『卑弥呼』第150話「状況 其ノ二」

 『ビッグコミックオリジナル』2025年6月20日号掲載分の感想です。前回は、ヤノハが筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)諸国の山社(ヤマト)連合の諸王に、暈(クマ)国の実質的な最高権力者である鞠智彦(ククチヒコ)の取り子(養子)が、天照様の声を聞けて、本気で倭国の太平を考えているならば、日見子(ヒミコ)の地位を一日も早く譲りたい、と言い、ヤノハが以前と同じことを言っていることから、近く本気で退位するつもりなのか、とイクメとミマアキの姉弟が心配するところで終了しました。今回は、魏の遼隧(リョウスイ)県で、ヤノハとは旧知の何(カ)が配下のトヒコおよびノヅナと打ち合わせをしている場面から始まります。何の一行は翌日、幽州刺史である毌丘倹と謁見する予定です。何がトヒコとノヅナを随行させたのは、この二人が中土(中華地域のことでしょう)の言葉をよく学んでおり、すでに日常会話には支障がないからでした。何は、毌丘倹の前では倭の通詞を演じる、と二人に告げます。倭の使者と名乗っても、中土の人間はすんなりと信じないだろう、と何は考えていました。何は、ノヅナには倭の使節役を、トヒコには従者役を演じるよう、指示します。その理由は、毌丘倹がどちら側の味方か、何も確証を得ていないからでした。何の調査によると、毌丘倹は公孫淵と敵対関係にありますが、それが間違っていた場合、何の一行は斬首されるかもしれません。しかし、従者の命までは取られないだろうから、何とノヅナが斬首された場合、城郭から脱出し、何とか洛陽まで行き、司馬懿将軍を訪ねて、公孫淵の謀叛を直接報告するよう、何はトヒコに指示します。何は司馬懿について、腹が読めない方だが、魏への謀叛は絶対に許さない大将軍と考えています。何は使者役のノヅナと、毌丘倹との想定問答の練習をしていました。毌丘倹から、公孫淵は呉の援軍を追い返し、使者の首まで魏の皇帝に送ったはずなのに、本当に謀叛を企んでいるのか、と問われたら、呉の使者の首が偽物と我々は疑っており、呉の1万人の兵を帰国させたのは、まだ公孫淵に戦いの準備ができていないからだ、とノヅナは答えることにします。公孫淵はいつ牙を剥くのか、と毌丘倹に問われた場合、我々の女王(ヤノハ)はそれを毌丘倹将軍にお願いしたいと申しており、いつ牙を剥くかではなく、剥かせるのだ、とノヅナは答えることにします。

 山社では、山社の同盟国である筑紫島(ツクシノシマ、九州を指すと思われます)諸国の王を前に、ヤノハが魏への使者派遣の意図について語っていました。ヤノハ、魏の洛陽に使節を送り、魏の皇帝から倭王の称号をいただいて、魏の後ろ盾と威光で倭に真の泰平をもたらす、と諸王に説明します。しかし、筑紫島諸国の王はヤノハの構想に否定的で、魏は大国とはいえあまりにも遠方にあるので、日下(ヒノモト)や暈(クマ)が恐れをなすとは思えない、というわけです。すると、山社の同盟国の王では中心的人物である那(ナ)国のウツヒオ王が、もう少し日見子様(ヤノハ)の話を伺おう、と促します。ヤノハは、自分が魏から倭王の称号をいただいたとしても、筑紫島が危機に瀕したさいに魏がわざわざ大軍を率いてきてくれるはずがない、との筑紫島諸国の王の懸念をよく理解していました。そこでヤノハは、倭が魏の最恵国に迎えられ、同盟国となればどうだろうか、と筑紫島諸国の王に問いかけます。

 トメ将軍一行は魏の帯方郡の劉昕陣営を訪れており、トモもいました。トモは穂波(ホミ)国の重臣の息子で、父親は日下と通じていましたが、息子は穂波国のヲカ王、さらには山社連合の盟主としての日見子(ヤノハ)に忠誠を誓っているようで、ミマアキの親友です。劉昕がどこと戦闘中なのか、トモに尋ねられたトメ将軍は、ヒホコから聞いた話として、東の濊国への備えで、濊が辰韓と呼応して帯方郡に攻め込む可能性を懸念しているようだ、と答えます。ヒホコは、現在は吉国(ヨシノクニ、吉野ケ里遺跡の一帯と思われます)と呼ばれている目達(メタ)国のスイショウ王より駅役(エキヤク、大陸の国々から倭にわたる人々や品々や情報を中継ぎする役目)を命じられた一族で、勒島で邑長を務めています。劉昕は咳をして顔色が青く、体調がよくないようです。劉昕はトメ将軍に、なぜ兵を率いて帯方郡に来たのか、問い質します。トメ将軍が、遼東郡と楽浪郡を支配する公孫淵に独立のたくらみがあり、我々は倭国の日見子様の命によって公孫淵殿の助太刀に来た、と答えると、劉昕は激しく咳き込みます。するとトメ将軍は、それは真っ赤な嘘で、秦の目的は、公孫淵が魏軍に追い詰められ、帯方郡に敗走するさいに、その退路を断つために参上した、と劉昕に伝えます。倭国が魏に加勢するのか、と劉昕に問われたトメ将軍は、許可いただけるなら劉昕様の傘下に入る、と答えます。劉昕に兵数を問われたトメ将軍は、今は2000人で、必要ならその後で48000人が加わる、と答えます。公孫淵がいつ挙兵するのか、劉昕に問われたトメ将軍は、倭国の日見子女王の見通しでは、ごく近いうちに公孫淵は自国を燕と名乗るはずと答えます。驚く劉昕から、その女王は預言者か、と尋ねられたトメ将軍は、預言者だ、と答えます。

 山社では魏への遣使をめぐる協議が続き、筑紫島諸国の王はヤノハの構想に否定的で、最恵国待遇にはなれるかもしれないが、大国の魏と肩を並べる同盟国は無理で、望んでもなれるはずがない、と指摘します。するとヤノハは、本当にそうだろうか、と筑紫島諸国の王に問いかけます。筑紫島諸国の王はやはり懐疑的で、どうするつもりなのか、ヤノハに尋ねます。するとヤノハは、魏の皇帝も公孫淵と同じく騙す以外にない、と答えます。どうやって騙すのか、筑紫島諸国の王に問われたヤノハは、騙して恩を売るのだ、と答えます。恩を売れば、魏は倭国を同盟国に格上げし、倭に戦が起きれば援軍を差し向けるだろう、というわけです。具体的にどう騙して恩を売るのか、筑紫島諸国の王に問われたヤノハは、トメ将軍が今頃、帯方郡の将軍か誰かに、公孫淵が敗走したさいは倭国が助太刀する、と言っているはずで、今いる兵は2000人だが、場合によっては48000人の兵を帯方郡に送る準備がある、と伝えます。すると筑紫島諸国の王も、そうなれば、魏も山社からの要請に派兵せざるを得なくなるし、その前に山社に魏の使節が来れば、日下や暈も戦いを躊躇うかもしれない、と納得します。公孫淵がいつ挙兵するのか分からねば、トメ将軍も交渉できないのではないか、と筑紫島諸国の王に問われたヤノハは、時は作るもので、挙兵は待つのではなく、こちらの策で戦を早めるのだ、と答えます。ウツヒオ王がヤノハの策を理解し、魏と公孫淵との戦いを最初から終わりまで操るつもりなのか、と問う伊都(イト)国のイトデ王に、これが鬼道だ、とヤノハが答えるところで今回は終了です。


 今回は、ヤノハの魏への派遣をめぐる構想というか謀略がかなりのところ明かされました。『三国志』によると、魏の使者が倭国を訪れており、ヤノハの構想の少なくとも一部は実現することになりそうです。ただ、『三国志』によると、その後も卑弥呼と狗奴国との戦いは続き、卑弥呼は間もなく没したようです。狗奴国は本作の暈国でしょうから、ヤノハと暈国の実質的な最高権力者である大夫の鞠智彦(ククチヒコ)との以前の盟約通り、山社連合と暈国との「冷戦」が続き、ヤノハが魏の関与を引き出すために戦闘状態と偽る可能性も考えられます。しかし、鞠智彦はヤノハとその実弟であるチカラオ(ナツハ)との間の息子であるニニギ(ヤエト)を養子に迎えて、将来は日見彦(ヒミヒコ)に据えようと考えており、ニニギはヤノハを実母とは知らず、ヤノハというか山社の日見子をたいへん恨んでおり、殺すと固く誓っているので、山社連合と暈国との戦いが本格化し、その中でヤノハが死亡する展開も考えられます。一方で、ヤノハは適任者がいれば日見子の座をいつ譲ってもよい、と考えているので、ヤノハとニニギの関係の決着、さらには本作の完結について、予想の難しいところもあります。現時点で西暦238年頃だとすると、卑弥呼の死まで10年ほどでしょうから、完結が見えてきた感もありますが、山社連合と暈国との戦いが本格的に始まるのか、日下連合はどう動くのか、といったことも描かれるでしょうから、完結は当分先かもしれません。今回、ついに司馬懿(司馬仲達)が作中で語られ、どのような人物造形なのか、ヤノハの策を見抜くのか、その上で自身の権力強化のためにヤノハの策に乗るのかなど、注目しています。司馬懿の登場も間近なようで、ますます壮大な話になっており、今後の展開もたいへん楽しみです。

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