パラントロプス属の手の化石

 パラントロプス属の手の化石を報告した研究(Mongle et al., 2025)が報道されました。本論文は、ケニアのトゥルカナ湖(Lake Turkana)の東側のクービフォラ(Koobi Fora)で発見された、152万年前頃のパラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)の化石(KNM-ER 101000)を報告しています。パラントロプス・ボイセイは、発見時に石器使用の可能性が指摘されていましたが、その後すぐ、より脳容量が大きく、年代が長期間重複するホモ・ハビリス(Homo habilis)の発見と、パラントロプス・ボイセイと明確に同定できる手骨がなかったため、パラントロプス・ボイセイによる石器の使用については、否定的な見解が提示されていました。

 本論文は、パラントロプス・ボイセイの頭蓋および歯の標本と明確に関連づけられる、手足の骨の化石KNM-ER 101000を分析しました。、KNM-ER 101000の手の形態はゴリラと類似しており、手による食物の処理と矛盾せず、木登りで使うような力強い把持を促進した、と示唆されます。一方で、KNM-ER 101000の手からは、パラントロプス・ボイセイが、現生人類(Homo sapiens)ほどではないとしても、ある程度精密な動作ができた、と示唆され、石器を製作して使用することは解剖学的に可能だったようです。

 パラントロプス・ロブストスは、アウストラロピテクス属で見られたような、一定以上の木登りの能力を保持しながら、ホモ属ほどではないとしても、石器など道具を製作して使用するだけの起用さも有していたようです。すでに、最古となるオルドワン(Oldowan)石器を報告した研究では、パラントロプス属による石器の使用の可能性が指摘されていました(関連記事)。ただ、パラントロプス・ロブストスが石器を製作して使用していた、と現時点で断定するのは難しそうです。

 パラントロプス属は、アフリカ東部の270万~230万年前頃となるパラントロプス・エチオピクス(Paranthropus aethiopicus)および230万~140万年前頃となるパラントロプス・ボイセイと、アフリカ南部の180万~100万年前頃となるパラントロプス・ロブストス(Paranthropus robustus)の3種に分類されており、100万年前頃までには絶滅した、と推測されていますが、パラントロプス属がクレード(単系統群)を形成するのか、疑問も呈されています(関連記事)。握力はたいへん強く、木登りの能力が高かった、と示唆されます。

 つまり、アフリカ東部において、先行するアウストラロピテクス属種からパラントロプス・エチオピクスとされる系統が、さらにそこからパラントロプス・ボイセイとされる系統が派生したのに対して、アフリカ南部では、アウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)からパラントロプス・ロブストスとされる系統が進化したのではないか、というわけです。そうだとすると、パラントロプス属という分類は成立せず、パラントロプス属とされる3種はすべてアウストラロピテクス属に分類するのが妥当と思われます。

 現時点で最古の石器は330万年前頃までさかのぼり(関連記事)、アウストラロピテクス属が石器を製作していた可能性が高そうです。パラントロプス属に分類される3種が単系統群を形成するのか否かはともかく、この3種がアウストラロピテクス属から派生した可能性は高そうですから、その意味ではパラントロプス・ボイセイも含めてパラントロプス属が石器を製作して使用していたとしても、不思議ではありません。今後、パラントロプス属と石器との関連について、さらなる研究の進展が期待されます。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


古生物学:初期のホミニンの手を解明する

 人類の古代の近縁種であるパラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)に属する150万年前の新たな化石群には、この種に明確に関連付けられる手の骨が含まれており、ホミニン(hominin;ヒト族)の手の進化に関する知見を提供する。Nature にオープンアクセスで掲載される化石の分析によると、パラントロプス・ボイセイは現代人類に見られる特徴の一部を共有しており、ゴリラのような強力な握力を持ちながらも道具を使用する能力を有していた可能性がある。

 約200万年から100万年前にかけて、東アフリカでは最大4種のホミニンの種(パラントロプス・ボイセイ、ホモ・ハビリス〔Homo habilis〕、ホモ・ルドルフェンシス〔Homo rudolfensis〕、およびホモ・エレクトス〔Homo erectus〕)が共存していたと推定される。この時代のホミニンは、道具を何らかの形で使用していたと考えられているが、証拠は限られていた。パラントロプス・ボイセイが道具を製作・使用したかどうかは、明確に同定された手の骨が見つかっていなかったため、議論が分かれていた。

 ケニアのトゥルカナ湖(Lake Turkana)付近で発見された、推定約152万年前の部分的なホミニン骨格について、Carrie Mongleら(ストーニーブルック大学〔米国〕)が報告している。KNM-ER 101000と命名されたこの標本の歯と頭蓋骨は、既知のパラントロプス・ボイセイの化石と一致する。著者らは、KNM-ER 101000にはパラントロプス・ボイセイの歯と頭蓋骨に明確に関連付けられる初めての手と足の骨が含まれると報告している。その手は、現代人とアフリカ類人猿の両方の特徴を共有している。例えば、親指と指の長さの比率は、パラントロプス・ボイセイが人間と同様の把持力や器用さを持っていたことを示唆するが、精密なつまみ動作はできなかった可能性がある。一方、パラントロプス・ボイセイの他の手骨は、ゴリラのものに類似しており、登ることに役立つ非常に強い握力を持っていたかもしれない。

 これらの発見を総合すると、パラントロプス・ボイセイはある程度の道具製作・使用能力を有していた可能性があり、強力な握力は手作業による食物加工(例えば、食べにくい植物の消化できない部分を取り除く剥ぎ取りなど)を容易にしたと考えられる。「このパラントロプス・ボイセイの手のあらゆる特徴は、葉の茂った植物や道具、岩、枝を握る強力な能力を指し示しており、既知の人類化石の中で唯一無二の特性を有している」と、同時掲載されるNews & Views記事においてTracy KivellおよびSamar Syedaは一致して述べている。


古生物学:新たな化石で明らかになったパラントロプス・ボイセイの手

古生物学:パラントロプス・ボイセイの手の特徴

 今回、ケニアのクービ・フォラで新たに発見されたパラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)の部分骨格から、このヒト族は、道具の操作や二足歩行に関する適応はヒト属(Homo)と似ていたが、手の形態はゴリラのものに近く、手で食物を処理していたことが示された。



参考文献:
Mongle CS. et al.(2025): New fossils reveal the hand of Paranthropus boisei. Nature, 646, 8091, 944–951.
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09594-8

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