パラントロプス属のタンパク質解析

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、パラントロプス属のタンパク質解析結果を報告した研究(Madup et al., 2025)が公表されました。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。近年の古代DNA研究の発展は目覚ましいものの、分析可能な対象範囲は時空間的にプロテオーム(タンパク質の総体)解析より限られています。そこで、時空間的に古代DNA解析が難しそうなヒトも含めての動物遺骸については、タンパク質の解析が進められています[17、18]。

 本論文は、アフリカ南部で発見された前期更新世のパラントロプス・ロブストス(Paranthropus robustus)の歯のエナメル質から得られた、タンパク質配列を報告しています。これは、人類のタンパク質配列としては最古の事例となり、たいへん貴重な結果と言えそうです。この分析によって、パラントロプス・ロブストスの性別を判定でき、パラントロプス・ロブストスにおける遺伝的に異なる集団の存在の可能性も示唆されました。さらには、パラントロプス・ロブストスは霊長類でもホモ属に最も近いものの、現生人類(Homo sapiens)やネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)や種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)とは違う可能性も示されました。これは、形態に基づく分類と整合的です。アウストラロピテクス・アフリカヌス(Australopithecus africanus)やアウストラロピテクス・アファレンシス(Australopithecus afarensis)やパラントロプス・ボイセイ(Paranthropus boisei)やパラントロプス・エチオピクス(Paranthropus aethiopicus)など、古代DNA研究が難しそうな人類についても、プロテオーム解析の進展が期待されます。

 略称は、EDJ(enamel-dentine junction、エナメル質と象牙質の接合部)、MS(mass spectrometry、質量分析法)、PSM(peptide spectrum matches、ペプチド範囲一致)、LC(liquid chromatography、液体色層)、LC–MS/MS(liquid chromatography coupled to high-resolution tandem mass spectrometry、液体色層高解像度縦列質量分光法)、M³(上顎第三大臼歯)、P₄(下顎第四小臼歯)です。タンパク質の略称は、AMEL(amelogenin、アメロゲニン)、AMELY(アメロゲニンのYアイソフォーム)、AMELX(アメロゲニンのXアイソフォーム)、ALB(Albumin、アルブミン)、AMBN(ameloblastin、アメロブラスチン)、COL17A1(Collagen, type XVII, alpha 1、XVII型コラーゲン α1)、ENAM(enamelin、エナメリン、エナメル質タンパク質)、MMP20(Matrix metalloproteinase 20、マトリックスメタロプロテアーゼ20)です。本論文で取り上げられる主要な遺跡は、南アフリカ共和国のスワートクランズ(Swartkrans、略してSK)遺跡とドリモレン(Drimolen)古洞窟遺跡群とクロムドライ(Kromdraai)遺跡です。


●要約

 パラントロプス・ロブストスは形態学的によく記録されているアフリカ南部の前期更新世人類種で、これまでに遺伝学的証拠は報告されていません。本論文は、南アフリカ共和国のスワートクランズ遺跡で発見された形態学的にパラントロプス・ロブストスに分類された200万年前頃の歯の標本から得られた、エナメル質のペプチドの質量分析配列決定を報告します。AMELY固有のペプチドの同定によって、2点の標本を男性個体と分類できた一方で、半定量的質量分析データ解析で、他の2点は女性と分類されました。単一アミノ酸多型およびEDJの形態の差異は、アフリカ南部のパラントロプス属内に存在したかもしれない下位集団を示唆しました。本論文は、古プロテオミクスがアフリカの前期更新世人類における差異の他の情報源性から的二形を区別するのにどのように役立つことができるのか、論証します。


●研究史

 中期~後期更新世人類の進化に関する理解は、おもに古代DNA配列決定データ[1、2]のおかげでますます明確になりつつある一方で、鮮新世~更新世の人類における生物学的および行動的差異は、依然として充分には理解されていません。パラントロプス属は280万年前頃に化石記録において初めて出現し、100万年前頃まで存続しており、アウストラロピテクス属種やホモ属の構成員を含めて、時空間的に多数の他の人類と共存していました。ほとんどの研究者はパラントロプス属を単系統と考えていますが、パラントロプス・ロブストスとアウストラロピテクス・アフリカヌスとの間、およびパラントロプス・エチオピクスとパラントロプス・ボイセイとの間の形態学的類似性から、側系統であること(関連記事)や種間の混合の可能性さえ提起されてきました。さらに、アフリカ南部のパラントロプス属のEDJ分析は大きな差異を示唆しており、パラントロプス・ロブストス内部の検出可能な下部構造の可能性や、アフリカ南部のパラントロプス属の複数種の存在さえ示唆されています。他の研究者は、観察された形態学的差異は性的二形に由来する、と主張してきました[13]。鮮新世~更新世の人類内および人類間の差異がどの程度、進化的多様化に起因するのか、あるいは性的二形が主因の可能性の高い種内差異に起因するのか、判断することは進化史の解釈に重要です。

 アフリカ大陸の遺伝的データはヒトの人口動態および進化に前例のない解像度の洞察を提供してきましたが[14、15]、2万年以上前のアフリカの人類資料からの古代DNA回収には成功していません[15]。系統発生的情報をもたらす古代のタンパク質配列は、ユーラシアにおける古代DNAの保存の限界を超えて回収されてきたので[16~18]、アフリカにおける鮮新世~更新世人類の差異の事例の調査に役立つタンパク質配列の回収が試みられました。LC–MSを用いて、パラントロプス・ロブストスに分類されたアフリカ南部の4点の人類標本から、歯のエナメル質のタンパク質配列が再構築されました。

 分析された4点の人類化石(SK 830、SK 835、SK 850、SK 14132)は、ヨハネスブルクから北西に約40kmとなる、南アフリカ共和国の人類の揺り籠世界遺産遺跡群に位置するスワートクランズ洞窟から発見されました(図1)。歯はスワートクランズの最古級の堆積物となるMB1(Member 1、第1層)から発見され、その年代は220万~180万年前頃の間です。スワートクランズではパラントロプス・ロブストスに分類される標本の最大級の収集物が発見されてきましたが、この資料と他のアフリカ南部の遺跡のパラントロプス属化石との間の関係は、さまざまな解釈の対象となってきており、先行研究によって要約されています。以下は本論文の図1です。
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●分析結果

 アミノ酸配列網羅率の範囲と深度を最大化するために、手動オフライン高pH保存逆相分割がStageTipsで実行されました。この戦略は、その後のMS分析にとって複雑さの低い分割の動態範囲を拡張し、パラントロプス属の標本4点すべてでペプチドの同定を増加させます。回収されたアミノ酸部位の数は最大で17%増加し、ペプチド連続体の一致数は最大で3倍に増加しました。自動化されて解放された情報源配列組み立て経路で、さらなる方法論的開発が実現しました。MaxQuant出力表から直接的に一致配列を生成するために、部位に基づく配列再構築手法が開発されました。この配列組み立て経路によって、より速く、より再現的で、透明性の高いデータ分析過程が可能となります。制せされた出力は元々の断片化連続体にまでたどることができるので、曖昧な的中の主導検証が容易になります。

 動物相資料でのプロテオーム解析の成功後、パラントロプス属の4個体の歯のエナメル質が標本抽出されました。各個体の分割された単回採取から得られたLC–MS/MSの組み合わされた分析から、8~10種のエナメル質関連タンパク質の540~780ヶ所のアミノ酸部位を網羅する、4600~8500点のPSMが得られた、エナメル質関連タンパク質のうち6種、つまりALBとAMBNとAMELXとCOL17A1とENAMとMMP20がすべての分析された標本で出現しました。合計425ヶ所のアミノ酸部位がパラントロプス属の標本4点すべてで一貫して特定され、網羅部位の大半は全標本で共有されていることが示唆されます。検証のため、南アフリカ共和国のケープタウンのプロテオミクス研究室でMS作業工程の再現に成功しました。

 回収された配列の真正性は、複数の証拠によって裏づけられています。第一に、遊離アミノ酸および結合アミノ酸とそのラセミ化との間の関係や、ペプチド結合加水分解の程度から、全標本で、歯のエナメル質は閉鎖系と一致する挙動を示している、と示唆されます。同様に、4点の標本すべてで、外因性の汚染は皆無か無視できることが、本論文の標本内および以前に調べられた他の古代の歯のエナメル質標本との比較の両方で観察された、アミノ酸組成特性の高い類似性によって裏づけられます。第二に、全標本は、グルタミンやアスパラギンの脱アミノ化、およびアルギニンのオルニチンへの変換など、続成作用によるアミノ酸修飾の急速な進行を示しており、これはパラントロプス属標本の年代および地理的起源と一致します。さらに、ヒスチジンやフェニルアラニンやチロシンやトリプトファンの広範な酸化修飾が観察されました。第三に、ペプチド長の分布は現代人の歯のエナメル質と比較して、より短いアミノ酸鎖へと偏っており、これは、他の古人類学資料で以前に観察されており、アミノ酸分析で観察された高水準のペプチド結合加水分解と一致します。まとめると、これら一連の証拠は本論文で報告される古代のアミノ酸の真正性を独立して裏づけます。タンパク質間交差結合を検出する試みは、確実な同定には至りませんでした。

 標本SK 850およびSK 835は、複数の重複するAMELY特有のペプチドの観察に基づいて、男性のパラントロプス属個体と明確に同定されました(図2A)。標本SK 830とSK 14132では、AMELY特有のペプチドは検出されませんでした。しかし、AMELY特有のペプチドの欠如だけでは女性とは必ずしも分類できず、それは、これらの標本が、AMELY特有のペプチドの兆候がMSによって検出されない男性個体に属していることと一致しているか、その獲得が確率論的であるからです。後者の仮定を除外するために、部位に基づく半定量的手法が用いられました。具体的には、AMELY特有のペプチドが標本に存在する場合に、一貫して検出されるに違いない、AMELX強度閾値が定義されました。検証のため、この手法が11点の現代人のエナメル質標本に適用され、100%の精度での性別判定に達しました。SK 830とSK 14132両方のAMELX部位の強度は上述の定義された強度閾値を超えて測定され、SK 835の強度を上回っており、SK 830とSK 14132の両標本は女性個体由来と推測されます(図2)。以下は本論文の図2です。
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 SK 830とSK 835とSK 850の利用可能な頬舌側および近遠心測定値を用いて、本論文の分子に基づく性別判定が全体的な歯の大きさに基づく性別判定と比較されました。アウストラロピテクス・アフリカヌスの標本1点も、パラントロプス属における大きさの差異の程度をより適切に評価するために、比較に含められました。SK 14132が比較に含められなかったのは、その不完全さが信頼できる測定を妨げるからです。分子証拠に基づいて女性個体に分類されたSK 830は、女性と以前にみなされた標本と一致する近遠心および頬舌側測定値を有しています。AMELY特有ペプチドに基づいて男性に分類されたSK 850は、以前に男性とみなされた標本間で見られる大きさの変異性の下限範囲内に収まる、近遠心測定値を有しています。歯冠の大きさに基づいて女性個体に属するかもしれない、と最近示唆されたSK 835は、男性に由来するAMELY特有のペプチドを通じて、本論文では確実に特定されます。したがって、本論文の結果は、歯の大きさの測定値が正しい性別推定には必ずしも精密ではないことを示唆しています。SK 835のタンパク質に基づく男性との分類は、定住性の男性の行動を以前に示唆した、在来のストロンチウム同位体兆候と一致します[31]。

 パラントロプス属の各標本について組み立てられたアミノ酸配列の調節後に、4個体すべてで網羅されている425ヶ所の部位の部分集合が特定されました。これらの部位のうち、ENAM部位137において変異部位(現生人類の標準的なEnsembl転写産物であるENST00000396073.4)が検出されます。個体SK 830およびSK 850はその部位で完全に脱アミノ化したグルタミン(Q)を有していますが、個体SK 835はアルギニン(R)を有しています(図3)。さらに、SK 14132ではENAM-137部位は異型接合のようで、Qアレル(対立遺伝子)がその連続体の80%を網羅しています(PSMは18ヶ所対4ヶ所)。ENAM-137アレルの確実な同定は、合成ペプチドの分析によってさらに確証されました。以下は本論文の図3です。
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 4個体すべてが単一種に属していた場合に、標本内の差異がどの程度予期せぬものになるのか評価するために、現代人の世界中の標本から無作為に選択された4個体の標本抽出が繰り返されました。その結果、現代人と同等の多様性の特定の種内で分離した遺伝的多様体が、本論文のパラントロプス属と同じ規模の標本において、アミノ酸の違いとして現れるかもしれないのは妥当である、と分かりました。しかし要注意なのは、現代人の有効人口規模が、本論文で標本抽出されたパラントロプス属集団とは異なっている可能性が最も高いことで、この遺伝的差異だけに基づく分類学的結論は時期尚早です。パラントロプス属の4個体から再構築されたタンパク質配列を現生および絶滅ヒト科(大型類人猿とヒト)の相同分子種と比較すると、合計で16ヶ所の種の情報をもたらす単一のアミノ酸多型が検出されました。これらの系統発生的に情報をもたらい部位に基づくと、パラントロプス属のタンパク質配列は他の霊長類よりもホモ属クレード(単系統群)の方と近いようです。したがって、パラントロプス属標本の位置づけは形態に基づく総意見解[32]と一致しており、回収されたタンパク質配列の内在性をさらに裏づけます。情報が得られる部位の限られた総数を考えると、決定的な系統発生の結果には、より広い配列網羅率が必要でしょう。16ヶ所の同定された単一アミノ酸多型のうち、2ヶ所、つまりCOL17A1-636とENAM-137のみが、現代人やネアンデルタール人やデニソワ人とは異なるアレル状態を示しました。霊長類の系統樹におけるこれら2個の多様体の識別から、COL17A1-636は現代人と比較して祖先的多様体である可能性が高いものの、ENAM-137 Qはパラントロプス属の派生的多様体である可能性が最も高い、と示唆されます。

 古プロテオミクスで得られた証拠とより確立された形態学的手法を統合するために、最も保存状態の良好な標本2点(SK 830とSK 835)でEDJ形態の幾何学的形態計測分析が実行されました。パラントロプス属のM³とP₄は初期ホモ属とよりも非対称的でより高いEDJを有しており、アウストラロピテクス属よりもその程度は低くなっています。この結果から、パラントロプス属の両標本【SK 830とSK 835】はアウストラロピテクス属および初期ホモ属とは異なっている、と示されました。注目すべきことに、ENAM-137Rを有するSK 835のM³のEDJは、スワートクランズ遺跡およびとクロムドライ遺跡の個体群とよりも、ドリモレン遺跡のパラントロプス属標本の方と統計的に類似しており、より広い咬合面を示し、クロムドライ遺跡の個体群にはパラントロプス・ロブストスの模式標本(TM 1517)が含まれています。対照的に、SK 830のP₄のEDJの形態は、スワートクランズ遺跡およびクロムドライ遺跡の標本とより密接に類似しており、ドリモレン遺跡の資料とは統計的に異なっています(図4)。以下は本論文の図4です。
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●考察とより広い示唆

 本論文は、アフリカ南部の前期更新世人類の部分的なタンパク質配列の回収を報告します。本論文で調べられたパラントロプス属の標本4点は、洞窟外から再結集した土壌でほぼ構成される洞窟堆積物から回収されました。堆積学的証拠は、化石の蓄積が比較的乾燥北気候条件において急速で断続的な鉄砲水から生じたことを示しています[34]。これは、堆積物のある化石の広範な結合と組み合わさって、洞窟における豊富な化石を説明し、化石の歯の内部のタンパク質の保存にも都合よく寄与したかもしれません。アフリカの他の地域で見られる開地遺跡を含めて、堆積物のある他の初期人類において、タンパク質の保存状態が同等なのか否かは、未解決です。将来の研究は、貴重なアフリカの遺産への損傷を最小限抑えつつ、生体分子研究の実現可能性に注意を払わねばなりません。

 主導オフライン逆相高pH分割の適用は、歯のエナメル質のタンパク質配列の網羅率を向上させ、アフリカ南部のパラントロプス属個体群内のタンパク質配列水準における多様性の存在を明らかにしました。さらに、連続体予測ソフトウェアと配列決定された合成ペプチドは、この多様性を確証し、異質性を検出した、MS証拠を提供した連続体の検証に役立ちました。MSは以前には、新規の遺伝的多様体と異型接合性の両方の検出のための選択手法として活用されてきました。本論文が把握している限りでは、これは古プロテオミクスの文脈で以前に適用されたことがありません。将来の研究は、この側面をさらに調べるべきです。

 男女両方のパラントロプス属の個体の分子同定は、歯の大きさに基づく性別判定技術の限界を論証します。この能力は、深い時間の人類化石記録における形態学的差異の理解と解釈について、明確な意味を有しており、それは、解剖学的差異の範囲に影響を及ぼす複数の変数の一つとして性的二形の除外が可能になるからです。しかし、本論文で用いられた手法はAMELY特有のアミノ酸配列の同定に依存しているので、AMELY遺伝子の欠失の男性個体は検出されないでしょう。この遺伝子の欠失は珍しいものの、現代人集団とネアンデルタール人の1個体[40]において記録されてきました。

 単一のSAP(ENAM–137)で、本論文で再構築された系統樹から、パラントロプス属の1個体(SK 835)は他の3個体とより遠い関係かもしれない、と示唆されます。不完全な系統分類の結果かもしれませんが、この個体は比較的近い過去に他の個体群と分離した、異なるパラントロプス属集団に属していたかもしれず、これは古プロテオミクスおよびEDJ形態の両方と一致する仮説ですが、単一の分類群の経時的な小進化もしくは大きな有効人口規模も、観察された遺伝的および形態学的変異性を説明できるかもしれません。アフリカ南部のパラントロプス属化石群は、かなりの大きさの差異を示しており、そのほとんどは以前には性的二形のためとされており、これは恐らく、雄の成長延長のゴリラ的なパターン、つまり二形成熟を反映しています[13]。しかし、最近の研究では、形態学的差異は異なる分類群か、経時的な単一種内の場所と関連する多様性、つまり形態的変遷に続く小進化的変化を意味しているかもしれない、と示唆されてきました。パラントロプス属の華奢な種であるパラントロプス・カペンシス(Paranthropus capensis)に関する最近の分類記載から、パラントロプス属内の分類学的多様性は現時点で過小評価されており、さらなる調査が必要である、と示唆されます。それにも関わらず、小さな頂部のSK 835は本論文では男性に分類されるので、性的二形は本論文のパラントロプス属標本一式内の観察された差異については不充分な説明となります。

 本論文で分析された4点の標本は、収集された時点ではスワートクランズ遺跡MB1の他の化石とともに、正確には地図化されていなかったので、50万年前の時間枠内で蓄積した堆積物に由来します。それにも関わらず、MB1の堆積物が長期間を網羅しているかもしれない一方で、堆積物のある化石は急速に蓄積した可能性が高そうです。急速な蓄積から、本論文で分析されたパラントロプス属の歯は準同時代なので、観察された差異は経時的な単一の分類群の変化よりも分類群の多様性から生じた可能性の方が高そうである、と示唆されます。スワートクランズ遺跡とドリモレン遺跡のパラントロプス属個体群のさらなる古プロテオームおよび形態計測標本抽出は、この差異の起源に情報をもたらすかもしれず、ドリモレン遺跡の個体はSK 835と形態学的により密接です。ENAM-137が本論文の標本4点すべてにおいて高い信頼性で網羅されていたことを考えると、さまざまな古人類学遺跡の標本間のこのSAPのアレル頻度の違いは、遺跡特有のパラントロプス属の差異を強化するでしょうが、より正確で直接的な年代測定技術は、単一の分類群の小進化と分類群内の多様性との区別に役立つでしょう。

 本論文では、複数個体の分析は形態学的証拠と組み合わせることで、その遺伝的歴史をより適切に説明し、分類群間もしくは分類群内の多様性を示唆しているかもしれない差異を解明できる可能性がある、と示されます。同様の年代と地質の他のアフリカ南部の洞窟遺跡で回収された人類でタンパク質抽出は達成できるはずで、それは生物学的性別特定や種内分析を可能とするでしょう。本論文や、最近刊行された予備的な結果は、遊離して断片化した歯の遺骸の過多によって表されるアウストラロピテクス・アフリカヌスやアウストラロピテクス・アファレンシスなど、他のアフリカの初期人類資料からり同様のデータの抽出の可能性を提起します。人類の揺り籠遺跡群では、ひじょうに多くの人類化石が発見されてきましたが、人類の分類群の最大の多様性は現時点では、おもにエチオピアとケニアとタンザニアの大地溝帯のアフリカ東部の遺跡群で知られています。この系統発生的多様性が実際なのかどうか、どのくらい実際を反映しているのか、方法論的限界および/もしくは研究(者)の偏りの結果ではいなのかどうか、依然として議論の主題です。分子的および形態学的データを組み合わせた本論文から得られた首尾一貫した結果は、鮮新世~更新世人類の多様性の性質と程度に関するそうした長年の論争[47]への取り組みに意味を有しています。


参考文献:
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[13]Charles A. Lockwood, Colin G. Menter, Jacopo Moggi-Cecchi, and Andre W. Keyser.(2007): Extended Male Growth in a Fossil Hominin Species. Science, 318, 5855, 1443-1446.
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