骨盤の独自の形状が生み出されたことを示唆している。
移動運動:ヒト族の二足歩行は2段階で進化した
移動運動:ヒトの二足歩行を可能にした骨盤の発生学的変化
ヒトの骨盤に見られる、外側に広がった独特な形をした腸骨が、進化の過程で2つの大規模な構造的革新を経たことが、今回明らかになった。1つは、軟骨成長板の方向の空間的な変化(異所的変化)で、もう1つは骨化の時間的および空間的な変化(異時的・異所的変化)である。
参考文献:
Senevirathne G. et al.(2025): The evolution of hominin bipedalism in two steps. Nature, 645, 8082, 952–963.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09399-9
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