大河ドラマ『べらぼう～蔦重栄華乃夢噺～』第37回「地獄に京伝」

　今回は、恋川春町（倉橋格）自害後の蔦屋重三郎の挑戦が、北尾政演（山東京伝）との関係を中心に描かれました。耕書堂から刊行された恋川春町（倉橋格）作の『鸚鵡返文武二道』に松平定信（田安賢丸）が激怒したことから、恋川春町が自害に追い込まれ、幕政を主導する定信の出版統制に重三郎がどう対抗するのか、注目していました。重三郎は『鸚鵡返文武二道』の絶版処分後も、山東京伝の黄表紙で幕府から身上半減の処分を受けているので、まずは政演を中心に話が展開していくことは予想されましたが、重三郎は、朋誠堂喜三二（平沢常富）や大田南畝（四方赤良）のような武家ではなく、町民の政演に黄表紙の執筆を依頼します。

　しかし、政演はすでに挿絵で処分を受けており、春町の件も間近で見ているだけに尻込みし、それを重三郎が必死に説得することで、今回は話が動いていきます。政演は風刺にはならない黄表紙なら執筆する、と受け入れるものの、重三郎はもちろん不満です。歌麿と政演は、重三郎が春町の自害の件で冷静さを失っているのではないか、と懸念します。一方、定信はますます倹約路線を強めていき、それが吉原も含めて町民側にも強く影響を及ぼすわけで、ここに来て、江戸市中と幕閣政治の二元描写が融合してきた感もあり、この点で上手く構成されているように思います。歌麿と政演は、幕閣ににらまれないような黄表紙にしよう、と重三郎に提案しますが、重三郎は懐疑的です。

　それでも重三郎は政演に執筆させ、重三郎は改めて政演の文才に感心しますが、政演は心学的価値観を取り入れた『心学早染艸』を執筆し、これが定信の改革路線を支持するものになるとして、重三郎は激怒します。黄表紙は面白くなければ廃れる、と考える政演に対して、定信の改革路線に抗わねば黄表紙など娯楽は弾圧される、と重三郎は考えており、両者ともに正論とも言えますが、重三郎が政演に激怒したのは、歌麿と政演が懸念していたように、重三郎が冷静さを欠いていることもあったのでしょうが、政演が保身に走っている、と感じたことが最も大きかったように思いますし、政演もそれを認識しているように見えました。衝突した重三郎と政演がどう和解するのかも、注目されます。幕閣政治では尊号一件も少し描かれ、定信失脚に向けての布石も描かれています。

　気になるのは今後の時間配分で、本作はおそらく48回で完結でしょうから、残りは11回となります。この間に、第38回と第39回で京伝と重三郎の処罰へと至る過程が、残り9回で喜多川歌麿（唐丸、捨吉、雄助）の大成と東洲斎写楽の売り出しが描かれるとなると、やや窮屈な感もあります。さらに、重三郎が本居宣長と面会することもおそらく描かれるでしょうから、なおさら駆け足になることを懸念しています。とくに、写楽の描写が駆け足になるのではないか、と気になっていますが、そもそも本作で写楽がどう描かれるのか、現時点では明かされておらず、写楽と同一人物とされる能役者の斎藤十郎兵衛の配役もまだ公表されていません。本作における歌麿の扱いの大きさから、写楽と歌麿が同一人物との単純な設定ではないとしても、写楽に歌麿も深く関わっている可能性は高いように思うので、本作で写楽がどう描かれるのか、たいへん注目しています。