『卑弥呼』第154話「ふたつの密計」
『ビッグコミックオリジナル』2025年9月5日号掲載分の感想です。前回は、日下(ヒノモト)国での穿邑(ウカチノムラ)で厲鬼(レイキ)、つまり疫病が発生した、との報告を山社(ヤマト)でイクメから受けたヤノハが、日下の吉備津彦(キビツヒコ)は日下滅亡の危険があるとしても、捨て身の策で出雲の事代主(コトシロヌシ)を日下に招聘するだろう、と推測するところで終了しました。今回は、厲鬼(レイキ)、つまり疫病が流行している日下(ヒノモト)国の穿邑(ウカチノムラ)で、烏の仮面を被った人物が、祝詞を唱えながら、火を放っている場面から始まります。
この人物はハニヤス(『日本書紀』の武埴安彦命でしょうか)で、かつて叔父の吉備津彦とその双子の姉であるモモソに唆され、自身の野心もあって、父親であるクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)を毒殺しました。ハニヤスの配下の男性は、厲鬼に冒されたとはいえ、女性と子供も含めて邑人を焼き殺したことに後味が悪そうですが、ハニヤスは吉備津彦の命だと言って平然としています。ハニヤスは、穿邑がその昔、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の遠征の行く手を阻んだ極悪人だった宇迦斯(ウカシ)兄弟の本拠地で、土蜘蛛の住処だったことから、災いをもたらす厲鬼を体内に取り込んだのも、日下国に対する謀反だろう、と配下を諭しますが、配下の男性はそれでも後味が悪そうです。ハニヤスは、厲鬼の正体が裳瘡(モカサ、天然痘)と知っているため、甕に収められた女性の遺骸を確認する前に、周囲から人を遠ざけます。ハニヤスは、兎田野(ウタノ)まで北上して西へ進む、と配下に伝えます。
山社(ヤマト)では、ヤノハが事代主(コトシロヌシ)への手紙を書いていましたが、学がないからイクメのように人の心を打つ文は書けそうにない、と自嘲します。ヤノハは、吉備津彦が必ず捨て身の策に出るので、自分が魏から色よい返事を勝ち取るか、吉備津彦が倭の神々を統一するか、目的を先に達成した方が、倭国の未来を握る、と考えていました。自分も手伝う、と言うイクメに、もう決めた、とヤノハは笑みを浮べて言います。それを見たイクメは、付き合いが長いためか、ヤノハの行動を推測できたようで、ヤノハを諌めます。
魏の帯方郡では、トメ将軍の一行に、ミマアキが合流しました。山社からの道中、ミマアキが示斎(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)を務めていました。トメ将軍はミマアキに、帯方郡太守の劉昕が濊と一触即発のため物々しいことを説明します。劉昕が自分たちを受け入れてくれるのか、ミマアキに問われたトメ将軍は、魏までの護衛は承諾してくれたが、もう一つの願いはまだ受け入れてくれない、と答えます。ヤノハは、魏と公孫淵の戦いは約百日で魏の圧勝に終わるだろうが、その戦の最中に使節団が戦場を突破し、魏の都に向かうことを強く願っていおり、トメ将軍はその間の護衛を劉昕に依頼していたわけですが、トメ将軍もこれは無理な願いだろう、と考えていました。ミマアキもこうした無謀な指示の真意をヤノハから聞いていませんでしたが、道中で、この苦難を達成すればなぜ倭国が魏と対等な関係を結べるのか、ある考えが浮んだ、とトメ将軍に伝えます。
魏の洛水では、幽州刺史の毌丘倹に同行している、ヤノハとは旧知の何(カ)と配下のトヒコおよびノヅナが幽州刺史の毌丘倹から、ぼんやり見えるのが都の洛陽と伝えられていました。の見える所までました。感激するトヒコとノヅナに、これからこの世で最も恐ろしい人物である太尉の司馬懿(司馬仲達)に会うのだ、と何は身を引き締めますが、トヒコとノヅナも命を捨てる覚悟があるようです。金砂(カナスナ)国の出雲では、事代主の配下のシラヒコが、近づいてくる舟を警戒していました。その舟にヤノハが乗っている、と気づいたシラヒコが驚くところで今回は終了です。
今回は、山社連合の魏への使節派遣と日下の吉備津彦の思惑が描かれました。吉備津彦とはまた異なる冷酷さを見せるハニヤスはたびたび見せ場があり、本作では重要人物かもしれません。日下の現在の王はビビ王君(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)で、崇神天皇の治世に武埴安彦命は四道将軍の大彦に、その妻は四道将軍の吉備津彦命に謀叛の罪でなどに討たれた、と伝わっています。吉備津彦命は本作の吉備津彦でしょうし、大彦は本作でヤノハに仕える武人のオオヒコと思われるので、本作では崇神天皇(の伝承を踏まえた人物)の時代まで描かれる可能性が考えられます。崇神天皇は開花天皇の息子ですが、まだ作中で崇神天皇を強く示唆する人物は登場していないように思います。ただ、崇神天皇、つまり御間城入彦五十瓊殖天皇は、その名前から本作ではミマアキのことかもしれず、ヤマトというか、纏向遺跡一帯を政治的中心地とする広域王権の成立まで本作では描かれるのかもしれません。それは本作終盤でしょうから、当分は魏への使節派遣と日下の策略を中心に話が展開しそうですが、日下というか吉備津彦は、疫病(天然痘)を西日本に広げ、広域の民を人質として、事代主の良心を利用することで、事代主を屈服させようとしているのかもしれません。ヤノハが吉備津彦の策略にどう対応し、魏に倭国の価値をいかに高く認めさせようとするのかが、当分の主題となりそうですが、間もなく登場するだろう司馬懿も含めて、たいへん楽しみです。なお、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。
この人物はハニヤス(『日本書紀』の武埴安彦命でしょうか)で、かつて叔父の吉備津彦とその双子の姉であるモモソに唆され、自身の野心もあって、父親であるクニクル王(記紀の孝元天皇、つまり大日本根子彦国牽天皇でしょうか)を毒殺しました。ハニヤスの配下の男性は、厲鬼に冒されたとはいえ、女性と子供も含めて邑人を焼き殺したことに後味が悪そうですが、ハニヤスは吉備津彦の命だと言って平然としています。ハニヤスは、穿邑がその昔、サヌ王(記紀の神武天皇と思われます)の遠征の行く手を阻んだ極悪人だった宇迦斯(ウカシ)兄弟の本拠地で、土蜘蛛の住処だったことから、災いをもたらす厲鬼を体内に取り込んだのも、日下国に対する謀反だろう、と配下を諭しますが、配下の男性はそれでも後味が悪そうです。ハニヤスは、厲鬼の正体が裳瘡(モカサ、天然痘)と知っているため、甕に収められた女性の遺骸を確認する前に、周囲から人を遠ざけます。ハニヤスは、兎田野(ウタノ)まで北上して西へ進む、と配下に伝えます。
山社(ヤマト)では、ヤノハが事代主(コトシロヌシ)への手紙を書いていましたが、学がないからイクメのように人の心を打つ文は書けそうにない、と自嘲します。ヤノハは、吉備津彦が必ず捨て身の策に出るので、自分が魏から色よい返事を勝ち取るか、吉備津彦が倭の神々を統一するか、目的を先に達成した方が、倭国の未来を握る、と考えていました。自分も手伝う、と言うイクメに、もう決めた、とヤノハは笑みを浮べて言います。それを見たイクメは、付き合いが長いためか、ヤノハの行動を推測できたようで、ヤノハを諌めます。
魏の帯方郡では、トメ将軍の一行に、ミマアキが合流しました。山社からの道中、ミマアキが示斎(ジサイ、航海のさいに、万人の不幸・災厄を一身に引き受けて人柱になる神職で、航海中は髭を剃らず、衣服を替えず、虱も取らず、肉食を絶ちます)を務めていました。トメ将軍はミマアキに、帯方郡太守の劉昕が濊と一触即発のため物々しいことを説明します。劉昕が自分たちを受け入れてくれるのか、ミマアキに問われたトメ将軍は、魏までの護衛は承諾してくれたが、もう一つの願いはまだ受け入れてくれない、と答えます。ヤノハは、魏と公孫淵の戦いは約百日で魏の圧勝に終わるだろうが、その戦の最中に使節団が戦場を突破し、魏の都に向かうことを強く願っていおり、トメ将軍はその間の護衛を劉昕に依頼していたわけですが、トメ将軍もこれは無理な願いだろう、と考えていました。ミマアキもこうした無謀な指示の真意をヤノハから聞いていませんでしたが、道中で、この苦難を達成すればなぜ倭国が魏と対等な関係を結べるのか、ある考えが浮んだ、とトメ将軍に伝えます。
魏の洛水では、幽州刺史の毌丘倹に同行している、ヤノハとは旧知の何(カ)と配下のトヒコおよびノヅナが幽州刺史の毌丘倹から、ぼんやり見えるのが都の洛陽と伝えられていました。の見える所までました。感激するトヒコとノヅナに、これからこの世で最も恐ろしい人物である太尉の司馬懿(司馬仲達)に会うのだ、と何は身を引き締めますが、トヒコとノヅナも命を捨てる覚悟があるようです。金砂(カナスナ)国の出雲では、事代主の配下のシラヒコが、近づいてくる舟を警戒していました。その舟にヤノハが乗っている、と気づいたシラヒコが驚くところで今回は終了です。
今回は、山社連合の魏への使節派遣と日下の吉備津彦の思惑が描かれました。吉備津彦とはまた異なる冷酷さを見せるハニヤスはたびたび見せ場があり、本作では重要人物かもしれません。日下の現在の王はビビ王君(記紀の開花天皇、つまり稚日本根子彦大日日天皇でしょうか)で、崇神天皇の治世に武埴安彦命は四道将軍の大彦に、その妻は四道将軍の吉備津彦命に謀叛の罪でなどに討たれた、と伝わっています。吉備津彦命は本作の吉備津彦でしょうし、大彦は本作でヤノハに仕える武人のオオヒコと思われるので、本作では崇神天皇(の伝承を踏まえた人物)の時代まで描かれる可能性が考えられます。崇神天皇は開花天皇の息子ですが、まだ作中で崇神天皇を強く示唆する人物は登場していないように思います。ただ、崇神天皇、つまり御間城入彦五十瓊殖天皇は、その名前から本作ではミマアキのことかもしれず、ヤマトというか、纏向遺跡一帯を政治的中心地とする広域王権の成立まで本作では描かれるのかもしれません。それは本作終盤でしょうから、当分は魏への使節派遣と日下の策略を中心に話が展開しそうですが、日下というか吉備津彦は、疫病(天然痘)を西日本に広げ、広域の民を人質として、事代主の良心を利用することで、事代主を屈服させようとしているのかもしれません。ヤノハが吉備津彦の策略にどう対応し、魏に倭国の価値をいかに高く認めさせようとするのかが、当分の主題となりそうですが、間もなく登場するだろう司馬懿も含めて、たいへん楽しみです。なお、残念ながら次号は休載のようです。最近は休載が増えてきた感もあり、まだ完結までかなり時間を要しそうなだけに、やや心配ではあります。
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