パプアニューギニアの人口史

 パプアニューギニアの人口史に関する研究(Mondal et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。パプアニューギニアもしくはニューギニア島やオーストラリア大陸やタスマニア島などを含めて更新世に形成されていた広大なサフル大陸は、現生人類(Homo sapiens)が初期に定着した地域である点や、サフル大陸の初期現生人類集団の子孫と考えられるパプア人やオーストラリア先住民のゲノムには非アフリカ系現代人ではとくに高い割合の種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)由来の祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)が存在する点から、現生人類の拡散史の解明において注目されています。

 こうしたサフル大陸の初期現生人類集団の子孫と考えられるパプア人やオーストラリア先住民の非アフリカ系現代人における系統的位置づけについては、ユーラシアの東西の共通祖先集団と分岐した集団の子孫なのか、それともユーラシアの東西系統が分岐した後で、ユーラシア東部系統内で分岐したのか、見解が分かれていました。本論文は、パプアニューギニアの人々の新たなゲノムデータから、パプアニューギニアの人々が現代人ではユーラシア西部集団よりもアジア東部集団の方と遺伝的に近いことや、過去の強いボトルネック(瓶首効果)を示しています。また本論文は、非アフリカ系現代人の主要な祖先集団の前にアフリカからユーラシアへと拡散した現生人類集団からパプアニューギニアの人々への遺伝的寄与は、なかったとしてもデータを適切に説明でき、あったとしても小さな寄与だろう、とも推測しています。ただ、祖先人口集団間の移住率をどう見積もるかなど課題もあり、現時点で断定するのは時期尚早でしょう。おそらく、非アフリカ系現代人の各地域集団では、複雑な分岐と混合があり、単純な分岐では把握できないのではないか、と予想しています。

 以下の略称は、PNG(Papua New Guinean、パプアニューギニア人)、RCCR(Relative Cross Coalescent Rate、相対的交差合祖率)、OOA(Out Of Africa、出アフリカ)、MSMC(Multiple Sequentially Markovian Coalescent、複数連続マルコフ合祖)、ABC-DLS(Approximate Bayesian Computation with Deep learning and sequential Monte Carlo、深層学習および連続モンテカルロでの近似ベイズ計算)、SGDP(Simons Genome Diversity Panel、サイモンズゲノム多様性パネル)、cSFS(cross-population Site Frequency Spectrum、人口集団間部位頻度範囲)、LD(linkage disequilibrium、連鎖不平衡)、kb(kilo base、千塩基対)です。


●要約

 PNGの人口統計学的歴史は、ニューギニアにおける初期の定着やその相対的孤立やかなりのデニソワ人祖先系統のため、関心を集めています。先行研究は初期に分岐した出アフリカ人口集団との混合を示唆しました。本論文は、新たに公表された標本を用いて、PNG人口集団を再調査します。その調査結果から、RCCR曲線で観察された変化は、より早い出アフリカ人口集団からの寄与ではなく、強い瓶首効果とPNG人口集団のより低い人口増加率によって起きている、と論証されます。初期の出アフリカ人口集団からの小さな寄与の可能性は除外できませんが、観察された結果の説明にはもはや必要ありません。本論文の分析は、PNGを他のアジア東部人口集団の姉妹集団に位置づけます。本論文は、PNG人口集団についての知見を提供し、RCCR曲線の解釈における人口集団固有の影響を浮き彫りにします。


●研究史

 PNG集団は、その徳毒と那人口統計学的歴史のため、世界で最も興味深い集団の一つです。OOA事象に続いて、現生人類は少なくとも5万年前頃とひじょうに早い時期にニューギニアに居住しました[1]。それ以降、ニューギニアの人口集団は他のOOA人口集団(ヨーロッパやアジア東部の人口集団など)と比較して相対的に孤立したままで[3~5]、強い瓶首効果を経てきました。PNG人口集団内のかなりのデニソワ人祖先系統[7、8]、およびデニソワ人とパプア人祖先系統との間の強い相関[9]が、PNG集団の遺伝的特異性に寄与しています。

 研究者は、PNG集団のゲノムには、アフリカの人口集団とOOA人口集団との間で示されている主要な分岐よりずっと早い12万年前頃に、アフリカの人口集団から分岐したかもしれない現生人類集団との混合の証拠を含んでいる、と示唆してきました[4、10]。しかし、この初期に分岐した人口集団がPNG集団のゲノムに寄与した程度は、依然として継続中の議論の主題です[3、4、11]。興味深いことに、この初期移住仮説は考古学者によってより広く受け入れられています[13~15、17]。

 先行研究[4]は、とくにRCCR分析を通じて、この仮説を支持しています。このRCCR分析では、PNG人口集団は他のOOA人口集団よりずっと速くにアフリカの人口集団と分岐した、と示唆されています。その研究では、RCCR曲線によって示唆されるより早い分岐はPNGに固有のより速いOOA人口集団からの寄与を反えしているかもしれない、と主張されました。RCCR曲線におけるこの変化は深く説明されていますが[3、5]、一部の研究者は、この原因を真の人口統計学的事象ではなく小さな標本規模や位相化誤差の技術的人口産物に帰しています。

 PNG人口集団の主要な系統の起源も、議論になってきました。一部の研究者は、PNG人口集団はアジア太平洋人口集団と密接に関連し、他のアジア人集団の姉妹集団になる、と提案しています[11、18]。逆に、他の研究者は、PNG集団がヨーロッパとアジア東部両方の人口集団にとって外群である、と主張しています[3、9、19]。

 分析手法の最近の進歩は、これらの議論に知見を提供できるかもしれません。たとえば、ABC-DLSによって、ニューラルネットワークを訓練するための、模擬実験に由来する要約統計量の使用が可能となり、これは実証的データに基づく人口統計学的モデルおよび媒介変数を予測できる可能性が最も高くなります。さらに、Relateソフトウェアは、当初、より高い堅牢性で何千もの個体の分析を可能とするMSMC手法で用いられた、隠れマルコフモデルの改良版の採用によってRCCR分析を強化します。

 本論文では、1000人ゲノム計画のデータおよび最先端の手法と組み合わせた、最近刊行された標本を用いて、PNG人口集団の人口統計学的歴史を再調査します。この手法によって、これら長期にわたる問題により高い精度で取り組むことが可能となりました。のず、実証的なRCCR曲線を生成し、以前に観察された変化は小さな標本規模もしくは位相化誤差の結果である可能性は低い、と論証します。模擬実験を通じて、PNG人口集団はじっさいにアジア東部人口集団の島杭集団で、この変化はおそらくそり以前のOOA人口集団からの寄与には起因しない、とさらに示されます。むしろ、それはPNG人口集団における強い瓶首効果およびより緩やかな人口増加の結果である可能性が高そうです。


●実証的データの分析

 Relate[21]を用いて、経時的な有効人口規模およびRCCRの変化が推定されました。堅牢性を確保するために、人口集団あたり40点の無作為標本を用いてこの分析が実行され、10回繰り返されて、信頼区間が生成されました(図1)。有効人口規模の結果は、以前の調査結果[5、21]とおおむね一致します。しかし、RCCR分析はPNG高地人口集団とアフリカ人口集団(参照としてヨルバ人が用いられました)との間の10万年前頃と顕著に古い分岐を明らかにし、RCCR値は68%(95%信頼区間で66~70%)でした。これは、同時代のヨーロッパ人(83%、95%信頼区間で81~85%)やアジア東部人(83%、95%信頼区間で82~84%)とは対照的です。同様の変化は、PNGの低地人を用いても見られました。以下は本論文の図1です。
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 PNGにおけるこのより早期の分岐は、MSMC分析を用いてのさまざまな研究によって指摘されてきました[4、5]。先行研究[4]では、この変化は最初のOOA人口集団からPNGへの寄与に起因するかもしれない、と示唆されましたが、他の研究では、PNGのゲノムにおける位相化誤差に起因するかもしれない、と推測されました。本論文では、PNGの249点の標本を用いて位相化されたことを考えると、この変化を引き起こす系統的な位相化誤差の可能性は最小限なので、以前主張されたようなこの変化の説明の可能性[2]は低そうです。この寄与は、SGDP[27]から物理的にマッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)されたデータセットを用いた分析によって裏づけられますが、これらの結果はより小さな標本規模(1人口集団あたり2点)のため、さほど決定的ではありません。同様の変化はアンダマン諸島人口集団でも指摘されましたが、アンダマン諸島人の標本規模は同様に小さいものです(9点)。アンダマン諸島人がとくに興味深いのは、多量のデニソワ人祖先系統もしくはより早期のOOA人口集団からの寄与を有していないからで[11、18]、これはRCCRの変化のあり得る原因の絞り込みに役立ちます。


●PNGの人口統計学的歴史の再構築

 観察されたRCCRの変化を引き起こした人口統計学的過程の調査のため、A・O・M・AX・OXと分類表示された 5通りの妥当な人口統計学的想定が検証されました(図2)。モデルAでは、PNG人口集団とアジア東部人口集団は姉妹集団です[11、18]。モデルOでは、PNG人口集団はヨーロッパとアジア東部両方の人口集団の外群に位置づけられます[3、19]。モデルMはモデルAおよびO両方の要素を組み合わせており、PNG人口集団はアジア東部人口集団の姉妹集団とヨーロッパおよびアジア東部人口集団の外群との間の混合から生じた、と提案します。モデルAXでは、PNG人口集団はアジア東部人口集団の姉妹集団ではあるものの、より早期のOOA人口集団からの流入を受けた、と仮定されます。最後に、モデルOXでは、PNG人口集団はより早期のOOA人口集団からの寄与を受けたものの、残りの祖先系統はヨーロッパおよびアジア東部人口集団の外群に由来しました。人口集団以下は本論文の図2です。
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 本論文は、これら5通りの模擬実験されたモデル下で、cSFSを用いてニューラルネットワークを訓練させました。実証的データから、モデルAが0.05超の高いp値で人口統計学的歴史を最も正確に表している、と示唆されました。この結果は、10kbの隣接する遺伝的領域の除去後でさえ維持され、ゲノムに作用した選択圧が本論文のモデル決定に及ぼした影響は最小限だった、と示唆されます。しかし、初期OOAもしくはユーラシアの外群からの小さな寄与(5%未満)が誤解釈されるかもしれない可能性に留意することは重要であるものの、モデルOXは混合量に関わらず高い角度で却下できます。

 相互に分岐した後の現生人類集団間の低い移住率のモデル(m<5×10⁻⁵、ここでのmはある人口集団から別の人口集団へと移動する個体の割合)も実行され、その結果は依然として一貫していました。しかし、移住率を上げると(m<5×10⁻⁴)、モデルAは依然として上位のモデルでしたが、モデルOの証拠は低くありませんでした。より高い移住率はcSFSにおいて等結果性を生じ、それをニューラルネットワークは区別できず、複数回実行すると一般的に一貫しない結果となりました。

 モデルAの最適な媒介変数(図3)は、以前に確立されたOOAモデルとほぼ一致し、PNG人口集団を含むといくらかり固有の偏差があります。本論文のモデルから、PNGを含めてすべてのOOA人口集団は62400年前頃(95%信用区間で62800~62000年前頃)にアフリカの人口集団(ヨルバ人によって表されます)と分岐し、強い瓶首効果を経た、と示唆されます。52000年前頃(95%信用区間で52800~51600年前頃)に、ネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)がこれらOOA人口集団のゲノムの約4.04%(95%信用区間で3.94~4.11%)に寄与しました【最近の研究(Iasi et al., 2024)では、ネアンデルタール人からOOA人口集団への遺伝子流動は50500~43500年前頃と長期にわたった、と推測されています】。その直後に、ヨーロッパ人とアジア東部人はPNG人口集団から51200年前頃(95%信用区間で51600~50800年前頃)に分岐し、46200年前頃(95%信用区間で46500~45900年前頃)に相互に分岐しました【本文ではこう述べられていますが、図3からは、ヨーロッパ人が51200年前頃にPNGおよびアジア東部人と分岐し、PNGとアジア東部人は46200年前頃に分岐した、と解釈されます】。PNG人口集団はその後、デニソワ人と31200年前頃(95%信用区間で31500~31100年前頃)に混合し、デニソワ人はPNGのゲノムに約3.23%(95%信用区間で3.1~3.34%)寄与しました。以下は本論文の図3です。
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 本論文の分析でも、PNG人口集団(有効人口規模が674個体、95%信用区間で663~689個体)は他のOOA人口集団(つまり、ヨーロッパ人の有効人口規模は3512個体で、95%信用区間では3423~3589個体となり、アジア東部人の有効人口規模は1771個体となり、95%信用区間では1730~1799個体)より深刻な瓶首効果を経ており、以前に刊行されたデータと一致して、他のOOA人口集団より低い増加率だった、と示されます。本論文の媒介変数推定は一般的に個々のモデル内では堅牢ですが、根底にあるモデルが変わると、大きな変化があります。人口集団の正確な人口統計学的モデルの判断が進行中の試みであることを考えると、媒介変数の推定値は独立した結果ではなくモデルの補足と考えるべきです。


●PNGの人口統計学的モデルとRCCR曲線

 RCCR曲線は、Relateを用いて、モデルAの最適媒介変数に由来する模擬実験されたデータで生成されました。これらの曲線は、他のOOA人口集団と比較して、PNGとヨルバ人のより古い分岐へと向かう実証的データを再現しました(図4)。この変化は、PNG人口集団が経た、深刻な瓶首効果およびより低い増加率によっておもに引き起こされているようです。注目すべきことに、古代型からの遺伝子移入のないより単純なモデルは、同様の変化を生成しました。30万年前頃より早期の分岐のアフリカの1人口集団[35]を模擬実験すると、RCCRの変化は以前に観察された[3、4]より顕著ではなくなり、アフリカの人口集団の分岐の時期も結果に影響を及ぼす、と示唆されます。以下は本論文の図4です。
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 この現象をさらに調べるために、影響の範囲を定める最小限のモデルの使用によって、さまざまな瓶首効果強度および増加率下で、PNG人口集団の模擬実験が実行されました。RCCRの変化は、PNG人口集団の瓶首効果と増加率の両方に影響を受けます。最も顕著なRCCRの変化のさらなる分析(PNGについて瓶首効果では500個体で、指数関数的増加がない場合)から、PNG人口集団の合着(合祖)率の推定値は、PNG人口集団内およびアフリカの人口集団間の両方で、この現象に影響を受ける、と明らかになりました。これがRCCR曲線にも同様に影響を及ぼすのは、RCCRがこれらの合祖率推定値の比率だからです。この変化はおもにPNGの合祖率推定値の変化によって起きており、事象自体よりもずっと長期間にわたった、実際の事象よりずっと前に起きた人口統計学的歴史(有効人口規模の変化)に影響を受けていました[36]。PNGの瓶首効果は5万年前頃に起きましたが、この事象は10万年以上前の合祖率推定値に影響を及ぼしました。したがって、RCCRの推定値は、ヨーロッパ人よりもPNGの方で逸脱していました。

 PNGと他のOOA人口集団との間のRCCR曲線でも、同様のパターンが観察されました(図4)。ヨーロッパ人は本論文の模擬実験モデルではアジア東部およびPNG人口集団の真の外群ですが、RCCR分析はヨーロッパ人とアジア東部人との間よりもPNGとヨーロッパ人もしくはアジア東部人との間の方で大きな分離を示します。実証的なRCCR分析におけるこの観察は、PNGがヨーロッパ人とアジア東部人の外群である、との当初の仮説[4]の重要な要因でした。


●考察

 本論文は、先行研究[4]で観察された変化の再現に成功し、物理的にマッピングされた配列と統計的に位相化された配列両方における存在が確証され、これには100点以上のPNG標本が含まれていました。この一貫性から、この変化は再現可能と示唆されますが、その根本的原因は先行研究[4]の元々の解釈とは異なるかもしれません。ABC-DLSを用いての本論文の分析は、PNG人口集団にとってより単純な人口統計学的モデルを裏づけ、より早期のOOA人口集団からの実質的な検出可能である寄与がない、アジア東部人の姉妹集団としてのPNGを提案します。この結果は、本論文の調査結果の堅牢性を評価するためにそれぞれ10回分析された、3点の独立したcSFSデータセットで再現されました。モデル間の区別能力の低かった高い移住率のモデルを除いて、本論文の結果は一貫したままでした。本論文の調査結果の堅牢性では、実証的データから得られたcSFSデータセットの数を増やすことは、この文脈では不要である、と示唆されます。

 最適な媒介変数のモデルAは、Relateの結果およびアレル(対立遺伝子)頻度範囲の両方で実証的データとよく一致します。SFSは局所的な組換え率に影響を受けないので、本論文のモデル推定はLDのパターンによって偏りません。したがって、実証的なLDパターンと模擬実験されたLDパターンとの間の比較は不要でした。

 興味深いことに、本論文の模擬試験されたモデルから、より低い増加率のより強い瓶首効果はRCCR分析において同様の変化をもたらす可能性があり、それ以前の人口集団の分離の兆候として誤解されるかもしれない、と明らかになります。RCCRは人口集団間の分離時期を推定するための貴重な代理ですが、偏りがないわけではありません。この変化はさまざまな要因によって生じるかもしれず、それには、より早い分岐時期や、より早期に分岐した人口集団との混合[4]や、本論文で論証されたように、人口集団のうち1集団の瓶首効果さえ含まれます。増加率の緩やかなより強い瓶首効果のこの人口統計学的歴史は、アンダマン諸島人口集団も経ており、これは同様にアンダマン諸島人口集団で見られる変化を説明します。したがって、RCCR分析を用いて分岐の系統樹を構築することは、見直す必要があるかもしれません[39]。

 RCCR曲線で観察された変化から、近い過去の瓶首効果は遠い過去における有効人口規模の推定値に影響を及ぼすかもしれない、と示唆されます。注目すべきことに、本論文の模擬実験では、PNGの瓶首効果は観察された変化(最盛期は10万年前頃)よりずっと後(46200年前頃)に、そのずっと前に分離した人口集団(ヨルバ人)とともに起きていました(図4)。この調査結果から、有効人口規模の推定値および交差合祖率の推定値は完全には独立していない可能性があり、以前にも観察されたように、現在の形態ではRCCR分析に影響を及ぼすかもしれない、と示唆されます。さらなる分析では、合祖率の推定値は有効人口規模の真の変化よりずっと速く影響を受けており、それによって、RCCRは合祖率の比率なので、RCCR曲線を変化させる、と示唆されます。さらに、この変化は、サン人集団と類似した、30万年前頃に分離した人口集団を含む模擬実験では存在せず、瓶首効果はより長い分離時間に応じて減少する、と示唆されます。

 本論文の結果は、より早期のOOA人口集団からの寄与が1~5%の間である場合に、本論文のニューラル分析がモデルAXをモデルAとより高い割合で誤分類することも明らかにしています。同様の問題はモデルMで生じており、モデルMでは、外群のヨーロッパ人口集団からの低い寄与(5%未満)は、依然としてモデルAと誤分類される可能性があります。したがって、本論文の分析はこれら未知の亡霊(ゴースト)人口集団からの5%未満の寄与では機能しないものの、モデルOXはモデルAの誤分類で同様の現象を示しません。これら人口集団からの小さな寄与の可能性を完全には除外できませんが、本論文の分析から、そうしたモデルは以前に提案されたようなRCCRの変化[4]の説明に必要ない、と示唆されます。

 本論文の媒介変数推定から、PNG人口集団は他の人口集団と46200年前頃(95%信用区間では46500~45900年前頃)に分離した、と示唆され、これは、PNGの祖先がかつてニューギニアとオーストラリアをつないでいたサフル古代大陸に到達した、とされる考古学的推定値と一致する年表です。さらに、本論文のRelate分析から、PNG人口集団とヨーロッパ人口集団との間の分離時期はOOA人口集団間で観察された中で最長だった、と示唆されます。しかし、本論文のモデルが示唆するように、これはPNGの瓶首効果によって引き起こされた偏り可能性が高そうです。この瓶首効果は、とくにRCCR分析において、分離時期の過大評価につながるかもしれません。実際には、PNG人口集団とアジア東部人口集団は、PNG人口集団とヨーロッパ人口集団との間の分岐より後で分離した可能性がより高そうです。

 PNGの主要系統について、二つの競合する仮説があります。一方の仮説はPNGをアジア東部人口集団の姉妹集団に位置づけますが、もう一方の仮説はPNGをヨーロッパ人およびアジア東部人両方の外群に位置づけます。適切なモデル比較が用いられた、と主張される場合には、これらの仮説間の重要な違いはモデル化手法にあります。【PNGがアジア東部人口集団にとって】姉妹集団仮説を裏づけるモデルが一般的に、人口集団間の一貫した移住率を除外するのに対して[42]、【PNGがアジア東部およびヨーロッパの両人口集団にとって】外群仮説を裏づけるモデルは、かなりの移住率を含んでいます[3]。

 移住を含まないモデルは不完全かもしれませんが、本論文の結果は一貫して、低い移住率(1世代あたりm<5×10⁻⁵個体)を組み込んだ場合でさえ、PNGをアジア東部人口集団の姉妹集団と位置づけています[11、18、42]。本論文のモデルOは、外群に基づくモデル[3、9、19]とひじょうによく類似しています。そうしたモデルが、とくに本論文では欠けている祖先人口集団でかなりの移住率(1世代あたりm>5×10⁻⁵個体)を用いている、ということを考えると、そうしたモデルを本論文のモデルと直接的には比較できません。じっさい、現代の人口集団でさえ高い移住率では、本論文の手法はモデルAとモデルOを高い確実性で区別できませんでした。

 それにも関わらず、本論文では、PNGの主要系統はアジアの姉妹集団に由来し、それは人口集団間の入り組んだ祖先の移住率パターンによって混乱していなかった、と示唆されます。現時点で、祖先の人口集団間の移住率はモデルに基づかない方法では推定できません。これは祖先の人口集団間の高い移住率の使用によるモデルの信頼性を制約し、モデルの構造が堅固ではない場合、過剰適合の危険性が増加します。

 アジア南部および南東部における初期のヒトの定着の化石証拠がヨーロッパもしくはアジア東部より早いことを考えると、祖先の人口集団間の高い移住率を用いて、これらの記録とモデルをより適切に整合させたくなり、それは多くの場合モデルOもしくはOXを支持します。しかし、長期にわたり、広範な地理的距離にわたる祖先人口集団間のかなりの移住率(つまり、外群モデルによって提案されているような、m>5×10⁻⁵)が現実的だったのかどうか、依然として不明です。移住率を想定しない現在のモデルは、古代ゲノムを組み込んだものを含めて、モデルXもしくはOXを支持しません[42]。祖先人口集団はいくらかの遺伝子流動を好感した可能性が高そうではあるものの、これらの移住率のみを、直接的で、モデルに基づかない手法で確証せずに、PNGの人口集団分岐パターンについての主要な説明とすべきではありません。高い祖先の移住率というこの仮説は、そうした期間の古代ゲノムが利用可能になれば、事前に定義されたモデルに依存しない移住率の再計算によって再考されるべきです。

 まとめると、本論文は、PNG人口集団内の、とくな強い瓶首効果および緩やかな人口増加といった独特な人口統計学的事象が、RCCR曲線において観察された変化に影響を及ぼす、重要な要因である、との説得力のある証拠を提供します。これらの調査結果は、PNGの人口統計学的歴史の理解を深めるだけではなく、RCCR曲線の解釈のさいには、人口集団固有の人口統計学的事象を考慮する必要性も強調します。


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