チンパンジーによる発酵した果実の共有

 チンパンジーによる発酵した果実の共有を報告した研究(Bowland et al., 2025)が公表されました。本論文では、ギニアビサウ共和国のカンタニェス国立公園(Cantanhez National Park)ニシチンパンジー(Pan troglodytes verus)による、エタノール(アルコール)を含む自然に発酵したアフリカパンノキ(Treculia africana)の共有が報告されました。大型類人猿の広範な植物食料の共有と、多様な果実種にエタノールが存在することから、エエタノールを含む食物の共有と食性への取り込みは広範で、ヒト上科社会において長期的な役割を果たしてきたかもしれない、と示唆されます。


●要約

 ヒトによる発酵食品および飲料の利用は、普遍的と考えられるほど広く見られ、その利用はおもに食性の利点や社会的結合と関連しています。アフリカの類人猿の共通祖先においてエタノール代謝を大きく増加させたアルコール脱水素酵素における分子適応の発見は、ヒトの食性において発酵した果実が取り入れられた起源は古いことを示唆しています(関連記事)。しかし、非ヒト大型類人猿の食性におけるエタノール食品の摂取について、ほとんど知られていません。本論文は、ギニアビサウ共和国のカンタニェス国立公園の野生のニシチンパンジーによる、エタノール(アルコール)が確認された自然に発酵しているアフリカパンノキの繰り返しの摂取と共有を初めて報告します。大型類人猿における広範な植物食料の共有および多様な果実種のエタノールの存在の最近の確認から、エタノールを含む食物の共有と食性への取り込みは広範で、ヒト上科社会において長期的な役割を果たしてきたかもしれない、と示唆されます。


●観察結果と考察

 アフリカパンノキはアフリカ全域に広がっており、チンパンジーの数ヶ所の生息地では、アフリカパンノキの果実が重要な食料源です。アフリカパンノキは、調査対象のチンパンジー集団の生息範囲全域で季節的に利用可能で、1haあたり6.5本の密度となります、アフリカパンノキの果実は大きく、高密度の繊維質で、重さは最大で30kgとなり、熟すると木から地面に落ちます。アフリカパンノキの果実が地上で熟すると、その硬い外皮は柔らかくなり、考古遺伝学緑色から黄色へと変化し、果肉は海綿状の質感となります(図1A)。アフリカパンノキの果実はその大きさのため、数日間にわたってチンパンジーに食べられることが一般的です。2022年4月~6月にかけて携帯型酒気検知器を使用し、アフリカパンノキの果実のエタノール含有量が測定されました。採取された果実28個のうち24個(86%)に、0.01~0.61%の範囲のABV(alcohol by volume 、アルコール量)の水準でエタノールが含まれており(図1A・B)、「晩熟」の果実のエタノール含有量は最高で、平均では0.26±0.11%です(図1A)。晩熟の果実には、早熟果実と比較して優位により高水準のエタノールが含まれていました。以下は本論文の図1です。
画像

 カンタニェス国立公園のチンパンジーは研究者に慣れていないので、チンパンジーの摂食および共有行動を記録するめたに、カメラトラップ(赤外線感知器などで動物を自動撮影する装置)が3ヶ所に設置されました。チンパンジーは、利用可能ならば、アフリカパンノキの果実を定期的に選択して接触するようでした。共有はすべての年齢と性別の分類にわたって、17個体間で10回の別々の機会に観察されました(図1C~F)。共有の時点では、共有された果実の90%にエタノール(ABVの範囲は0.01~0.61%)が含まれていました(図1)。10回の共有事象のうち9回は「受動的(つまり、保有個体は果実からの摂食を容認するものの、その譲渡には協力しませんでした)」で、1回は「能動的・受動的」に分類され、この場合には、保有個体は口に含まれている可食部分を取ることを容認しました。果実の保有個体は、共有が行なわれたさいには不安を示さず、チンパンジーの「圧力下の共有」は観察されませんでした。10回の共有事象のうち7回では、他の独占されてない果実が存在し、利用可能でも共有されました。10回の果実共有事象のうち、5回では晩熟の果実が共有され、2回では、チンパンジーによって選択されなかった果実は明らかに、視覚的特徴に基づいて(つまり、熟度と色や、ショウジョウバエの欠如)、共有された果実よりも発酵していませんでした(図1A)。

 観察されたチンパンジーは慣れておらず、成体の女性がその依存している子供とともにいるところを見られない限り、その血縁関係は不明です。したがって、少なくともいくつかの事象において、血縁選択が共有に寄与しているかもしれません。上述の共有事象は、共有が起きた理由に関する決定的な結論を導いたり、エタノール摂取が意図的だったのかどうか、判断したりすることには不十分ですが、発酵した食物は、共有の相互作用における選択と包含に寄与しているかもしれない利点を提供する、と知られています。果実が発酵するにつれて、化学的および力学的な防御力は減少し、利用がより容易になるので、エネルギー消費が減少します。カンタニェス国立公園のチンパンジーは時に、視覚的にさほど発酵していないアフリカパンノキの果実を利用するために、かなりの力を使う必要があり、それは果実がより熟して、発酵が進んでいる場合には、決して起きませんでした。他の場所では、チンパンジーは、この果実を利用するための道具として、木もしくは石の「包丁」と「金床」を使用する、と示されてきました。ビタミン含有量の増加など発行した食物と関連する栄養上の利点もあり、発酵した果実は高価値食品となるかもしれません。相対的な希少性および大きなサイズと組み合わさったこれらの利点は、共有を促進しているかもしれません。

 自然に発酵した果実が広範に存在することを考えると、発酵した食物の摂食と共有は大型類人猿集団全体に広がっている可能性が高く、それは、アフリカの大型類人猿の複数種が、アフリカパンノキの果実を共有すると、と記録されてきたからです。共有自体は、野生チンパンジーでは社会的結合において重要な役割を果たしている、と示唆されています。毛づくろいと同様に、アルコールは緊張水準低下させ、エンドルフィン系を誘発し、それが社会性と共有をさらに促進するかもしれません。社交的な食事とアルコール消費は、ヒトにおける饗宴行動の二つの重要な構成要素です。しかし、饗宴行動の起源は共通祖先に由来するのでしょうか?本論文のデータは、野生の非ヒト大型類人猿によるエタノール食物の共有と接触についての最初の証拠を提供し、ヒトによるアルコールの利用は「最近」のことではなく、むしろ深い進化史に根差している、との見解(関連記事)を裏づけます。これを社会的文脈で完全に理解するためには、拡大親族と非親族との間の、他の財の交換を含めて、社会的絆の強化と社会資本の構築における、社会的なアルコール消費の役割や、エタノール摂取が意図的なのか否かの程度に関する、データが必要です。これは、食物のエタノールの測定とともに、接触や社会行動の変化を監視できる、確立された関係の個体群の長期観察が必要です。


参考文献:
Bowland AC. et al.(2025): Wild chimpanzees share fermented fruits. Current Biology, 35, 8, R279–R280.
https://doi.org/10.1016/j.cub.2025.02.067

この記事へのコメント