グリーンランド先住民の遺伝的構造

 取り上げるのが遅れてしまいましたが、グリーンランド先住民の遺伝的構造に関する研究(Stæger et al., 2025)が公表されました。グリーンランドのイヌイットをはじめとする先住民集団は、遺伝学研究では充分に代表されておらず、これが医療機会における不公平につながっています。本論文はこの問題に取り組むために、広範な表現型を持つグリーンランド人5996人について、ゲノムの塩基配列解読または補完を行ない、それらを解析しました。その後、これらのグリーンランドの先住民集団の歴史的な集団ボトルネック(瓶首効果)と、それがどのようにグリーンランド人の遺伝的構造を形成し、数は少ないもののよりありふれた置換部位が生じたのか、定量化しました。

 その結果、グリーンランド先住民では、出生地とほぼ完全に一致する遺伝的な微細構造があり、代謝形質との影響の大きなゲノム規模関連がヨーロッパの2倍多く見られる、と分かりました。この影響の大きな多様体は、グリーンランド先住民がアメリカ大陸先住民から分岐した後に生じた、したがって北極域に特異的なものと推定され、その一部が広く見られるのは、遺伝的浮動だけでなく自然選択も作用したからだった、と示されました。また、代謝形質に関するヨーロッパ人由来の多遺伝子得点の正確さは、グリーンランド人ではヨーロッパ人の半分にとどまりますが、北極域特異的な多様体を加えると、総合的な正確さがヨーロッパ人と同水準まで高まることも分かりました。

 同様に、公開されている遺伝子データベースでの代表性の不足は、グリーンランドのイヌイットの臨床での遺伝子検査をより困難なものとしていますが、グリーンランド人のデータを含めると、非因果的な候補多様体の数が1/6に減少し、この問題は緩和されました。さらに、グリーンランドにおける単一遺伝子疾患の罹患率の差異を説明し、移動性における最近の変化とともに、特定の劣性(潜性)遺伝病の危険性の予測される将来的な低減につながる、顕著な遺伝的微細構造が突き止められた。これらの知見は、グリーンランド人のデータを含めることによって、ゲノムに基づく医療の不公平がいかに大きく緩和され得るのか、示しています。以下は『ネイチャー』の日本語サイトからの引用です。


ゲノミクス:グリーンランドにおける遺伝的構造は人口動態と遺伝的微細構造と自然選択によって形作られた

ゲノミクス:グリーンランド人の独特な遺伝的構造

 今回、グリーンランド人の遺伝子データが報告され、その遺伝的構造がどのように形作られてきたかが明らかにされている。得られたデータからは、祖先系統の違いが疾患リスクにどうつながっているかが示され、十分に代表されていない集団を遺伝学研究に含めることの重要性が浮き彫りになった。



参考文献:
Stæger FF. et al.(2025): Genetic architecture in Greenland is shaped by demography, structure and selection. Nature, 639, 8054, 404–410.
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08516-4

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