ヨーロッパ中央部および南東部におけるネアンデルタール人と現生人類の共存期間

 ヨーロッパ協会第15回総会で、ヨーロッパ中央部および南東部におけるネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)と現生人類(Homo sapiens)の共存期間に関する研究(Tait et al., 2025)が報告されました。この研究の要約はPDFファイルで読めます(P220)。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。ヨーロッパにおけるネアンデルタール人と現生人類の相互作用には、ネアンデルタール人の消滅と現生人類の繁栄の理由を解明する重要な手がかりになりそうなこともあって、古くから強い関心が寄せられてきました。

 古代DNA研究と最近の考古学的発見の進歩によって、後期ネアンデルタール人と初期現生人類との間の共存は今や充分に確証されています[1、2]。しかし、これらの集団が、いつ、どこで、どのくらいの頻度で遭遇したのかに関して、現時点で理解は限定的です。ヨーロッパ中央部および南東部では、後期更新世のヒト遺骸は疎らなままで、中部旧石器時代から上部旧石器時代への移行の地域的な年代枠組みは依然として理解が充分ではなく、多くの遺跡には申請できる放射性炭素年代が欠けています。

 この報告では第一に、55000~45000年前頃のチェコとドイツとギリシアとモンテネグロとルーマニアとセルビアとスロヴァキアの現時点で利用可能な年代の再調査が提示され、年代測定記録における方法論的問題と空白が考察されます。第二に、この研究では、より広範な共存計画(COEXIST project)の一部としての、ZooMS(Zooarchaeology by Mass Spectrometry、質量分光測定による動物考古学)分析のため収集された骨の断片から得られた、新たな放射性炭素年代が提示されます。そうした骨は、限外濾過法を用いて前処理され、AMS(accelerator mass spectrometry、加速器質量分析法)を用いて年代測定されました。高いコラーゲン収量と特徴的な元素データから、選択された標本はすべて保存状態が良好で、得られた年代は信頼できる、と示唆されます。

 この調査結果はすでに、ルーマニアの2ヶ所の重要な遺跡、つまりシオアレイ=ボロステニ洞窟(Peștera Cioarei-Boroșteni)遺跡およびナンドゥル=スプルカタ(Nandru-Spurcată)遺跡への貴重な知見をもたらしました。シオアレイ=ボロステニ洞窟の4点の新たな年代は、同じ状況の以前に刊行された年代より顕著に古くなっています。この調査結果によって、ネアンデルタール人と現生人類の共存に関する研究を、以前には検討されていなかった層序へと転換させる必要が生じます。ナンドゥル=スプルカタ遺跡では、非較正で30000~5475年前頃の範囲の以前に刊行された年代は、記録の不備の結果もしくは再移動の証拠かもしれません。この新たな年代の範囲は較正年代で45000~40000年前頃で、この地域におけるネアンデルタール人と現生人類の共存を理解するための、ナンドゥル=スプルカタ遺跡の可能性を確証します。

 この計画は継続中で、広範な遺跡からのさらなる年代測定は、ヨーロッパ中央部および南東部における中部旧石器時代から上部旧石器時代への移行の地域的年表を改訂し、これらの地域におけるネアンデルタール人と現生人類の共存の研究への強力な基盤を提供します。


参考文献:
Tait F. et al.(2025): Refining the chronology of Neanderthal–Homo sapiens coexistence in central and southeast Europe. The 15th Annual ESHE Meeting.

[1]Mylopotamitaki D. et al.(2024): Homo sapiens reached the higher latitudes of Europe by 45,000 years ago. Nature, 626, 7998, 341–346.
https://doi.org/10.1038/s41586-023-06923-7
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[2]Hajdinjak M. et al.(2021): Initial Upper Palaeolithic humans in Europe had recent Neanderthal ancestry. Nature, 592, 7853, 253–257.
https://doi.org/10.1038/s41586-021-03335-3
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