出アフリカ前のアフリカにおける現生人類の拡大

 出アフリカ前のアフリカにおける現生人類(Homo sapiens)の拡大に関する研究(Hallett et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。非アフリカ系現代人の遺伝的祖先系統(祖先系譜、祖先成分、祖先構成、ancestry)のほとんどは、7万~5万年前頃にアフリカから拡散した小規模な現生人類集団に由来します。本論文は、考古学的データと古気候データなどを用いて、この非アフリカ系現代人の主要な祖先集団の出アフリカの前に、現生人類がアフリカで生息域(niche)を拡大した、と示しています。

 以下の略称は、SDM(species distribution model、種分布モデル)、MIS(Marine Isotope Stage、海洋酸素同位体ステージ)、LAI(leaf area index、葉面積指数)、HadCM3(Hadley Centre Coupled Model, version 3、ハドレー研究所結合モデル第3版)、PCESM(Transient Community Earth System Model、遷移群衆地球体系モデル)、GAM(generalized additive model、一般化付加モデル)、AIC(Akaike information criterion、赤池情報量基準)、BCI(Boyce continuous index、ボイス連続指数)、HE(Heinrich Event、ハインリッヒ事象)です。


●要約

 現在のすべてのユーラシア人の祖先系統のほとんどは、5万年前頃にアフリカから拡散した小さな人口集団にさかのぼります[1~9]。対照的に、化石証拠はアフリカからのそれ以前の移動を証明しています[10、11、14、15]。これら一連の証拠は、初期拡散がその後の大きな拡散の波に殆ど若しくは全く寄与しなかった場合にのみ、一致できます。したがって、重要な問題は、どの要因が、アフリカ外での長期定着につながった、成功したその後の拡散を促進したのか、ということに関するものです。本論文は、アフリカ内でのヒト生息域幅における顕著な拡大がその後の拡散に先行することを示します。年代測定された考古学的遺跡の汎アフリカデータベースが構築され、SDMを用いて、過去12万年以上にわたる生物気候学的生息域の変化が定量化されました。その結果、ヒト生息域は7万年前頃から大きく拡大し始め、この拡大は森林から乾燥した砂漠まで多様な種類の生息地のヒトの利用増加によって駆動された、と分かりました。したがって、5万年前頃以後のアフリカから拡散したヒトは、気候的に困難な生息地に遭遇したさいに、人類の中でも独特な生態学的柔軟性を備えており、これはヒトの適応的成功の重要な機序を提供します。


●研究史

 ユーラシアの人類との交雑のパターンを含めて遺伝学的証拠から、アフリカ外のすべての現代人集団は、その祖先系統のほとんどが5万年前頃に始まった世界規模の拡大に由来する、と示唆されています[1~9]。しかし、化石記録では、それ以前の拡散も起きていた、と示されています[10、11、14~16]。アフリカからのこれらの拡散はおそらく、サハラ・アラビア乾燥地帯内の繰り返された湿潤期に起きており、とくに125000年前頃の最終氷期では顕著でした[10]。したがって、重要な問題は、これら初期の拡散が、現在の非アフリカ系人口集団の検出可能な遺伝的祖先系統への寄与に充分ではなく、初期現生人類がアフリカ人の地域で長期の存続可能な人口集団の確立に失敗した理由に関するものです。

 研究者はアフリカからの現生人類の後期拡散について、さまざまな説明を提案してきました。アフリカにおける急激な気候変化[18]およびヒトの認知と技術と生計における大きな変化が、象徴的な意思疎通や投射武器の開発のヒト特有の能力など、新たな「生息域拡大」革新の発達を可能にした、と研究者は考えてきました[19、21]。しかし、複雑な武器は今やアフリカにおいて顕著な時間深度で示されてきており[24]、象徴的行動の繰り返しの痕跡は、アフリカ[26]とアジア南西部の両方において少なくともMIS5(13万~71000年前頃)には存在します。

 6万年前頃までに、アフリカ北東部およびアジア南西部の近隣地域の中期石器時代/中部旧石器時代の考古学的記録はかなり一般的となり、とくに注目すべき地域固有の共有された特徴はありません。より広くは、アフリカの考古学的記録は文化的変化の複雑で直接的ではない軌跡を特徴としています[34]。これらには多くの場合、ユーラシア創始者人口集団の出現の何万年も前の、アフリカのさまざまな地域における相対的に短い革新の波動[35~37]によって中断されている、長期の安定が含まれています[10、42]。考古学的記録における大きな累積的変化も6万~5万年前頃の時間枠の後となり[10]、ユーラシアにおける現生人類の創始者人口集団の成功は特定の広範な技術的革新もしくは突然の認知能力の向上によるものではなかった、と示唆されます[43]。

 最近の研究は、人口動態に根ざした相互に関連するさまざまな説明に焦点を当ててきました。とくに、125000~5万年前頃のアフリカにおける中期石器時代の考古学的記録の明らかな地理的拡大は、主要な拡大の波と類似した祖先系統のアフリカ内の拡大と組み合わさった、人口増加の可能性を反映している、と考えられてきました[1、44~46]。この人口拡大は、より高い人口密度および長距離社会的交流網の増加[48]を含み、それらはすべて「推進」要因として作用したかもしれない、とも考えられています。人類種、とくに中期石器時代石器インダストリーと関連する生息域の変化の定量的研究に基づいて、遺跡の空間パターン化も使用され、「一般家・専門家」生態的地位への独特なヒトの適応が示唆されました[50]。

 しかし、これらの仮説は大陸規模で定量的に評価されておらず、適切な理論モデルの予測の観点ではほとんど調べられていないので、事後的な説明の拡散の危険性があります。アフリカ内外のヒトの拡大は理想的な自由分布モデル下での生息域幅の拡大と関連しているかもしれないので、ヒト生息域の拡大の観点で成功した出アフリカが調べられました。人口密度が増加するにつれて、より困難な環境におけるヒトの定着は有益となります。アフリカからの成功した移動に必要な臨界人口量に達し、ヒトの生態学的回復力が高まる、そうした条件下では、拡大が起こるかもしれません。

 本論文は、更新世現生人類の生息域がアフリカ大陸からの主要な拡散の前に、アフリカ内で拓大したのか、あるいは縮小したのかどうか、具体的に検証します。本論文は生息域を、種が生存して繁殖できるのか決定する、生物気候学的要因の集合体と定義します。この問題に答えるために、先行研究[59]に基づいて、SDM手法が用いられ、アフリカ内の更新世のヒトの生息域の幅における変化が測定されます。古環境模擬実験の2通りの異なる一式で検証された本論文の結果から、ヒト生息域の拡大はアフリカからの成功したその後の拡散に先行し、また同時に起きた、と形式的に論証されます。


●生息域変化の存在の検証

 経時的なアフリカにおけるヒト生息域を再構築するために、汎アフリカ的手法が採用され、12万~14000年前頃の時間的枠組み内の考古学的遺跡の、包括的で精選され放射性年代測定された更新世居住層データペースが組み立てられ、2万年以上の年代不確実性のある遺跡は除外されました。次に、存在を表す保持された居住層(図1)ごとに、合計で479点の放射性年代測定事例された場所および年代と関連する、再構築された古気候変数および生物群系(BIOME4モデルでの植生模擬実験に基づきます)が抽出されました。本論文のデータに基づく生息地適合性の再構築に最も多くの情報をもたらすと考えられる、5点の生物気候学的および植生変数に焦点が当てられ、それは、(1)LAI、(2)平均気温幅(BIO 7)、(3)最湿潤四半期の平均気温(BIO 8)、(4)最温暖四半期の平均気温(BIO 10)、(5)最湿潤四半期の降水量(BIO 16)です。それぞれの具体的な生物群系のデータ量が限られているため、BIOME4から得られた植生模擬実験が主要な3分類、つまり森林およびサバンナおよび砂漠へと組み合わされました。以下の2点に基づいて古気候模擬実験の一式2組が使用され、それは、(1)本文で結果が提示されるHadCM3と、(2)拡張図8aで結果が示されるPCESMです。模擬実験の一式2組は高度な相関であるものの、温度と降水量両方の変動の規模は時空間的に異なっており、これらの不一致にも関わらず、重要な結果のすべては使用された古気候モデルには定性的に堅牢です。以下は本論文の図1です。
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 経時的なヒト生息域を再構築するために、5点の生物気候学的変数に適合するSDM手法が用いられました。生物群系の分類はSDMの入力としてではなく、モデルによって居住可能と予測された区画の環境を特徴づけることにのみ用いられました。これまで、生息域の変化はSDMをさまざまな期間に当てはめ、推測された生息域を比較することによって検証されています。しかし、更新世のヒトのデータはひじょうに少なく、充分な発生頻度の数個の時間断片の作成はできないでしょう。代わりに本論文は、GAMを用いて、完全な時系列を単一のデータセットとして当てはめます。この手法では、発生頻度予測における各環境変数の影響が、影響が変動するGAM(変化生息域GAM、形式的には、各予測因子と時間との間の相互作用を当てはめることによります)に対して経時的に一定しているGAM(固定生息域GAM)を比較することによって、経時的に生息域の変化を形式的に検証することが可能です。

 本論文のデータセットにおける年代測定された考古学的層の数は経時的に変化し、より新しい期間には数が増加します。このパターンは恐らく、より近い過去では保存状態の機会が増えることから生じるので、結果を歪めるかもしれない一種の標本抽出の偏りを構成しています。そうした偏りを避けるために、観察結果が無作為に二次標本抽出され、経時的に発生数の均質な分布が生成されました。この過程が100回繰り返され、いくつかの「標準試行データセット」が生成されて、そうした二次標本抽出の確率論的影響が調べられました(図2)。各放射性年代と関連する年代的不確実性は、以下のように考慮されました。このれ、これらの各データセットで、各発生は利用可能な全年代範囲から標本抽出された年代に関連づけられます(平均値を中心に正規分布に従います)。最後に標準試行データセットについて、各発生に対する気候変数の背景分布が定量化され、発生ごとに時間的に一致する200ヶ所の無作為地点が標本抽出されました。以下は本論文の図2です。
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 次に、固定生息域GAMと変化生息域GAMが、関連する疑似・欠如点と組み合わされた標準試行発生の各一式に当てはめられ、100回の繰り返しの分析が行なわれました。AICを用いての形式モデル比較は、100回の繰り返しのうち91回で変化生息域GAMを強く裏づけました。このモデルによって検出された生息域の変化を理解するために、全体へと繰り返しが組み合わされ、具体的には、変化生息域GAMを裏づけるAICのある繰り返しと0.7超のBCIが組み合わされ、経時的な変化が調べられました。固定生息域GAMを用いて、AICが2未満(したがって、変化生息域GAMを実質的には裏づけません)の繰り返しからも全体が作成され、これは生息域の変化の欠如における経時的な気候変動に起因する変化の帰無モデルで提供されます。定性的に同様のパターンは、PCESM古気候模擬実験を用いて実行された同じ分析で観察できます。


●7万年前頃に拡大した地理的範囲

 変化生息域GAMの全体は、アフリカ内の更新世のヒトの居住可能な地理範囲の経時的に大きな増加を示しました(図3)。最も顕著な増加はアフリカの西部と中央部と北部においてで、MIS4の開始となる7万年前頃に始まりました。7万年前頃となる地理的範囲のこの大きな増加に続いて、MIS2における29000年前頃に始まるアフリカのほとんどを含む範囲拡大がありました(図3)。これらの変化が生息域拡大の結果だったのは、固定生息域GAMがアフリカ大陸全体の比較的安定して広範な居住を予測したからです。定性的に同様の結果は、PCESM気候模擬実験での同じ分析の実行で得られました。以下は本論文の図3です。
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●生息域幅の変化

 地理的範囲のこれらの変化と、変化生息域GAMの全体によって定義される得られた生息域幅との間の関係(図4a)をより深く理解するために、変化生息域と固定生息域両方のモデル下で各生物群系分類について生息域幅の変化が調べられました。GAMで用いられた環境変数の主成分分析が作成され、全時間段階で共同計算することで、対象期間の気候変動性を報告する統合二次元空間が生成されました。各時間段階について次に、各生物群系分類の代表モデルに適していると予測された場所に当てはめた核の面積が測定されました(図4b)。変化生息域GAM全体の相互作用図(つまり、各生物気候学的変数と時間との間の部分的影響)も調べられ、生息域における正確な変化が理解されたのは、これらが(理論上の)完全な生息域を表しており、さまざまな気候条件の利用可能性に影響を受けないからです。図4bはアフリカ内の各生物群系について得られた生息域の規模を示しており、ヒトと気候との間の関係の変化を考慮する一方で、拡張図4は(使用された古気候模擬実験の両方について)このパターンを、このパターンが一貫していると仮定されている図(固定生息域モデル)と比較します。結果として、後者が、ヒトの分布が気候変動によってのみどのように変化するのか、反映しています。以下は本論文の図4です。
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 図4bで示されているように、MIS5aまでの比較的安定した水準の頃の変動の後で、サバンナと森林の潜在的利用がMIS5aとMIS4の間に着実に増加し始めました。この増加がそうした生息地の利用可能性の増加と関連していないのは、それが固定生息域GAMによって再現されなかったからです。むしろ、最湿潤四半期がより温暖で(BIO 8)、より降水量が多かった(BIO 16)、地域の利用が増加したので、森林地帯へと次第に生息域が拡大しました。砂漠の利用はより変動的で、それは利用可能な砂漠の乾燥度の変動が一因です。湿潤期には、ヒトの居住に適した砂漠の生息域空間の増加が見つかり、それは、砂漠がその気候特性においてさほど極端ではなかったからです。この影響は、固定生息域GAMの再構築して得られた生息域の面積で観察され、そこでは経時的変化は気候条件に影響を及ぼす気候変化のみと関連しています。

 変化生息域GAMと固定生息域GAMとの間の重要な違いは、変化生息域GAMでは、より好適な気候に起因する初期MIS5aの最盛期の後に、砂漠がさほど好適ではない下降期だったそれ以前よりも、利用が依然として大きいことです。砂漠へのこの安定した拡大は、その後MIS3まで維持され、MIS3には、砂漠生息地の利用における別の漸進的増加が見られます。これは、固定生息域GAMでは見られませんでした。機構的には、砂漠の利用増加はより大きな年間気温幅(BIO 7)の地域の利用増加と、低いLAIの地域における生存能力の漸進的増加(つまり、植生が疎ら)によって支えられていました。わずかに抑制されたものの、同じパターンはPCESMに基づく生物群系分類を用いての分析の繰り返しのさいに観察されました。


●考察

 本論文の結果から、ヒト生息域は7万年前頃以降により多くの生息地の種類を含むよう次第に拡大し、この拡大はアフリカからの【非アフリカ系現代人の祖先集団の】成功した拡散と一致する5万年前頃に最盛期となった、と示されます。第二の拡大は29000年前頃以降に観察され、MIS2までにヒトはすべてのアフリカの地域および生態系に居住し、末期更新世社会は、半定住や持続的な大規模社会交流網形成の証拠や縄張り意識および個人間暴力の増加【70】を含めて、さまざまな新しい行動と連動しています。本論文の調査結果は、二つの異なる独自に開発された古環境模擬実験を用いても一貫しています。

 アフリカにおいて7万年前頃に始まるヒト生息域の拡大は、森林および砂漠の生物群系へのヒトの選好の漸進的増加に駆動されており、それによってヒトは、以前にはめったに居住されていなかった地域、つまり、(1)アフリカ西部の森林、(2)アフリカ中央部の森林、最終的には(3)乾燥したサハラ地域およびアフリカ北部の半乾燥のサヘル地域への拡大が可能となりました。赤道直下の森林から乾燥した砂漠にまたがる両極端の新たな生息地への適応能力向上は、これらのヒト集団に生態学的柔軟性をもたらし、アフリカからの拡大中に遭遇したさまざまな新しい環境条件への対応を可能として、アフリカからのそれ以前の移住が以前には挫折した地域での成功が可能となったのでしょう。したがって、7万年前頃に始まるアフリカにおけるヒト生息域の拡大は、5万年前頃のヒト集団の成功した世界規模の拡大への説明を提供し、人口拡大の結果についての理想的な自由分布に基づく予測と一致します。

 これらの結果は、多様な地域が独特な文化的軌跡を特徴とする機関である、7万~5万年前頃の間の考古学的記録における変化への洞察も提供します。とくに、広範な野焼きや貯水技術[72]や食性幅の拡大による生態学的高額は、この期間内のアフリカでは広く、その前にはわずかに、以前より報告されてきました。これらの調査結果は、行動の前提条件と新たな生息地へのヒト生息域の拡大の兆候を反映しているかもしれません。重要なのは、本論文の汎アフリカ的結果が、アフリカ大陸全体の独特で統合された過程を意味しているわけではない、と強調することです。じっさい、本論文の調査結果は、いくつかの特定の文化複合体と関連している可能性がより高そうです。本論文で観察された変化を駆動した要因の解明には、より多くの研究が必要になります。

 本論文は、生息域の拡大を報告しましたが、これは必ずしも全体的な人口規模の増加を反映しておらず、人口規模増加の影響に対して減少下生息域空間内の密度の増加を区別できないかもしれない、と強調します。たとえば、乾燥地域における新たなヒト生息域は、収容力の低さのため、大きな或いは安定した人口規模を維持できなかった可能性が高そうです。むしろ、ヒト生息域の拡大から、ヒトはいくつかの生息地と場所の間を移動でき、おそらくは経時的にさまざまな集団間の遭遇率が高まった、と示唆されます。その場合には、現在ヒトを定義する特徴の一群が10万~5万年前頃の間の個体群で固定するようになった理由を説明できるかもしれません[42]。それは、6万年前頃以後にユーラシアへと拡大した祖先系統と類似した祖先系統のアフリカ内の拡大があったかもしれない、との仮説[44、45]への独立した裏づけも提供します。

 7万~5万年前頃の期間は気候的に複雑です。HE6は大西洋南北熱塩循環の弱体化に起因する全体的により寒冷でより乾燥した期間をもたらしましたが、この影響の程度はアフリカの地域間で異なっています。注目すべきことに、代理記録は乾燥期間と湿潤期間との間の繰り返しの変化を示しており、HE6に続いてアフリカ大陸の大半に影響を及ぼしたかもしれない、より広い湿潤期が示唆されます。本論文でのHadCM3の実行は、この時空間的異質性を把握しており、HE6を明示的に含まないPCESMでは、このパターンはより抑制されています。ヒトの進化へのHE6の影響は、アフリカからの拡散における役割の観点でほぼ形成されてきました。アフリカ北部および東部の乾燥化はアフリカからのヒトの移動を促進する推進事象として作用した、と主張されてきましたが[80]、要注意なのは、寒冷化効果とその不均一な影響のため、この期間はアフリカ大陸からの移動を促進した可能性がある、回廊を提供したかもしれないことです。同様の議論は29000年前頃のMIS2の開始にも当てはまるかもしれず、この頃に、不均一な乾燥化の期間がより乾燥した生息地へのさらなる移動を促進しました。本論文の結果を考慮すると、これらの期間における気候の不安定性がヒトのより広範な生息域の発展を促し、ホモ属の特徴となる多様な生息地に対処する能力をさらに高めた、と考えるのが妥当です。

 12万~14000年前頃のアフリカ内におけるヒト生息域のモデル化によって、ユーラシアへの成功した拡大とユーラシアでの人口集団の長期の定着は、アフリカ内で基本的に始まった過程の一部だった、と示されます。本論文は本質的に、現在の三像のヒトの生態学的可塑性をもたらした、7万年前頃に始まった疑いなくアフリカの過程の始まりを報告します。したがって、本論文の結果は、現生人類の世界規模の拡散の理解と調査のための新たな基礎を提供します。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用(引用1および引用2)です。


人類の進化:アフリカからの移動に先立つ、人間の生息域の大幅な拡大

 約5万年前にアフリカから人類が大移動した際、それに先立って人類が選んだ生息地の多様性が増加していたということを報告する論文が、Nature にオープンアクセスで掲載される。この拡大が、古代の人類に新しい環境で成功するための生態学的柔軟性を与えた可能性があり、人類の移動についてのさらなる洞察を与えてくれる。

 現在の遺伝学的証拠によると、現代のユーラシア大陸の人々は、祖先のほとんどを約5万年前にアフリカから移動してきた小さな集団に遡ることができる。しかし、化石証拠によると、これより前にも複数の移動があったものの、長期的な定住には至らなかった。このことから、なぜ5万年前の移動だけが成功したのかという疑問が生じる。

 Emily Hallett(ロヨラ大学シカゴ校〔米国〕)とEleanor Scerri(マックス・プランク人類史科学研究所〔ドイツ〕)らは、12万年前から1万4千年前のアフリカ各地の考古学的遺跡から得られた証拠を集約した。著者らは、種の分布モデリングを用いて、葉面積指数、年間気温範囲、および降水量などの変数によって決定される、人類にとっての生息地の適合性を再構築した。その結果、人間の生息域(human niche)は7万年前から拡大し始め、特に西アフリカ、中央アフリカ、および北アフリカで拡大し、森林や乾燥砂漠など、より多様な生息地を利用する人間が増加したことがわかった。著者らは、このような適応性の向上により、古代人はアフリカを離れる際に直面した様々な条件に対処することが可能になり、5万年前の移住が長期的に成功したことの説明となった可能性を示唆している。


進化学:アフリカからの拡散に先行して起きた、人類のニッチの大規模な拡大

進化学:人類の出アフリカには準備段階があった

 ホモ・サピエンス(Homo sapiens)は数度にわたってアフリカからの脱出を試み、最終的には約5万年前に拡散に成功した。今回、この拡散に先行して、アフリカ内で人類が占めるニッチ空間が劇的に変化し、人類は通常のサバンナや混交林以外の生息地も使用できるようになっていたことが明らかになった。



参考文献:
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