大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第28回「佐野世直大明神」

 今回は、佐野政言による田沼意知殺害事件とその反響が描かれました。本作では、一橋治済の謀略によって佐野政言は田沼意知への恨みを募らせていき、殺害に及んだ、と強く示唆する構成でした。正直なところ、この時代の政治史で一橋治済を黒幕とするのは、多くの人が思いつきやすそうですから、陳腐とも言えるように思いますが、一橋治済の深いところでの目的や人物像がまだ明らかになっていないだけに、現時点で陳腐と断定するわけにもいかず、将軍の徳川家治の死から田沼意次失脚の過程で、一橋治済の人物像がさらに明かされていくのではないか、とも期待しています。

 あるいは、田沼意知殺害の背後に謀略がある、と推測した蔦屋重三郎はその謀略の実行者に気づき、田沼意知の敵討ちに動き出し、田沼意次は一橋治済との対峙を決意したので、そこから一橋治済の人物像がさらに深く描かれる展開になるのかもしれません。この謀略の実行者は「丈右衛門だった男」で、おそらく一橋治済の配下なのでしょうが、平賀源内の謀殺にも関わっており、2022年放送の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の善児と似た役割を担っているように思います。この件は謎解き要素があり、一橋治済が「勝者」で、田沼意次が「敗者」であることは動かないとしても、どう決着するのか、楽しみです。

 今回、小田新之助と「ふく(うつせみ)」が重三郎を頼り、耕書堂を訪ねてきます。本作はこれまで吉原が主要な舞台で、それに幕閣政治も描かれ、最近になって耕書堂が日本橋に進出しましたが、江戸市中を主として幕閣政治との二元構成になっていました。本作は基本的には江戸のみを舞台としており、その意味で描かれている世界は狭いと言えますが、駆け落ちして農村で暮らしていた小田新之助と「ふく」が、浅間山の噴火で農村にいられなくなって、江戸の重三郎を訪ねてくる展開は、狭い部隊を前提としながらも、なるべく広い視野で描こうとするところも窺われ、工夫されているように思います。

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