インドのアシューリアン

 インド北東部のアシューリアン(Acheulian、アシュール文化)石器を報告した研究(Vaishnav et al., 2025)が公表されました。本論文は、インドのソン川上流(Upper Son Valley)のチャッティースガル(Chhattisgarh)州のペンドラ(Pendra)のアマルカンタク丘陵(Amarkantak Hill)からマディヤ・プラデーシュ(Madhya Pradesh)州のバンサガール湖(Bansagar Lake)までのアシューリアン前期~後期にまたがる遺跡での調査結果を報告しています。こうしたアシューリアンの担い手がどのホモ属系統だったのか、今後の研究の進展が期待されます。


●要約

 インドのソン川上流におけるアシューリアン集団の居住:初期の居住と環境への洞察インドのソン川上流の丘陵地帯内では、8ヶ所のアシューリアン遺跡が生態学的研究の不充分な環境に位置しています。合計1348点のアシューリアン人工遺物がこれらの遺跡で特定され、おもに高エネルギー堆積状況で保存されており、人類居住の更新世環境および利用可能な石器技術への知見を提供します。


●研究史

 アシュール文化は、ヒトの進化史における最も持続的な期間の一つを表しています。アジア南部における最古級のアシューリアン石器の年代は150万年前頃で(Pappu et al., 2011)、最新の、ユーラシアにおいて最新となる大型剥片アシューリアンは14万~10万年前頃万年前頃のソン川中流域から発見されました。ソン川(図1)には第四紀堆積物に保存された独特な考古学的記録があり、アジア南部におけるアシュール文化およびその環境史の理解に重要です。ソン川流域は更新世人類の拡散経路沿いに位置しており、アジア南部への初期のヒトの拡散に関する研究について世界的な重要性があります。

 更新世の気候変動は地域的および時間的両方で、インドにおける人類の拡散および人口動態に影響を及ぼした重要な原因として認識されてきました。1960年代以降、ソン川流域における広範な考古学的研究は中流域および下流域に焦点を当てており(Haslam et al., 2011)、ソン川流域におけるアシュール文化を明らかにしてきました。しかし、ソン川上流域は、アジア南部における人類進化と関連する重要な問題に対処できる可能性にも関わらず、依然としてほぼ研究が行なわれていませんでした。この空白を埋めるために、ソン川上流域のアシューリアン遺跡群の、石器の多様性や石材組成や保存状態や層序や堆積環境が調べられ、が人類の拡散や技術的適応や地域的な古環境の変動性のより深い理解が目指されました。


●手法

 ソン川上流域はチャッティースガル州のペンドラのアマルカンタク丘陵からマディヤ・プラデーシュ州のバンサガール湖において、その源から2022~2023年にかけて体系的に調査されました(図1)。河川と地形と崖部と小峡谷に沿った広範な調査が、考古学的遺跡の特定と岩石および地質構造状況のりかいのため実行されました。収集されたGPS(Global Positioning System、全地球測位体系)データは、公開されている地理情報体系QGIS(第3.32版)へと統合され、ソン川上流域の岩石地図上でアシューリアン遺跡の空間的分布が生成されました。以下は本論文の図1です。
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 小峡谷の浸食によって露出し、アシューリアン遺物と関連する各地点の複合地層(図2)は、堆積史を理解するために、アドビ社のIllustrator(第27.9.3版)を用いて作成されました。石器は10m規模の歩行者用横断線を用いての、体系的な無作為標本抽出で収集されました。4人1組が遺跡を直線的に歩き、両側を約1m調べました。横断線は200m間隔で設置され、調査区域全体の約5%を占めました。この間隔内で観察された人工遺物はが、収集および記録されました。石器の多様性とそせいと景観利用を理解するために、類型学と石材の特徴づけが行なわれました。以下は本論文の図2です。
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●結果

 調査では、ソン川上流域の第四紀層と関連する8ヶ所の開地アシューリアン遺跡が特定され、それはゴンドワナ累層群の砂岩と複雑な片麻岩の岩盤の上に重なっています。これらの岩相形成(たとえば、露頭)は、ソン川上流域において道具製作のための石材の重要な供給源として機能した可能性が高そうです。第四紀層はいくつかの堆積単位によって特徴づけられ、研究対象の8ヶ所の地点の層序はおおむね一致しており、わずかな横方向の違いしかなく、安定した河川堆積環境が示唆されます(図2)。露出した堆積単位はおもに砂質沈泥と砂利の混合堆積物で構成されており、ローム土壌と赤みがかったローム土壌の散在した層が最上層を形成している一方で、カルクリートとラテライトは稀です。考古学的層はおもに、石英と砂岩と珪岩で構成される亜球形から亜角形の砂利や玉石で構成され、その下には砂質沈泥があり、高エネルギーから低エネルギーへの堆積環境の移行を反映しています。したがって、人工遺物のほとんどはソン川上流域における高エネルギー堆積条件と関連しています。

 合計1348点の石器が、新たに特定されたアシューリアン遺跡から収集されました。握斧がとくに多く、ソン川左岸のマフダ(Mahuda)遺跡では広範に記録された一方で、鉈状石器はほとんどの遺跡でより少ない数が存在していました。大型もしくは中型の剥片は両面形成の原形として頻繁に使用されており、薄い握斧や鉈状石器が得られました(図3および図4)。以下は本論文の図3です。
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 チルハリ(Chilhari)遺跡とセマルパハ(Semarpakha)遺跡の石核の予備的観察は、ルヴァロワ(Levallois)技術を論証します。人工遺物は珪岩と砂岩と石英と燵岩から作られており(図3および図4)、細粒から中粒の珪岩が最も多く、これはおそらく、この地域における露頭の利用可能性に起因します。石材はおもに河川の玉石と小石から調達され、例外は、近くの露頭から調達された可能性が高い、粗粒の砂岩が明確に選好されたチルハリ遺跡で、それはアシューリアンの両面石器の製作で示されています。以下は本論文の図4です。
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 ソン川上流域の石器群はおもに、剥片(65.8%)と握斧(14.9%)と鉈状石器(4.3%)で構成されており、礫器(0.5%)や再加工石器(7.8%)や石核(6.3%)が伴います。注目すべきことに、シルパハリ(Silpahari)遺跡では47点の握斧が出土したのに、鉈状石器は出土しておらず、道具組成における遺跡間の差異が浮き彫りになり、景観利用の理解に手がかりを提供します。以下は本論文の図5です。
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 チチョーナ(Chichgohna)遺跡とシルパハリ遺跡の石器は摩耗していませんが、セマルパハ遺跡の石器は高度に風化して摩耗しており、チルハリ遺跡とドゥハヌハリ(Dhanuhari)遺跡とカサ(Kasa)遺跡とマフダ遺跡の人工遺物は、新しいものから中程度に摩耗したものまであり、高エネルギー堆積環境における多様な保存状態を反映しています(図5)。


●まとめ

 8ヶ所の開地考古学的遺跡の報告は、層序が一貫し、アシューリアン道具製作の証拠があり、更新世における人類進化についてのソン川上流地の重要性を強調します。石器群の範囲は前期~後期アシューリアンにまたがり、例外は、より小さくてより薄い握斧が存在し、鉈状石器が存在しないため、後期アシューリアン段階が示唆されるシルパハリ遺跡です。これは、アジア南部における後期アシューリアンの両面石器は平均的に、それ以前の両面石器よりも薄い、との先行研究による観察を裏づけます。

 アシューリアン人工遺物の堆積環境との関連から、ソン川上流域はアジア南部での更新世人類の初期拡散において好適な水の豊富な条件を提供した、と示唆され、とくに、ナルマダ川とソン川の回廊を通る東西の地域間の接続を浮き彫りにします。露出した岩盤や川の小石や玉石などの地元で調達された石材の利用は、人類の適応性と景観利用を反映しています。細粒から中粒の珪岩など高品質な石材への選好を伴う景観物質の戦略的使用は、よく成形されて左右対称の両面石器の製作とともに、ソン川上流域におけるアシューリアン人口集団の認知意識を浮き彫りにし、アジア南部におけるアシュール文化の理解に寄与します。


参考文献:
Haslam M. et al.(2011): Late Acheulean hominins at the Marine Isotope Stage 6/5e transition in north-central India. Quaternary Research, 75, 3, 670-682.
https://doi.org/10.1016/j.yqres.2011.02.001
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Pappu S. et al.(2011): Early Pleistocene Presence of Acheulian Hominins in South India. Science, 331, 6024, 1596-1599.
https://doi.org/10.1126/science.1200183
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Vaishnav HK, Janardhana B, and Jha DK.(2025): Acheulean habitation in the Upper Son Valley, India: insights into early occupation and environment. Antiquity, 99, 406, e27.
https://doi.org/10.15184/aqy.2025.20

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