新種のティラノサウロイド恐竜

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、新種のティラノサウロイド恐竜を報告した研究(Voris et al., 2025)が報道されました。ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)を含むエウティラノサウルス類(Eutyrannosaurians)は、白亜紀の末期(6600万年前頃)までアジアと北アメリカ大陸の陸上動物相を支配していた大型の捕食性恐竜です。これらの頂点捕食者は白亜紀の中頃により小型のティラノサウルス類から進化しましたが、化石資料が少ないために詳しいことは分かっていません。本論文は、モンゴルの後期白亜紀前期の地層から1972~1973年にかけて発見された2体のエウティラノサウルス類の部分骨格について、その起源と進化を検証し、新たな視点をもたらします。

 この2体のエウティラノサウルス類の部分骨格は、ティラノサウルス類の新属新種カンクウルウ・モンゴリエンシス(Khankhuuluu mongoliensis)と命名されました。について報告します。系統解析によって、カンクウルウ・モンゴリエンシスはエウティラノサウルス類の直前に分岐したこと、鼻部ががっしりとした大型のティラノサウルス亜科(Tyrannosaurini)と、比較的細い鼻部を持つより小型で細身のアリオラムス亜科(Alioramini)は、エウティラノサウルス類の高度に派生した姉妹クレードクレード(単系統群)である、と明らかになりました。

 カンクウルウ・モンゴリエンシスと、後に分岐したアリオラムス亜科は、それぞれ独立にエウティラノサウルス類の幼体に類似した狭い頭蓋骨と細身の体型という特徴を共有しており、エウティラノサウルス類の進化において異時性が重要な役割を果たした、と裏づけています。エウティラノサウルス類はおもに、過成熟化(ペラモルフォーシス)、すなわち加速された成長の影響を受けましたが、アリオラムス亜科は幼形成熟(パエドモルフォーシス)によって幼体の特徴を保持した派生系統で、これまで考えられていたような、より基部の系統ではないことが明らかになりました。

 本論文の調査結果は、カンクウルウ・モンゴリエンシスに類似したアジアのティラノサウルス類が北アメリカ大陸に分散し、後期白亜紀の中頃にエウティラノサウルス類が進化したことを示しています。北アメリカ大陸にのみ生息していたエウティラノサウルス類は多様化し、その後、白亜紀の末期にアジアに分散したことで、アリオラムス亜科とティラノサウルス亜科が誕生しました。アリオラムス亜科とティラノサウルス亜科の間の著しい形態的差異は、おそらくそれらの異時性傾向の違い(パエドモルフォーシスとペラモルフォーシス)に起因して進化し、これによってアジアでの共存や異なる生態学的地位を占めることが可能になった、と考えられます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:モンゴルで発見された新種のティラノサウロイド恐竜

 ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)を含む恐竜グループであるティラノサウロイド(tyrannosauroid)の新種が発見されたことを報告する論文が、Nature に掲載される。この発見は、白亜紀後期におけるより広いティラノサウルス種の進化とその分散パターンに新たな光を当てるものである。

 ユウティラノサウルス(Eutyrannosaurians;ティラノサウルス・レックスを含む)は、約6,600万年前までアジアと北アメリカの地形を支配していた大型捕食恐竜のグループである。これらの頂点捕食者は、小さな体のティラノサウロイドから発生したと考えられているが、この考えを裏付ける化石証拠はほとんどない。

 1972年から1973年にかけてモンゴルで発見された2体のティラノサウロイドの部分骨格が、Jared Voris、Darla Zelenitskyら(カルガリー大学〔カナダ〕)によって再調査され、Khankhuuluu mongoliensisと名付けられた新しいティラノサウロイドの種と属に分類された。骨格の系統学的解析から、この新種は、ユウティラノサウルスの近縁種であり、巨大で深い鼻を持つティラノサウルス族(Tyrannosaurini)や、小型で浅い鼻を持つアリオラムス族(Alioramini clades)の近縁祖先であることが示唆された。著者らは、ユウティラノサウルス類はアジアからKhankhuuluuのような中型ティラノサウロイドが移動してきた結果、北米で誕生したと示唆している。これらのユウティラノサウルス類は北米に留まり、アジアに戻る一度の分散まで多様化し、アリオラムスとティラノサウルス族を確立した。これらの種はそれぞれ、中層捕食者(mesopredators)と頂点捕食者(apex predators)として、異なる生態的地位を占めることができたことが示唆されている。

 この新種は、ユウティラノサウルス類の進化を特徴づける形態学的特徴に関する重要な洞察を与えてくれる。


古生物学:モンゴルで発見された新たなティラノサウルス類とエウティラノサウルス類の進化

古生物学:異時性が形作った大型ティラノサウルス類の進化

 今回、モンゴルでティラノサウルス類の新属新種が発見された。カンクウルウ・モンゴリエンシス(Khankhuuluu mongoliensis)と命名されたこの恐竜の特徴から、この象徴的な大型捕食性恐竜類の初期進化が浮き彫りになった。



参考文献:
Voris JT. et al.(2025): A new Mongolian tyrannosauroid and the evolution of Eutyrannosauria. Nature, 642, 8069, 973–979.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-08964-6

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