2025年の古人類学界
あくまでも私の関心に基づいたものですが、年末になったので、今年(2025年)も古人類学界について振り返っていくことにします。近年ずっと繰り返していますが、今年も核DNAやミトコンドリアDNAを含めて古代DNA研究の進展には目覚ましいものがありましたが、プロテオーム(タンパク質の総体)解析でも重要な研究が公表されています。正直なところ、最新の研究動向にまったく追いついていけていないのですが、今後も少しでも多く取り上げていこう、と考えています。当ブログでもそれなりの数の古代DNA研究を取り上げましたが、知っていてもまだ取り上げていない研究も少なくありませんし、何よりも、まだ知らない研究も多いのではないか、と思います。当ブログの近年の回顧では、古代DNA研究の目覚ましい進展を踏まえて、ネアンデルタール人や種区分未定のホモ属であるデニソワ人といった非現生人類ホモ属(古代型ホモ属、絶滅ホモ属)と、現生人類とに分けてきましたが、今年はデニソワ人に関する研究の進展を踏まえて、構成を変更します。とくに重要と判断した研究については冒頭に★を、きわめて重要と判断した研究については冒頭に★★をつけています。
(1)デニソワ人関連の研究
人類には多様な種というか分類群が設定されており、そもそも区分自体に議論があることはさておくとして、そうした各分類群は基本的に形態学的に定義されています。しかし、デニソワ人は遺伝学的に定義された最初の人類の分類群で、遺伝学的情報の豊富な化石から得られている形態学的情報がきわめて少ないのに対して、デニソワ人候補のそれなりに保存状態良好な化石からの遺伝学的情報を含めて分子生物学的情報は皆無の期間が長かったため、どの化石がデニソワ人系統に属するのか、なかなか判断できませんでした。この状況は今年になって大きく改善され、デニソワ人候補と考えられていた、形態学的情報の比較的多い化石が分子生物学的手法によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人が広範囲に分布していたホモ属系統と明らかになりました。
★★澎湖海峡(澎湖水道)で発見されたホモ属の下顎骨が、プロテオーム解析によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人はアジア東部南方沿岸に拡散していたことが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_13.html
★★ハルビンで発見された146000年以上前のホモ属頭蓋は、プロテオーム解析
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_17.html
とmtDNA解析によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人系統はアジア北東部にも存在していたことが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_27.html
★査読前論文ですが、20万年前頃となるデニソワ人の新しい高品質なゲノムデータが報告されており、この個体は10万年前頃以降のデニソワ人と遺伝的に直接的にはつながっていない、示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_13.html
デニソワ人が発見されたシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟では、主空洞と東空洞より調査が進んでいなかった南空洞の詳細な分析結果が報告されており、デニソワ人におけるmtDNA系統の置換については、南空洞でも主空洞および東空洞と類似の結果が得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_29.html
★ユーラシア東部の古代および現代の現生人類におけるデニソワ人からの遺伝的影響では「縄文人」が最も小さい、と示され、これは現生人類のアフリカからの拡散と分岐に関する重要な手がかりになる点でも注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_24.html
クリミア半島のネアンデルタール人に関する学際的研究では、後期ネアンデルタール人がミトコンドリアゲノムではデニソワ人系統よりも現生人類系統の方に近い、と改めて示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_31.html
中国の湖北省で発見された100万年前頃のホモ属頭蓋の分析から、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統よりも現生人類系統の方と近縁で、デニソワ人および現生人類系統とネアンデルタール人系統の分岐年代は138万年前頃と推定されていますが、推定分岐年代とともに、系統関係も分子生物学的手法と異なっており、当分、有力説と認めるのには慎重であるべきでしょう。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_28.html
(2)現生人類や非ヒト動物の古代DNA研究
●アフリカ
★リビアの7000年前頃の人類のゲノムデータを報告した研究では、サハラ砂漠以南のアフリカの系統から出アフリカ系統と同じ頃に分岐し、少なくとも一部地域では7000年前頃までほぼ孤立していた遺伝的集団が見つかりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_2.html
★アフリカ北西部の後期更新世~初期完新世人類のゲノムデータを報告した研究では、新石器時代のマグレブ東部は地中海の他地域よりも外部からの遺伝的影響は小さかった、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_25.html
●ユーラシア西部
ユーラシア西部は現時点で最も古代ゲノム研究が進展している地域でしょうが、今年も注目すべき研究が多数公表されています。当ブログでもそれなりの数のユーラシア西部古代人のゲノム研究を取り上げていますが、取り上げようと思って放置していたり、まだ気づいていなかったりする研究も多そうです。
★★ドイツで発見された45000年前頃の現生人類のゲノムデータを報告した研究では、この集団がチェコで発見された既知の個体と遺伝的に類似しており、現代人にはほぼ遺伝的影響が残っていない出アフリカ現生人類絶滅系統を表していることや、このうち2個体がチェコの既知の個体と5~6親等程度の親族関係にある、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_21.html
★現代世界における話者数の多さと文化的優位性から、インド・ヨーロッパ語族への関心はひじょうに高く、今年はその遺伝的起源について、重要な二つの研究が公表されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_10.html
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_12.html
このインド・ヨーロッパ語族の起源に関する二つの研究と補完的な関係にあり、たいへん有益なのが、現在のウクライナを対象とする北ポントス地域の、紀元前7000~紀元後1800年頃の人類91個体の新たなゲノムデータを報告した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_9.html
古代ゲノムデータを用いたスラブ人の形成に関する研究も進み、おもにモラビアを対象とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_7.html
おもにドイツ東部とポーランドとクロアチアを対象とした研究が公表され、スラブ人の出現がおもに文化変容ではなく大規模な人口移動による遺伝的構成の変化と関連していた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_14.html
★中世前期ヨーロッパの人口史に関する研究では、「Twigstats」と呼ばれる新たな手法によって、遺伝的構成の類似した集団間の相互作用をじゅうらいよりも高解像度で推測できるようになり、他の年代や地域への適用が期待されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202501article_10.html
イベリア半島東部の中世の人類集団のゲノムデータを報告した研究では、イベリア半島におけるイスラム教勢力の征服の影響とともに、その前から遺伝的多様性が高かった、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_14.html
ポルトガルで発見された新石器時代から19世紀までの人類遺骸67個体のゲノムデータを報告した研究では、いわゆる大移動やイスラム教勢力の征服などを含めて、ポルトガルの長期の人口史が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_14.html
ローマ期ブリテン島の農村部の住民のゲノムデータを報告した研究では、ローマ帝国の他地域からの長距離移動の証拠が見つからず、ローマによる支配の遺伝的影響は小さかったことが窺えます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_1.html
イタリア中央部のローマ共和政期の男性個体のゲノムデータを報告した研究では、東地中海集団的な遺伝的構成要素はすでに共和政期に到来していた可能性が高い、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_24.html
イタリア南部の中期青銅器時代の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、前期青銅器時代シチリア島集団と遺伝的に類似していることや、親子間の近親相姦の事例が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_25.html
スキタイ人の新たなゲノムデータからは、スキタイ人のゲノムがおもにヨーロッパ青銅器時代集団的構成要素に由来し、時空間的には異質な構成だったことが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_5.html
★ヨーロッパのフン人のゲノムデータを報告した研究では、ユーラシア東部人類集団からの大きな遺伝的影響は検出されませんでしたが、匈奴期の最高位の上流階層の一部の個体がフン人を含めて5~6世紀のカルパチア盆地個体群と直接的に結びついている、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_27.html
カルパチア盆地のサルマティア人のゲノムデータを報告した研究では、ウラルおよびカザフスタン起源のサルマティア人の子孫だったことや、フン期になってもサルマティア人集団の連続性は続いていた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_13.html
南コーカサスの青銅器時代からいわゆる大移動期の古代人230個体のゲノムデータを報告した研究では、青銅器時代以降の一定以上の遺伝的連続性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_23.html
イラン高原の人類のゲノムデータを報告した研究では、銅器時代から中世まで長期にわたる人口史が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_18.html
アナトリア半島の古代人のゲノムデータを報告した研究では、完新世最初期には東方の肥沃な三日月地帯の集団との大きな遺伝的交流は見られなかったものの、9000年前頃に本格的な農耕集落がエーゲ海全域に拡大し始めると、東方からの移住農耕民が到来し、在来集団と遺伝的に融合していった、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_3.html
★カルタゴ集団のゲノムデータからは、カルタゴとフェニキアとの強い文化的つながりにも関わらず、シチリア島やエーゲ海地域の古代人集団との強い類似性が明らかになり、文化と遺伝を安易に結びつけてはならないことが、改めて窺えます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_9.html
★インドの既知の古代ゲノムデータと多数の現代人のゲノムデータを用いた研究では、インドの人口史が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_31.html
ユーラシア西部の古代ゲノム研究では、歴史時代も対象としつつ、他地域と比較して豊富なデータに基づいて、以下のように社会構造も解明されています。
★鉄器時代ブリテン島における母方居住の事例を報告した研究は、民族誌の調査では稀とされてきた、父方居住社会から母方居住への移行が過去には稀ではなかった可能性を示唆しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_2.html
ヨーロッパ中央部の線形陶器文化集団では、地域間の遺伝的差異や父方居住が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_26.html
オーストリアのアヴァール文化を共有していた20km程度しか離れていない2ヶ所の遺跡の被葬者のゲノムデータから、同じ文化を共有しながら遺伝的構成は異なっており、それでも女性族外婚の父方居住によって生物学的つながりがあった、と指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_4.html
★アナトリア半島中央部南方のチャタルヒュユク遺跡の新石器時代個体のゲノムデータから、家屋単位での母方居住の証拠が検出されましたが、チャタルヒュユク遺跡全体では母方居住の明確な証拠は見つかりませんでした。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_8.html
●日本列島以外のユーラシア東部
近年では、経済発展を反映してか、中国における古代ゲノム研究の進展が目覚ましく、今年も注目すべき研究が多く公表されています。去年から今年にかけて、黄河流域、とくに下流域の山東半島古代人のゲノム研究が大きく進展し、その他にも、長江中下流域では最初となる本格的な新石器時代個体のゲノムデータの報告や、雲南省での未知の遺伝的系統の発見も大いに注目されます。これまで新石器時代以前の人類の遺伝的構成についてほとんど解明されていなかった長江中下流域は、とくに稲作の観点でユーラシア東部の人類史において重要な役割を果たしてきた、と考えられ、そのゲノムデータはユーラシア東部圏の人類史の解明に大きく寄与するでしょう。ただ、現時点では前期新石器時代以前の長江中下流域の人類遺骸のゲノムデータは報告されていないようで、今後の研究の進展が期待されます。
★★とくに注目すべきは、雲南省で発見された、7100~1500年前頃の人類の新たなゲノムデータを報告した研究です。この研究では、雲南省中央部の興義遺跡で発見された7100年前頃の女性1個体のゲノムについて、現代チベット人集団のゲノムにおいて黄河流域新石器時代集団的な構成要素と比較して低い割合ながら不可欠の構成要素であり、これまで特定されていなかった構成要素でモデル化できる、と示しました。この新たに特定された遺伝的構成要素は、広西チワン族自治区で発見された10686~10439年前頃の個体のゲノムにおいて約半分を占めていることも示されました(残りの半分は、アジア東部南方沿岸の末期更新世~初期完新世人類集団的な構成要素)。さらにこの研究では、雲南省中央部で発見された5500~1500年前頃の個体群が、以前に特徴づけられていたアジア東部の北方および南方の遺伝的構成要素とは異なるアジア東部構成要素を有しており、この構成要素が現在のオーストロアジア語族話者全体に存在することを示し、5500年前頃の雲南中央部にはオーストロアジア語族祖語話者が存在したかもしれない、と指摘されており、オーストロアジア語族の起源の解明でも重要な知見となりそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_3.html
その山東半島を含む黄河流域の古代人のゲノム研究も、昨年から今年にかけて大きく進展しました。中原の古代人のゲノムデータを報告した研究では、中原における後期新石器時代以降の人類集団の長期の遺伝的安定性が報告されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_4.html
後期新石器時代から鉄器時代の黄河中流~下流域の古代人のゲノムを報告した研究では、黄河の中流域と下流域における、後期新石器時代までの遺伝的異質性と青銅器時代以降の遺伝的均質性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_5.html
★6000~1500年前頃の山東半島の11ヶ所の遺跡から発見された人類遺骸85個体のゲノムデータを報告した研究では、山東半島には以前の推定よりも早い時期から、北方と西方と南方からの遺伝子流動があった、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_6.html
唐代の山東人類集団のゲノムデータを報告した研究では、一部のゲノムにおける低い割合のユーラシア西部/アジア中央部人類集団的な遺伝的構成要素が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_16.html
黄河中流域の中期~後期新石器時代移行期の古代人のゲノムデータを報告した研究では、南方から黄河流域への稲作の到来には必ずしも人口移動が伴っていなかったかもしれない、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_28.html
山東省淄博市の戦国時代~南北朝時代の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、臨淄の戦国時代~南北朝時代の人類集団が遺伝的に、山東半島の初期新石器時代の人類集団とは異なり、黄河中流域の後期新石器時代後の人類集団と最も密接に関連し、歴史時代の人類集団と現在の漢人集団とは遺伝的に密接に類似している、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_10.html
渤海の山東半島と遼東半島の間に位置する島の後期新石器時代~前期青銅器時代の人類のゲノムデータを報告した研究では、龍山文化期における山東半島内陸部に由来する広範な文化的影響にも関わらず、龍山文化に先行する大汶口文化期集団とのつながりが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_18.html
山西省と陝西省の後期新石器時代の人類のゲノムデータを報告した研究では、現在の中国北部における後期新石器時代の地域間の人口相互作用が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_8.html
河南省の中期新石器時代遺跡で発見された個体群のゲノムデータを報告した研究では、仰韶文化の拡散には人口拡大が伴っていた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_4.html
黄河湾曲部の後期新石器時代~鉄器時代人類集団のゲノムデータを報告した研究では、高い割合の黄河中流域中期新石器時代集団的な構成要素と低い割合のモンゴル草原地帯集団的な構成要素とともに、期新石器時代の外れ値個体におけるアジア東部南方からの遺伝的影響も検出されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_27.html
★山東半島の大汶口文化後期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、母方居住の遺伝学的証拠が提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_3.html
山東省の前漢期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、黄河中下流域の中期新石器時代~鉄器時代人類集団との遺伝的類似性および華南集団からの追加の遺伝的影響が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_28.html
★陝西省の後期新石器時代遺跡の人類集団のゲノムデータを報告した研究では、人口構造と父系的な社会構造が推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_22.html
★長江中下流域の新石器時代人類集団の古代ゲノムデータは今年になって初めて本格的に公表され、長江の最大の支流である漢江(漢水)水系の一部となる湍河沿いに位置する河南省鄧州市の遺跡で発見された、中期新石器時代から後期青銅器時代の古代人58個体のゲノムデータを報告した研究では、その遺伝的構成要素は、黄河中流域中期新石器時代集団関連とアジア東部南方末期更新世~前期完新世集団関連でモデル化でき、南北の双方向の遺伝子流動があった、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_3.html
★★黄河および長江流域の新石器時代人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域と長江流域の中期新石器時代人類集団では明確な遺伝的分化が見られるものの、双方向の遺伝子流動もすでに起きていた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_12.html
★歴史時代に関する研究も盛んで、江蘇省徐州市で発見された西周期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、文化的多様性にも関わらず、山東半島や東方沿岸の同時代およびそれ以前の人類集団と遺伝的に顕著に類似し、南方集団や中原の農耕人口集団からの混合の追加の兆候はなかったことが明らかになり、物質文化の拡大に大規模な人口移動や遺伝的混合が伴わなかった場合もあった、と示唆されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_7.html
東周期の中原の人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域のみならず、アジア東部南方関連およびユーラシア草原地帯関連の遺伝的構成要素が検出されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_1.html
漢と匈奴の国境付近の要塞で発見された被葬者のゲノムデータを報告した研究では、この被葬者が漢の兵士だった、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_13.html
北周の高官である高賓のゲノムデータを報告した研究では、高賓は遺伝的に後期新石器時代から鉄器時代の黄河流域農耕民に完全に由来する、とモデル化できました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_22.html
貴州省の宋代~明代の人類のゲノムデータを報告した研究では、漢文化(漢字文化、中華文化、中国文化)の現在の中国南西部への拡大に人口拡散が伴っていた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_9.html
別の遺跡で発見された貴州省の宋代~明代の人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域農耕民との密接な遺伝的類似性とともに、アジア東部南方古代人からの遺伝的影響も示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_6.html
北京の近世の墓地被葬者のゲノムデータを報告した研究では、6世代にわたる厳密な父系の家系が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_10.html
長江下流域近世人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、高い割合の黄河流域古代人集団的な構成要素とともに、アジア東部南方人類集団的な構成要素が明らかになり、高度な遺伝的均質性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_5.html
おもに明代まで見られるユーラシア東部南方の崖に吊るされた棺(懸棺)の被葬者のゲノムデータを報告した研究では、一部の現代人と懸棺被葬者との間の高い遺伝的類似性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_23.html
ユーラシア東部では、草原地帯も含めて内陸部の古代ゲノム研究も盛んで、東トルキスタンの鉄器時代集団のゲノムデータを報告した研究では、ユーラシア東西の人類集団的な遺伝的構成要素の混合パターンが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_18.html
東トルキスタン中央部の鉄器時代から歴史時代の人類8個体のゲノムデータを報告した研究では、鉄器時代と歴史時代との間である程度の遺伝的連続性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_30.html
ソグド人のゲノムデータを報告した研究では、遺伝的に在来集団と類似した個体と、それに加えてアジア中央部集団的な構成要素もある個体が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_20.html
青銅器時代~鉄器時代のタリム盆地西部の24個体のゲノムデータを報告した研究では、青銅器時代集団の遺伝的構成要素の大半がユーラシア西方草原地帯の初期アンドロノヴォ関連文化の急速な東方への拡大にさかのぼる可能性の高い牧畜民集団に由来することや、鉄器時代タリム盆地の人類集団における遺伝的異質性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_8.html
チベット高原南部で発見された4400~3500年前頃の人類遺骸の新たなゲノムデータを報告した研究では、千年以上にわたる遺伝的連続性と遺伝的多様性が示され、7100年前頃の雲南中央部の女性1個体によって表される深く分岐した系統からの複数回の遺伝的影響が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_26.html
ヒマラヤ山脈の3370年前頃以降の人類のゲノムデータを報告した研究では、チベット人との遺伝的類似性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_2.html
★モンゴル中央部後期青銅器時代人類のゲノムデータを報告した研究では、異なる2種類の埋葬様式に対応する異なる遺伝的まとまりが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_1.html
カザフスタン東部の前期新石器時代および中期~後期青銅器時代の人類の新たなゲノムデータを報告した研究では、アジア内陸部狩猟採集民の動的な人口構造およびその後の牧畜民集団におけるその遺伝的遺産が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_1.html
青海省の後漢時代の人類のゲノムデータから、その遺伝的構成には人口移動や文化的交流の中心地だったことや漢王朝の政策が大きな影響を及ぼした、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_14.html
★ユーラシア北部の古代人の新しい大規模なゲノムデータを報告した研究では、前期完新世~現在に至るウラル語族およびエニセイ語族話者の遺伝的形成過程が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_10.html
★河北省の遺跡の中期新石器時代の紅山文化関連個体のゲノムデータを報告した研究では、紅山文化の拡大には人口拡散が伴っていたことや、山東半島の大汶口文化関連集団からの遺伝子流動の可能性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_25.html
●日本列島
もちろん、日本列島とユーラシア東を厳密に区分することはできず、他の地域間でも同様なので、上述の研究と重複するところもありますが、日本列島に関する注目すべき古代ゲノム研究を以下に取り上げます。
★繰り返しになりますが、6000~1500年前頃の山東半島の11ヶ所の遺跡から発見された人類遺骸85個体のゲノムデータを報告した研究では、山東半島の一部の古代人と宮古島の長墓遺跡の歴史時代の個体群(17世紀以降)との間の密接な遺伝的関係が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_6.html
★同じく繰り返しになりますが、ユーラシア東部の古代および現代の現生人類におけるデニソワ人からの遺伝的影響では「縄文人」が最も小さい、と示され、「縄文人」の遺伝的形成過程解明の重要な手がかりになる点でも注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_13.html
オホーツク文化初期となる5~6世紀頃の女性1個体のゲノムデータを報告した研究では、そのゲノムがカムチャツカ半島集団的な構成要素と「縄文人」的構成要素の混合で適切に説明でき、あるいはそれに加えてアムール川集団的構成要素の混合としてもモデル化できる可能性がある、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_29.html
●アメリカ大陸
古典期マヤの人類の古代ゲノムデータを報告した研究では、古典期マヤにおける広範な不安定化と崩壊を経た古典期末期における人口減少が示唆されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_4.html
コロンビアの古代人の新たなゲノムデータを報告した研究では、人類の最初の南アメリカ大陸への拡散に由来する、以前には知られていなかった遺伝的構成要素が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_5.html
アメリカ合衆国ニューメキシコ州の現在の先住民とその祖先のゲノムデータを報告した研究では、ヨーロッパ人到来前の人口減少の証拠が見つかりませんでした。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_10.html
●アジア南東部島嶼部とワラセアとオセアニア
過去2500年間のパプアニューギニア沿岸部古代人のゲノムデータを報告した研究では、最古級の個体群は混合していないパプア人関連の遺伝的構成要素を示すのに対して、2100年前頃以降の個体群はさまざまな割合のアジア東部関連の遺伝的構成要素を示し、混合の推定年代から、異なる拡散事象の影響が示唆されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_15.html
●非ヒト動物の古代DNA解析
マンモスのミトコンドリアゲノムを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_11.html
家畜ヒツジの遺伝的起源に関する研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_15.html
イベリア半島の古代のウマのゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_26.html
新石器時代ヨーロッパ北西部のブタのゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_16.html
メキシコで発見されたコロンビアマンモスのミトコンドリアゲノムを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_8.html
ヨーロッパ中央部における中期~後期更新世のカバの存在を報告した研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_5.html
●総説的論文
遺伝学を中心とした近年のネアンデルタール人研究の解説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_9.html
現生人類と非現生人類ホモ属のとの混合およびその影響に関する概説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_23.html
近年のデニソワ人研究の解説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_16.html
最近のアジア東部人類集団の重要な古代ゲノム研究があり、
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_16.html
★おもに現生人類を対象にデニソワ人やネアンデルタール人も含めて、過去16万年間のアジア東部の人類史に関する研究を古代ゲノム研究中心に整理した総説は、最新の研究状況の把握にたいへん有益と思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_23.html
(3)プロテオーム解析の進展
今年はプロテオーム解析の進展が目覚ましく、上述のデニソワ人系統と特定された事例以外にも、人類系統や非人類系統でのプロテオーム解析結果が報告されました。プロテオーム解析は、遺伝的情報量こそDNAよりずっと劣るものの、時空間的に古代DNAの解析が難しそうな化石への適用が今後も進みそうで、古代DNAでは埋められない生物進化史の空白を分子生物学的に埋めていくことが大いに期待されます。
★アフリカ南部で発見された前期更新世のパラントロプス・ロブストスの歯のエナメル質からのタンパク質解析が成功し、霊長類ではホモ属クレード(単系統群)に近い、と示されまし。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_31.html
★アフリカ東部では1800万年前頃までさかのぼる哺乳類のタンパク質配列が、カナダの北極圏では、2400万年前頃までさかのぼるサイ類のタンパク質配列が得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_2.html
上記の3区分に当てはまりませんが、その他にも注目される研究があります。
過去330万年間の石器技術を分析した研究では、60万年前頃以降に石器の複雑さは急速に増加した、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_18.html
エチオピアで発見された347万~333万年前頃の化石は以前に提唱されたアウストラロピテクス・デイメレダに分類され、350万~300万年前頃のアフリカにおける複数のアウストラロピテクス属の存在の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_26.html
ブルガリアで発見された人為的な切創痕のある動物の骨は195万年以上前と推定されており、これはヨーロッパ最古級の人類の痕跡となります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_29.html
スペインで発見された140万~110万年前頃のホモ属頭蓋顔面から、前期完新世のヨーロッパにおける人口置換の可能性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_9.html
ケニアで発見された150万年前頃のパラントロプス・ボイセイ化石の手の形態を分析した研究では、パラントロプス・ボイセイには道具の製作と使用が可能だったかもしれない、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_30.html
★アフリカ東部では150万年前頃となる体系的な骨角器製作が報告され、体系的な骨角器製作の最古級の年代は100万年以上さかのぼることになりそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_15.html
★スラウェシ島では100万年以上前までさかのぼる石器が報告され、フローレス島の事例からも、人類が100万年以上前に、意図的か否かはともかく何らかの手段で渡海していたことは確実と言えそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_10.html
マドゥラ海峡ではジャワ島の後期ホモ・エレクトスと類似している、ホモ属の頭蓋片が発見されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_18.html
コートジボワール南部では、湿潤な熱帯林における人類最古の痕跡が見つかり、15万年前頃までさかのぼる、と報告されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_16.html
今年当ブログで取り上げた古人類学関連の書籍は、以下の通りです。
Paul Pettitt『ホモ・サピエンス再発見 科学が書き換えた人類の進化』は、現生人類を中心に人類進化史の概説として有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202501article_25.html
★Ludovic Slimak『裸のネアンデルタール人 人間という存在を解き明かす』は、ネアンデルタール人の人類進化史における位置づけや現生人類との関係について、「過激」とも思える議論を展開しますが、示唆に富む内容と思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_10.html
Brian Hare 、Vanessa Woods『ヒトは〈家畜化〉して進化した 私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』は自己家畜化の観点からの人類進化史で、現代社会についても考えさせられる内容になっています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_14.html
★Peter Bellwood『500万年のオデッセイ 人類の大拡散物語』は、完新世の農耕を伴う現生人類の拡散を中心とした人類史で、現代人の各地域集団の形成を把握するうえでたいへん参考になります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_26.html
Gwynne Dyer『戦争と人類』は戦争の観点からの人類史で、古人類学の観点では戦争の起源に関する考察が有益ですが、何よりも戦争が絶えない現代社会において考えさせられる内容です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_9.html
Frans de Waal『サルとジェンダー 動物から考える人間の〈性差〉』は、現代社会において大きな意味を持つようになってきた「ジェンダー」について、広く霊長類の進化史の観点から考察しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_13.html
関根達人『つながるアイヌ考古学』は、日本語環境のインターネットにおいて一部?で与太話が浸透しているアイヌについて、再版の考古学的知見を提供しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_20.html
★国武貞克、佐藤宏之『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス 新・日本旧石器文化の成立』は、日本列島の旧石器時代について、現時点で最新の知見を提示し、日本列島における4万年以上前の人類の存在の可能性も指摘しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_25.html
この他にも取り上げるべき研究は多くあるはずですが、読もうと思っていながらまだ読んでいない論文もかなり多く、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていないのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて今年並には本や論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。なお、過去の回顧記事は以下の通りです。
2006年
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_29.html
2007年
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
2008年
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_25.html
2009年
https://sicambre.seesaa.net/article/200912article_25.html
2010年
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_26.html
2011年
https://sicambre.seesaa.net/article/201112article_24.html
2012年
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_26.html
2013年
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_33.html
2014年
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_32.html
2015年
https://sicambre.seesaa.net/article/201512article_31.html
2016年
https://sicambre.seesaa.net/article/201612article_29.html
2017年
https://sicambre.seesaa.net/article/201712article_29.html
2018年
https://sicambre.seesaa.net/article/201812article_42.html
2019年
https://sicambre.seesaa.net/article/201912article_57.html
2020年
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_40.html
2021年
https://sicambre.seesaa.net/article/202112article_32.html
2022年
https://sicambre.seesaa.net/article/202212article_29.html
2023年
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_29.html
2024年
https://sicambre.seesaa.net/article/202412article_29.html
(1)デニソワ人関連の研究
人類には多様な種というか分類群が設定されており、そもそも区分自体に議論があることはさておくとして、そうした各分類群は基本的に形態学的に定義されています。しかし、デニソワ人は遺伝学的に定義された最初の人類の分類群で、遺伝学的情報の豊富な化石から得られている形態学的情報がきわめて少ないのに対して、デニソワ人候補のそれなりに保存状態良好な化石からの遺伝学的情報を含めて分子生物学的情報は皆無の期間が長かったため、どの化石がデニソワ人系統に属するのか、なかなか判断できませんでした。この状況は今年になって大きく改善され、デニソワ人候補と考えられていた、形態学的情報の比較的多い化石が分子生物学的手法によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人が広範囲に分布していたホモ属系統と明らかになりました。
★★澎湖海峡(澎湖水道)で発見されたホモ属の下顎骨が、プロテオーム解析によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人はアジア東部南方沿岸に拡散していたことが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_13.html
★★ハルビンで発見された146000年以上前のホモ属頭蓋は、プロテオーム解析
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_17.html
とmtDNA解析によってデニソワ人系統と示され、デニソワ人系統はアジア北東部にも存在していたことが明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_27.html
★査読前論文ですが、20万年前頃となるデニソワ人の新しい高品質なゲノムデータが報告されており、この個体は10万年前頃以降のデニソワ人と遺伝的に直接的にはつながっていない、示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_13.html
デニソワ人が発見されたシベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟では、主空洞と東空洞より調査が進んでいなかった南空洞の詳細な分析結果が報告されており、デニソワ人におけるmtDNA系統の置換については、南空洞でも主空洞および東空洞と類似の結果が得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_29.html
★ユーラシア東部の古代および現代の現生人類におけるデニソワ人からの遺伝的影響では「縄文人」が最も小さい、と示され、これは現生人類のアフリカからの拡散と分岐に関する重要な手がかりになる点でも注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_24.html
クリミア半島のネアンデルタール人に関する学際的研究では、後期ネアンデルタール人がミトコンドリアゲノムではデニソワ人系統よりも現生人類系統の方に近い、と改めて示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_31.html
中国の湖北省で発見された100万年前頃のホモ属頭蓋の分析から、デニソワ人系統はネアンデルタール人系統よりも現生人類系統の方と近縁で、デニソワ人および現生人類系統とネアンデルタール人系統の分岐年代は138万年前頃と推定されていますが、推定分岐年代とともに、系統関係も分子生物学的手法と異なっており、当分、有力説と認めるのには慎重であるべきでしょう。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_28.html
(2)現生人類や非ヒト動物の古代DNA研究
●アフリカ
★リビアの7000年前頃の人類のゲノムデータを報告した研究では、サハラ砂漠以南のアフリカの系統から出アフリカ系統と同じ頃に分岐し、少なくとも一部地域では7000年前頃までほぼ孤立していた遺伝的集団が見つかりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_2.html
★アフリカ北西部の後期更新世~初期完新世人類のゲノムデータを報告した研究では、新石器時代のマグレブ東部は地中海の他地域よりも外部からの遺伝的影響は小さかった、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_25.html
●ユーラシア西部
ユーラシア西部は現時点で最も古代ゲノム研究が進展している地域でしょうが、今年も注目すべき研究が多数公表されています。当ブログでもそれなりの数のユーラシア西部古代人のゲノム研究を取り上げていますが、取り上げようと思って放置していたり、まだ気づいていなかったりする研究も多そうです。
★★ドイツで発見された45000年前頃の現生人類のゲノムデータを報告した研究では、この集団がチェコで発見された既知の個体と遺伝的に類似しており、現代人にはほぼ遺伝的影響が残っていない出アフリカ現生人類絶滅系統を表していることや、このうち2個体がチェコの既知の個体と5~6親等程度の親族関係にある、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_21.html
★現代世界における話者数の多さと文化的優位性から、インド・ヨーロッパ語族への関心はひじょうに高く、今年はその遺伝的起源について、重要な二つの研究が公表されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_10.html
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_12.html
このインド・ヨーロッパ語族の起源に関する二つの研究と補完的な関係にあり、たいへん有益なのが、現在のウクライナを対象とする北ポントス地域の、紀元前7000~紀元後1800年頃の人類91個体の新たなゲノムデータを報告した研究です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_9.html
古代ゲノムデータを用いたスラブ人の形成に関する研究も進み、おもにモラビアを対象とした研究と、
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_7.html
おもにドイツ東部とポーランドとクロアチアを対象とした研究が公表され、スラブ人の出現がおもに文化変容ではなく大規模な人口移動による遺伝的構成の変化と関連していた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_14.html
★中世前期ヨーロッパの人口史に関する研究では、「Twigstats」と呼ばれる新たな手法によって、遺伝的構成の類似した集団間の相互作用をじゅうらいよりも高解像度で推測できるようになり、他の年代や地域への適用が期待されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202501article_10.html
イベリア半島東部の中世の人類集団のゲノムデータを報告した研究では、イベリア半島におけるイスラム教勢力の征服の影響とともに、その前から遺伝的多様性が高かった、と示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_14.html
ポルトガルで発見された新石器時代から19世紀までの人類遺骸67個体のゲノムデータを報告した研究では、いわゆる大移動やイスラム教勢力の征服などを含めて、ポルトガルの長期の人口史が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_14.html
ローマ期ブリテン島の農村部の住民のゲノムデータを報告した研究では、ローマ帝国の他地域からの長距離移動の証拠が見つからず、ローマによる支配の遺伝的影響は小さかったことが窺えます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_1.html
イタリア中央部のローマ共和政期の男性個体のゲノムデータを報告した研究では、東地中海集団的な遺伝的構成要素はすでに共和政期に到来していた可能性が高い、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_24.html
イタリア南部の中期青銅器時代の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、前期青銅器時代シチリア島集団と遺伝的に類似していることや、親子間の近親相姦の事例が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_25.html
スキタイ人の新たなゲノムデータからは、スキタイ人のゲノムがおもにヨーロッパ青銅器時代集団的構成要素に由来し、時空間的には異質な構成だったことが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_5.html
★ヨーロッパのフン人のゲノムデータを報告した研究では、ユーラシア東部人類集団からの大きな遺伝的影響は検出されませんでしたが、匈奴期の最高位の上流階層の一部の個体がフン人を含めて5~6世紀のカルパチア盆地個体群と直接的に結びついている、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_27.html
カルパチア盆地のサルマティア人のゲノムデータを報告した研究では、ウラルおよびカザフスタン起源のサルマティア人の子孫だったことや、フン期になってもサルマティア人集団の連続性は続いていた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_13.html
南コーカサスの青銅器時代からいわゆる大移動期の古代人230個体のゲノムデータを報告した研究では、青銅器時代以降の一定以上の遺伝的連続性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_23.html
イラン高原の人類のゲノムデータを報告した研究では、銅器時代から中世まで長期にわたる人口史が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_18.html
アナトリア半島の古代人のゲノムデータを報告した研究では、完新世最初期には東方の肥沃な三日月地帯の集団との大きな遺伝的交流は見られなかったものの、9000年前頃に本格的な農耕集落がエーゲ海全域に拡大し始めると、東方からの移住農耕民が到来し、在来集団と遺伝的に融合していった、と明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_3.html
★カルタゴ集団のゲノムデータからは、カルタゴとフェニキアとの強い文化的つながりにも関わらず、シチリア島やエーゲ海地域の古代人集団との強い類似性が明らかになり、文化と遺伝を安易に結びつけてはならないことが、改めて窺えます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_9.html
★インドの既知の古代ゲノムデータと多数の現代人のゲノムデータを用いた研究では、インドの人口史が推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_31.html
ユーラシア西部の古代ゲノム研究では、歴史時代も対象としつつ、他地域と比較して豊富なデータに基づいて、以下のように社会構造も解明されています。
★鉄器時代ブリテン島における母方居住の事例を報告した研究は、民族誌の調査では稀とされてきた、父方居住社会から母方居住への移行が過去には稀ではなかった可能性を示唆しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_2.html
ヨーロッパ中央部の線形陶器文化集団では、地域間の遺伝的差異や父方居住が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_26.html
オーストリアのアヴァール文化を共有していた20km程度しか離れていない2ヶ所の遺跡の被葬者のゲノムデータから、同じ文化を共有しながら遺伝的構成は異なっており、それでも女性族外婚の父方居住によって生物学的つながりがあった、と指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_4.html
★アナトリア半島中央部南方のチャタルヒュユク遺跡の新石器時代個体のゲノムデータから、家屋単位での母方居住の証拠が検出されましたが、チャタルヒュユク遺跡全体では母方居住の明確な証拠は見つかりませんでした。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_8.html
●日本列島以外のユーラシア東部
近年では、経済発展を反映してか、中国における古代ゲノム研究の進展が目覚ましく、今年も注目すべき研究が多く公表されています。去年から今年にかけて、黄河流域、とくに下流域の山東半島古代人のゲノム研究が大きく進展し、その他にも、長江中下流域では最初となる本格的な新石器時代個体のゲノムデータの報告や、雲南省での未知の遺伝的系統の発見も大いに注目されます。これまで新石器時代以前の人類の遺伝的構成についてほとんど解明されていなかった長江中下流域は、とくに稲作の観点でユーラシア東部の人類史において重要な役割を果たしてきた、と考えられ、そのゲノムデータはユーラシア東部圏の人類史の解明に大きく寄与するでしょう。ただ、現時点では前期新石器時代以前の長江中下流域の人類遺骸のゲノムデータは報告されていないようで、今後の研究の進展が期待されます。
★★とくに注目すべきは、雲南省で発見された、7100~1500年前頃の人類の新たなゲノムデータを報告した研究です。この研究では、雲南省中央部の興義遺跡で発見された7100年前頃の女性1個体のゲノムについて、現代チベット人集団のゲノムにおいて黄河流域新石器時代集団的な構成要素と比較して低い割合ながら不可欠の構成要素であり、これまで特定されていなかった構成要素でモデル化できる、と示しました。この新たに特定された遺伝的構成要素は、広西チワン族自治区で発見された10686~10439年前頃の個体のゲノムにおいて約半分を占めていることも示されました(残りの半分は、アジア東部南方沿岸の末期更新世~初期完新世人類集団的な構成要素)。さらにこの研究では、雲南省中央部で発見された5500~1500年前頃の個体群が、以前に特徴づけられていたアジア東部の北方および南方の遺伝的構成要素とは異なるアジア東部構成要素を有しており、この構成要素が現在のオーストロアジア語族話者全体に存在することを示し、5500年前頃の雲南中央部にはオーストロアジア語族祖語話者が存在したかもしれない、と指摘されており、オーストロアジア語族の起源の解明でも重要な知見となりそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_3.html
その山東半島を含む黄河流域の古代人のゲノム研究も、昨年から今年にかけて大きく進展しました。中原の古代人のゲノムデータを報告した研究では、中原における後期新石器時代以降の人類集団の長期の遺伝的安定性が報告されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_4.html
後期新石器時代から鉄器時代の黄河中流~下流域の古代人のゲノムを報告した研究では、黄河の中流域と下流域における、後期新石器時代までの遺伝的異質性と青銅器時代以降の遺伝的均質性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_5.html
★6000~1500年前頃の山東半島の11ヶ所の遺跡から発見された人類遺骸85個体のゲノムデータを報告した研究では、山東半島には以前の推定よりも早い時期から、北方と西方と南方からの遺伝子流動があった、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_6.html
唐代の山東人類集団のゲノムデータを報告した研究では、一部のゲノムにおける低い割合のユーラシア西部/アジア中央部人類集団的な遺伝的構成要素が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_16.html
黄河中流域の中期~後期新石器時代移行期の古代人のゲノムデータを報告した研究では、南方から黄河流域への稲作の到来には必ずしも人口移動が伴っていなかったかもしれない、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_28.html
山東省淄博市の戦国時代~南北朝時代の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、臨淄の戦国時代~南北朝時代の人類集団が遺伝的に、山東半島の初期新石器時代の人類集団とは異なり、黄河中流域の後期新石器時代後の人類集団と最も密接に関連し、歴史時代の人類集団と現在の漢人集団とは遺伝的に密接に類似している、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_10.html
渤海の山東半島と遼東半島の間に位置する島の後期新石器時代~前期青銅器時代の人類のゲノムデータを報告した研究では、龍山文化期における山東半島内陸部に由来する広範な文化的影響にも関わらず、龍山文化に先行する大汶口文化期集団とのつながりが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_18.html
山西省と陝西省の後期新石器時代の人類のゲノムデータを報告した研究では、現在の中国北部における後期新石器時代の地域間の人口相互作用が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_8.html
河南省の中期新石器時代遺跡で発見された個体群のゲノムデータを報告した研究では、仰韶文化の拡散には人口拡大が伴っていた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_4.html
黄河湾曲部の後期新石器時代~鉄器時代人類集団のゲノムデータを報告した研究では、高い割合の黄河中流域中期新石器時代集団的な構成要素と低い割合のモンゴル草原地帯集団的な構成要素とともに、期新石器時代の外れ値個体におけるアジア東部南方からの遺伝的影響も検出されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_27.html
★山東半島の大汶口文化後期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、母方居住の遺伝学的証拠が提示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_3.html
山東省の前漢期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、黄河中下流域の中期新石器時代~鉄器時代人類集団との遺伝的類似性および華南集団からの追加の遺伝的影響が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_28.html
★陝西省の後期新石器時代遺跡の人類集団のゲノムデータを報告した研究では、人口構造と父系的な社会構造が推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_22.html
★長江中下流域の新石器時代人類集団の古代ゲノムデータは今年になって初めて本格的に公表され、長江の最大の支流である漢江(漢水)水系の一部となる湍河沿いに位置する河南省鄧州市の遺跡で発見された、中期新石器時代から後期青銅器時代の古代人58個体のゲノムデータを報告した研究では、その遺伝的構成要素は、黄河中流域中期新石器時代集団関連とアジア東部南方末期更新世~前期完新世集団関連でモデル化でき、南北の双方向の遺伝子流動があった、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_3.html
★★黄河および長江流域の新石器時代人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域と長江流域の中期新石器時代人類集団では明確な遺伝的分化が見られるものの、双方向の遺伝子流動もすでに起きていた、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_12.html
★歴史時代に関する研究も盛んで、江蘇省徐州市で発見された西周期の人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、文化的多様性にも関わらず、山東半島や東方沿岸の同時代およびそれ以前の人類集団と遺伝的に顕著に類似し、南方集団や中原の農耕人口集団からの混合の追加の兆候はなかったことが明らかになり、物質文化の拡大に大規模な人口移動や遺伝的混合が伴わなかった場合もあった、と示唆されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_7.html
東周期の中原の人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域のみならず、アジア東部南方関連およびユーラシア草原地帯関連の遺伝的構成要素が検出されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_1.html
漢と匈奴の国境付近の要塞で発見された被葬者のゲノムデータを報告した研究では、この被葬者が漢の兵士だった、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_13.html
北周の高官である高賓のゲノムデータを報告した研究では、高賓は遺伝的に後期新石器時代から鉄器時代の黄河流域農耕民に完全に由来する、とモデル化できました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_22.html
貴州省の宋代~明代の人類のゲノムデータを報告した研究では、漢文化(漢字文化、中華文化、中国文化)の現在の中国南西部への拡大に人口拡散が伴っていた、と推測されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_9.html
別の遺跡で発見された貴州省の宋代~明代の人類のゲノムデータを報告した研究では、黄河流域農耕民との密接な遺伝的類似性とともに、アジア東部南方古代人からの遺伝的影響も示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_6.html
北京の近世の墓地被葬者のゲノムデータを報告した研究では、6世代にわたる厳密な父系の家系が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_10.html
長江下流域近世人類遺骸のゲノムデータを報告した研究では、高い割合の黄河流域古代人集団的な構成要素とともに、アジア東部南方人類集団的な構成要素が明らかになり、高度な遺伝的均質性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_5.html
おもに明代まで見られるユーラシア東部南方の崖に吊るされた棺(懸棺)の被葬者のゲノムデータを報告した研究では、一部の現代人と懸棺被葬者との間の高い遺伝的類似性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_23.html
ユーラシア東部では、草原地帯も含めて内陸部の古代ゲノム研究も盛んで、東トルキスタンの鉄器時代集団のゲノムデータを報告した研究では、ユーラシア東西の人類集団的な遺伝的構成要素の混合パターンが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202503article_18.html
東トルキスタン中央部の鉄器時代から歴史時代の人類8個体のゲノムデータを報告した研究では、鉄器時代と歴史時代との間である程度の遺伝的連続性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_30.html
ソグド人のゲノムデータを報告した研究では、遺伝的に在来集団と類似した個体と、それに加えてアジア中央部集団的な構成要素もある個体が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_20.html
青銅器時代~鉄器時代のタリム盆地西部の24個体のゲノムデータを報告した研究では、青銅器時代集団の遺伝的構成要素の大半がユーラシア西方草原地帯の初期アンドロノヴォ関連文化の急速な東方への拡大にさかのぼる可能性の高い牧畜民集団に由来することや、鉄器時代タリム盆地の人類集団における遺伝的異質性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_8.html
チベット高原南部で発見された4400~3500年前頃の人類遺骸の新たなゲノムデータを報告した研究では、千年以上にわたる遺伝的連続性と遺伝的多様性が示され、7100年前頃の雲南中央部の女性1個体によって表される深く分岐した系統からの複数回の遺伝的影響が明らかになりました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_26.html
ヒマラヤ山脈の3370年前頃以降の人類のゲノムデータを報告した研究では、チベット人との遺伝的類似性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_2.html
★モンゴル中央部後期青銅器時代人類のゲノムデータを報告した研究では、異なる2種類の埋葬様式に対応する異なる遺伝的まとまりが示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_1.html
カザフスタン東部の前期新石器時代および中期~後期青銅器時代の人類の新たなゲノムデータを報告した研究では、アジア内陸部狩猟採集民の動的な人口構造およびその後の牧畜民集団におけるその遺伝的遺産が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_1.html
青海省の後漢時代の人類のゲノムデータから、その遺伝的構成には人口移動や文化的交流の中心地だったことや漢王朝の政策が大きな影響を及ぼした、と推測されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_14.html
★ユーラシア北部の古代人の新しい大規模なゲノムデータを報告した研究では、前期完新世~現在に至るウラル語族およびエニセイ語族話者の遺伝的形成過程が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_10.html
★河北省の遺跡の中期新石器時代の紅山文化関連個体のゲノムデータを報告した研究では、紅山文化の拡大には人口拡散が伴っていたことや、山東半島の大汶口文化関連集団からの遺伝子流動の可能性が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_25.html
●日本列島
もちろん、日本列島とユーラシア東を厳密に区分することはできず、他の地域間でも同様なので、上述の研究と重複するところもありますが、日本列島に関する注目すべき古代ゲノム研究を以下に取り上げます。
★繰り返しになりますが、6000~1500年前頃の山東半島の11ヶ所の遺跡から発見された人類遺骸85個体のゲノムデータを報告した研究では、山東半島の一部の古代人と宮古島の長墓遺跡の歴史時代の個体群(17世紀以降)との間の密接な遺伝的関係が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_6.html
★同じく繰り返しになりますが、ユーラシア東部の古代および現代の現生人類におけるデニソワ人からの遺伝的影響では「縄文人」が最も小さい、と示され、「縄文人」の遺伝的形成過程解明の重要な手がかりになる点でも注目されます。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_13.html
オホーツク文化初期となる5~6世紀頃の女性1個体のゲノムデータを報告した研究では、そのゲノムがカムチャツカ半島集団的な構成要素と「縄文人」的構成要素の混合で適切に説明でき、あるいはそれに加えてアムール川集団的構成要素の混合としてもモデル化できる可能性がある、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_29.html
●アメリカ大陸
古典期マヤの人類の古代ゲノムデータを報告した研究では、古典期マヤにおける広範な不安定化と崩壊を経た古典期末期における人口減少が示唆されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_4.html
コロンビアの古代人の新たなゲノムデータを報告した研究では、人類の最初の南アメリカ大陸への拡散に由来する、以前には知られていなかった遺伝的構成要素が示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_5.html
アメリカ合衆国ニューメキシコ州の現在の先住民とその祖先のゲノムデータを報告した研究では、ヨーロッパ人到来前の人口減少の証拠が見つかりませんでした。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_10.html
●アジア南東部島嶼部とワラセアとオセアニア
過去2500年間のパプアニューギニア沿岸部古代人のゲノムデータを報告した研究では、最古級の個体群は混合していないパプア人関連の遺伝的構成要素を示すのに対して、2100年前頃以降の個体群はさまざまな割合のアジア東部関連の遺伝的構成要素を示し、混合の推定年代から、異なる拡散事象の影響が示唆されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_15.html
●非ヒト動物の古代DNA解析
マンモスのミトコンドリアゲノムを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_11.html
家畜ヒツジの遺伝的起源に関する研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_15.html
イベリア半島の古代のウマのゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_26.html
新石器時代ヨーロッパ北西部のブタのゲノムデータを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_16.html
メキシコで発見されたコロンビアマンモスのミトコンドリアゲノムを報告した研究や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_8.html
ヨーロッパ中央部における中期~後期更新世のカバの存在を報告した研究があります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_5.html
●総説的論文
遺伝学を中心とした近年のネアンデルタール人研究の解説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_9.html
現生人類と非現生人類ホモ属のとの混合およびその影響に関する概説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_23.html
近年のデニソワ人研究の解説や、
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_16.html
最近のアジア東部人類集団の重要な古代ゲノム研究があり、
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_16.html
★おもに現生人類を対象にデニソワ人やネアンデルタール人も含めて、過去16万年間のアジア東部の人類史に関する研究を古代ゲノム研究中心に整理した総説は、最新の研究状況の把握にたいへん有益と思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_23.html
(3)プロテオーム解析の進展
今年はプロテオーム解析の進展が目覚ましく、上述のデニソワ人系統と特定された事例以外にも、人類系統や非人類系統でのプロテオーム解析結果が報告されました。プロテオーム解析は、遺伝的情報量こそDNAよりずっと劣るものの、時空間的に古代DNAの解析が難しそうな化石への適用が今後も進みそうで、古代DNAでは埋められない生物進化史の空白を分子生物学的に埋めていくことが大いに期待されます。
★アフリカ南部で発見された前期更新世のパラントロプス・ロブストスの歯のエナメル質からのタンパク質解析が成功し、霊長類ではホモ属クレード(単系統群)に近い、と示されまし。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_31.html
★アフリカ東部では1800万年前頃までさかのぼる哺乳類のタンパク質配列が、カナダの北極圏では、2400万年前頃までさかのぼるサイ類のタンパク質配列が得られました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_2.html
上記の3区分に当てはまりませんが、その他にも注目される研究があります。
過去330万年間の石器技術を分析した研究では、60万年前頃以降に石器の複雑さは急速に増加した、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202502article_18.html
エチオピアで発見された347万~333万年前頃の化石は以前に提唱されたアウストラロピテクス・デイメレダに分類され、350万~300万年前頃のアフリカにおける複数のアウストラロピテクス属の存在の可能性が示されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_26.html
ブルガリアで発見された人為的な切創痕のある動物の骨は195万年以上前と推定されており、これはヨーロッパ最古級の人類の痕跡となります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_29.html
スペインで発見された140万~110万年前頃のホモ属頭蓋顔面から、前期完新世のヨーロッパにおける人口置換の可能性が指摘されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202512article_9.html
ケニアで発見された150万年前頃のパラントロプス・ボイセイ化石の手の形態を分析した研究では、パラントロプス・ボイセイには道具の製作と使用が可能だったかもしれない、と示されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202511article_30.html
★アフリカ東部では150万年前頃となる体系的な骨角器製作が報告され、体系的な骨角器製作の最古級の年代は100万年以上さかのぼることになりそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_15.html
★スラウェシ島では100万年以上前までさかのぼる石器が報告され、フローレス島の事例からも、人類が100万年以上前に、意図的か否かはともかく何らかの手段で渡海していたことは確実と言えそうです。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_10.html
マドゥラ海峡ではジャワ島の後期ホモ・エレクトスと類似している、ホモ属の頭蓋片が発見されました。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_18.html
コートジボワール南部では、湿潤な熱帯林における人類最古の痕跡が見つかり、15万年前頃までさかのぼる、と報告されています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202504article_16.html
今年当ブログで取り上げた古人類学関連の書籍は、以下の通りです。
Paul Pettitt『ホモ・サピエンス再発見 科学が書き換えた人類の進化』は、現生人類を中心に人類進化史の概説として有益です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202501article_25.html
★Ludovic Slimak『裸のネアンデルタール人 人間という存在を解き明かす』は、ネアンデルタール人の人類進化史における位置づけや現生人類との関係について、「過激」とも思える議論を展開しますが、示唆に富む内容と思います。
https://sicambre.seesaa.net/article/202505article_10.html
Brian Hare 、Vanessa Woods『ヒトは〈家畜化〉して進化した 私たちはなぜ寛容で残酷な生き物になったのか』は自己家畜化の観点からの人類進化史で、現代社会についても考えさせられる内容になっています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202506article_14.html
★Peter Bellwood『500万年のオデッセイ 人類の大拡散物語』は、完新世の農耕を伴う現生人類の拡散を中心とした人類史で、現代人の各地域集団の形成を把握するうえでたいへん参考になります。
https://sicambre.seesaa.net/article/202507article_26.html
Gwynne Dyer『戦争と人類』は戦争の観点からの人類史で、古人類学の観点では戦争の起源に関する考察が有益ですが、何よりも戦争が絶えない現代社会において考えさせられる内容です。
https://sicambre.seesaa.net/article/202508article_9.html
Frans de Waal『サルとジェンダー 動物から考える人間の〈性差〉』は、現代社会において大きな意味を持つようになってきた「ジェンダー」について、広く霊長類の進化史の観点から考察しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_13.html
関根達人『つながるアイヌ考古学』は、日本語環境のインターネットにおいて一部?で与太話が浸透しているアイヌについて、再版の考古学的知見を提供しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202509article_20.html
★国武貞克、佐藤宏之『南回り、北回りの遭遇、列島のホモ・サピエンス 新・日本旧石器文化の成立』は、日本列島の旧石器時代について、現時点で最新の知見を提示し、日本列島における4万年以上前の人類の存在の可能性も指摘しています。
https://sicambre.seesaa.net/article/202510article_25.html
この他にも取り上げるべき研究は多くあるはずですが、読もうと思っていながらまだ読んでいない論文もかなり多く、古人類学の最新の動向になかなか追いつけていないのが現状で、重要な研究でありながら把握しきれていないものも多いのではないか、と思います。この状況を劇的に改善させられる自信はまったくないので、せめて今年並には本や論文を読み、地道に最新の動向を追いかけていこう、と考えています。なお、過去の回顧記事は以下の通りです。
2006年
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_27.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_28.html
https://sicambre.seesaa.net/article/200612article_29.html
2007年
https://sicambre.seesaa.net/article/200712article_28.html
2008年
https://sicambre.seesaa.net/article/200812article_25.html
2009年
https://sicambre.seesaa.net/article/200912article_25.html
2010年
https://sicambre.seesaa.net/article/201012article_26.html
2011年
https://sicambre.seesaa.net/article/201112article_24.html
2012年
https://sicambre.seesaa.net/article/201212article_26.html
2013年
https://sicambre.seesaa.net/article/201312article_33.html
2014年
https://sicambre.seesaa.net/article/201412article_32.html
2015年
https://sicambre.seesaa.net/article/201512article_31.html
2016年
https://sicambre.seesaa.net/article/201612article_29.html
2017年
https://sicambre.seesaa.net/article/201712article_29.html
2018年
https://sicambre.seesaa.net/article/201812article_42.html
2019年
https://sicambre.seesaa.net/article/201912article_57.html
2020年
https://sicambre.seesaa.net/article/202012article_40.html
2021年
https://sicambre.seesaa.net/article/202112article_32.html
2022年
https://sicambre.seesaa.net/article/202212article_29.html
2023年
https://sicambre.seesaa.net/article/202312article_29.html
2024年
https://sicambre.seesaa.net/article/202412article_29.html
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