ヨーロッパの後期ネアンデルタール人のミトコンドリアDNA

 ヒト進化研究ヨーロッパ協会第15回総会で、ヨーロッパの後期ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)のmtDNA(Mitochondrial DNA、ミトコンドリアDNA)に関する研究(Fotiadou et al., 2025)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P76)。[]は本論文の参考文献の番号です。ネアンデルタール人の人口統計学的歴史に関する知識は、その消滅に先行する人口過程を含めて、依然として不完全です。ヨーロッパでは、複数回のその後の人口拡散にも関わらず、少なくとも12万年前頃以降、一定の水準の遺伝的連続性の証拠が見つかりました[1、2]。遺伝的置換がヨーロッパの後期ネアンデルタール人(6万~4万年前頃)を生み出した、と提案されましたが[3]、この事象の時期と地理的位置は現時点では不明です。

 この研究では、フランスとベルギーとセルビアの4ヶ所の考古学的遺跡から回収されたネアンデルタール人6個体の新たなミトコンドリアゲノムが生成され、それらが49点の刊行されているネアンデルタール人のmtDNA配列の包括的なデータセットとともに分析されました。系統発生手法およびベイズ分子年代測定手法を考古学的データとともに統合し、ネアンデルタール人の分布における時空間的パターンが再構築されました。本論文の系統発生結果から、ヨーロッパ全域の後期ネアンデルタール人のほぼすべての個体が単一の近い過去に多様化したmtDNA系統内に収まる、と示され、強い人口ボトルネック(瓶首効果)の後で急速な拡大があった、と示唆されます。この多様化事象の時期は分子的に65000年前頃と推定され、この多様化の起源はヨーロッパ南西部の人口集団の退避地だった可能性が高い、と提案されます。

 ROADデータベースに含まれる広範な考古学的データの分析は、MIS(Marine Isotope Stage、海洋酸素同位体ステージ)4におけるフランス南西部へのネアンデルタール人遺跡の分布の顕著な縮小を確証します。その後、より広範な地理的拡大がおり、これはヨーロッパ全域における瓶首効果後の人口再拡大と一致します。さらに、ベイズスカイライン分析は、46000年前頃に始まり、41000年前頃に最小に達する、母系の有効人口規模の急激な減少を示唆しており、その直後にネアンデルタール人は消滅しました。遺伝学と考古学のデータセットの統合は、ネアンデルタール人の人口史に関するより詳しい理解を提供し、経時的なネアンデルタール人の遺伝的景観の形成における、気候に起因する退避地およびその後の範囲拡大の役割を明らかにします。


参考文献:
Fotiadou CM. et al.(2025): Mitochondrial DNA insights into the demographic history of Late Neanderthals. The 15th Annual ESHE Meeting.

[1]Peyrégne S. et al.(2019): Nuclear DNA from two early Neandertals reveals 80,000 years of genetic continuity in Europe. Science Advances, 5, 6, eaaw5873.
https://doi.org/10.1126/sciadv.aaw5873
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[2]Vernot B. et al.(2021): Unearthing Neanderthal population history using nuclear and mitochondrial DNA from cave sediments. Science, 372, 6542, eabf1667.
https://doi.org/10.1126/science.abf1667
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[3]Hajdinjak M. et al.(2018): Reconstructing the genetic history of late Neanderthals. Nature, 555, 7698, 652–656.
https://doi.org/10.1038/nature26151
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