中期更新世ホモ属頭蓋のミトコンドリアDNAデータ

 中期更新世ホモ属頭蓋のミトコンドリアDNA(mtDNA)データを報告した研究(Fu et al., 2025A)が報道されました。この研究はオンライン版での先行公開となります。[]は本論文の参考文献の番号で、当ブログで過去に取り上げた研究のみを掲載しています。本論文は、中華人民共和国黒竜江省ハルビン市で1993年に松花江(Songhua River)における東江橋(Dongjiang Bridg)の建設中に発見された、と報告されている146000年以上前のホモ属頭蓋(ハルビン頭蓋)のmtDNAデータを報告しています。このハルビン頭蓋が報告されたのは2021年で[1、2]、新種に分類されてホモ・ロンギ(Homo longi)と命名されました。このハルビン頭蓋のDNA解析の試みは、歯と錐体骨では失敗し、歯石から成功しました。旧石器時代の歯石での宿主由来のDNA解析成功は初めてとのことで、この点でも快挙だと思います。ハルビン頭蓋のmtDNAは、種区分未定のホモ属であるデニソワ人(Denisovan)系統に属します。このハルビン頭蓋のプロテオーム(タンパク質の総体)解析(Fu et al., 2025B)でもデニソワ人系統と示されたので、ハルビン頭蓋がデニソワ人に分類される可能性はきわめて高そうです。ただ、ハルビン頭蓋のmtDNAの網羅率は6.6倍なので、核DNAの解析は難しそうです。

 注目されるのは、シベリア南部のアルタイ山脈のデニソワ洞窟(Denisova Cave)で発見されたデニソワ人のmtDNA系統が現時点では十数万年以上前の初期系統とそれ以降の後期系統に大別され[21]、146000年以上前のハルビン頭蓋は初期系統に属する可能性が高い一方で、中華人民共和国甘粛省甘南チベット族自治州夏河(Xiahe)県のチベット高原北東端の海抜3280mに位置する白石崖溶洞(Baishiya Karst Cave、略してBKC)の10万~6万年前頃の堆積物で確認されたデニソワ人系統のmtDNAは後期系統に属する可能性が高いことです[22]。少なくともデニソワ洞窟ではデニソワ人の母系での置換があったようですが、ハルビン周辺やチベット高原でも同様の置換があったのか、現時点では不明です。

 デニソワ人系統はシベリア南部のデニソワ洞窟[8、9]からチベット高原[4、22]やハルビン周辺や大陸とつながっていた頃の台湾付近[24]や現在のラオス[25]まで広範に存在し、多様な生態系に適応していたようで、異なる系統に分岐し、各系統が現代人の異なる地域集団の祖先集団と遺伝的に混合した、と推測されていますから(Jacobs et al., 2019)、前期系統がデニソワ人の絶滅(もっとも、一部の非アフリカ系現代人集団は差があるもののわずかながらデニソワ人由来のゲノム領域を継承しているので、形態学的および遺伝学的にデニソワ人的な特徴を一括して有する集団は絶滅した、と表現するのがより妥当かもしれません)直前まで存続していた可能性もあるとは思います。

 デニソワ人はこれまで、詳しい遺伝学的情報が明らかになっていた一方で、形態学的情報はほとんど得られておらず、一方でネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)でも現生人類(Homo sapiens)でもなさそうなホモ属については、形態学的情報はそれなりに得られているものの、BKCで発見された夏河下顎骨[4]と澎湖海峡(Penghu Channel)で発見された下顎骨に関する最近の報告[24]を除いて、デニソワ洞窟以外で発見された化石で分子生物学的情報はまったく得られていませんでした。そのため、ネアンデルタール人でも現生人類でもないホモ属遺骸のどれがデニソワ人に分類されるのか、照合できない状況が続いていました(関連記事)。しかし、ハルビン頭蓋がデニソワ人系統と確認されたことで、とくに中国で発見された中期~後期更新世の分類について議論のあるホモ属遺骸も、形態に基づいてより正確な判断ができるのではないか、と期待されます。その意味でも、ハルビン頭蓋がデニソワ人系統と確認された意義は大きいと思います。以下は本論文の要約図です。
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●要約

 デニソワ人はこれまで人類頭蓋と直接的に関連づけられておらず、その形態や地理的分布の理解が制約されていました。この研究は、中国北東部のハルビンのほぼ完全な中期更新世頭蓋(146000年以上前)からのDNA回収が試みられました。歯もしくは錐体骨からDNAを回収できませんでしたが、歯石からmtDNAを分離できました。そのmtDNAはデニソワ人のmtDNAの変異内に収まり、以前にデニソワ洞窟で観察された、シベリア南部の初期デニソワ人個体群が有していたmtDNAの分枝と関連しています。これは、デニソワ人が中期更新世のアジアの広大な地理的範囲に居住していたことを示唆しています。ハルビン頭蓋とのデニソワ人のmtDNAの関連によって、デニソワ人と他のアジア東部の中期更新世化石群との間のより深い理解が可能となります。さらに、歯石からの宿主DNAの回収は、中期更新世人類に関する遺伝学的研究に新たな可能性を開きます。


●研究史

 中国では、20ヶ所以上の中期更新世(30万~78000年前頃)の遺跡が特定されてきました[1~4]。これらの遺跡における化石の年代測定および形態学的研究の進歩によって、この期間のアジア東部および南東部における古代の人口集団の理解は大きく深まりました。しかし、それにも関わらず、デニソワ人もしくはネアンデルタール人遺骸の古代型人類【絶滅ホモ属、非現生人類ホモ属】からの遺伝的寄与は、旧石器時代もしくは現在のアジアの人口集団では特定されていませんでした。アジア北部およびヨーロッパの中期更新世遺跡からの古代DNAの標本抽出[8~13]は、中期更新世のヒトの現在の人口集団との関係を解明する、遺伝学的証拠の能力を示してきました。古代DNAの回収によって可能となった発見の一つが、シベリアのデニソワ洞窟から発見された古代型ヒト集団の特定で、これはデニソワ人と呼ばれており、ネアンデルタール人とは異なります[8、9]。しかし、デニソワ人遺骸の形態はほぼ不明で、それは、これまでに回収されたデニソワ人のDNAが、形態学的情報をほとんど有していない断片的な骨や歯に由来するからです。さらに、形態と関連する直接的なDNAの証拠は、デニソワ人集団が居住していた可能性の高い、現在の中国では見つかっていませんでした[8~10]。

 デニソワ人は現生人類と共存し、ネアンデルタール人の姉妹集団で[8~10]、デニソワ人とネアンデルタール人は40万年前頃に祖先を共有していました[15]。化石からおよび現代人のゲノムにおける遺伝子移入された断片から間接的に得られたデニソワ人のDNAに関する研究では、デニソワ人の少なくとも2系統が現生人類に遺伝子移入した、と示されています[9、10、15、16、18~20]。これらのうち、1系統は他の系統よりもデニソワ洞窟の個体群と密接に関連しています[20]。デニソワ人はアジア全域の広い地理的範囲にかつて存在した、と推測されていますが、これまでにアジアにおけるデニソワ人の分子証拠は、シベリアのデニソワ洞窟の歯と断片的な骨と堆積物[8~13、21]、チベット高原の白石崖溶洞の下顎骨と肋骨と洞窟堆積物[4、22、23]、台湾の澎湖海峡(Penghu Channel)から発見された下顎骨1点[24]にのみ由来します。さらに、ラオスのフアパン(Huà Pan)県に位置するタム・グ・ハオ2(Tam Ngu Hao 2、略してTNH2)洞窟で発見された、164000~131000年前頃と推定されている人類の歯(TNH2-1)の標本が、形態学的分析に基づいてデニソワ人と示唆されました[25]。

 本論文で「デニソワ人」と呼ばれるのは、デニソワ洞窟の以前に報告された7個体(デニソワ2・3・4・8・19・20・21号)で[8~13]、スペイン北部の通称「骨の穴(Sima de los Huesos)洞窟」遺跡(以下、SHと省略)の個体群のようなより遠い遺伝的関係や、デニソワ洞窟の個体群との曖昧な関係(TNH2-1)や、関連する骨格断片の欠如(白石崖溶洞の堆積物)のため、他の個体群および遺伝的データは除外されます。

 デニソワ人の存在の確認は、いくつかの理由のため困難かもしれません。たとえば、ラオスの標本【TNH2-1】がデニソワ人の変異内に収まるのかどうか不明で、それは、プロテオーム解析ではデニソワ人固有の遺伝的標識が得られなかったからです。さらに、デニソワ人の形態に関する理解は限られています。遺伝的資料が利用可能な場合でさえ、ある標本をデニソワ人と特定することは容易ではありません。たとえば、SHで発見された40万年前頃の個体群のmtDNAは既知のデニソワ人のミトコンドリアの多様性外に位置するものの、ネアンデルタール人よりもデニソワ人の方と近いのに対して、SH個体群の核DNAはネアンデルタール人の方とより密接に関連しています[26、27]。

 注目すべき中期更新世後期の頭蓋が中国北東部の黒竜江省ハルビン市で回収され、その年代は少なくとも146000年前頃[2]です(図1A)。この頭蓋は形態に基づいて新たな種に分類され、ホモ・ロンギと命名されました[2]。しかし、その形態は、プロテオーム解析でデニソワ人と関連づけられた夏河下顎骨[1]と関連している、と示唆されました[4]。ハルビン標本から遺伝的情報は回収されず、おそらくはその年代のためです。じっさい、骨格遺骸からヒトのDNAが配列決定された10万年以上前の遺跡は4ヶ所のみで、それは、SHの40万年前頃の個体群[26、27]、ドイツ南西部のホーレンシュタイン・シュターデル洞窟(Hohlenstein-Stadel Cave)[28]およびベルギーのスクラディナ洞窟(Scladina Cave)[29]の12万年前頃のネアンデルタール人2個体、デニソワ洞窟の217000~187000年前頃[13]と19万年前頃[30]と194000~123000年前頃[31]の骨の断片です(図1B)。以下は本論文の図1です。
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●古代DNAの回収とDNA配列決定

 ハルビン頭蓋の歯もしくは錐体骨からのDNA回収の最初の試みは失敗しました。次に、さまざまな環境で分解耐性のある密な結晶構造のため、DNAの保存に保護環境を提供できるかもしれない、歯石(石灰化した歯垢)が着目されました。じっさい、最近の研究では歯石から内在性の古代DNA(つまり、宿主個体と口腔微生物叢)が回収されてきましたが、これまで旧石器時代の歯石からは、宿主の微生物叢および病原性微生物由来のDNAしか回収されていませんでした。

 現代のDNAの存在を減らすために、ハルビン頭蓋の歯石はDNA抽出前に漂白処理されました。次に、2点の歯石標本(0.5mgと0.3mg)からDNAが抽出され(図2)、抽出物の一定分量が一本鎖ライブラリに変換されました。2点のライブラリは現代人のmtDNAプローブで濃縮され、それぞれ142981点と155085点の断片がライブラリから配列決定されました。30塩基対より短いか、マッピング(多少の違いを許容しつつ、ゲノム配列内の類似性が高い処理を同定する情報処理)品質が25未満の断片は破棄され、それぞれ3665点と2047点の断片がヒトのミトコンドリアゲノムにマッピングされた。これら2点のライブラリにおけるDNA断片の5’末端でのシトシン(C)からチミン(T)への置換は、2%と25%でした。これらの置換の水準増加は、経時的に蓄積するシトシンの脱アミノ化に起因するので、古代DNA分子の存在を示唆しています。5%未満のC→T頻度は、古代DNAが殆ど若しくは皆無の証拠と考えられます。したがって、C→Tのより高い置換頻度(つまり、0.3mgの標本)のライブラリからのデータが保持され、合計で6.6倍の網羅率のヒトmtDNAを回収でき、おそらくは古代DNAと混入した現代のDNAの両方が含まれています。以下は本論文の図2です。
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 分析に利用可能なmtDNA断片を最大化するために、残りのDNA抽出物や、シリカ膜からの再抽出物および両標本からのペレットから、追加のライブラリが生成されました。2点の標本から調整された合計20点のライブラリのうち8点は、末端で5%以上のC→Tの置換頻度でした。次に、配列が異なる種類のヒト(現生人類とネアンデルタール人とデニソワ人)のmtDNAと合致するのかどうか、調べられました。8点のライブラリのうち7点には、デニソワ人由来のヌクレオチド多様体を含むDNA断片が含まれていた一方で、ネアンデルタール人由来の多様体を示したライブラリはありませんでした。これら7点のライブラリがさらなる分析に使用されました。


●汚染推定

 推定される内在性DNAを濃縮するために、一方の末端における現生人類の参照配列と比較してのC→Tの置換のある断片が選択され、そうした断片の逆の末端におけるC→Tの置換頻度が調べられました。最初の末端におけるC→Tの置換のない断片と比較しての逆方向の末端でのかなり高い頻度から、全断片のかなりの割合が現在のDNA汚染に由来する、と示唆されます。ハルビン個体については、3’末端におけるC→Tの置換のある断片に対する、5’末端におけるC→Tの置換頻度は、全断片の14%に対して34%でした(図3A、橙色)。逆に、5’末端では20%に対して52%でした(図3A、青色)。これは、ライブラリのmtDNA断片の多くが現代人からの汚染であることを表しています。さらに、C→Tの置換頻度から、内在性DNAはおもに60塩基対より短い断片(C→Tの置換が10%超)に存在する、と示唆されます(図3B)。以下は本論文の図3です。
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 脱アミノ化パターンから汚染水準を推定する2通りの手法では、それぞれ56%と67%が得られました。現代人固有の部位を網羅する断片の82%(276点のうち225点)が、現代人の多様体を有していることも分かりました。しかし、デニソワ人固有の多様体を網羅する断片の15%(616点のうち95点)なはデニソワ人の多様体があり、ネアンデルタール人固有の部位におけるネアンデルタール人特有の多様体がある断片はなかったことに、要注意です。


●DNA配列の再構築

 人類の特定の集団からの参照配列の使用によって特定されるmtDNA断片の偏りを避けるために、チンパンジー23個体とSH人類とネアンデルタール人18個体[15、29、42、43、45、46]とデニソワ人7個体とRSRS(Reconstructed Sapiens Reference Sequence、再構築されたサピエンス参照配列)の大半から推測された、再構築されたヒト祖先mtDNAへと捕獲されたmtDNA断片が調節されました。ハルビン頭蓋のmtDNAのデニソワ人のmtDNAとの関係を調べるために、デニソワ人7個体の再構築された祖先型デニソワ人mtDNA参照配列の使用によって、ハルビン頭蓋の歯石から得られた追加の内在性mtDNA断片の回収が最大化されました。

 内在性の古代DNA断片を濃縮するために、最初と最後の3末端がシトシンの脱アミノ化の証拠を示した、60塩基対未満の断片に分析は制限されました。7点のライブラリから得られたそのようなmtDNA断片を組み合わせることによって、再構築されたヒト祖先mtDNA配列に割り当てられた828点の固有断片と、再構築された祖先型デニソワのmtDNA配列に割り当てられた855点の固有DNAが得られました。シトシン残基の脱アミノ化によってもたらされた誤差をさらに減らすために、それぞれ祖先型のヒトもしくは祖先型のデニソワ人の参照配列に対する、順鎖におけるC→Tおよび逆鎖におけるグアニン(G)→アデニン(A)の不適正塩基対の部位が隠されました。次に、塩基の少なくとも2/3が一致する2点以上の断片によって網羅されている部位を用いて、mtDNAゲノムのコンセンサス塩基が呼び出されました。これによって、再構築された祖先型ヒトDNAに割り当てられた配列では7817ヶ所のヌクレオチド部位、再構築された祖先型デニソワ人mtDNAに割り当てられた配列では8234ヶ所のヌクレオチド部位を網羅する、コンセンサスmtDNA配列が得られました。


●系統発生的再構築とデニソワ人のmtDNAの差異

 次に、ハルビン頭蓋のmtDNAコンセンサス配列、およびSH人類とデニソワ人7個体とネアンデルタール人18個体と現代人58個体とチンパンジー1個体のmtDNAについて、ベイズ枠組みと最尤法と最大節約法を用いて系統樹が推定されました。3通りの系統樹はすべて同じ樹形を共有し、ハルビン頭蓋のmtDNAはデニソワ人のmtDNAの範囲内に収まります。デニソワ人系統内では、低い裏づけ(33%もしくは43%の事後確率、44%もしくは39%のブートストラップ)ではあるものの、ハルビン頭蓋のmtDNAはより新しいデニソワ人2個体(デニソワ3・4号)に対してより古いデニソワ人(デニソワ2・8・19・20・21号)とクラスタ化する(まとまる)傾向にあります(図4および補足図4)。以下は本論文の図4です。
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 デニソワ人のmtDNAとのハルビン頭蓋のmtDNAの関係をさらに調べるために、次にハルビン頭蓋のmtDNAで網羅されている6ヶ所の部位が分析され、この6ヶ所では、より古いデニソワ人5個体(デニソワ2・8・19・20・21号)は派生的多様体で固定され、より新しいデニソワ人2個体(デニソワ3・4号)は祖先型多様体を有していました(表1)。これらのうち4ヶ所が2点もしくは3点のDNA断片で網羅されていたのに対して、残りの2点は単一の断片で網羅されていました。この6ヶ所の部位のうち、5ヶ所にはより古いデニソワ人で見られる派生的多様体があったのに対して、残りの1ヶ所には祖先型の多様体(4点の断片によって網羅される部位16111)がありました(表1)。単一のmtDNAによって網羅される2ヶ所の部位の派生的多様体はAとCなので(表1)、脱アミノ化によってもたらされる可能性はありません。以下は本論文の補足図4です。
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 次に、ハルビン頭蓋のmtDNAで網羅されている25もしくは24ヶ所の部位が分析され、これらの部位では、より新しいデニソワ人2個体(デニソワ3・4号)は派生的多様体を有し、より古いデニソワ人5個体(デニソワ2・8・19・20・21号)は祖先型多様体を有していました。ハルビン頭蓋のmtDNAでは、これらの全ての部位で祖先型多様体がありました。したがって、5ヶ所の部位から、ハルビン頭蓋のmtDNAはより古いデニソワ人のmtDNAと関連しており、より新しいデニソワ人のmtDNAとの関係は裏づけられない、と支持されますが、1ヶ所の部位は、ハルビン頭蓋のmtDNAがより古いデニソワ人のmtDNAの基底部に位置する可能性を示唆しています。


●考察

 以前の形態学的研究[1、2]は、ハルビン個体を新種もしくは現生人類の新たな姉妹系統と分類してきました。しかし本論文では、ハルビン個体のmtDNAは以前に配列決定されたデニソワ人のmtDNAの変異内に収まり、デニソワ3・4号のmtDNAとよりも、デニソワ2・8・19・20・21号のmtDNAの方と密接に関連している可能性が高い、と示されます。

 デニソワ19・20・21号の問題は217000~187000年前頃にわたり[13、31]、デニソワ洞窟の東空洞の最古級の考古学層で発見されました。デニソワ2号(194000~123000年前頃)およびデニソワ8号(19万年前頃)とともに、これらより古いデニソワ人【デニソワ19・20・21号】のmtDNAはより新しいデニソワ3号(76000~52000年前頃)およびデニソワ4号(84000~55500年前頃)を除いたクレード(単系統群)を形成します[31]。ハルビン個体もデニソワ洞窟のより古いデニソワ人と同様の年代(頭蓋の年代は146000年以上前、堆積物の年代は309000~138000年前頃)で[2]、ハルビン個体のmtDNAはこれらのより古いデニソワ人個体群のmtDNAと関連する傾向にあります。これは、デニソワ人が中期更新世のアジアにおいて広い地理的範囲に居住していたことを示します。

 ハルビン頭蓋にデニソワ人のmtDNAが含まれる、との調査結果は、デニソワ人と形態学的特徴を結びつけ、とくに古代DNAが保存されていないか取得困難な場合に、他の標本をデニソワ人と同定するのに役立つでしょう。たとえば、陝西省の大茘(Dali)遺跡や遼寧省の金牛山(Jinniushan)遺跡や安徽省池州市(Chizhou)東至県(Dongzhi County)の華龍洞(Hualongdong)遺跡[3]の化石はハルビン頭蓋と同様の形態学的特徴を示し、それらの化石もデニソワ人集団を表している可能性が高そうです。


●この研究の限界

 この研究は、ハルビン頭蓋の歯石から回収できた限定的な量の人類のmtDNAに基づいています。中期更新世人類の遺伝的関係の理解を深めるには、アジア東部および南東部全域の化石から回収された核DNAのデータが必要でしょう。それでも、ハルビン標本のヒトDNAが錐体骨を含めて高密度の骨よりも歯石の方で保存状態が良好である、との調査結果から、歯石は中期更新世人類のDNA調査の貴重な情報源かもしれない、と示唆されます。


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