『卑弥呼』第152話「最後の秘策」

 『ビッグコミックオリジナル』2025年8月5日号掲載分の感想です。前号は休載だったので、久々の感があります。前回は、山社(ヤマト)にて山社連合の諸王がヤノハの決意を聞き、これまで夢と思っていた天下泰平に本当に我々の代で手が届いたように思う、と感慨深げに空を見上げるところで終了しました。今回は、遼東半島に位置する魏の遼隧(リョウスイ)の遼水(遼河)を挟んで、公孫淵と魏の幽州刺史の毌丘倹が軍を率いて対峙している場面から始まります。公孫淵と毌丘倹はともに2騎のみを率いて遼水の中央で話し始めます。ヤノハとは旧知の何(カ)は、配下で耳のよいトヒコに、公孫淵と毌丘倹が何を話しているのか、聞くよう命じます。毌丘倹に呼び出しに応じて洛陽に来ない理由を問われた公孫淵は、もう魏の天子を認めず、自分は燕王である、と宣言します。そこへ雪が降り始め、この一帯の視界は真っ白で何も見えないので、戦どころではない、と何は言います。

 魏の帯方郡では、トメ将軍が襄平から来た図師のゴリを帯方太守の劉昕に紹介していました。劉昕の息子である劉夏から公孫淵の動向について尋ねられたゴリは、風の噂とは飛騎士(飛脚)より早く、自分が帯方郡を去る頃には大勢の民がすでに知っており、4日ほど前に公孫淵は毌丘倹将軍の前で自分を燕王と称し、魏からの独立を宣言した、と答えます。戦いはいつ始まると思うか、と劉夏に問われたゴリは、毌丘倹将軍からの知らせが洛陽まで届くのに50日、洛陽での詮議を経て遼東に兵が到着するのに100日で、開戦は3~5ヶ月後だろう、と答えます。倭の使節を洛陽に派遣するさいに我々に求めるもう一つの条件とは何か、と劉夏に問われたゴリは、それがとんでもない要望なので、劉昕が承諾するか危ぶみ、トメ将軍に相談します。トメ将軍も確信はありませんが、日見子(ヒミコ)であるヤノハのたっての要望なので、伝えないわけにはいかない、と考えているようです。

 幽州の遼隧県の庁舎では、毌丘倹が何とノヅナとトヒコを呼び出し、自分はこれから洛陽に行くので、ともに来るよう命じていました。毌丘倹は何一行に、都で高官の司馬懿(司馬仲達)に謁見するので、そのさいに何一行に公孫淵謀叛の商人になってもらいたい、というわけです。毌丘倹は何一行に、司馬懿はたいへん恐ろしい人で、相手の嘘や偽りを絶対に見抜き、それを絶対に許されない、と伝えます。何一行の代表を演じているノヅナは、その発言に怯えます。

 その20日後、山社(ヤマト)のヤノハに、加羅のイセキから書簡が届きます。そこには、公孫淵が魏からの独立を宣言した、とありました。これで魏と燕の戦争が始まることになり、ヤノハはミマアキに、加羅に渡る準備をするよう命じます。1ヶ月以内に遣魏使として出立し、2ヶ月以内にトメ将軍やゴリと合流せよ、というわけです。ヤノハはミマアキに、遣魏使に随行して中土(中華地域のことでしょう)に行きたい者を国中から募るよう命じます。ヤノハは、魏に長い年月留まり、中土の言葉や技術や戦術や芸術やあらゆる学問を習得する意欲があり、二度と倭国に戻れない覚悟もある者たち10人ほどを、ミマアキとともに魏に派遣することを考えていました。ヤノハから献上の品について問われたイクメは、麻布を提案します。ヤノハは他に、真珠や瑪瑙も候補に挙げ、祈祷女(イノリメ)にも意見を聞くよう、イクメに命じます。ミマアキは姉のイクメと、戦の最中に魏に使節を送るヤノハの意図について考え、イクメは、危険なので終戦後の使節派遣でよいのではないか、と考えています。しかしミマアキが、ヤノハが同盟国の王にも伝えなかった、倭が魏の同盟国になる奇跡を実現させるための秘策ではないか、と思い至るところで、今回は終了です。


 今回は、倭国から魏への使節派遣をめぐるさまざまな思惑が描かれました。公孫淵は魏からの独立を宣言し、そこから公孫淵の敗亡と倭国から魏への使節派遣が描かれることになりそうで、本作の山場に入ってきたことを予感させます。ヤノハの秘策が何なのか、気になるところですが、ミマアキが大きく関わるようです。中土の言葉や技術や戦術や芸術やあらゆる学問の習得をヤノハが構想しているのは、国造りのためなのでしょうが、これも後半~終盤の展開に関わってきそうで、注目されます。司馬懿の人となりも少し明かされ、本作では最高の知恵者である大物として描かれそうな予感があるので、その登場がたいへん楽しみです。

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