アフリカ東部とカナダ北極圏の1000万年以上前のタンパク質解析
取り上げるのが遅れてしまいましたが、アフリカ東部とカナダ北極圏の1000万年以上前の非ヒト動物遺骸のタンパク質解析解析結果を報告した二つの研究が公表されました。プロテオーム(タンパク質の総体)解析は、遺伝的情報量こそDNA(deoxyribonucleic acid、デオキシリボ核酸)よりずっと劣るものの、時空間的に古代DNAの解析が難しそうな化石への適用が可能なので、人類も含めて古代DNAでは埋められない生物進化史の空白を分子生物学的に埋めていくことが多いに期待されます。
一方の研究(Green et al., 2025)は、アフリカ東部の1800万年前頃の動物遺骸のプロテオーム解析結果を報告しています。古代DNAおよび古代プロテオミクスによる絶滅分類群の古生物学的研究は、分子が時間の経過とともに分解されるため、鮮新世~–更新世の化石にほぼ限定されており、こうした分解は熱帯の環境では増幅されます。本論文は、新生代の哺乳類進化の記録が豊富に得られているケニアのトゥルカナ盆地の、漸新世から更新世の古生物学的な化石産地で発見された一連の化石のエナメル質内部から得られた、小さなプロテオームを提示します。この研究は、質量分析に基づくプロテオミクスのワークフローを通して、また、エナメル質由来のタンパク質の続成作用を経た形態(diagenetiform)を見つける基準によって、1600万年前頃となるブルク(Buluk)および1800万年前頃となるロペロト(Loperot)で収集された前期中新世のサイ類1個体と複数の長鼻類の化石から、エナメリン、アメロブラスチン、マトリックスメタロプロテアーゼ20、DMP1(dentin matrix acidic phosphoprotein 1、象牙質マトリックス酸性リン酸化タンパク質1)の断片を回収しました。続成作用を経た形態の数は化石の年代が古くなるにつれて減少しており、これらの化石産地では前期中新世の保存状態にばらつきがある、と観察されました。系統発生解析から、絶滅分類群の系統的な位置づけに対するこれらの配列の寄与が明らかになりましたが、この手法では、断片の少なさとその種類の不確実さ、そして続成作用の影響を考慮する必要があることに要注意です。本論文は、これらのタンパク質の年代の古さを裏づける可能性のある複数の修飾と、これまで知られていなかった終末糖化産物の極めて古い例を複数突き止めました。地球上で最も温暖であり続けている地域の1ヶ所において、密なエナメル質組織内にタンパク質配列が発見されたことは、はるかに古いプロテオームの発見を期待させ、これは絶滅分類群の古生物学的性質や進化的関係の研究に役立ちます。
もう一方の研究(Paterson et al., 2025)は、カナダ北極圏のサイ科のプロテオーム解析結果を報告しています。この10年間で、古代タンパク質の配列は、太古からの系統発生を推論するための有益なデータ源として浮上してきました。しかし、中期~後期中新世の古代タンパク質については報告があるものの、亜目水準の系統発生学的知見をもたらすタンパク質配列の既知の最古の回収は、370万年前(鮮新世)頃となります。本論文は、カナダの高緯度北極域で発見されたサイ科動物エピアケラテリウム(Epiaceratherium sp.)の化石(CMNFV59632)からエナメル質のタンパク質配列を回収することで、この限界を2400~2100万年前(前期中新世)頃までさかのぼらせました。この研究は、7点のエナメル質タンパク質の部分的な配列と1000点以上のPSM(peptide–spectrum matches、ペプチド–スペクトルマッチ)を、少なくとも251アミノ酸にわたって回収しました。内生性は、熱年代推定の結果と一致しており、長期的な続成作用の間に蓄積した複数の自然発生的で不可逆的な化学的修飾を含む、タンパク質損傷の指標によって裏づけられました。ベイズ先端年代測定では、CMNFV59632の分岐年代が中期始新世~漸新世に位置付けられ、これはサイ科動物が高度に多様化した時期と一致します。この解析によって、エラスモテリウム亜科(Elasmotheriinae)の分岐がより後期の漸新世だった、と明らかになり、エラスモテリウム亜科とサイ亜科(Rhinocerotinae)の基部での古い分岐を示唆する他のモデルが弱められました。この知見は、固有性がかなり高いにもかかわらず遠く離れたユーラシアの動物相との類似性を示す、ホートンクレーターの謎めいた動物相の起源に関する仮説と一致しています。本論文の結果は、これまでに内在性DNAが得られているいかなる試料よりも約10倍古い試料から系統発生学的な情報を得る上での、古代プロテオミクスの可能性を実証しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
ゲノミクス:タンパク質は古代のエナメル質に保存されている
サイやその他の動物の化石から、少なくとも1,800万年前の古代タンパク質が発見されたことを報告する2つの論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの研究は、タンパク質がこれまで考えられていたよりもはるかに長い間残存しうることを示唆しており、多くの種の進化の歴史に光を当てる可能性を秘めている。
過去数十年間で、研究者たちは化石からDNAやタンパク質などの古代の分子を回収する技術を着実に向上させてきた。しかし、これらの分子は、時間とともに分解するため回収は困難で、温暖な環境はこのプロセスを加速させる。過去に回収された最も古いタンパク質は、約370万年前の鮮新世(Pliocene)のものだった。今回の2つの研究は、古代の分子をよく保存することで知られる歯のエナメル質を採取することで、その境界を広げるものである。
Daniel Green(ハーバード大学〔米国〕)、Timothy Cleland(スミソニアン研究所〔米国〕)、Kevin Uno(ハーバード大学〔米国〕)らは、ケニアのトゥルカナ盆地(Turkana Basin)からさまざまな化石を採取し、タンパク質を回収した。著者らは、最大1,800万年前のサイ類(rhinocerotid;サイの親戚)と長鼻類(proboscideans;ゾウの親戚)をサンプルとしている。東アフリカの大地溝帯にあるトゥルカナ盆地は、地球上で最も温暖な場所のひとつであり、古代の分子がそこに保存されるとは予想されていなかった。ホミニン、サイ、およびカバを含むアフリカの哺乳類の多くのグループがここで多様化したため、この場所は進化上重要である。
別の研究では、Ryan Patersonら(コペンハーゲン大学〔デンマーク〕)が、カナダの極北(Canada’s High Arctic)に生息するサイ類から、約2,100万– 2,400万年前のエナメル質タンパク質の部分配列を抽出した。この塩基配列から、サイの家系に関する新たな情報が得られるかもしれないが、さらなる解析が必要であると著者らは指摘している。また、カナダの極北のような寒冷な環境は、生体分子の保存に適しており、動物の進化を再構築できる可能性があるという。
両研究を合わせると、タンパク質はこれまで考えられていたよりも長く残存し、古代の動物に関する分子情報を保存することができることを示している。
古生物学:東アフリカ地溝帯から得られた1800万年にわたる多様なエナメル質プロテオーム
古生物学:前期中新世までさかのぼった古代プロテオミクス
今週号では2報の論文で、前期中新生の歯化石のエナメル質からプロテオームが回収されたことが報告されている。D Greenたちは、タンパク質の分解が進みやすい熱帯環境であるケニアで発見された、年代が1800万〜1600万年前のサイ類と長鼻類の歯化石から、さまざまなエナメル質タンパク質の断片を回収した。一方、R Patersonたちはカナダの高緯度北極域で発見された年代が2400万〜2100万年前のサイ類の歯から、絶滅サイ類の系統発生の推論を可能にするエナメル質タンパク質の配列を得た。以前の年代の限界を大きく超えたこれらの成果は、さらに古い年代のタンパク質情報が得られる可能性を示している。
参考文献:
Green DR. et al.(2025): Eighteen million years of diverse enamel proteomes from the East African Rift. Nature, 643, 8072, 712–718.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09040-9
Paterson RS. et al.(2025): Phylogenetically informative proteins from an Early Miocene rhinocerotid. Nature, 643, 8072, 719–724.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09231-4
一方の研究(Green et al., 2025)は、アフリカ東部の1800万年前頃の動物遺骸のプロテオーム解析結果を報告しています。古代DNAおよび古代プロテオミクスによる絶滅分類群の古生物学的研究は、分子が時間の経過とともに分解されるため、鮮新世~–更新世の化石にほぼ限定されており、こうした分解は熱帯の環境では増幅されます。本論文は、新生代の哺乳類進化の記録が豊富に得られているケニアのトゥルカナ盆地の、漸新世から更新世の古生物学的な化石産地で発見された一連の化石のエナメル質内部から得られた、小さなプロテオームを提示します。この研究は、質量分析に基づくプロテオミクスのワークフローを通して、また、エナメル質由来のタンパク質の続成作用を経た形態(diagenetiform)を見つける基準によって、1600万年前頃となるブルク(Buluk)および1800万年前頃となるロペロト(Loperot)で収集された前期中新世のサイ類1個体と複数の長鼻類の化石から、エナメリン、アメロブラスチン、マトリックスメタロプロテアーゼ20、DMP1(dentin matrix acidic phosphoprotein 1、象牙質マトリックス酸性リン酸化タンパク質1)の断片を回収しました。続成作用を経た形態の数は化石の年代が古くなるにつれて減少しており、これらの化石産地では前期中新世の保存状態にばらつきがある、と観察されました。系統発生解析から、絶滅分類群の系統的な位置づけに対するこれらの配列の寄与が明らかになりましたが、この手法では、断片の少なさとその種類の不確実さ、そして続成作用の影響を考慮する必要があることに要注意です。本論文は、これらのタンパク質の年代の古さを裏づける可能性のある複数の修飾と、これまで知られていなかった終末糖化産物の極めて古い例を複数突き止めました。地球上で最も温暖であり続けている地域の1ヶ所において、密なエナメル質組織内にタンパク質配列が発見されたことは、はるかに古いプロテオームの発見を期待させ、これは絶滅分類群の古生物学的性質や進化的関係の研究に役立ちます。
もう一方の研究(Paterson et al., 2025)は、カナダ北極圏のサイ科のプロテオーム解析結果を報告しています。この10年間で、古代タンパク質の配列は、太古からの系統発生を推論するための有益なデータ源として浮上してきました。しかし、中期~後期中新世の古代タンパク質については報告があるものの、亜目水準の系統発生学的知見をもたらすタンパク質配列の既知の最古の回収は、370万年前(鮮新世)頃となります。本論文は、カナダの高緯度北極域で発見されたサイ科動物エピアケラテリウム(Epiaceratherium sp.)の化石(CMNFV59632)からエナメル質のタンパク質配列を回収することで、この限界を2400~2100万年前(前期中新世)頃までさかのぼらせました。この研究は、7点のエナメル質タンパク質の部分的な配列と1000点以上のPSM(peptide–spectrum matches、ペプチド–スペクトルマッチ)を、少なくとも251アミノ酸にわたって回収しました。内生性は、熱年代推定の結果と一致しており、長期的な続成作用の間に蓄積した複数の自然発生的で不可逆的な化学的修飾を含む、タンパク質損傷の指標によって裏づけられました。ベイズ先端年代測定では、CMNFV59632の分岐年代が中期始新世~漸新世に位置付けられ、これはサイ科動物が高度に多様化した時期と一致します。この解析によって、エラスモテリウム亜科(Elasmotheriinae)の分岐がより後期の漸新世だった、と明らかになり、エラスモテリウム亜科とサイ亜科(Rhinocerotinae)の基部での古い分岐を示唆する他のモデルが弱められました。この知見は、固有性がかなり高いにもかかわらず遠く離れたユーラシアの動物相との類似性を示す、ホートンクレーターの謎めいた動物相の起源に関する仮説と一致しています。本論文の結果は、これまでに内在性DNAが得られているいかなる試料よりも約10倍古い試料から系統発生学的な情報を得る上での、古代プロテオミクスの可能性を実証しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。
ゲノミクス:タンパク質は古代のエナメル質に保存されている
サイやその他の動物の化石から、少なくとも1,800万年前の古代タンパク質が発見されたことを報告する2つの論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。これらの研究は、タンパク質がこれまで考えられていたよりもはるかに長い間残存しうることを示唆しており、多くの種の進化の歴史に光を当てる可能性を秘めている。
過去数十年間で、研究者たちは化石からDNAやタンパク質などの古代の分子を回収する技術を着実に向上させてきた。しかし、これらの分子は、時間とともに分解するため回収は困難で、温暖な環境はこのプロセスを加速させる。過去に回収された最も古いタンパク質は、約370万年前の鮮新世(Pliocene)のものだった。今回の2つの研究は、古代の分子をよく保存することで知られる歯のエナメル質を採取することで、その境界を広げるものである。
Daniel Green(ハーバード大学〔米国〕)、Timothy Cleland(スミソニアン研究所〔米国〕)、Kevin Uno(ハーバード大学〔米国〕)らは、ケニアのトゥルカナ盆地(Turkana Basin)からさまざまな化石を採取し、タンパク質を回収した。著者らは、最大1,800万年前のサイ類(rhinocerotid;サイの親戚)と長鼻類(proboscideans;ゾウの親戚)をサンプルとしている。東アフリカの大地溝帯にあるトゥルカナ盆地は、地球上で最も温暖な場所のひとつであり、古代の分子がそこに保存されるとは予想されていなかった。ホミニン、サイ、およびカバを含むアフリカの哺乳類の多くのグループがここで多様化したため、この場所は進化上重要である。
別の研究では、Ryan Patersonら(コペンハーゲン大学〔デンマーク〕)が、カナダの極北(Canada’s High Arctic)に生息するサイ類から、約2,100万– 2,400万年前のエナメル質タンパク質の部分配列を抽出した。この塩基配列から、サイの家系に関する新たな情報が得られるかもしれないが、さらなる解析が必要であると著者らは指摘している。また、カナダの極北のような寒冷な環境は、生体分子の保存に適しており、動物の進化を再構築できる可能性があるという。
両研究を合わせると、タンパク質はこれまで考えられていたよりも長く残存し、古代の動物に関する分子情報を保存することができることを示している。
古生物学:東アフリカ地溝帯から得られた1800万年にわたる多様なエナメル質プロテオーム
古生物学:前期中新世までさかのぼった古代プロテオミクス
今週号では2報の論文で、前期中新生の歯化石のエナメル質からプロテオームが回収されたことが報告されている。D Greenたちは、タンパク質の分解が進みやすい熱帯環境であるケニアで発見された、年代が1800万〜1600万年前のサイ類と長鼻類の歯化石から、さまざまなエナメル質タンパク質の断片を回収した。一方、R Patersonたちはカナダの高緯度北極域で発見された年代が2400万〜2100万年前のサイ類の歯から、絶滅サイ類の系統発生の推論を可能にするエナメル質タンパク質の配列を得た。以前の年代の限界を大きく超えたこれらの成果は、さらに古い年代のタンパク質情報が得られる可能性を示している。
参考文献:
Green DR. et al.(2025): Eighteen million years of diverse enamel proteomes from the East African Rift. Nature, 643, 8072, 712–718.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09040-9
Paterson RS. et al.(2025): Phylogenetically informative proteins from an Early Miocene rhinocerotid. Nature, 643, 8072, 719–724.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09231-4
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